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第72.5話 クーガ視点 エリナのステータス

 昔、俺が神によって死に際に地球から転移された時、俺は見果てぬ地で立ち尽くすしかなかった。直前までの死からは遠のいたが、言葉は通じず、頼れるあてもなく途方に暮れていたのだ。

しかし、知らぬ間に左腕にはまっていた腕輪により状況は一変した。言葉はもとより、常人離れした力や能力を手に入れた。俺と同じように腕輪に選ばれた仲間にも出会った。様々な冒険をし、仲間を作り、苦難を乗り越えた。そうした様々な出会いの中にハク様との出会いもあった。

ハク様は、自らを神の敵対者と呼んだ。神にも等しい力を持ちながら、しかし神ではないらしい。神以外の全ての知的生命体を人間と呼び区分するならば、自分は人間なのだと言う。そして、神の戯れに翻弄される俺達に力を貸してくれた。ハク様の助力を得て、最初に俺達が行ったのは魔王討伐だったのだがな。結局、神の思惑通りの行動をするしかなかった。しかし、そのおかげで俺達は黄金の腕輪の呪縛から逃れることが出来たのだ。


 ハク様は随分エリナを威圧していたな。何かえらく警戒していたように思える。

 ライトとエリナが出ていくと、ハク様は再び元の巨大な白龍の姿に戻られた。エリナの事だけじゃなくライトの事も聞かないといけないな。隣りのサヨコから薄らと殺気が漂ってくるんだが・・・怖いぞ! ハク様を睨むんじゃない。


「空也、小夜子、随分と老けたな。人としての人生を堪能しているか?」


 ハク様は今でも転移前の名前で俺を呼ぶ。


「ええ、充実していますよ。」

「そうか。しかし、神はまた勇者を召喚するようだな」

「そのようですね。エリナはそれに巻き込まれてしまうのでしょうか?」

「ふふ、お前は相変わらず、子供最優先なのだな」

「子供の健やかな成長と可能性の選択が俺の人生の最大目標ですからね」

「ああ、頑張るといい」


 ハク様は相変わらず、確信を知っていても俺達をすぐには導いてはくれないようだ。


「ハク様・・・」

「ああ、エリナのことだな。お前達にだけは教えておこう」


 ハク様は少し間をおいてから話し始めた。


「あの子は元々この世界において全知全能といっていい存在だった。様々な潜在スキルはその名残だな。まあ、もう取り戻すことはほぼ不可能だ。あの腕輪によって、彼女はすべてを失って見放された。潜在能力が人並み外れではあるが、覚醒できる保証はない。今なら、人間でもあの子を殺すことができる。」

「何を仰っているのですか? あの子を殺す? なぜ?」


 突然のハク様の言葉に戸惑いを隠せなかった。エリナを殺す必要がどこにあるのだ。


「なに、殺すことも出来るという話だ。殺すかどうかはお前が決めればいい。今ではただの人間だからな。人ならざる莫大な知識や記憶を持っているが、今はまともに引き出すことも出来ん。5年もすれば容量不足で思い出すこともなくそれらの記憶も消え去るだろう。だが、万が一その記憶が消え去る前に奪われれば、女神の全知全能の一端を顧みる事になるだろう。それはこの世界を破滅に導くかもしれない。そんな存在をこの世界の神が見つければほってはおくまい?」


 神がエリナを狙うのか? 自分でばら撒いている黄金の腕輪がすでにエリナの腕にはあるのに、今更じゃないか?


「神が直接この世界に関与するのですか? 同じ神が女神を狙うのですか?」


 サヨコの疑問はもっともだ。ハク様の言葉から、エリナはすでに女神とは関係ないはずなのだろう? いや、そこからして理解できないんだがな。元女神だったエリナが今は女神と関係がない? なら今現在の女神ホワイトペーパーとは何だ?


「エリナの存在を知られればな。腕輪は自動でこの世界とは別の知識を持つ者の元にやってくる。だから神自身はまだ、エリナの存在に気づいてはいまい」


 なるほど腕輪も所詮、神の遊戯にすぎないと言うことか。神がまだエリナの存在を認識していないのならば、話は早い。


「そうですか、俺は神の目からエリナを隠します」

「そうか、なら、出来るだけ目立たぬことだな。神は他と異なる存在、異なる行動に注意を向ける」

「分かりました」


 暇つぶしのネタを探しているということか。まったく、反吐がでる!


「あの子のステータス表示に完全偽装を掛けておいた。神でも本気で見破ろうとしない限り、偽装に気づくことは出来まい。あの子の成長とともに偽装ではなく本当のステータス表示に安定していくだろう。そうだな、これも5年もたてば、完全に人間と変わらなくなる」


エリナ=パーソン(完全偽装表示:エリナ=ドレイク=アンリューク=バリュッシュ)

年齢:表示不能(完全偽装表示:4才)

職業:表示不能(完全偽装表示:なし)

種族:表示不能(完全偽装表示:人間種)

Lv.表示不能(完全偽装表示:Lv.1)

HP10/100000000完全回復不可(完全偽装表示:HP10/10)

MP300/100000000完全回復不可(完全偽装表示:MP300/300)

SP10/100000000完全回復不可(完全偽装表示:SP10/10)

スキル:全知全能(灰色)(完全偽証表示:なし)

状態:呪い



 ハク様は今のエリナのステータスを教えてくれた。とんでもない内容だ。しかし、最後の異常項目に呪いがあるのはどういうことだ?

 この子はいったい何者だったのだ。どんな存在だったのだ。俺たちも大概だったが、この子はそれ以上だ。俺の理解力を超えた内容だ。エリナが神だった? いや、その神とは別物になった? 現人神とか生神みたいなものか? それとも女神の化身か?


「ハク様、ホワイト・ペーパーとは何なのですか?」

「・・・。お前たちに全てを理解させることは出来ないが・・・そうだな。この世界より上位の世界を管理する女神の1柱だ。全世界の神々の頂点だった時もある超越紳だ。本来ならこの世界の神々からさえも、神として崇められる存在だ」

「そ、そんなすごい女神と今のエリナはどんな関わりがあるのですか?」

「お前からすると神は確かに凄まじい存在かもしれないが、ホワイト・ペーパーなど、だたの引き籠りの女神だ。今のエリナは女神の力の極々一部を持っているだけの別人だ。関わりなどとっくに切れているから安心しろ」


 神の事柄は所詮人間には理解できないと言うことか。ハク様の説明がまるで分からん。俺は真相を知ることを諦めた。


「そうですか。ありがとうございます。ハク様、エリナには家族はいなのですか?」

「ホワイトペーパーは生まれながらの女神だ。単体進化の元になった女神がいるが、人間の言う家族ではないな」

「もともと、親がいないということですか。だから、エリナに聞いても答えられなかったのか」

「そうだ。だから、お前が家族になってやるんだろう?」

「はい、そのつもりです」

「そうしてやるとよい。それから、万が一に備えてあの子が望めば3回だけ、腕輪の効果を弱められるようにした。今のあの子にそれが理解出来ているか分からないがな。ただし、かなりの負荷がかかるから、無暗に使わせぬことだな。神に見つかる可能性も高くなる」

「え? 腕輪の効果を弱めるとどうなるのですか?」


 ハク様の言葉に小夜子が疑問をぶつける。普通腕輪の効果が弱く成れば勇者は弱体化する。


「エリナのすべてを抑制しているのが、あの黄金の腕輪だ。あの子にとって腕輪は封印でしかない」

「封印の効果が弱まると神に見つかる可能性があるのですね? なぜ、その様な危険なことを?」

「全知全能の知識を奪われぬためだ。」


 全知全能とは一体どのようなスキルなのだ? まるで言葉の意味のまますべてを知り、すべてを成す事ができる不可能がない存在のようではないか。ならばそれは―--。


「神こそ全知全能では?」


 俺が言いたいことをサヨコも疑問に思ったようだ。


「いいや、そうではない。・・・・そうだな。お前たちにとって、たしかに神は一見全知全能に見えるかもしれない。しかし、違う。神にも不可能があり、知らぬこともある。」

「では、エリナの全知全能のスキルとは?」

「もちろんあの子の持つ全知全能もすべての世界で通用するものではない。しかし、この世界においては本物だ。お前達が元いた世界からこちらの世界にやって来たことで、こちらの者とは異なる力を得たようにな。全知は全能につながり、全能からも全知を得ることができる。どちらか一方だけで不可能はなくなる」

「そ、それは・・・。だから知られる前に殺す選択も必要だということですか。ではなぜハク様はあの子を・・・」


 下手をすれば、いやそうでなくても、エリナはハク様による殺害対象になっているのではないか? なぜ、ここまでエリナに助力してくれるのだ。


「空也、すべての答えを私に求めるな。自分で考えろ、探せ、それでこそ人間だ。私も神ではない。神とは無から有を創り出し、全てを与えることができる存在、エントロピーの増加を抑える抑止力、死が許されない絶対者。だが私にとって神こそ宿敵だ。私は全て、私の目的のために行動している」

「・・・そうですか、分かりました。ありがとうございます。」


 これ以上は、ハク様から情報は得られないと判断し、話題を変えてみる。


「ところで、先ほどの青年はライトですよね。ライトは元気ですか?」

「ああ、元気だ。数年前にコクが連れてきてな。それ以来、ここで暮らしている」


 エリナを預けた青年は俺が知っている年齢ではなかったが、確かに昔の勇者仲間のライトだった。俺がちょっとした悪戯をしてから、王都に寄り付かなくなってしまったが、元気にしていたようだ。


「そうですか、いい加減に戻ってこいと言っておいてください」

「察してやれ。まだ奴には時間が必要だ」


 俺とハク様の会話を今まで黙って聞いていたサヨコがここで突然、口を挟んできた。ああ~、やっぱり駄目だったか!!


「ライトのやつ、やっぱり腕輪を使ったんですね!! 私に散々文句を言っていたのに!! あいつは!!」

「元々は、お前達も原因の一端を担っているのだろう? ライトはお前たちに不信感を持っている。一度失われた信頼関係を取り戻すのには、同じだけの時が必要だ。少し冷却期間を与えてやれ」

「ハク様、お言葉ですが、それとこれとは話が別です。彼奴が何て言って出ていったか知らないから、そんなお優しい言葉が出るのです! あいつは!! あいつは~~~!!!!」


 サヨコは顔を真っ赤にして怒り心頭の表情だ。ハク様もその様子を見て、ちょっと頭を引いている。


「・・・・ハク様。夫婦喧嘩は犬も食いませんよ。俺の元いた所の諺です」


 俺は半目でハク様を見つめた。


「そ、そうか。気を付けよう」


 ふと、ハク様が目を反らした。珍しく、ハク様が動揺しているようだ。

 ライトについても、これ以上は詳しいことを聞くことは出来ないようだ。情報が多すぎるし、ハク様の話を一度整理する必要もあるだろう。俺達は暇をもらうこととした。一度エリナを見てもらったのだ。次は単独で相談に来ることも出来る。慌てる必要はなくなった。

 この時、うっかりエリナの呪いのことを聞き忘れたことを、俺は後々大変後悔することになる。


「それでは失礼いたします」

「ああ、それではな」


 やはりハク様も昔から変わらない。俺も俺に出来ることをするだけだな。

 俺はハク様と別れ、エリナたちの後を追った。

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