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第8話 「これ以上チンタラしてらんないんだよっ!!」

「イツカっ! この量っ!!」


 ランの声が鋭く飛ばされた時には……!


「分かってる! 行けるっ!!」


 あたしは既に手を舞い散るゼノグリッターに掲げていた。

 このゼノグリッター……リロが集めた子鬼種たちのものと、量も質も比較にならない!


「スキルキャスト……!」


 あたしは念じるように力を解き放つ……!


「『攻撃力極大上昇グレイトフル・シャープネス』……! 『防御絶対無視エクステンド・アーマーブレイク』……『超硬魔法障壁レヴァリ・ゼロ』……『加速力爆増アクセラレート・エクスペリエンス』……『全方位超知覚オーバー・エスセシア』……『属性更新空間遮断ディセンブル・フィジックス』……!!」


 手にした剣から流れ込んでくる力。

 一つのスキルを発動するごとに、剣にはめ込まれた宝玉がその力を発揮すべく、輝きを放つ。


 どれも戦士系のジョブにとって有用すぎるスキル、しかも全て第参英霊級という最上級レベル。

 長い旅で、仲間と共に困難を乗り越えて得た力を一気に重ねがけだ。


 これだけでも十分チートなんだけど、あたしとってはこれすらもただの準備工程……!


「……『ウェルメイドワークス』!!」


 異世界の魔法の名を高らかに叫ぶ。

 当然、この冒険の要と言う存在として、あたしもそれを扱う事ができる。


 しかも……!


「……『クルス・キャリア』ッ!!」


 この世界の住人とは一線を画す、超強力な術として……!



 これが、あたしが『異世界の勇者』と呼ばれる所以だ。


 通常であれば、この術はいずれも『生成クラフト』という名の作用の通り、武器や防具、魔法の道具などの分かりやすい形状を作る。


 しかし、あたしが生成クラフトするのは、この世界の『魔王』たる存在に一人で太刀打ちできるほどの強大な力――故に『勇者』。


 そしてあまりに強大すぎるために、『具体的な形状』を取る事が出来なかった力である。


 あたしの手に先に集まるゼノグリッターの魔力は光の玉の形状をとるだけ。

 でも、確かにそこにあり、あたしはこの力の使い方を十分に知るに至っている。



 剣や杖のような武器じゃない――あたしが生成クラフトしたこの力ってのは……!!



『GiiiiiiiiiiiiiiiiiGaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』


 あたしの身に起きた異変に気付き、眞性異形ゼノグロシアが咆哮する。


 でも、遅いっ……!!


「……っ……!」


 あたしは眞性異形ゼノグロシアの周囲全てに目を向けて、『攻撃の可能性を探る・・・・・・・・・』。



 それで、『この力は完成する』!



 紫色のオーラを纏った、あたしの周囲の空間がゆがむ感覚。


「……集えっ……!」


 それがその力の入口……!




「『盈虧せし夜渡インフィニティり達の鸞翔・スペキュラム』ッッ!!!」




 その術が発動した瞬間。


『GooooooooooooAaaaaaaaaaaaa!!!!??』




 眞性異形ゼノグロシアの周囲に『15人のあたしが現れる』……!




 ――それは、あの眞性異形ゼノグロシアを倒すためにあたしが講じた『可能性』によって分岐した先にいるはずの、『あたしの行動』達だ。


 眞性異形ゼノグロシアの右に飛んで、頭部に剣で斬撃。

 右下に潜り込み、口へ剣での斬撃。

 左に飛んで上空から首に斬撃。

 左に飛んで真横から頭に斬撃。

 左下から頭部への斬撃。

 頭部の右後方に回り込み、鰐下から刺突。

 頭部の左後方に回り込み、斬撃。

 頭部を飛び越えて首を駆け抜け、背中を鱗ごと切り裂く。

 右下前方から斬衝撃波。

 左前方から斬衝撃波。

 後詰めのために、残ったゼノグリッターの破壊、確保。

 何となく、ぼさーっと見てる。

 『隣接するあたし』と一緒に、『全てのあたし』に先行して眞性異形ゼノグロシアを攪乱。

 同、『隣接するあたし』。攪乱陽動。

 攪乱に合わせて顎の下に潜り込んで頭部へ斬撃。


 ――その15の、本来であれば平行に並ぶはずの可能性世界を、この世界に一瞬だけ統合されるように『世界ベクトルを捻じ曲げて同時に出現させる力』。

 術としては、もう『強力』とか『ありえない』とか、人間の価値観で評価していいのかすら分からない力だろうと思う。


 正確にはそれぞれの世界のあたしの目にも、15の別の意識体たるあたしが写っているはずであり、この語りをしているあたしも、現れた『あたし達』から見れば、その一人ではある。


 まぁややこしい事はどうでもいい。



 とにかく、この術はつまり。



 超高位スキルを複合的に纏った、16人のあたしによる『多重実像攻撃』って事!



「……はぁぁぁっ!!」


 この世界を訪れて7か月余り。

 ここまで繰り返されてきた戦いは、ただの高校生だったあたしに、急速に戦士としての心構えを身につけさせてくれた。


 そして、この世界の住人達にとってもまだまだ多くの謎を秘めているゼノグリッターに、幾たびとなく濃密な濃度で触れた事によるというのだが、そのゼノグリッターの内に記録されていた多くの技やスキルが、あたしに転写された。

 お陰であたしは、ランたちに決して引けを取らないほどの多くの熟練者たちの技を会得するに至る。


 それらの技を持ってしてなら、ウェルメイドワークスに頼らなくても、この竜種眞性異形ゼノグロシアに引けは取らない自信があった。


 でも、初めての相手じゃ何が起きるか分からない。


 そしてもう……あたしは既に一度『あたしの理由で失敗している』なら――責任とかじゃなくて――あたしの信念で!


「あたしがそれを取り返さなきゃならないッ!」


 7か月――あたしにとっては、十分に長い戦いだった。


 その最中に見てきた人たちの涙を止めるための戦いと、あたしの悲願を達するための戦い。


(その両方が正しく、同じところに帰結するならっ……!!)


 剣を、強く握り直して……!


「これ以上チンタラしてらんないんだよっ!!」


 『あたし』が、眞性異形ゼノグロシアに『殺到する』!!


『GeeeeeeeeeeeeeeeGaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!??』


 竜種眞性異形ゼノグロシアは、口を大きく開いた。


 と……その口の端から、ちろちろと赤いものが覗いたかと思うと……!


「……イツカっ!!?」


 ランの息を呑むような声があたしの耳に届いたのと同時に――


『Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


 灼熱の炎が、轟音と共に竜種に迫る数人のあたしを飲み込んだ。


 ――あとで周囲を見て少し血の気が引いたが、その炎は地面を削り、溶かし、その表面をガラス質に変えてしまうほどの獄炎だった。……800度以上の超高熱の証。


 でも。


「……熱くなんかぁぁぁ……!」


 あたしがスキルで引き揚げた属性防御は、絶対的な遮断の力。


「……ないっ!!」


 『周囲の変化を拒絶する』レベルで自分の体を防護するために、烈火のブレスですらあたしに影響を与える事は出来なかった……!


「ぜぇぇぇぃぃぃぃっ!!」


 『あたしの一人』が竜種に及び、その振り切られた顎の下からの一刀目で、竜種の口が、ばくんっ!!! と閉じて、炎が止まる。

 ブレスの吹き出しを唐突に止められて、竜種の頭が一瞬内部から爆発したかのように跳ねた。


 それだけでも大ダメージのはずだが、その間にも……!


「てぁぁぁあああっ!!」


 斬る……! 貫く、打ち据えて切り裂く……! そしてまた、切り裂くっ!


『AaaaaaaaaaaaaGiiiiiiAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!???』


 眞性異形ゼノグロシアは、その感じた事もないであろう激痛に咆哮した。

 頭部はたった一瞬で見る影もないほどにひしゃげ、原形を留めていない。


 それでもまだ、辛うじて息のある眞性異形ゼノグロシアに、せめてもの慈悲を……!


「はぁっ……!!」


 まっすぐに、小細工なく。


 あたしは正面から眞性異形ゼノグロシア頭部へと剣を振り下ろす!



「……たああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!」



 ――どつんっ! ……という鈍い音共に。


 深々と、あたしの剣がその頭部に突き立った。



「……『多重蓋然一点帰結ディレクション・オーヴァー』……!」



 眞性異形ゼノグロシアの弱点とも言える体内の『核』を貫かれ、その頭が膨れ上がり……そして……吹き飛ぶっ……!


『GaaaaaaaaaaaGiiiiiiiAaaaaaaaaaaaaaa!!!!』



 断末魔の咆哮と共に、その頭部は木っ端微塵となり。



 頭部をほぼ失った竜の体は、轟音と共に、ゆっくりと横倒しとなる……。



「……っ……!!」



 ……そして。



『……』



 その巨大な生命力を誇っていた眞性異形ゼノグロシアは、完全に動きを止めた。


 それを確認して、役目を終えた並列時空の『あたし達』は、元の時空へと帰っていく……。




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