【04:薬草穫りで死にゃあせん】
《Day1Part3朝刻》
また朝が来た。憂鬱な朝が来た。
死んだのは二回目だと言うのになかなか慣れない。いや、ここに表示されているのは三回目だ。
そしてここまで来て思ったことがある。
ここの世界、夢ではないんじゃないかと。
味わった痛み、苦痛はしっかり神経が感じ取っていたのだ。
夢の中で頬を抓ると覚めるという話も存在することを思い出し、やったが無意味だった。
普通に痛いのだ。
現実世界でも同じように抓っていたら確かに痛いかもしれない。だけど、あの星狼から受けた痛みは並のもんじゃない。
意識のない夢では再現できないほどの痛みに襲われるのだ。これが夢だというのなら現実の俺は死んでいるに違いない。
しかも、元々想像力が薄い俺がここまでを再現するのはなかなかに厳しいというものである。
もし、ここが俺の作っている世界だとしたら自分はチートで可愛い子にハーレムされているほのぼのな大国系物語になると予測しよう。
別にこんな苦労をしたいなど一回も思ったことは無い。
というわけで、今回から俺はここはしっかりとした異世界だと信じることにした。
そう思ったからと言って何かが変わるわけではないが気休め程度である。
○
「というわけで、恒例のステータス、あ〜んど持ち物という名の図鑑checkぅう!」
だんだんやけになってきた。確認は大事だし、こうやってテンションを上げていくのも大事だ。
上がりすぎて前回みたいに殺さないように気を付けないといけないね。ほどほどにしよう。
まず最初に魔物。
【魔物図鑑:粘着物質】
新規はこれしかない。星狼の近くにいた粘着物質のことだろう。
弱そうに見えるがなかなかに強い。ねとねとした物質で窒息死させたりと怖い一面も多い。
弱いと言われているが実際に強いのだから仕方がない。
スキルは……
【スキル図鑑:粘着】
これは、スライムから受け継いだであろうスキルだろうか。粘着というと使い道がいまいち分からないが今日、ちょっと使ってみるか。
……少し考えてみたが、やっぱり粘着で思い付くのは粘着テープぐらいしかない。
【スキル図鑑:炎火】【スキル図鑑:調理】【スキル図鑑:消化】
このスキルは星狼の吐いていた炎だろう。
調理というのは安直すぎるのでは……と自分の夢じゃないかと疑ってしまったが、さっき異世界だと信じると公言したばかりなのだからそんなこと言ってはいけないと、思い直した。
消化というのは漢字間違っているのではないかと思うくらいに場違いだ。もしかしたら溶ける胃液のような働きをしていたりするのだろうか。炎なのに変だ。
そして死に方
【死に図鑑:焼死】
今回は【スキル図鑑:炎火】による焼死だと思われる。酷く醜い死体が残ったんだろうなと思った。
ということで今回もこんな感じになったわけですが……分からんな。一貫性が見当たらない。
いや、見つかっているといえば見つかっているのだが、まだ確証が得られないのだ。
自分が今考えてるのは、その日一日の死ぬ前までに攻撃されたもののスキルのコピーをしたり、そのもの自体を図鑑に取り込めるということ。
死に図鑑については需要も供給も一切見当たらないので嫌がらせの一部だと思ってる。
前者の方は大体合っていると思う。コピーと言えるほど威力も同じとはとても思えないが……。
昨日……いや、前回に自称Aランクを斬った時もなかなかに強かったが俺が攻撃されたぐらいの威力は出ていなかった気がする。
俺の時は身体が斬られるとかではなく引きちぎられると言った痛みだった。
斬られるとかの比では無い。別に斬られるのが痛くないとは言っていないがそれでも斬られた方がよっぽどましだと今でも思う。
○
朝食もいつも通りでした。
メニューと感想はもう言わなくてもいいよね。絶対分かっていることだし。
で、今回の話なんですがまず、この前々回と前回と今回とで名前をつけてみようかと思います。
理由は簡単。こうやって回想する時にいちいち名前が変わって面倒だから。
となるとなんて名前をつければいいのだろうか。一貫性のある名前をつけるべきか厨二病ぶって色んな関係性のないものを考えるべきか……。
一貫性のあるものと言えばやはり数字?無いものでやるなら食べ物とかになるかな。
色でやるとか?となるとやっぱり数字?
数字でいっか。あまり凝っていても思い出せなくて面倒な気がするし。
①とか②とかかな?
それとも1、2?
あっ、イタリア語とかどうだ?絶対に混ざらないし。
ウーノがはじめて星狼にあった日
ドゥーエがはじめて星狼を身近で見た日
トレが今日
って感じにどんどん数字を大きくしていく感じにしよう。このステータスに死亡数と書いてある数字と同じ数字になるようにイタリア語もセットしてみた。
ちなみにイタリア語でウーノは1、ドゥーエが2でトレが3になる。
で、話は変わるんだけど今回は何としても一日を生き延びてみようと思います。
ウーノがなぜ失敗したかと言うと、討伐クエストで思いっきり強い魔物に鉢合わせしてしまったからだ。まるで曲がり角ぶつかったら人がいたみたいな衝撃な出会い方だ。きっと一生会いたくないって思うことになると思う。
ドゥーエで失敗した理由はズバリ、テンションが上がってしまったからである。そもそも起きている喧嘩を止めなければいい話でもうちょっとウーノの時と同じタイミングで行けばどうにかなるような気がする。
つまり、今回のトレでは、討伐クエストを受けずに薬草などを持ってきたりするクエストをやってかつ、争いごとに巻き込まれないようにするというのが目標である。
ドゥーエのときの銀髪少女については強そうだったので自称Aランクには勝てると思うしなるべく放置の方向で行く。
イタリア語使いにくいな……。
○
外に出た。暑い日差しに当てられる。そういえばウーノでもそんなこと思ったな……。
さっそくギルドに向かって冒険者のカードを作ってもらう。名前はもちろんヴィオラ・スケーレットロだ。
問題の銀髪少女もいないし問題を起こした自称Aランクもいない。さっそく一つの目標がクリア出来た。
薬草穫りについてはクエストが余っているか心配だったのだが、充分余っていたようでそんなに心配は要らなかった。
クエストに行く途中で不思議な人(?)に会った。
「ねぇねぇ、そこの兄ちゃん。何処行くの?」
「あぁ、ちょっとそこまで薬草を取りに行くんだ。」
「そんなら、アタイも着いてってええかな?ちょうど薬草足らんくって取りに行こう思うてたんよ。」
「もちろん、どうぞ。」
黄色の狐耳、大きな九の尻尾や特徴のある牙や爪。九尾じゃないかとすぐに出てきた。
特殊メイクで白い肌の上に赤色が乗せてあって目立つ。
こんな人も普通にいるんだなと異世界の幅広さに感動した。
赤いキノコが見える。
元の世界だとこういう禍々しい赤の色は毒が多いのだがこの世界ではどうなんだろう。
少し考えてからキノコをとる。
「なぁ、コレ見てよ。」
「それがどないしたの?」
「これ、毒茸キノコって言って、毒のあるキノコなんだけど食べた瞬間に痙攣を起こし発作に丸一日侵され死ねない苦痛を味わい、ちょうどキッカリ一日後に死ぬっていうスグレモノなんだけどーー」
「ちょっと、待ぃ!?何でそんなもんアタイにいったの?何それ超怖いやんか。やめーや!」
「嘘だから大丈夫。」
「嘘かいな!」
どうやらこの狐耳っ子は菌類学には詳しくないらしい。
抜いたキノコをとりあえず袋に入れた。
キノコのことをよく知らずに薬草取りに行くなんて大丈夫なんだろうか。
俺も人のことは言えないが。
この世界に来たばかりなので毒などの見分けが付かない。何かのスキルで毒味などの代用ができれば一番良いのだが、それも難しいだろう。
途中でお腹すいて食べちゃってさらっと死んだりしないのだろうか。
まるで子供を見ているような気分にさせられるな。
見た目も小さくて子供くらいの大きさしかないのに大きな尻尾と耳を付けて尻尾なんか九尾もあって可愛くて、訛っているのに真面目ですっごいツッコミ担当で菌類の見分けがつかないとか可愛すぎる。
そういえばこの世界での俺のヒロインまだいないよな?だったらこの子ヒロインに出来るチャンスワンチャンあるんじゃね?ありそうじゃね?
「そういえばさ、何探してんだ薬草。」
「実は永蓮という薬草を探していて……。」
「永蓮ってお決まりのパターンのすっごい崖のところに咲いている花のことでしょ?こんな森には無いんじゃないの?」
こういうお決まりのパターンは俺がこいつを助けてめっちゃキュンキュンさせてヒロインの一部にさせるやつである。
崖に命懸けで取りに行くやつだ。
ちょっとゲームっぽいな。
「お、お決まり?崖?」
違うらしい。
「あ、もしかして違う?じゃあ別のやつだわ。その薬草の詳細教えてくれない?探すの手伝うよ。」
「ありがとーな。あのね、紫の花でよく木の根元に咲いてるらしいんやけどこれがごっつぅ探すん難しいくてな。一人じゃなかなか見つからんわけよ。手伝ってくれるん?」
取ってつけたような訛り方だな。見た目が可愛いから許すけど。可愛いは俺の味方。美人は好きだけど可愛いには勝てぬ。
「もちろん、手伝うよ。俺はもう探し物終わったしね。」
「え、早っ。」
初心者が集める薬草なんかそこら辺で生えている草と同じレベルだ。
ちょっとうろちょろすれば途中ですぐに見つかるし、ついでに余分に持っていって自分の食料にしたりと色々な利用価値があるので使わせてもらっている。
実際には今日手元に持ったばっかりなのだが、心無しか前にも持ったことがあるような、食べたことがあるような気がしてならないのだ。
見る度に何故か懐かしい気持ちになっていくのだ。何故なのだろう。
伏線を詰めていく〜
次回の投稿、一週間後になるかもしれん
ー作者の日記ー
赤いキノコは、毒はありません。
ヴィオラの世界の薬草の一種で、なかなか見つからないレア物です。
食べたりもできますが、よく高級ポーションの材料の一部として使われています。