【06:死なずに生還一日分】
『《Day1Part3夜刻》にて生存を確認。』
「うおっ!?」
急に、機械音の女の人の声が、聞こえてきた。あたりを見回すも、先ほど音を鳴らしていた古時計と、広い部屋が見えるだけで、人のような姿は見えない。
古時計の音は相変わらず音を鳴らしていない。
「お前は、誰なんだ?」
『答、私は選ばれし者を導く使い。』
答えてもらえるかは一か八かと言った感じだったが、答えてもらえて良かった。
にしても使いか……誰のだ?
『答、主様の使いです。主様は選ばれし者をこの世界に運んでくる役目をしているのです。』
質問をしようと口を開けたところで、先に答えられる。さらにその先の疑問に思ったところまで的確に答えてくれたので、流石に戸惑う。
「その主様……ってやつの名前、もしかして分かったりする?」
『答、遊び人の魔王“ヴィーブ”と名乗っておりました。』
「自分で遊び人ってつけてるのか魔王さんは……。」
どうやらここに俺を運んできてくれたのは紛れもない魔王らしかった。
本当に魔王かどうかは会ってみないとわからないが多分あっているんだと思う。
『問、報告宜しいでしょうか。』
「もちろんいいぞ。」
俺がそう答えるのを合図に報告が始まる。
俺が体験した“一日分”の報告だ。
《Day1》《Day1Part2》《Day1Part3》
この一日分の報告だ。
『《Day1夕刻》に死亡を確認し、《Day1Part2朝刻》に移りました。確認作業に入りました。
>【持ち物:魔物図鑑】を追加しました。
>【魔物図鑑:星狼】を追加しました。
>【称号図鑑:初めての魔物】を追加しました。
>【称号図鑑:初めての他殺】を追加しました。
>【スキル図鑑:爪斬】を追加しました。
>【スキル図鑑:爪斬】の解析を実行します。失敗しました。
>【魔物図鑑:蟲毒之泉】
>【スキル図鑑:蟲毒】を追加しました。
>【スキル図鑑:蟲毒】の解析を実行します。成功しました。
>【スキル図鑑:蟲毒】の解析により【スキル図鑑:蟲召喚】【スキル図鑑:毒】を追加しました。
>【死に図鑑:殺害死(斬)】を追加しました。
>【死に図鑑:毒死】を追加しました。
また、このスキルなどは次に起きた場合実行可能になります。消費されるHPやMPは0です。
そして、死亡回数が1から2になったため、レベル以外の能力値などを1増やします。詳細は、
>【HP:1→2】
>【攻撃:1→2】
>【防御:1→2】
>【回避:1→2】
>【回復:1→2】
です。
確認作業が終了した為、《Day1Part2朝刻》に移るための解析を実行しました。成功しました。
解析の成功により 《Day1Part2朝刻》に移ることが可能となりました。
時間を戻し身体を復活させます。成功しました。
《Day1Part2朝刻》に移りました。』
長々しい言葉をスラスラと読む。
なるほど、解析することで、手に入れられる技を増やすことが、可能なのか。なかなかにチートかもしれない良かった。
本来の目的、チートになる、が達成出来たようだ。
いや、別にチート目指しているわけじゃないけど、どうせならなりたいよね。
『《Day1Part2昼刻》に死亡を確認し、《Day1Part3朝刻》に移りました。確認作業に入りました。
>【魔物図鑑:粘着物質】を追加しました。
>【スキル図鑑:粘着】を追加しました。
>【スキル図鑑:粘着】の解析を実行しました。失敗しました。
>【スキル図鑑:炎火】を追加しました。
>【スキル図鑑:炎火】の解析を実行します。成功しました。
>【スキル図鑑:炎火】の解析により【スキル図鑑:調理】【スキル図鑑:消化】を追加しました。
>【死に図鑑:焼死】を追加しました。
また、このスキルなどは次に起きた場合実行可能になりました。消費されるHPやMPは0です。
そして、死亡回数が2から3になったため、レベル以外の能力値などを1増やしました。詳細は、
>【HP:2→3】
>【攻撃:2→3】
>【防御:2→3】
>【回避:2→3】
>【回復:2→3】
です。
確認作業が終了した為、《Day1Part3朝刻》に移るための解析を実行しました。成功しました。
解析の成功により 《Day1Part3朝刻》に移ることが可能となりました。
時間を戻し身体を復活させます。成功しました。
《Day1Part3朝刻》に移りました。』
死亡回数とかはイマイチ分からないがどのようにしてスキルを手に入れたのかはわかってきた気がする。
死ねば死ぬほど強くなるってマイナスなのかプラスなのか分からないな。
『《Day1Part3夜刻》生存を確認。
おめでとうございます。《Day1》を生き延びました。
【称号図鑑:初めての生還】を追加しました。
あなたには選択があります。もう一度《Day1》をやり直すか、《Day2》に進むかです。
《Day1》にやり直したとしてももう一度生存すれば選択の権利を得られます。』
「お、おぉ……。」
驚きのあまり感嘆の声を上げる。
どうやらクリアしたらしい。
「とりあえず、そのDay2とやらに進むよ。」
迷わず選択する。
ここまで望んでいた生還だ。やり直すなど無いに等しいだろう。
『分かりました。それでは一部の記憶を消し、《Day2朝刻》に移ります。』
一部の記憶を消す……?それって……
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って、ちょっと待って!」
『何でしょうか。』
「それって、平気なの?また記憶のない一日目から始まったりしない?本当に大丈夫なの?」
『大丈夫……とは?』
「朝起きたら記憶が無いとかいきなり死んでたりとかしない?」
『ありません。』
本当かな……。
でもいうこと聞くしかなさそうだし今そう思ったとしてもどうしようもできないのは分かってるんだけどそれでもなんか心配しかない。
『ここまでの流れで都合の悪い記憶や考えなどを全てなくすだけであって、人格が変わるほどは無くなりません。』
「都合の悪い記憶って何!?怖!」
都合の悪い記憶を消すとか怖すぎる。どこの秘密組織だよ。魔王の使いなら秘密組織と同じようなものか。
『ではいきますね。』
「ちょっ、まっ……ーー」
一気に意識が飛ばされる。
忘れてしまうのだろうか。
ここで使いに会った記憶も、ここで話した内容も、異世界に来たことさえ忘れて夢から覚めてしまうのだろうか。
あぁ、ここは夢じゃなかったんだっけ……?
ーーずっとここにいたい。
○
《Day2朝刻》
朝、目を覚ました。
目の前には起こしに来たであろうミーゴがいた。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
ミーゴは、一時間後に食堂に来て朝食を食べてください、地図はそこにありますとドアの近くにある手帳のようなものを指さすと扉を開けて出ていった。
バタンッと扉の閉められる音がして静かになる。
古時計の音だけがカチカチカチカチと響いていた。
昨日のことは本当のことだったのだろうか。
ステータスを開くと3だった。昨日の通りだ。
日付け(?)を見ると《Day2》になっていた。どうやら生き延びたようだ。安心した。
それぞれの図鑑を開いたり、閉じたりして中身を確かめてみるが特に変わったことは無い。
「生存すると手に入れられないのか……。称号は増えているがそれ以外は増えていないな。何か条件があるのだろうか。」
とりあえず一日目を生き延びたのだ。もっと明るいムードでも大丈夫だろう。
今後の予定としてはここを出たらまず薬草を売ろう。個人的に色々なものに使えそうなレア物は残してそれ以外を売ってしまおう。
そう言えばギルドに行くなら銀髪ボブの子もいるだろうか。向こうが覚えているわけないのだが結構大事なところである。
二日目になって余裕の出てきた俺はこんなことを考えていた。
ヒロインが少なすぎじゃないかと。
今出ているヒロインといえば、気の強い銀髪ボブ、にひっと笑うお姉さんの金髪美女、小さい九尾の双子狐耳っ子メイドのミーゴとナーシャ、そしてメイド二人の口から出てくる姉様と言ったところだろうか。
計五人だ。数えてみると意外と多い気がしてくるが、実際に五人のうち三人はまだ会っていないことになっているやつで、三人以外のうちの一人はまだあってすらいない。
今日の目標はメイド二人が言葉にする姉様にあうことなのだが、人生はそう上手くいくはずもなく……。
○
(って、上手くいっちゃったよ!なにこれ、なにこれぇ……。怖い怖いよ。自分の運が怖すぎる!いつか絶対後ろから刺されて殺されるパターンだよね。いや、もう既に何回か死んでるんだけどさ、確かにそうなんだけどさ、うん。)
目の前にはいつぞやの金髪美女がいた。
明るくムードメーカーと言った感じのキャラでとてもお話しやすく気軽に関わってくれる。
可愛いというより美女なのだが、本来なら可愛い専門の俺でもこれはどう考えてもよきですわと言葉を失うほどの衝撃を覚えた。
冷静に考えたらこれじゃヒロイン四人に減ってないか?
(まさか、ドゥーエ(二周目)の時の子に会えるとは思ってもみなかった。ということは今、ギルドで働いているのは銀髪ボブの子?)
銀髪ボブの子は受付をしながら話の流れから多分冒険者をしているようだし、結構強いんじゃないかと勝手に思っている。
個人的に魔法使いらへんかなとか想像したりしてるんだけど、こういうこと言ってると大体フラグだからめっちゃ暴力的な強い子が出来るんだよなって思う。
金髪美女は多分昨日の姉様がいるなら安心という言葉が本当であれば冒険者だと思う。もしかしたら猟師とかかもしれないけど。素手で魔物捕まえてる感じ。なにそれ強い。
……にしても貴族の朝食って美味いな。
昨日の朝食と全く同じメニューなのだが(もしかしてこの朝食がこの世界でブームなのかと思った)なんかすごく違うのだ。
出来立て焼きたてで変わらないはずなのに何故かこれの方が美味しいのだ。不思議だ。
「このパンすごく美味しいですね。」
「えぇ!そうでしょう!私が作ったのよ!」
「えっ!」
どうやら自分で作ったらしかった。
確かに売っているパンなどは保存料などの食品添加物を入れることで賞味期限を長くしたり色をつけたりしているが、自分で作るとなると材料は少なくて済む。
そもそもこの世界に保存料や添加物があるのかも分からないが、代わりになるものくらい存在するのではないかと思う。
体験談である。
オレもパンを作ってみて驚いたんだが、自家製だと材料の種類六つくらいしか要らないのだ。
もっと多いと思っていたしこんなに簡単に作れると思ってなかったし、しかも美味いという三大良い要素が入っているのである。
「ご自分で作っているんですね。とても美味しいですよ。」
「本当は料理人に作らせても良いのだけどやっぱり自分で作るのが一番でね。」
味も美味しいし健康にもいい。最高の部分しかない食事を可愛い子二人、美女一人に囲まれて朝食とか天国しかありえないな。
そう言えば両親は居ないのだろうか。
百歩譲って美女がお母さんだとしてもお父さんはいないし、もしかしたら猟とかに言っているかもしれないけど……。
無責任に聞いて実はいないんだってなって気分が下がったら嫌だしな。無言ほどつらいものはそうそうないと思う。
ご馳走様でした。
食べ終わって言葉を発する俺を三人がえっ、とした目で見るのを見ながらしくじったと思った。
さぁさぁ!みんな大好きなフラグ見つけよう大会の時間だよ!今日も元気にフラグを見つけよう!
次の回は予定通りにいけば投稿できるの早めになると思います。
ー作者の日記ー
パンについての話なのですが、実話です。
好みに個人差はありますが、余計なものが入っていないし、自分でやるので出来立てほやほやの暖かいものが食べられます。
うちのホームベーカリー(パンを作る機械)は、1斤から1.5斤まで出来るやつなのですが、色々な種類が作れるのでとても楽しいですよ。
それを応用するとくるみパンまで出来てしまう!
あと、ホームベーカリーが止まってしまった時は、コンセントを抜いて、1日ぐらい安静にさせておけば直りますよ。熱いと稼働しなくなるらしいです。
ブレーカーにはご注意を!!