【03:死っても何も出来ない】
《Day1Part2昼刻》
「んだァ〜?だから言ってぇんだろぉ?ちゃんと人お話は聞こうねぇって習わなかったんでちゅか〜?しかも俺はAランクやつだぜぇ?」
「……。」
頭の悪そうなやつが可愛い子に絡んでいる。
酔ってるみたいだ。
よく良く見たら前回の子だ。銀髪ボブの可愛い子。前髪で目が隠れているので、前はわからなかったのだが、よく見たら目つきが悪い。
まぁ、何か考えているようだし、俺が手を出さなくてもどうにかするだろう。
「嬢ちゃぁあん?無視はいけないなぁ、」
「五月蝿いわね。消えてちょうだい。」
「そういう攻撃的なところも素敵だぜぇ?」
「五月蝿いわね。私の前から聞いてくれないなら殺すわよ。」
おっと、こわいこわーい。
だがなかなか強気のある子だなぁ。
昨日見た時は、ちょっとクラスによくいる、あわあわした癒し系の女の子で、いつも目を隠していて、たまに見えた時にすっごく可愛くて、みんなが一目惚れする系の子に見えた。
本当に第一印象って重要だよね。
「なぁなぁ、君達喧嘩は良くないぞ。うんうん。」
「お前誰だよ」「アンタ誰よ」
ざわざわし始めた。
え?なんで、俺が悪いみたいになってるの?よく分かんない。
「喧嘩なんかじゃないわ。こいつが私になんか言ってくるのよ。ムカつくわ。」
「何言ってんだか嬢ちゃん。社会勉強だよ社会勉強。大事だろ?生きている間はいるものなんだよ。」
社会勉強は君がするべきでは?
きっとここにいるみんながそう思ったと思う。だって実際その通りだし。俺も同じこと思った。
「まぁまぁ、社会勉強でしょ。しょうがないしょうがない。」
「はぁ!?こいつの味方すんの!?有り得ない!」
「だろだろ?さっすが兄ちゃん分かってるねぇ。」
「もちろん、社会勉強だろ?立場の知らないクズのためにな。【スキル図鑑:爪斬】」
へぇ、こんな感じになるんだ。
厨二病みたいに右手が大きく……いや、別物に変わっている。
どこかでみたことあるような見た目をしているな、と思ったら星狼の前足だと思い出す。つまり星狼の前足が自分の右手と化しているわけで……あれ?俺大丈夫かな?
「兄ちゃん、そこまでやらなくても……」
「っ!?星狼との一体化!?本気で私をー」
「?何を言っているのか知らないが、社会勉強をしなくちゃいけないような立場のわかっていないクズは、君ではなく、そこの老人だろ?」
弁明しておくが、自分的には一体化している気分ではない。確かに一体化していて前々からこんな感じだったような、という気分になってくるがそういう問題ではない。
これはスキルとしての一部であり、スキルを完璧に行うための一つの手段に過ぎないわけで、別にこれ自体がスキルとか有り得ないし。
「は、お前、新人だろ?なんでそんなこと出来るんだ。おかしいおかしい。なんだ、最近の新人は可笑しすぎる。俺の言うことを聞いていれば楽に出世できるってんのに、くそっ、なんだよ!何だっつってんだよ!」
「何を言っているのか知らないが、俺は俺だ。周りに評価されて決められるような筋合いはないのでね。」
そういうと、目の前であわあわ(可愛い表現)しているやつに向かって【スキル図鑑:爪斬】を発動する。
肩から腰にかけての開けた傷ができる。斜めに切っているので開きみたいにはなっていないのだが、誰が見ても大惨事だということが理解できるだろう。
遅れて口から血反吐が出ている。汚い。
何をされたか理解していないようだった。
自分よりも一回り二回りも小さいやつに、やられたなんて思わないだろう。理解したくてもすることが出来ないのだ。
……面倒なことになったなぁ。
俺の悪い癖だ。こうやって気分が上がるとすぐに手を出す。
向こう(・・・)でもこうやって敵を作ってきたのを分かっているはずなのに、また、手を出してしまった。
回復魔法は持ってないもんな。このまま殺しておくか……いや、放っておくか。
今の内なら何が起きているのかみんな分かっていないだろうし、いや、普通にわかっていないみたいだし。
「じゃ、“社会勉強”終了!Aランクだからと言って新人に手を出すなんて。勉強不足だな。というわけで俺はおさらばするよ。」
遅れてクズの叫び出す声が聞こえる。大声を出しながら身体を震わせているので、その度に血がダバダバと溢れ出てているのが見える。
全部のステータスが2の俺には逃げ切ることは不可能だとしても、昨日のところに行けばいいという自信がある。
星狼がいるところに行けば俺が殺されるか、追いかけてきたやつが殺されたか、の二つに分かれるだろう。
(最悪自分が死ぬことは構わないが、銀髪ボブは助かるといいな。まぁ、自分で社会勉強って言って俺の怒り買っちゃったやつはもうどうでもいいや。)
死んでも別にどうにかなる訳でもあるまいし。
血を体全体に浴びていて、口の近くに着いた血を指で拭っては、口に指ごと運んでは笑みを浮かべ、走っている俺は周りから見たら奇妙という一言に尽きるだろう。
自分のはずなのに、自分じゃないような気がしてしまうのだ。
そもそもこれは俺なのだろうか?偽物では?いつから変わってしまった?こんな性格では無かったはずだ。もっともっと違う性格で違くて何もかもが違う。これは俺ではない。だからこれは、この状態は、この自分は、
俺ではない。
○
「っ、はぁ、つい……た。」
目の前には俺の考えを読んでいたかのように星狼がいる。
前回と違うところは周りにスライムを連れているところだろうか。まだ追っては来ていない。
スライムに体当たりをされる。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
最初は痛みこそ無かったものの、自覚した瞬間に痛みが自分を襲う。
体当たりされたところが焼かれたように痛くなる、痛くて生理的な涙が出る。
よく見れば血が出ている。痛い。
ぐちゃぐちゃになっていく。前回とは違う痛みが自分を襲っていることに、今更ながら気付く。
「っあがっ、【スキル図鑑:蟲毒】っ!」
痛みに耐え、自分の顔を埋め窒息させようとしていたスライムに向けて、スキルを発動する。
スライムは色が紫になった。
効かない?とそう思った時、異変が起こった。
スライムから蟲が大量に発生している。喰われて、喰われて、喰われてーー。
「うぉぇっ……ごぼっ、あヒっ、」
そんな光景に思わず吐く。
せっかく食べた朝食が、口から外へと排出されてしまった。まだ吐き気がするが、頑張って抑える。
さっきしたのは単体への攻撃であり、範囲攻撃ではないので、まだまだスライムは多くいる。
「かて、るわけ、ね、だろ……」
20は少なくともいるスライム、その真ん中で覇気を出す星狼。
一回会っていなければきっとその覇気だけで、吐いて懇願していたところだろう。
ぐちゃぐちゃの身体では、それほどまでの動きはできない。今はまだ、スライムに体当りされて血が大量に出ているだけですんでいるが、星狼からの攻撃が来れば、自分の命は燃え尽きるだろう。
(無くすんだったら一瞬で無くしてくれればいいのにな。)
心の中ではそんな強気でいられるが、実際は覇気に当てられて、足がくすんで動けない。近付いてくるスライムを止めることすらも叶わない。
「っ、は?あんた何してんのよ!星狼!?なんでこんなところに!?」
「あー、来ちゃったかー。」
「こんなやつ相手にしようとするなんて自殺もいいところよ!」
銀髪ボブの子が来ちゃったか。
まぁ、いっか。何かあれば星狼を強化させて、俺のことを殺してもらえばいいだけだし。
「戦えるんでしょ、さっさと協力しなさいよ。」
「?なんでだ」
「何でって……」
何で?早く殺してくれないと困っちゃうんだけどな。
もういいんだよ。もし出れなくたっていい。死んで戻るか。そのままかの二つの選択しかないんだから、別に変わりはない。
「村に被害が加わるのを防ぐためよ。」
「だからあんな格好してあそこで働いてるんだー、へー。」
「……何のことでしょうか。」
「気にしないで、独り言だから。」
驚きのあまり敬語に戻ってしまっているようだ。やはり、銀髪ボブの子で間違いないようだ。
何か焦っているようだが、そんなこと俺の人生において必要が無いことだ。
あー、ちょっとは息抜き出来たわ。
傷も治ってきて痛みも大分収まったみたいだし。
「んじゃあいきますか【スキル図鑑:蟲毒】。」
「はぁ、立って大丈夫なわ、け……ぅごぼ……。」
「……やっぱり何度見ても慣れないなぁ。」
「おま、え。ま、さか、まおう、なの、か?」
「違うよー、そんなんじゃないって照れちゃうなぁ。そんなに強くもないし特別なものも持っていない。普通だよ。」
ちょうどいいタイミングだったので、範囲攻撃を試させてもらった。銀髪ボブと自分に。
どうやら強くしすぎたらしく、目の前の子は死にそうになっていた。俺はそんなにダメージを受けていないのだが、人によって左右される能力なのだろうか。
ダメージを受けていない、と言ってもちゃんと受けている。身体が毒で蝕まれ、思考が働かなくなってきていることがわかる。きっと長くはないのだろう。
さっきまで懸命にしていた息が聞こえなくなった。そちらを見るとうつ伏せになって倒れていた。死んだのか?俺より先に?ずるいなぁ。
「さぁ、星狼くん。迷いなくやってくれ。そこのやつと俺とともに殺してくれりゃあ、それで充分よ。」
俺の言葉が分かったのか、分かっていないのか、は分からないがこっちに向かって口を開け……炎を吐いてくる。
へぇ、炎も吐くんだ。面白い。
自信の身体から焼け焦げたような臭いがする。服と肌がべったりとくっつき互いを離さない。あまりの熱さに、身体が耐えきれず溶けていく。原型がなくなる。まるで俺じゃないみたいだと星狼の瞳を見て思った。
お人好しであるからこそ飛んで火に入る夏の虫のように、本当は来るべきではなかったところに、来てしまった彼女は、まだ生きていたみたいだが、急に現れた炎によって、逃げる暇もなく焼かれていった。
俺は木に寄っかかりながら、焼かれながら星狼を見ていた。
綺麗な灰色の毛並み。
ブルーの瞳。
白い牙と爪。
強者の貫禄。
敵同士でありながらも、全てが凄いと思ってしまった。いいなぁとそう思った。きっと俺は、自分が嫌なんだろうな。
俺は笑いかけた。
「ありがとう。殺してくれて。」
○
どこかで聞いたことのある機械の声が森の中に響く。
『《Day1Part2昼刻》に死亡を確認。これより《Day1Part3朝刻》に移ります。確認作業が入ります。
>【魔物図鑑:粘着物質】を追加しました。
>【スキル図鑑:粘着】を追加しました。
>【スキル図鑑:粘着】の解析を実行します。失敗しました。
>【スキル図鑑:炎火】を追加しました。
>【スキル図鑑:炎火】の解析を実行します。成功しました。
>【スキル図鑑:炎火】の解析により【スキル図鑑:調理】【スキル図鑑:消化】を追加しました。
>【死に図鑑:焼死】を追加しました。
また、このスキルなどは次に起きた場合実行可能になります。消費されるHPやMPは0です。
そして、死亡回数が2から3になったため、レベル以外の能力値などを1増やします。詳細は、
>【HP:2→3】
>【攻撃:2→3】
>【防御:2→3】
>【回避:2→3】
>【回復:2→3】
です。
確認作業が終了した為、これより《Day1Part3朝刻》に移るための解析を実行します。成功しました。
解析の成功により 《Day1Part3朝刻》に移ることが可能となりました。
時間を戻し身体を復活させます。成功しました。
これより《Day1Part3朝刻》に移ります。』
声が聞こえなくなった空間には、焼死体が二つと、粘着物質が十数匹、星狼が一体いるのみであった。
星狼は、目の前の男を見ていた。
焼かれているのにも関わらず、こちらを見て笑いかけ、話し掛けた者だ。
いまでは、こっちを向いていた顔は下を向いて、木に寄っかかっていた体勢は崩れ落ちていた。
ありがとう。などと、いきなり殺してきた相手に言えるだろうか?いや、言えないだろう。なんとも言えない、不思議なやつだった。
星狼は、粘着物質を連れて元の縄張りに戻っていった。
不思議な男のことを、首相に報告するために。
自称Aランクは死んでいません。御安心を。
星狼は言葉が分かるんですよ。厨二病設定みんな好きでしょ。魔物がお話するの楽しいでしょ。
ー作者の日記ー
主人公がこの世界を網羅しつつありますね。いや、これ本当に序盤なんですけど何やってくれてるんだ主人公。死ぬのはいいけど、慣れすぎて逆に怖いわ。
自分の攻撃で倒しておいて「死んだのか?俺より先に?ずるいなぁ。」は流石にない。お前は一体何がしたいんだ!
文章力が欲しいっすね!