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最弱はバラバラな世界を一つにする  作者: アリア(紫骨 骸)
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【07:死笑する少年譚】

ブックマークや感想ありがとうございます。

嬉しくて椅子から転げ落ちました(実話)

今なら目から宝石出てきます(比喩)

(早く、早く伝えねばならぬ。)


粘着物質スライムを連れた星狼スターウルフは、そう考えながら森を走っていた。

木々の間を抜け、まだ明るく橙色に照り輝く地面に、砂埃を上げながら走る。この時間に魔物を狩ろうとするものはおらず、走っている音だけが、森に響き渡った。

森を守っている魔物達は、なんだなんだと集まってくるが、説明する暇などなく、ただただひたすらに走っている。

粘着物質スライムは体力が切れたようで途中から居なくなっていた。


(それでもいい。)


追い付けぬのならば追い付かなくても良い。追いつけぬのに追いつこうとして怪我をするよりずっとましである。


オレンジに染まった地面が段々と光を出さなくなる。

日が落ち始めているのだ。


走るスピードを二倍上げる。

日が落ちたからと言って自分に何かしらがある訳では無いが、なんとなくの気持ちで早くする。

時速100kmのスピードを200にしただけだ。そんなには変わっていない。誤差の範囲である。


星狼スターウルフは瞬間移動が使えない。体質的にそれが合わないのだ。

堅が大きく力も強いが魔力と波長が合うものが少ないのだ。

もちろん今走っている者はその中で、使えず弱い(・・)分類に入っている。

首相ボスはそんな弱いという強弱に囚われることなく平等を貫き通しているのだが、やはり同じ魔物の中であると序列争いというものが存在し、このように使えない弱者が増えるのである。

体質的に合わないと言ったが、合う者がいないとは言っていない。つまり、首相ボス直属の部下達のような者であれば瞬間移動など息をするほどに軽く出来る。


走り続けていると洞穴が見えた。

森の中、縦横ともに5メートルとひらけている。


その中にゆっくりと入っていく。

さっきとは違って本当にゆっくりと慎重に。


首相ボス。」

「ん、どうしたんだ星狼スターウルフ。」


そうやって迎え出たのは魔王の中の魔王と呼ばれる首相ボス鬼王族オーガのギアロ。

数少ない強いものを従え、自身も強いにも関わらずどんな者でも平等に扱ってくれる優しい方だ。



「ふむ、不思議なやつが現れたと。それも自分に殺してくれることに礼を言うようなやつだったと。ふむ、それはなかなかに面白いやつだな。」

「そうなのです。思わず私も驚いてしまいました。面白いことは教えろと言われていたような気がしまして、報告に上がらせて頂きました。」

「ん?多分だが面白いことがあったら教えろと言っていたのはヴィーブだったはずだぞ。」

「っは!?申し訳ありません!」

「いや、別に謝るほどのことではない。あの、だから床にひれ伏すのをやめて顔を上げてくれないか?」


彼は優しく人に接しているのだ。人と言えるかは置いておいて彼も人ではない。彼にとって動くもの、生き物はすべて平等の扱いになるのである。

平等こそ彼の望むところであり未来に対して望む最後の道筋であった。

元々彼はこの世界に希望を見出していなどいない。

そもそもの話、彼はこの世界を良いとも思っていないのだ。

信頼しているものは彼が尊敬し、信仰するある方一人でありそれ以外はただの物だとしか思っていない。


だから、彼は誰に対しても平等に扱うのだ。

それを優しいと思うか思わないかはその人次第であるが。


「ところで聞いてくれ、星狼スターウルフ。」

「はい。なんでしょう。」


ギアロは自分の部屋へと歩きながら、着いてくる星狼スターウルフに話しかける。

洞窟の中だというのにやけに凝った扉を開ける。


そして再び話しかけた。


「時計コレクションがみんなおかしいんだ!零時を回ったと思ったら急に二周前に戻ったり、まるで一日前に日付が戻ってるみたいなんだ!」

「……そうですね。」


特に時計に変わった様子はないがギアロは自分の時計を一個持ち抱きしめてそんなことを言う。

わざとらしく演技をするように動くその姿はかなり滑稽と言えるであろう。

ギアロは真面目で優秀で強く信仰心がある奴なのだが……。


時計を集めるのが趣味なのである。

魔王になる前は貴族でずっと時計を集めていたらしい。

その時の時計や、魔王になってから手に入れた時計などたくさんの時計が揃っている。

新しい時計ができる度に買いに行ったり、壊れているものを拾ったら修理したり、時計に対する愛情は誰にも負けないほどであった。


「いや、実際に一日前に戻っているんだ。どうしたらこんなことをしようと思うのか、よく分からない。壊れていないのであれば別になんでも構わないのだが、ちょっと理由が気になる。」


きっと犯人を見つけたら半殺しにしようとでも思っているのかギアロの青い目はいつも以上に輝いている。

その目は時計を壊した犯人になのか、久しぶりに骨のあるものと戦える闘争心からなのかは誰にも分からない。

その目を見て、星狼スターウルフはゾクリと背筋が寒くなり、身体を震わせる。


「そうですね……。他の魔王が時を戻した可能性は無いのでしょうか?」

「それは十分に有り得るな……、魔王達は全員頭のおかしい奴らばかりだ誰がやらかしても不思議ではない。」


そんなことを言うと、考え込む。


時計の針はまだ一番上まで届いていない。



「あ、星狼スターウルフ報告はそれだけだろう。ご苦労だった。帰っても大丈夫だ。このことに関しては書類にまとめて報告しておこう。」

「寛大な配慮ありがとうございます。それでは失礼しました。」


律儀な者はこうしてお礼を言って去っていくのだが。

星狼スターウルフが部屋を出ていった。


「いつまで隠れているんだヴィーブ。」

「あはははっっ!やっぱりきみにはバレていたね。危機感知能力の高いきみのことだからきっと分かっちゃうだろうとは考えていたんだけどね。」

「ばればれだ。それだったら隠れ蓑の方がまだ身を隠せる。」


隠れ蓑の方が身を隠せるのはただの比喩表現なのだが、ちょっと意地をはっただけだ。

遊び人と名乗るだけあって何処も彼処も遊びに行ける【瞬遊移動プレイ】を持ち、面白いことがあればすぐに飛んでくるヤバイやつだ。

飛んでくるというのは比喩ではない。本当に飛んでくるのだ。初見だと心臓に悪いのでやめて欲しいものだ。


「きみのそういう辛辣なところはほんっとうに変わらないね。僕はこれでも精一杯隠れたんだよ。遊びすぎて鈍っちゃったかな?まぁ、僕の仕事は遊びだからねっ!」

「……はぁ、お前の目的はなんだ。」


分かっていても思わず聞いてしまう。

ヴィーブの応えはいつも変わらないのだ。


「何を言っているんだ。きみは僕がどんな目的で自分の人生を歩んでいるのか分かっているのだろう?分かっていないとは言わせないぜ。」


大袈裟に動いてこっちに応える。小馬鹿にするような動きにため息をつくが、埒が明かないので答える。


「『面白いことが起こりそうだったから。』だろ。はいはい。」

「ピーンポーン。正解!ほんときみはだんだん反応が薄くなってきてつまらないなぁ。前はもっと『っなわけがあるか!馬鹿なことを言うな、ハッキリと答えろ。』って感じに好戦的だったのに今では随分と丸くなっちゃって〜。」


適当に、興味が無いことを伝えるように言葉を口にするが、そんなのはお構いないし向こうも言葉を縫っていく。

声真似が地味に上手いのは突っ込まないことにする。

後が大変だし、言ってることは奇しくも正しい。


「お前を相手にしていると話が進まないことに気がついたんだ。成長だ。成・長。」

「んんー?きみの場合は成長というより考え方がガラッと変わったっていうイメージだけどねぇ。前から信仰心深かったけど最近はそれ以上だもの。」

「当たり前だろう?偉大さにこれまで気付けていなかったことが一番驚いていることだかな。」

「あははは。信者くんは怖いねぇ。前々から信者だったのにもっとドップリ浸かっちゃった感じがしてくるよね本当になんでこうなったのか知らないけど。」


信者って……


「?お前だって実際はそうじゃないか。」

「きみよかは酷くないと思うよ。というか僕が後でつけた言葉を全て全無視するとかきみもなかなか結構ひどいと思うんだよね。」


なんだこいつ面倒だな。

そんなことを思いながら、確かに無視はいけなかったなと考え直し言葉を発する。


「無視したことは謝罪するが、信仰心の何がいけない。」

「本当に謝るのかビビったわ。いやいや、そうじゃなくってさ。信仰心ばっかりになって周りのことを全然見れてないんだよ。だってさっきのもそうじゃないか。」


……こいつはどれだけ自分が世間知らずだと思っているんだ。自分だって悪いなと思ったらしっかりと謝罪を行っているぞ。


「周りのことか?」

「そうだよ。さっきのやつに対しての対応もそうだよ。時計の話が出るまで興味無さげだったじゃないか。すごく面白そうな内容だったのにどうせ僕がいなかったら伝える気もなかったんだろう?」

「当たり前だろう。時計に影響があるのであれば容赦なく叩き潰すが普通の人間に興味はない。」

「あははは、本当に頭のおかしいやつだねぇ。」


話を無視して時計を見ると、ちょうどきっかり零時を示して……


時計の針が回り始める。色々な時計があるのでそれぞれ動きは違うものの、まるで時が戻ったかのような動きをし始める。

ある時計は左回りに、ある時計は右回りに針が回った。

ゴーンゴーンと本来であれば十二時を表す鐘がなり始める。

時計の針のカチカチという音や、ゴーンと鐘を鳴らす音、鳩時計がくるっぽーという音を出していたり騒音が響いた。

音のあっていない、まるで一人一人が違う歌を歌い始めたコーラスのようにバラバラな不協和音であった。



どれくらい経ったのだろうか。

体感時間は10分くらいだ。だが、実際には1分ぐらいの時間なのだろう。


全ての(・・・)時計が一日前に戻っていた。


「一つの時計なら狂ってもおかしくないのだが、これだけの数が狂うというのはおかしい。コレクションがどれだけあるか分かっているのか?世界中の時計をかき集めたものだぞ?」

「こらこら、乱心にならない、ならない。じっっくり考えて。」


さっきまでのおちゃらけた話し方とは違い、真面目なトーンてそんなことを言うヴィーブ。

こういうギャップが様々な者を集めるんだななどと今とは関係ないことを思う。


「はぁ、お前が犯人じゃないの。」

「そんな『どうせ』みたいな感じで犯人を決めつけないでよ〜。僕じゃないに決まっているじゃないか。きみは短絡的で実にいけ好かないな。」


また、おちゃらけたトーンに戻る。

ぶーっと頬を膨らませ不満を全面に出す姿は子供のようだと思ってしまう。


「そうか、犯人はお前か。」

「だーかーらー!そんなことで僕を犯人だと決めつけないでくれといっただろう。『そうか』じゃないんだよ!もっと面白く生きていこうよ。なんでそう思わないの?ねえねえねえねえねえねえ!!」

「なんだろう。……そんな感じがするんだよ。」

「そんな感じ…か……。」


急に話し始めたと思えば、急に考え込み始める。

この状態の時に話しかけるとすごい勢いで睨まれるのだ。なんで分かるかって?やったことあるからだよ。


「いいね!なんか謎の相棒感!面白い!」

「相棒ではないが、お気に召したようで何よりだ。」


どうせそんなことだろうと思っていた。


「はぁ、でどうやったの?」

「面白いこと言ったし教えてあげるよ。本当の本当に本当である真実をね。半分は僕のせいだけどもう半分は僕のせいじゃないよ。」

「は?」

「僕は時計を一日前に戻してしまったけど、あくまでも間接的にってだけってことだよ。直接時間を戻すのは流石の僕でもやろうと思わないかな!」

「誰が、やったんだ。」

「おーーっと、どうやら僕には急用ができたみたいだ。というわけでまたいつになるか分からないけど今度来るから、さいならっ!」

「あ、待っ……。」


わざとらしい演技でサラッと抜けていくヴィーブ。霧になることが出来るので追いかけることも捕まえることも出来なかった。


「はぁ、なんなんだあいつは……。」


次の日は普通に来たので夢だったのかと考えるギアロであった。

早く投稿出来たぜ!


というわけで今回は魔王ちゃん達二人が登場しやした!

服装や見た目は後々お話で出していきたいなって思います。

フラグ建てながらまた回収していく……楽しいですよ。


次はまた遅くなるような気もするけどよろしくお願いします。


ー作者の日記ー


今日の小話なんですが、時計についてです。

みなさんも普段、時計との距離が近いと思うんですね。

授業にしろ、仕事にしろ、やはり時計とは切れない関係にありますよね。

時間を測ったり、目覚ましに使ったり、時間刻みのスケジュールを立てたり、考えれば考えるほど距離が近いことがはっきりと分かるようになります。


ところで、最近では時計を自分でオーダーメイドしたり好きなように作ったりできるそうですね。

ギアロの住む世界ではそんなものはありませんが、もしあったらすべて集めるなんて困難だろうなと思ってしまいます。

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