【05:死を迎える宿泊】
森の中、木の根元。
キラキラと光る青いお花。
それが永蓮と呼ばるる花。
不思議かな。
なんと言わずともこの花は、無病息災、悪霊退散、等々等々。
あらゆるものを兼ね備えた花であるが、この花、生存する率が非常に低い。
雨に負け、風に負け、寒さや暑さにも耐えることの出来ない貴重な花である。
そんな花をベッドで横たわる母のために取ってこようと懸命に探す九尾の少女。
この物語は、今、始まったばかりである。
「始まらねぇよ。」
「ど、どうしたーや?お兄さん。」
「何でもないよ。」
あそこまでは俺の妄想でしたー!ごめんなさい。
永蓮は色々なポーションの材料として使われる珍しくもなんともない花で、そのへんの木の根本に沢山咲いている。
質がいいと高級ポーションに使えたりするので身近にありながら一番お金が稼げるのである。
注意する点は量だ。
永蓮には特殊な能力が備わっており、紫と青を一緒にすると巨大化してしまうのだ。
多くの材料が必要な時はそうやって増やすが、それ以外の時は厳重に一緒にならないようにしないといけないのが面倒で注意する点だろうか。
「ふわぁ……にしても量が多くないか?」
「そうなんですよ、多くの量が必要らしくてね、青紫合成拡大にもある程度の量は必要いうことで。」
そう、無限に大きくなってくれるのではないのだ。ある程度の一定の量がなければならない。
そして運ぶ時に一人ではその量が運べないので二回に分けて運ぶか二人で行くかの選択肢しかないらしい。
なかなかの重労働である。
「んで、俺が紫で君が青を持っているわけだ。確かにわけないと拡大してしまうから困ってしまうな。」
狐耳ロリっ子はなかなかに可愛げがあるようだ。ところどころ気を緩ませると方言が出てくるのがなかなかに可愛い。
方言に対しての知識が全くないので合っているのか会っていないのか何処の方言なのかもさっぱりわからないが可愛ければなんでもありである。
俺の空っぽな知識で言わせてもらうなら京都の方に近い。あくまで空っぽな知識なので鵜呑みにしないでくれ。
途中で青紫の永蓮を見付けた。
青紫の永蓮なんてなかなかお目にかかれないだろうな。
なんて言ってもレア物だし、回収しておこう。
紫は取るように言われているが青紫については言われていない。
青は見つけたら声をかけるようにしているが。
集めている中で他の薬草もあれば詰めていく。
ちなみに薬草などを入れている袋は薬草を取りに森に行く前のお店で買った。
ドゥーエ(前回)の時に自称くんを斬って逃走した時もこの道を通ったのを覚えている。
お店の人が奇妙な人がいるという目で見てきたのは覚えているが、トレ(今回)ではやはり普通にいい人だった。
値段も詐欺っておらず定価の価格で最初から売ってくれる。売る相手を選べるのはとても強いところだ。
もしかしたら本能が全力で拒否をしているのかもしれないけど。
○
《Day1Part3夕刻》
「あの、わざわざ家までありがとうございます。」
「困っている人を助けるのは当然だからね。」
可愛い人限定だが。
ありがとうございますが字面だと普通なのだが実際の音程はやはり京都のものに近い気がする。
なんとも聞きなれない音程だが、ここではそれが普通なのだろうか。
そう思っていると、同じく狐耳をした九尾に話しかけていた。
「ミーゴ、ちゃんと取れたかい?」
「ナーシャ、もちろん!」
「ミーゴ、ところでそこの男は誰だい?」
「ナーシャ、そこの人はアタイを手伝ってくれた人だ。」
「ミーゴ、そうかいそうかい。それは良かったね。礼はいったのかい?」
「ナーシャ、もちろん言ったよ。」
不思議な関係だ。
どうやら狐耳っ子はミーゴと言うらしい。
とてつもなく不穏なものを連想させられるのだが、ミーゴとミ=ゴは全く関連性はないんだ!落ち着け俺。
ミーゴにナーシャと呼ばれている者は同じ狐耳を付けた娘だ。
話し方がちょっとジジくさいような感じがするが、声が可愛くてそんなことを感じさせない。可愛い。
「ミーゴ、泊めてあげたらいいんじゃないかの?」
「ナーシャ、男は狼だと姉様に言われたばかりでしょう。」
「ミーゴ、確かに言われていますが今日は姉様もいるようだし大丈夫だと思うがの。」
「ナーシャ、確かにそうね。姉様がいれば安心だわ。」
どうやらこの二人には姉様という存在がいるらしい。ここまで来たらまた狐耳だろうか。
姉様への二人の信頼感が絶大すぎてなんか嫌な予感がしてきた。もしかしてここにいちゃいけなかったかな。
「あなた、今日は泊まっていっていいわ。ほんの少しのお礼だから。」
話が終わったようでこちらに話しかけてくる。
「本当か?じゃあ遠慮なく泊まらせて頂こうかな。」
「あなた、ミーゴを襲ったら許しませんぞ。」
「襲いませんって!」
「あなた、ナーシャを襲ったら許しませんから。」
「なんでミーゴさんはここに来てから口調が堅苦しくなっているんですかね!びっくりですよ!」
突っ込みながらも考えた。きっとここではメイドとかしているのだろう。だって初めからメイド服だったし。
聞いてないって?言ってないからね。
ほんと可愛いよ。眼福。幸せ。
○
広いお屋敷に案内された。自分の中にある知識で例えるならヴェルサイユ宮殿といった感じで豪華の一言では表せないほどの豪勢な屋敷である。
嘘だと思っただろう?本当である。
きっと向こうだったら一生目に出来ないようなものだろう。そもそもこんなに敷地がある時点でどうかしている。
「にしても広いんだな……迷子になりそうだ。」
「そう言いながら私の前を歩いて的確に道を選んでいる時点であなたも大分どうかしているのではありませんか?」
「えっ。」
前にいるミーゴに話しかけていたつもりがミーゴはいつの間にか後ろにいたらしい。
驚きのあまり後ろを振り返りまた前を向き再び後ろを向いて確認してしまった。
攻撃的な目線と口調に思わず顔に手のひらを当てて顔をしかめる。
そして逃していたがここに来てからの口調が普通になっている。さっきまでの口調はただ作っていただけなのだろうか。だったら何の為に____
「着きました。ここがあなたのお部屋です。」
扉。さっきから同じ扉ばかりが目に入っていたので分からなかったが、メイドにもなるとやはり分かるのだろうか。
「ん?あぁ、随分近くにあったんだな。」
「そうですか?ここからですとお屋敷を出るまでに三十分くらいかかりますよ。」
「えっ、そんなにかかってるの。やっぱり話しているのが楽しかったから短く感じちゃったのかな〜。」
話してもいないのにそんなことを言う。
威圧された。
「窓から飛び降りれば一瞬で出られます。」
「さすがに窓から飛び降りるのは無理だろ。ここってうん。だって、下に植木があるといってもあの植木が目に刺さって失明したらどうしてくれるんだ。」
部屋の外の窓を見る。ここから飛び降りるとか自殺にも程があるだろと推定マンション三階の高さの景色を見る。
もしかしたら致命傷くらいで済むかもしれないがやりたいとは思わないな。
下の庭にセットされた植木は枝の存在が確認出来ないほどの綺麗な仕上がりになっている。
あんなに長文を言ったあとでふと思ったのだが、自分の言った言葉を無視されたことを突っ込むべきだったのだろうか。
普通の人なら突っ込むかなと思って飛び降りる方の突っ込みを優先したんだけど、やっぱり無視されたことは突っ込んでおいた方が良かったのか。
難しいな……。
「こちらがお部屋です。」
そう言ってミーゴが扉を開ける。
そこにはなんと見事なお部屋としか言葉の出てこない光景が広がっていた。
ふりふりのレースのついたベッド、全体的にピンクなお部屋、大量のぬいぐるみ……ん?
「ミーゴ、なんだこれは。」
「……間違い、いいえ、これは姉様のお部屋です。お屋敷に住むのであれば部屋の把握はしておいた方が良いと思い紹介させてもらいました。」
「ちょっと!今間違いって言ったよね!?ちょっとー?」
自分の間違えたことを正義にして間違っていないと口にするミーゴ。
そんなことで俺が騙されるわけがないのだが、騙されているとは思ってもいないだろう。その場しのぎの考え方だ。
そんなことを俺が考えていながらも無視して進んでいる。とりあえず迷子になったから困るので着いていく。
また別の扉の前に立った。
間違いじゃ無かったらいいんだけど。
「こちらがお部屋です。」
「今度こそ合ってるんだよな?」
ミーゴに開けられた部屋を覗きみる。
扉の質感や柄などはすべて同じだったが……いや、このお屋敷を回っていた中で違う扉は見付けられなかったな。
あるのかもしれないけど、見ていないのだからほとんどの扉が同じもので出来ていて見た目もほとんど変わらないと言っていいだろう。
中を見るとさっきとは違い、普通の空間が広がっていた。いや、普通といっても一部屋とは思えないほど広いし、なんならこの人部屋だけでマンションの三部屋分と想像出来るほどには大きい。
さっき見たのがお姉様の部屋で過激すぎたのか感覚がおかしくなっているようだ。
ミーゴも俺が見た後に部屋を確認するとほっと胸をなで下ろしていた。
間違ってお姉様の部屋を開けちゃったんだもんな。また別の人のところ開けていたらどうしようと言う不安感からだろう。
って言ってもこれが貴族ってやつか。
部屋は広いし、置いてあるものも高そうなものばかりだ。俺のイメージ通り奇妙なものがたくさん置いてある。貴族というのは珍しいものが好きな生き物なのだろうか。
物珍しいものを見て回っている間にミーゴは仕事があるのでとさっさと行ってしまった。
ちなみに敬語をやめてタメで話そうという話をしたら「この屋敷のお客様である以上無下な扱いをすることはできません。諦めてください。」と一刀両断されてしまった。
自由になったので紙に書かれた最低限のルールに従いながら屋敷の中を歩いて探索する。
途中で他の扉とは全く違う扉があった。一応別のやつあったんだなと思いながらまた別の場所を回った。
庭では多くの薔薇や苗木を育てており、自然に溢れているところであった。男なのに恥ずかしいと思われるかもしれないが、俺は花が大好きなのである。だからそこに白いベンチを置いてテラスを建ててお茶会とかをしたらきっと楽しいだろうな、クッキーを食べながらお茶を飲みながら薔薇を見ることが出来るなんて幸せだななどと考えていた。
○
《Day1Part3夜刻》
食事は要らないと断っておいた。まず自分に合うかもわからないし、第一、人と話すのは苦手だ。
可愛い子とお近づきになれるとしてもなるべく関わることは避けておきたい。
矛盾しているがそれが俺の素直な気持ちである。
寝る時間である。
そして、さっき気がついたのだがどうやらこの世界では時間が四分割されているようだ。
朝刻、昼刻、夕刻、夜刻
太陽が登り、上を通り、オレンジの地平線を作り、下っていくまでの一連の流れをこの刻で表しているのだ。
寝ようと思った。
カチカチカチと時計の針が動く音がする。むしろそれ以外が聞こえない状態だ。
大きな大きな古時計はカチカチカチと左右に揺らしている。
なかなか寝れずらもう少しで上の針が一番上を通ろうとしていた。
カチカチカチ……
一番上を通る。
「っ!?なんだ!」
唐突に音が止まった。
古時計の音も何もかも。
サブタイトル詐欺してごめんなさい。死にません。
やっとヒロインっぽいやつが登場しました。進行めっちゃ遅いですね。
次の更新はいつになるのやら……やれやれ
ー作者の日記ー
ずっと、くすぐったいを、こしょばいと言っていた作者です。
先日、こしょばいって言ったら笑われました。
方言って本当に難しいです。
県によって独特なものがあるのでこうやって標準語と混ざってどれが標準語か分からなくなります。
私は標準語に少し訛りを加えたぐらいなので支障はありませんが、訛りすぎててもはやわからない人はどうやって生活するんだろ?疑問だ。