表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/102

第9話 「700年も待ってるなんて、気が長くていらっしゃる事ね」

「……ふぅ……」


 ……何度やっても慣れる事のない戦いの緊張。

 そこから解放されて、あたしは深く息をつき、剣を腰の鞘に納めた。


「イツカーっ!!」


 高揚した声を上げるリロを先頭に、みんながあたしに集まってくる。


「すごーいねー! イツカのウェルメイドワークスならあんなのも一撃なんだぁ!」


「うむ! 初めて出会った竜種相手でも余裕とは何とも心強い!」


「ブレスも……効いてなかったし……」


「あ、あはは……いや、ホント、みんなのお陰だよね」


 あたしは腰の、6つの宝玉を散りばめた剣の柄をポンポンと叩いて照れ笑い。


「この野郎……一瞬でも諦めたりしてねェだろうな……?」


 ギルヴスは鼻を鳴らしながら言う。


「……分かんない。もう、ずっと夢中だったことだけは覚えてるんだけど」


「……フン……全くテメェらしいぜ」


 呆れたような口ぶりだけど、それがギルヴスらしい称賛の言葉ってのはあたしにも分かってるつもり。


「フフ……レバーのアレは冷や冷やしたけど」


「……なんと言うか、アレについては何も言える事がないワケですが……」


 ランの言葉に、今度は目の下に縦線入れた苦笑いを見せちゃうけど。


「いいの。最後はちゃんと決めてくれたもの。それは私たちへの信頼でもあるんだから、ね」


「……うん、ありがと、ラン」


 どんな時でもランのフォローは、この世界でのあたしの心の支えだった。


 そしてそれは、あたしにだけ向けられる優しさじゃなくて。


「やややー、でも、ランとギルヴスが子鬼種追っ払ってくれたのは助かったよー」


「フフ……リロ達が城門を開けてくれたから、今回の戦いが楽になったのよね」


「でも……プルパが離れなかったら……リロが逃げる事も……なかったかもしれないんだし……」


「ううん、プルパの魔法がなかったら犠牲が出てたかもしれないもの。氷の魔法、流石だったわよ」


「ま、結果オーライって奴だ。俺たちだっているって事さ」


「ギルヴスの呼吸、合わせやすいから本当に助かるわ」


「然りだ! 我々の行動の全てがイツカの勝利の一撃に結びついたのだな!」



「ゴミは黙っててくれるかしら」



「また俺だけっ!?」


 ジルバが精神的ダメージを受けて仰け反る。


 ……なぜか、ランはジルバにだけ強烈かつストレートな毒を吐く。

 エルフだから人間嫌い……って事もランにはなく、どういうワケか、ジルバにだけ。


 一体、ジルバはランに何をし――



『……竜種を滅したか。これはどうやら期待していいようだな……』



「……っ……!」


 突然周囲に響いたその地から響くような声で、みんなに緊張が走る……!


「あやや? ……誰これー?」


「くっ……まさかっ、この声はっ……!」


 声はどこからという事もなく、城全体に響き渡っているかのようだった。

 だけど、その笑い声は間違いなくあたし達にかけられたもの。


 それを聞いて、みんなは周囲を警戒しながらそれぞれの武器を構える。



『ようこそ、異世界の勇者よ……我は汝を待ち焦がれていたぞ……』



「……イツカ、ご指名らしいぜ?」


「700年も待ってるなんて、気が長くていらっしゃる事ね」


「……やっと……ここまで来たんだし……!」


 みんなが口々に紡ぎ出す言葉には油断のない、緊張が伴っている。


 ああ、そうだ。

 この場においてこんな事言う奴――言われなくても、決まってる……!



「あんたが……『魔王』か……!!」



 あたし達の冒険の目的たる最後の敵――魔王。


 この城の奥深くに鎮座する、異世界に通じるゲート――『ファフロスゲート』と呼ばれる門が、眞性異形ゼノグロシアをこの世界に呼び寄せている元凶という話。


 しかし、それはあたし個人の目的――あたしが元の世界に帰るための門でもあるのだという。


 そのゲートの前に、奴がいる。

 ……それが示す事実はただ一つだけ。


 あたしは剣の柄をぐっと握りしめて、最後の戦いをただただ予感した――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ