ぱちぱちと二人分の拍手が部屋に弾ける
「おたんじょうびおめでとーう!」
ぱちぱちと二人分の拍手が部屋に弾ける。
「ありがとう、はる姉、あき姉。…でもさ」
いくつになってもこういうのはくすぐったい。だからすぐ話をすりかえた。
「なんでなつ姉だけスマホの画面なの?」
《ごめぇーん…。結局こっちに一泊になっちゃった》
「…そっか。お仕事だもんね」
《でもほら!見える?ちゃんとこっちでもお祝いしてんだよ!》
画面が揺れて、コンビニスイーツの山が見える。
「…そうだね、ありがと」
《だからそんながっかりしなさんな!》
「し、してないよ、平気だもん」
《あはは、まぁ秋穂が来れないよりはマシだよね。ケーキ無しになっちゃう》
「ごめんねぇふゆちゃん、ケーキ買ったので…。去年みたいに作りたかったんだけど」
「いいよあき姉、今年は平日なんだし…。今日も仕事だったんでしょ?」
「そうだけど…うーんごめんね」
「大丈夫だって。ね、はる…はる姉なんで食べてるの!」
「ふぇ?もういいんでしょ?」
「もうっ、グダグダ…!クリームついてるよ!」
「えーとってとってー」
「もう…!」
なんで主賓のわたしがはる姉の口を拭ってるんだろ。
《あっはっはっは》
「大丈夫なのこの大学生…、17歳にお世話されるって」
あき姉も頭いたそうにしている。
《そういえばさ》
「ん?」
ちょっとはる姉動かないで。まだクリーム残ってる。
《あたしら同い年の幼馴染じゃん》
「そうだね」
《美冬って5つ下じゃん?しかもちょっと家遠かったじゃん?》
プリンのフタをはがしながら続ける。
《春奈どーやって知り合ったの》
「あー。私も気になってた。いつの間にかいたよね」
「あれ?しらなかった?外国で会ったの」
《がいこく!?》
「なにそ…夏樹、プリン落ちた今!」
「はる姉と私のお父さんが同じ会社で、夏休みにお父さんの海外研修についてって、そこで」
ていうか言ってなかったんだはる姉…。
「雨ふってて遊べないから、美冬ちゃんと『アルプスいちまんじゃく』やったよね?」
「うん…」
「ふゆちゃんいくつの時?」
「13歳…かな」
《『アルプスいちまんじゃく』…》
「だって日本語自体珍しくって…!」
「日本に帰ったら近くに引っ越してくるから、仲良くしなさいっておとーさんに言われて」
《へー》
「ちょっと待って!!私そんなの知らない!」
「え?春奈?」
「えー?」
「だって…だって私、てっきり遠くの人だと思って…」
ああ顔熱くなってきた。
「…手紙とか書いてなかった…?」
「うん!お別れのときにもらったね」
「あああ…」
「引き出しにとってあるよー」
「うそ!?」
「見たい!」
《見たーい!》
「ええー待って!」
「これだよー」
「はる姉ぇー!」
奪取!確保!
「…ふゆちゃん。見せて?」
「…ダメだもん」
「ふゆちゃん、おねがい?」
「う…」
「私の知らないふゆちゃん、見たいなあ?」
「…ていうか私もなに書いたか覚えてない…」
「じゃあ、一緒に見よ?ね?」
「……うう…」
上目遣いは、ずるい…。
便箋を広げて横並び。
《あのー》
「…わ!」
「うわあ…」
「なつかしーねー」
「はる姉…!」
「ふゆちゃんボクっ娘!?」
「…だったみたい…」
《ちょっとー》
「なんか…なんか、情熱的だね!言葉の意味はよく分かんないけど!」
「私にも分かんない…なんでここ二回言ってんだろ…」
《おーい!》
「夏樹ちゃん?どしたのー?」
《あたしだけ全っ然わかんないんだけど!》
「そりゃねえ」
《読んでよ秋穂!文芸部!》
「ええ!?ダメ!それはほんとダメ!!」
「だってw」
《…わかった。じゃあ美冬、今日行けなかったおわびも兼ねて、
今度あのゴスロリ服買ったげる!写真も撮ったげるから!》
「ヤダ!なつ姉がやりたいだけじゃんそれ!」
「はい!はい!私も今度ちゃんと作ったケーキあげます!」
「あき姉!?」
「なっちゃんがあーんしてくれるよ?ね、夏樹?」
《あ!いいよするよ!》
「…っ・・・そんなのにつられないもん」
(あとちょっとかな…)
《(コレあとちょっとだな…)》
「春奈!」
《春奈は!?なにしてくれんの!?》
「んっ?ええ??えぇーと…。……ひざまくら?とか?」
「えっ」
「えっ?」
「え」
《え!》
「…」
「ちが、わ、私そんな嬉しくない」
《ハイ朗読ぅ!!》
「オゥケイ!! ん"んっ、『僕は今――(イケボ)』」
「ああああ!!!」
あき姉は、私の黒歴史の手紙を情感たっぷりに読んでくれました。
後日、改めてなつ姉もお祝いするというので、はる姉の家に集まりました。
前は悔しい思いをしたから、今日はなつ姉たちを困らせてやる…!
「はい!美冬おめでとう!ゴスロリだよ!」
「ありがと!でもこれだけじゃやだなあ!」
「え"っ」
「もっと欲しいなー!」
「そっ…か。…じゃあ、この魔女っぽいのもあげよう!」
「えっ」
「メイドもあるよ!」
「ちょ」
「写真もいっぱい撮ろうね美冬っ…!」
あれ……?
「はーいケーキできたよー。わぁかわいい」
「でしょ!」
「うう…」
もうやけ食いしてや…!
「あぁストップ!美冬覚えてるよねー?」
差し出されたスプーン。
「あたしがあーんしt…」
「あむぅ!」
「あ"ー!」
「はい終わり!」
やった。やっとやり返せ…
「ふーゆちゃん」
こっちにもスプーン。
「……えっと」
「あーん」
「…っ…」
「…私の作ったケーキ、食べて欲しいなあ?」
…うう…!
「…ぁう」
「…ふふ、嬉しい」
「…美冬ちゃん」
「う…!」
また!またスプーン!
「私だけ、だめ?」
ううううう…!!
「…んぁ」
「えへへ」
もう!なにこれ!! もう!!
「はい、美冬ちゃん、どーぞ!」
「…う、うん…」
こうなったら…はる姉だけでも…!
「…はる姉!」
「なあに?」
……あれ、どうしよう。これよりもっとって…。
「!」
なつ姉が手を握った。
「…っ!」
あき姉の指が…首を伝ってる。
「美冬ちゃん…」
はる姉が…髪を…。
「あ、あっ…」
「お誕生日おめでとうー」
拍手に包まれる。
「…え?」
ちゅーされた。おでこと、ほっぺにひとつずつ。
それだけ。
「…どうしたの?美冬ちゃん」
「あーれえ?美冬ぅー?」
「言ってごらん、ふゆちゃん?」
「ちがっ…なんでもない!なんでもないから!」
今回の着想を得た曲、および手紙の内容は
我が麗しのバレンシア (Long Version)をご確認ください。
必ず、かならず4分ほどのロングバージョンをお願いします。