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第97話 「部屋の罠としては十分に凶悪かっ……!」

「……ここって……!?」


 あたし達がそこへ至ったのか、それともそもそもあたし達は迷路と言う幻想を見せられていたのか、それは分からない。


 ただ、あたし達は次の瞬間、全く別の場所にいた。


 あたしが最初に考えていた、この場の姿。

 広間どーん、階段どーん、シャンデリアどーんの、ステレオタイプの魔王城のエントランス……!


「こっ、ここっ……!」


 プルパが珍しく前に出て、きょろきょろと周囲を見回して――。


「魔王様の城だし!」


「え……プルパがいた頃の魔王城って事……!?」


「そうだし……プルパは……帰って、来たんだし……!」


「感動はいいが、メインディッシュはちっとばかし後回しにした方がいいだろうぜ!」


 暗い広間の奥からざわざわと迫る何か。


「GoGyaaaaa!!!」


「GuRyuaaaaaa!!!」


 屋内と言う空間としては広いとはいえ、その空間を埋め尽くさんばかりに現れたそれは……!


小鬼ゴブリン級、小獣ファウナ級、鬼人オーガ級……! くっそっ、どんだけいやがる!?」


「ありゃーっ!? 後ろからも来てるよ!?」


 やはり迷路はまやかしだったのか、あたし達は『本来の』魔王城の入り口からさほど離れていないところに飛ばされたらしかった。


 そしてその入り口からも、どろどろと音を立てるように迫る眞性異形ゼノグロシア……!


牙獣ビースト級、巨像コロッサス級も……奥から近づいてるんだし……」


「ま、待てっ……あれはっ……!」


 重い体を引きずるように姿を表す、巨像コロッサス級を超えるその巨体は……!


「うそ、でしょ……あんだけかかってやっと倒した竜種ドラゴン級が、3体……!?」


 その巨体を引きずりながら、あたし達をしっかりと捉えて近づいて来る。


「この状況……先の見えない広間……! 3体だけだと高を括らない方がいいかしらね……!」


「ローグライクゲームとかのモンスターハウスに、リアルに放り込まれた感じかな……!」


 とりあえずあたししか分からない軽口を叩いて、あたしは火桜ヒザクラを抜く。


「部屋の罠としては十分に凶悪かっ……! 皆、すまんっ!!」


「責任追及はあと! 迷宮から飛ばされて一歩前進したみたいだから、そう悪い事じゃないわよ、ゴミ!」


 ランが腰のポーチから3本の試験官のようなものを、指に挟んで引っ張り出す。


「初手で、一気に数を減らすわっ!」


 そして床に叩きつけ、それが甲高い音と共に割れると、中から紫色の気体が立ち上った。

 ……それはこの旅の最中で開発された、ゼノグリッターの貯蓄容器だった。


「ウェルメイドワークス……!」


 跳躍。

 ランは高々と舞い上がり、それに追い縋るように気体が渦を巻く。


「精霊よ、異界のことわりと口づけを交わし、異形を貫く光陰と化せ!」


 番えられた矢の先端にワークスの力が集い……放たれる!


「『風の運びシルヴェストル)手の息吹・カンティレイト』ッ!!」


 矢はあたし達の中心――つまり敵の集まりつつある輪の中心に突き立ち、一気に力が解放される!

 風の精霊の魔力に乗ったゼノグリッターの奔流が、近づいていた眞性異形ゼノグロシアたちのゼノグリッターを中和し、次々に倒れていく。


 浮足立った敵の陣に――


「スキルキャスト……『知覚拡張センス・ヴィジランス』っ!」


「『神層完全防壁アブソリュート・フォートレス』ッッ!!」


 あたし達は各々のスキルを身にまとって、一気に突入する!


「たあああああっ!!!」


 一瞬であたしは10体余りの鬼人オーガ級を相手取り、的確にそのゼノグリッターを打ち砕いていく。


 傍らではジルバのハルバード、ギルヴスの弾丸が同じく眞性異形ゼノグロシアを相手取り、一撃で十数体を薙ぎ払う、或いは高速でゼノグリッターを撃ち抜いていた。


 そして砕け散った潤沢なゼノグリッターは、後方支援のリロの術式に変換される……!


「リロっ、後ろを片付けちゃって!」


「おっけー、いっくよっ! ウェルメイドワークス!!」


 その手に大ぶりの杖を作り上げ、床に突き立てると周囲に広がる魔方陣。


「りーばくんお願いっ! 『喧神殿行進曲ぶれいかーず・ちるどれん』ッ!!」


 魔力の杖を介して呼び出された20cmほどの青いタツノオトシゴ――りーばくん。


 そのりーばくんの眼前に現れた球体が魔力構築を完成させた瞬間、発動する術。


 神に創造されし最強の海龍リヴァイアサンのタイダルウェイブが、轟音を伴って城内へ突入してきた眞性異形ゼノグロシアたちを一気に城の外へと押し流した……!


「後方の憂いは断てたかっ!」


「よそ見するなカタブツっ! こっちは次の波がくるぜっ!」


 城の奥の方から迫るのは巨大な獣、そして巨像の眞性異形ゼノグロシア


 こいつらがこんな大軍を成すのは見た事がない。

 1体でも脅威なのに、それが30体は揃ってこっちに仕掛けてくる!


「みん、な……」


 ふと、プルパがぐっと目を閉じながら、あたし達に声をかけてくる。

 その様は何かの念を凝らしているようだけど……。


「もう、少しだけ……時間を稼いでほしいんだし……。魔王様の城の中なら……プルパは絶対に負けないんだし……!」


「……プルパ……分かったっ!」


 力強く言い放ったプルパを信じる。

 あたしたちはプルパを守るように、各々の行動を再開した。


「ウェルメイドワークス……!」


 ジルバとギルヴスがプルパの盾となって立って。


「『縛鎖のグレイプニル・魔弾アビオニクス』ッ!!」


「『絶式・衛士フォース・オブ・反象機構ブレイブキングス』ッ!!」


 ギルヴスの銃弾が高機動のビーストたちを足止めし、その合間をすり抜けたコロッサスたちの攻撃を、受け止めたジルバがまとめて数体吹き飛ばす。


「あたしもっ……!」


 周囲のゼノグリッターの量は十分……今なら――!


(……あれっ……?)


 体に違和感。


 おかしい。

 ウェルメイドワークスを発動しようとしてるのに、何かにぎちっと絡め捕られたみたいに力を抑え込まれて……!?


「イツカぁっ! メインの仕込みは出来てんだが、そっちの準備は満足じゃねぇのか!?」


「ゴメン、分かってる! でもなんかおかしいの! ウェルメイドワークスが……使えないっ!」


「何っ……!?」


 良くは分からない。

 可能性世界へアクセスしようとしているのに、その隣の世界への扉の鍵がロックされているとでも言えばいいのか。


 でもっ……!


「二人のアシストがあれば、使わなくたってっ……行けるっ!」


 あたしは前方を広く、弧を描くように、敵の間を駆け抜ける。


「……はぁぁああああっ!!」


 そして、そのすれ違う瞬間に火桜ヒザクラを撫でつけ――!


「……えっ!?」


 予想していた手応えが、すり抜ける感覚。


 スピードの速い牙獣ビースト級の方はまだ分かる。

 しかし、鈍重で動きの緩慢なはずの巨像コロッサス級すら、半分近い数を仕損じた……!


「かわされた……? ……まさかっ!?」


 その感覚に、心当たりがあって、あたしはハッと顔を上げる。


 視線の先――大広間の階段の上に揺らめくように立っていたのは……!


「……牧童シェファード級っ!」


 旅の中で出会った牧童シェファード級の操る眞性異形ゼノグロシア

 牧童シェファード級は軍勢を操るだけじゃなく、賄う数が抑えられれば、眞性異形ゼノグロシアの個々の能力を数段引き上げることもできるんだ……!


「しかも1体だけじゃないみたいよ……!」


「えっ……!」


 ランの促す先――階段の周囲に確認できるだけで3体。

 それを覆い隠すように前に立ちふさがるドラゴン……!


「うそ……まさか……あの竜種級たち、牧童シェファード級に操られてるんじゃ……!」


 ぞっとするしかなかった。

 1体であれだけ手ごわかった竜種眞性異形ゼノグロシアが3体。そしてそれを牧童シェファード級が操ってる。


 対するこちらは、何故かあたしがウェルメイドワークス・クルスキャリアを使えない状態。

 みんなはあたしみたいな足枷がないにしても、相当疲弊してる。




 どうあがいても絶望、とかいう奴。




 ――でも。




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