11:日本人救出作戦
遅くなってすいません!これで自衛隊側の話は一応終わりです。(自衛隊は次回も出てきます)
午前9時12分、自衛隊総合司令基地執務室。北大陸から帰って来た第1北大陸派遣小隊の隊長から提出された報告書を見終わった如月は大きく溜息をついた。
「2つともハズレだったか・・・いや、一応転生者はいたからハズレではなかったかな」
如月の前で立っていた和葉が言った。
「でもこれで目標の行き先がハッキリしましたね」
エメジス共和国行きの奴隷輸送船、目標はほぼ確実にこれに乗っている。
「ぶっちゃけ当初の目的は達成しているから今回の救出作戦は意味が無いんだけどね。同じ日本人を放っておけないんだよ。悪いけど頼めるかな?和葉」
当初の「転生者にどうやってここに来たのかを聞く」と言う目的は研究所から救出したエルフと北大陸で会ったルルと言う女に色々と聞いて達成している。なので今回の救出作戦は自衛隊にとって何のメリットもないのだ。しかし元々自衛隊は日本国民を守る為の組織、和葉は元気よく答えた。
「はい、お任せ下さい!」
転生前の海とは違い人間の出したゴミなどがほとんど浮いていない綺麗な海の上を水飛沫を上げながら猛スピードでヘリの編隊が通り過ぎて行く。AH-64D「アパッチ・ロングボウ」1機とUH-60JA 「ブラックホーク」3機からなる編隊は低空飛行しながら目標の奴隷輸送船に急速接近していた。
「時間が命だ!速攻で船を制圧するぞ!」
「《応‼︎》」
UH-60JAに搭乗しているのは地下施設探索の時にも活躍した第1空挺団第1普通科大隊の第3中隊の隊員達だ。
《こちらジェロニモ、3時の方向に目標を視認。護衛の船は確認できない》
先頭を飛ぶアパッチが右側にいた目標奴隷輸送船を発見。すぐさま右旋回して奴隷輸送船に接近して行く。HU-60JAもアパッチと同じポイントで右旋回して奴隷輸送船に向かう。第3中隊の隊長である山口は今回の任務の為に特別に支給されたクリス ヴェクター(通常モデル)の左側にあるコッキングレバーを引いて初弾を装填した。
「いやぁ〜一度使ってみたいとは思っていたけどまさか任務で使うことになるとはね」
横に座る田村は目を輝かせてヴェクターを見ていた。ヴェクターはクリスUSA社とアメリカ軍が開発したサブマシンガンで、クリス スーパーVという反動吸収システムが取り入られており、これのお陰で高威力だが反動の強い45ACP弾を連続で撃っても容易にコントロールができる。
「でも何かサイトは欲しかったよなぁ」
田村達が装備しているヴェクターにはフォアグリップは付いているものの、ホロサイトなどは付いておらず、狙う時は元々ヴェクターに付いていたホロサイトとリアサイトを使うようにしていた。田村の愚痴を聞いた山口はサイトを立てながら言った。
「どうせ船に乗り込んだらCQBになるだろうしサイトなんていらんよ」
「まぁ・・そうだな」
《各員、降下用意》
無線機からヘリのパイロットの声が聞こえて来た。田村達は無駄話をやめて何時でも行けるように戦闘態勢に入る。まずアパッチが先行し甲板にいる乗員に30ミリチェーンガンをお見舞いする。毎分620発の速さで撃ち出されるM789榴弾で甲板にいた乗員達は文字通りミンチになっていく。また、木製の船だったので甲板の一部がその余りの威力に吹き飛んでしまい、さらには3つあったマストの1つが倒れてしまう。
《こちらジェロニモ、甲板の安全確保》
《了解、降下を開始する》
後方で待機していた3機のUH-60JA「ブラックホーク」がアパッチの機銃掃射の後すぐさま船の真上まで行き、隊員をラペリングで降ろして行く。
「行け行け行け‼︎」
無駄のない動きで隊員が次々と甲板に降下し、降下し終えると周囲を警戒する。5分とかからないうちに3機のヘリから33人全員が降下し終えた。
「1班は甲板の安全確保を。2、3班は船内に突入し目標を救出する!良いな?」
「「応‼︎」」
威勢の良い返事を聞いた山口はヴェクターを構えた。
「状況開始!」
全員が一斉に動きだした。船の下に通じる階段を見つけると、先に手榴弾を放り投げ爆発と同時に階段を下りて突入。突然の襲撃で動揺している乗員に問答無用でトリガーを引く。ヴェクターは1発だけでも充分な威力のある45ACP弾を毎分1200発で撃てるので敵は何もできないまま瞬殺される。人の数が少なかったこともありここもすぐさま制圧できた。
「敵襲ーーッ‼︎」
やっと状況を把握した敵兵が剣を持ってこちらに襲いかかって来たが、馬鹿正直に真正面から突っ込んで来るのでヴェクターであっさり撃ち殺されていく。2階も数分で制圧。さらに下に行くとそこはだだっ広い部屋になっていた。部屋の壁や天井には魔法陣だろうか、非科学的な模様が描かれておりその模様はまるで鼓動するように紫色に点滅して薄暗い部屋を照らしている。ただならぬ雰囲気に山口達は息を飲んだ。ヴェクターを構えてゆっくりと部屋を探索する。
「なっ⁉︎隊長!目標発見!」
探索し始めてからすぐに隊員の山口を呼ぶ声が聞こえた。山口と田村は急いでその隊員の所へ向かう。
「こ、これは・・・」
そこにいたのは変わり果てた姿になった目標の女性転生者だった。身体中を不気味な文字が書かれた鎖で縛られて、よく見ると体にも何か文字が書かれている。体は既に竜化が始まっており、両足は銀色の固そうな鱗に覆われて辛うじて原型をとどめているがもうほぼ竜の足になっていた。尾骶骨らへんからもまだ成長途中の1〜2メートル程の長さの尻尾も生えてきている。上半身はまだそこまで竜化は進んでいないようで左手と右目が竜化しているだけだ。女は山口達に気づくと焦点の合っていない目を山口に向けて掠れた声で言った。
「ころ・・・して・・・殺し・・・てぇ・・」
「くッ・・・」
女の悲痛な叫びに山口は思わず顔を背けてしまった。が、すぐに女に向き直ると、無線機を手に取ってトークボタンを押した。
「こちら第3中隊。目標を発見したが・・既に竜化が始まっている」
山口はとても悔しそうに顔を歪めながら言った。この救出作戦の前に聞いていたので知っていた。竜化が始まってしまえばもう止める事は出来ないということを。
《・・・・・了解、プランBに移行せよ》
「ッ・・・了解」
長い沈黙の後、如月司令から新しい任務が告げられた。プランB、それは救出目標が竜化を始めてしまった場合完全に竜になる前に殺すと言うものである。山口は女の頭にヴェクターではなくホルスターから取り出した9mm拳銃を向けた。それを見た女は一瞬安堵したような顔になった。
「あり・・・が・・・・とう」
「すまん、恨むなら恨んでくれて構わない」
山口は静かに引き金を引いた。パンッ!と言う軽い音と共に銃口から発射された9×19mmパラペラム弾は寸分狂わず女の眉間に命中した。すぐに銃口を下に向けて確実に殺す為に心臓にも2発撃ち込む。 排出された薬莢が床で跳ねる音が響く。田村が女に近づき本当に死んだか調べる。
「・・・死亡を確認」
それを聞いた山口は無線機を取り、再び作戦司令本部に繋いだ。
「こちら第3中隊、目標は死亡した。これより帰投する」
《了解》
山口達は無言で階段のある所に戻って行く。重い足取りで階段を登ろうとした時、後ろから物音が聞こえて来た。
「何だ?」
田村がタクティカルライトで音のした方を照らした。
「「なっ‼︎⁉︎」」
照らした先には山口が殺した筈のあの女が立っていた。弾の当たった所は恐ろしい速さで治癒していき、数秒で元に戻った。どうやらドラゴン化している時は治癒する速度も上がるようだ。
「ア・・ァ・・・アガッァ・・・アォ・・・」
女は人間のとは思えない獣のような声を上げている。女の身体をよく見ると胴体や頭など、さっきまで竜化していなかったところも急速に竜化してった。 山口は咄嗟にヴェクターを構えて女にフルオートで30発全て撃ち込んだ。しかし傷はすぐに癒え、竜化する速度がさらに早くなった。女の身体はどんどん膨張していき、背丈は既に山口達以上ある。
「ピン抜きよぉーし!投げッ‼︎」
そう言って田村がM26手榴弾の安全ピンを抜いて竜化して行く女に投げつけた。投げた手榴弾からキンッ!と言うバネの力で安全レバーが吹き飛ぶ音がかすかに聞こえる。手榴弾は女の足元に転がり落ち、直後爆発。同時にもう人間のものとは思えない叫び声が聞こえてくる。足が吹き飛びのたうちまわっている女を見てあれくらいじゃ死なないと察した山口は仲間に撤退指示を出す。
「総員撤退!竜化を止めるのに失敗した‼︎」
山口達は急いで階段を登って行き甲板まで戻って来た。既に甲板で待機していた一班はヘリに乗って船から離脱しており、ホバリングするUH-60JAのキャビンから89式小銃を構えていつでも援護出来るようにしている。船の両側に横付けしてきた2機のUH-60JAに残りの隊員達も乗る。
「行け行け行けッ!飛び乗れ!」
山口は部下を先に乗せて行き、全員乗ったのを確認してから自身もヘリに乗った。UH-60JAは一気に上昇して船から急いで離れた。直後、甲板を吹き飛ばして銀色の巨大なドラゴンが船内から現れた。ドラゴンの重さに耐えきれず船体が軋み傾く。
「なんだよ、前回よりデカイじゃねーか!」
翼を広げで咆哮するドラゴンの大きさは前回戦ったドラゴンよりも明らかに巨大だった。ドラゴンは山口達の乗るUH-60JAに気づくとヘリに向けて躊躇なく口からブレスを発射。しかし高度を上げていたお陰で炎がヘリに直撃することはなかった。
「あっつ!熱‼︎」
熱気はヘリに乗る山口達にも届きあまりの熱さに田村が悲鳴をあげる。ヘリのパイロットはここは危険だと機体を旋回させてドラゴンから離れた。田村はキャビンドアに備えて付けてあったブローニングM2重機関銃のコッキングレバーを2回引いて初弾を装填するとドラゴンに向けて発砲。
「食らえッ!」
今回使っているM2の弾薬ベルトには鉄鋼焼夷弾が多めに入っているので通常弾を使っていた前回よりも貫通力は格段に向上している。しかし12.7×99mmNATO弾はドラゴンの鱗を貫くことはできなかく、虚しく弾かれる。
「だから俺達も対戦車兵器持ってこようって言ったんだよ!」
M2を撃ちまくりながら田村は毒づいた。
「アパッチがいるじゃないか」
山口がそう言ったのとほぼ同時に1発のミサイルが白い尾を引きながら飛来して来た。ミサイルはドラゴンの胴体に命中し大爆発。
「ギャォォォオォォ‼︎」
ドラゴンが悲鳴をあげる。ミサイルの当たった所を見てみると腹に大きな穴が空いていた。さらにもう1発ミサイルが飛んで来てドラゴンの上半身に命中、しかし一部の鱗を吹き飛ばしただけでドラゴンにはダメージはなかった。ドラゴンに接近したアパッチは両側のスタブウィングに設置された兵装パイロンに搭載してある2つのM261発射ポッドから合計38発のハイドラ70ロケット弾をシュババババババッ‼︎と連続で発射。このハイドラ70ロケット弾も前回の戦いを元に弾頭をM247と呼ばれる対装甲目標用のHEATとHEDP弾にしているので先程ドラゴンに撃った対戦車用ミサイルのAGM-114ヘルファイヤ程ではないが、高い貫通力を持っている。ハイドラ70ロケット弾はドラゴンの腹部に次々と当たり爆発するが、鱗を吹き飛ばし肉体に少し傷つけただけで致命傷を与えることはできなかった。無駄だと分かっていながらも機首下に装備しているM230 チェーンガンをドラゴンに発砲。毎分620発もの速さで30mm多目的榴弾が撃ち出される。勿論、30mm多目的榴弾はドラゴンの鱗に傷1つつけることもできない。
《チッ、ヘルファイヤ、ハイドラロケット弾共に致命傷を負われることはできず!》
最後の悪足掻きと言わんばかりに残り6発のヘルファイヤミサイルを発射。ドラゴンに傷を負わせることはできたが致命傷は与えられなかった。
「で、どうします?隊長」
田村がまだ諦めずにM2重機関銃をドラゴンに撃ちまくりながら山口に聞いた。山口は無線機を持って田村に言った。
「最終手段を使う」
そう言って山口は無線機のトークボタンを押した。
「こちら第1空挺団第3中隊 中隊長山口拓人一等陸佐。対艦用ミサイルによる火力支援を要請する!」
山口達のいる所から南に約100キロ、海岸沿いに73式特大型トラックが止まっていた。73式特大型トラックの荷台には88式地対艦誘導弾が搭載されており、山口の火力支援要請に応じて発射準備に取り掛かっていた。これは如月司令が前回の戦いでドラゴンを倒すのに大口径の榴弾砲を何発も撃ってやっと倒したと言うのを聞いて念の為に用意していた物だ。この地対艦ミサイルシステムは、指揮統制装置、捜索・標定レーダー装置、射撃管制装置、中継装置、ミサイル発射機搭載車、予備ミサイル・装填装置搭載車で構成されており、最大で200キロ先の船舶を一撃で屠る威力がある。
「SSM、発射準備よし!」
発射管は空に向けた状態で待機しており、いつでも撃てるようになっている。準備完了の報告を聞いた地対艦ミサイル連隊 中隊長は発射命令を出した。
「発射」
「発射ァ‼︎」
部下が叫びながらミサイルの発射ボタンを押した。発射管の後ろから凄まじいバックブラストが発生し、白煙が辺りに立ち込める。電信柱並みの大きさがあるミサイルが海へ向けて飛翔して行った。
「SSM発射完了、弾着まで約4分」
ドラゴンに嫌がらせするように機関銃を撃ちまくっていたヘリ部隊にミサイル発射との報告が飛び込んだ。
「ミサイルが着弾するまでドラゴンを足止めするぞ!」
「了解!」
3機のUH-60JAはキャビンドアからM2重機関銃をドラゴンの翼に向けて撃ちまくる。しかし翼に当たった弾は数発は貫通しているが、だいたいの弾が弾かれている。アパッチも残り少ないチェーンガンの弾を惜しみなく羽に撃ち込む。自衛隊のうざったい攻撃にキレたのか、ドラゴンは咆哮すると1番近くにいた山口達の乗るUH-60JAに向けて口から火炎を放射した。ヘリはすぐさまドラゴンから距離をとったので火炎は直撃しなかった。
「うあっつ⁉︎」
M2重機関銃を操っていた田村にその火炎の熱気が襲いかかってくる。あまりの熱気に尻餅をついてしまった。腕時計の時間を確認したヘリのパイロットは山口と他のヘリのパイロットに言った。
《もうすぐでミサイルが着弾する。これ以上は危険だ、離脱するぞ!》
山口も他のヘリのパイロット達も同時に返事をする。
「《了解した!》」
3機のUH-60JAとAH-64D1機は一斉に機体を横に傾けて船から離れて行く。ヘリが距離と高度を稼いでいると水平線の向こう側から巨大なミサイルが海面スレスレを飛行しながら近づいて来た。あっという間に彼我の距離は縮まり、ミサイルは帆船に命中。木製の船体を貫通したミサイルはドラゴンの腹に突き刺さり大爆発を引き起こした。大爆発で帆船は木っ端微塵になって吹き飛び、ドラゴンも頭や翼になどの身体の一部の部位を残して消し飛んだ。爆発風でヘリが激しく揺さぶられる中、山口は海に沈んで行くドラゴンの死体を見ると目を閉じて静かに「すまない・・・」と言った。
あっけない終わり方になってしまいました。すいません。次回からはドイツ軍とイギリス軍(登場しないかも)側の話を書く予定です!久し振りに侵略者らしいことをやる予定なのでお楽しみに!




