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軟式だからって青春できなかないわ

昔の部活動のお話です。つたない人間関係で悩みながら、軟式テニスを頑張る

お話です。ルール改正前でダブルスしかない頃が舞台です。


 今日、結構よかったよな。なんだろ、まだ少し興奮してる。

思いどうりに、全部が上手くは行かなかったけど、結果オーライだ。


 高校1年の夏、総体予選で俺は活躍できている。

土のコートからは、ゆらゆらと陽炎が見える。顎の先から滴った汗は

コートに砂に、吸われて消える。視線を相手にあわせる。

相手も、さかんに汗を拭っている。


暑い。このセット終わったら、ポカリ飲みたいな。

スパーンッ、乾いた音とともにボールが飛んでくる。スピンの効いたボールを

ラケットの中心でとらえて、叩きかえす。

相手のポジションは対して気にせず、気持ちよく打ち返したボールはコートを貫く。


練習よりも全然いいボールが打てる。

嬉しさを抑えて、先輩に声を掛ける。

「ラッキーっすっ。」

軟式テニスのダブルス、これが俺の舞台だ。


 中学時代から始めた軟式テニスは、面白かった。

1年の最初の頃は、球拾いや、素振り、ランニング、先輩への声だしがメインだったけど

徐々にラケットを使いボールを打ち始める。3年が引退する頃には秋の

新人戦のレギュラー目指して、懸命に頑張る。友達を身近なライバルにしながらね。

2年を差し置いて、レギュラーになる奴も出てきて当然みたいな空気もあるし、

顧問の先生も、それを望んでたしね。そういう奴が出ないと、全体の底上げにならないから。


 新人戦まで1か月を切った頃、パートナーを決めることになって

顧問から、2年の先輩と組むように告げられた。

同じ1年の奴と組むつもりだった俺は、微妙な気持ちになったんだよね。

パートナーになる先輩は、かなり下手な先輩で1年からなめられてたし。

ただし、新人戦の団体は無理だけど、個人戦には出れるのが確定なのは魅力なんだよねー。

まずは、顧問に言われたからには逆らえないので、組むつもりだった奴に報告して謝ってから

2年の先輩の教室へ行って、経緯を説明してお願いしますと挨拶して。

昼休みが無くなるつっーの。結構、気を使うタイプなもんだからさ。


 放課後、練習が始まるとザワザワしはじめましたよ。やっぱり。

軟式テニスは前衛と後衛があってさ、固定なわけよ。当時はね。

俺の先輩は後衛、俺は当然、前衛。

だから下手くそな奴が、後衛だとサーブがまず入らない、サービスゲームは捨てて

レシーブに賭けるんだけど、相手のファーストサーブが入るとアウト。

ボールに触ることも出来ない。運よくセカンドサーブでもやっと返す程度だから

相手のスマッシュの餌食。練習にならない。


 呼び方は、色々あると思うんだけど、うちの学校だと乱打というのがストローク練習で

ベースライン上にポジションを取って打ち合う練習。サーブレシーブっていうのが 

試合形式みたいに、サーブから始める練習なんだけど、もうわかるよね。

練習にならないんだよね、だって下手なんだもの俺の先輩。

それは、切ないくらい。後輩の視線も、隣の女子の視線も、同学年からの視線も一身に

集めてしまうんだもの。きついよなぁ。

明日の土曜日は部内戦、団体のメンバーは部内戦のランキングで決まるから

1年ペアも目の色が変わるだろうな。個人戦は2年優先で、俺はその恩恵に預かる訳だ。



 土曜日は学校も午前中で終わるから、教室の空気も緩い感じだ。

部内戦を控えた俺たち以外はだけど。

同じ1年で昼飯食べて、コート整備してる間に2年達が来る。

初めての部内戦のせいか、自分が緊張してるのがわかる。いつも見てる先輩達が

大きく見えて仕方ないし。同じ1年も俺と先輩には勝てると思っているのかな。


 バインダーに対戦表をはさんで、顧問がやってきた。バインダーごとキャプテンに

渡しベンチに腰かけてにんまりしてる。ピリついた空気を楽しんでるようだ。

ゆっくりとコートを眺めた後、みんなを集めた。

「これから、ランキングを決めるが、まずは俺の決めたペアで対戦しろ、審判は次の試合のペアから

その後は負けたペアが審判な。

大会では負けたら次の試合の審判をしなきゃいけないから、本気でやるように。声を大きく出してやれよ」

「「「ハイっ!」」」


 2年ペアどうしの試合が始まった、この先輩は1年からレギュラーで出ている強いペアで

俺の先輩とは全然違う。俺の先輩は紺野さんといってまだ、小学生の体つきだが、2年ペアは高校生

のような体つきだ。キャプテンの小沢さんペアと副キャプテンの小松さんペアの試合は、1年からしたら

かなりのレベルの試合に見えた。

 まずストローク、フォアもバックも遜色なく打つ。同じ2年でもバックは苦手にしてる先輩も

いるのにミスショットが少ない。音も綺麗だ、しっかり打ててるからだろうな。

小沢先輩はボールの上がってきたところを叩きつけるようなライジングを多く入れてくる。そのボールは

すごいスピードで飛んできて、甘いリターンになったところを、待ってましたとばかりに鈴木先輩がボレー

を決める。このペアはイケイケな攻撃型だな。


 対して小松先輩はボールの落ちてくるところをしっかり捉えて返す。けれどボールの落ち際を打つから、相手の前衛の動きを良く見てる。鈴木先輩を鮮やかに抜き去る。パートナーの見た目地味系な前衛の森さんだけど、動きはだいぶトリッキーだ。オーソドックスなスタイルを教える顧問に反抗するようなスライス回転のバックや

サービスラインまで下がってストロークボレーをはさんでみたり、相手もリズムが崩れるけど小松先輩も

やりにくそうに見える時もある。


そんな特徴を分析しつつも、試合は終盤にきて小沢さんのライジングがネットに掛りはじめたのをきっかけに、何とかしようと鈴木先輩が動く度に抜かれる展開で、最終セットは4-0の圧倒的な終わりだった。

「ゲームカウント4-2で小松・森組、礼っ」

「「ありがとうございましたっ」」

「次、紺野と高橋、Aコート入って、小沢が審判」


 あー、ついに試合だわ。2年ペアが相手で良かったな。負けても悔しくないわ、俺1年だし、紺ちゃん先輩だし。Bコートじゃなくて良かった~、隣のCコートは女子だからカッコ悪いところ見られたくないし。

とか考えながらAコートに入ってネットまで歩く。ドナドナが流れてたら似合ってるかもな、覚悟はしてるけど上を向けない。同じ1年から声が掛かる、もちろん控えめな応援の方。先輩の覚えが悪くなるのも嫌だけど1年は基本、恥をかかなきゃいけない、その生贄1号だから俺が盛大に恥をかけば後に続く1年達は

やりやすいだろうからな。

違う事も考えてた、高橋先輩ペアで良かったなって、団体戦に入るかもしれない実力派ペアだからね。

小沢先輩達の見事な試合の後だから高橋先輩も気合入ってるし、ダメージ少なく速攻で勝ってくれるでしょう。恥かきタイムは短い方が良いに決まってます!


 始まりました。生贄タイムです。ラケット回してレシーブとりました。

乱打を始めたら、なんかギクシャクしてこんなに下手なの俺はという感じ。紺ちゃんはと思ってみると

いつもどうりです!それみたら、申し訳ないがリラックスしてしまいました。

前衛どうしだけ乱打しているうちに

「レディッ」

「セブンゲームマッチプレイボールッ」


ゆったりとしたトス上げからのファーストサーブは気持ちの良い音とともに紺ちゃんのバック側を白い筋を

引いて通り過ぎていく。シュート回転でバック側に逃げていくボールだった。


自陣のコートからボールを拾い、俺にボールを渡しながら紺ちゃんが声をかけてくる。

「ごめん、ごめん、おーっ、次はとるよ」

「先輩、オッケーです。ドンマイです」

高橋先輩にボールを返す。バック狙いならばフォアを開け気味に立ってロブで相手の前衛を超える位を

意識しようかな。なんたって紺ちゃんがペアだからなにやったってオッケーでしょ。


ゆったりとしたトス上げのあと来ましたよ!2年の本気ボールが!!!

ビシッとネットに当たってラッキーって思ったらレットだった。もう一回ファーストか。やっぱバック狙い

だからもう少しバック側に寄る俺。


ボールが破裂しませんでした?という様な音とともに、大きく開いたフォア側を今度はカーブ回転が掛かったボールが通り過ぎて行きました。


「練習にもなんねーぞ、1年よーっ。紺野も返せよ」

小沢先輩は審判なのにひどいです。


小沢先輩にペコペコ謝る紺ちゃんを見ながら、少しイライラしてきた俺。たった2球でポイントを取られ

なおかつ、ボールに触れていないという現実に。


つーわけで、結果はわかっていますが戦います。試合中なので許されると思うので反抗します。

決定しましたー!


たった2球で調子に乗った高橋先輩はエース狙いでファーストはフォルト。この人のセカンドは全然切れてないカットサーブ、紺ちゃんに声かけの振りをしながら、前衛アタックをオーダー。

これも色々呼び方あるだろうけど、相手の前衛の正面か体の近くに全力で打ち込む攻撃。相手に当たってくれたら儲けもの位かな。紺ちゃんの球筋だと相手を抜けてもドライブのかかりが少ないからベースライン

超えてアウトになるだろうし。

ダブルフォルトにしたくなくてだろうけど、超切れてない上にだいぶ弾んだ

ボールは最高の位置に!ちなみに紺ちゃんがこんなセカンド打ったらマジ殺すけどね。

バタバタしながらもフォアに回ってフルスイングしたボールはネットへ、惜しい、本当に惜しい。

紺ちゃんも悔しそうだけど、ボールを打てた事で嬉しそうに見える。

相手前衛の山本先輩も少しビビった様にみえた。山本先輩は特に注意して見てなかったからあんまり

わからないけど。ガットを張らせたらかなり上手いらしい人らしい。


「3-0」

一矢むくいますよー。山本先輩ごめんなさいねー。

高橋先輩のトス上げが乱れました、ファーストはネットに刺さりフォルト。

フォアを開けてますよ!この後のご馳走セカンドサーブは山本先輩の顔面狙いですよ!

高く弾んでくれたら小沢先輩のライジングのイメージでぶっ叩きますよ!


紺ちゃんから声が聞こえる。

「いけるよーっ」

ボールが間抜けに見える、飛んで火にいるなんとやらって感じかな。

1度地面で弾んだボールが上がってくる

タイミングを合わせて踏み込んだら肩より少し上の位置でひっぱたく!

しっかりかぶせてフォロースルー。


ボールは山本先輩には当たらずサイドライン上に跡を残して、球拾いの1年のもとへ。

「「ラッキーッ」」

紺ちゃんと叫びあう。初めてのポイントだ。紺ちゃんのテンションが上がる、もちろん俺も。


「3-1」

ファーストは入らず、セカンドサーブ。紺ちゃんの声が大きく響く。

「さーこぉー、さーこぉーっ」

やる事というか、やれる事が一つだけあって開き直ったのかな。サービスのセンターラインに立った

紺ちゃんは山本先輩を見てる。

ボールが来た!

「んなぁっ」

紺ちゃんの全力のフォアがボールを叩く。

山本先輩はラケットを出したけど捉えきれなかった。鳩尾のあたりに上手い事飛んだから!

難しいよね。この位置はラケットを持ってくんのが。


少し自分達のサービスゲームで仕返しされそうな感じがしてびびる。


気を取り直して、紺ちゃんに走り寄る

「ラッキーッです、最高っす!」

「うぉっ、ありがと、ありがと、小池も、いいぞ!」

わぁ!紺ちゃん先輩っぽい!


「3-2」

デュースに持ち込むには何とかして、取りたい。サービスゲームには希望が無いけどレシーブゲーム

なら奇跡は起こるかもしれない。それにはレシーブゲームは落とせない。

ファーストが入らないように祈りながら、待つ。

自信の無いバックとフォアを同じ位のポジションで。気持ち下がり目にした。ボールを長く見れれば

拾えるかもしれないから。

トス上げに時間がかかってる、決める気でくるんだろうな。

ファーストはネットに刺さった。

チャンスだ。セカンドサーブなら思いどうりに打ち込める。フォアに回り込めるように立ち位置を変える。

山なりのカットサーブが来る。さっきと同じだ。踏み込む、かぶせる、振りぬく。

今度はセンターを抜いた。上手く打てた。

紺ちゃんが走り寄ってきて、背中に手を置いて誉めてくれる。

自分のボールに気持ち良すぎて、あんまり聞こえない。

「デュース、デュース」

小沢先輩が興奮気味に2回コールした。

審判なのに、紺ちゃんに話しかけている。内容は聞こえないけど。


「ファースト、ファースト入れろ」

山本先輩が高橋先輩に叫ぶ。


それには答えずトスを上げ、ファーストサーブはネットに刺さった。

紺ちゃんは何かアドバイスを貰ったのだろうか雰囲気が違う。

ゆっくり飛んできたセカンドサーブ対して、紺ちゃんは早めにポジションを取り、地面に落ちてから

また上がってくるボールに合わせて背伸びしながら上からかぶせてフルスイングした。

ボールはネットすれすれを飛び越え綺麗なドライブ回転で縦に細長くなったボールは

サイドライン沿いに跡を残して相手コートに突き刺さった。


小沢先輩ほどではないけど、ライジングだね。つーか小沢先輩のアドバイスって。

紺ちゃんに走り寄って、誉めあってたら。山本先輩がついに切れた。

高橋先輩のセカンドサーブにだ。コートにあったボールを高橋先輩に思いきり打った。

当たんなかったけど

「この糞サーブッ」


「アドバンテージ、レシーバーッ」

小沢先輩のニヤニヤが凄い。


高橋先輩はあっけなくダブルフォルト。

チェンジコートの時にお互い声を掛けることもなく

無言だった。


だが、紺ちゃんは空気を読まない、いや読めないのか?

満面の笑みで話しかけてくるし、他の2年に手を振ったり声をかけてる。


俺、今すごく怖いんですけど。これからバンバンアタックがくるんだろうな~。

痛いのやだなーとか思ってるってーのに。













 






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