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第71話 思いがけない再会

 “私の記憶の事を思い返してみた。と言っても、思い出を誰かに語るわけじゃないけどね。今向かっている、ハク様のいる所にたどり着く前に出来る限りの記憶の隠ぺいをしないといけない。その為の頭の整理だ。

 女神だったころの記憶は膨大で、人間の記憶領域を100%使い切ったとしても、女神の時の0,01%分の記憶も留めておけない。最初、人間になってから『私』という深層意識が回復するまでに約80%近い記憶が無自覚に消えてしまった。いったいどんな記憶だったのかさえ、もう分からない。分からないものはしょうがないから、この際考えないけど、問題は残っている記憶だ。『私』が意識して、人間として生きていくのに、あると便利な記憶を残し、残しておいても全く役に立たない神の記憶は意図的に消していった。 どんな記憶かと言うと、例えば、すでに滅びてしまった異世界の知識だとか、数億年は会ってもいない他の神の事だとか。

 記憶が多すぎて、人間になった私では未だそのすべての記憶を思い返すことも出来ないから、実際は知らない内に忘れている・・・と言うより、消えていっている記憶の方がまだまだ多いと思うけれどね。 

 私の記憶を覗かれた時に、私が女神だったことがばれるのは防ぎようがないと思う。女神であったことの記憶を消してしまうと私が私でなくなってしまう。記憶の整合性が取れなくなり、最悪廃人になってしまうから。基幹となる記憶は消しようがない。

 ただ、女神の記憶のうち、この世界の知的生命体が知ると危険な記憶もある。それを出来るだけ消去する。例えば、神々の裏の秘密とか、もっと言えば、神を超えた存在の秘密とか。さらには知っただけで命に関わるような知識なんかもきけんだ。半場、呪いと言っていいよね。私もそんな知識は理解できない様にほとんど封印して、優先順位が高い物から消去しているんだけど、流石に残りの記憶が20%とは言え、そこは神の記憶、全てを把握して整理するにはまだまだ時間が足りない。勝手に消えていくだけでも数年は要する膨大な記憶だ。

 最初の時の様に一気に記憶が消えたりはしなくなった。その為、逆に間に合わなくなった。後は覗かれない様に出来るだけ記憶の奥底に封じてしまうしかない。ハク様がいったいどこまで私の記憶を覗けるのか分からない。そもそもスキルサーチと言うのが、どういった検索方法なのか見当もつかないんだもん。対処のしようがないよ。まあ、とにかくやれるだけやるしかないよね。はうん。

 そういえば、私の記憶の中にはこの世界の知識もあるはずなんだけど、未だに見つからない。すでに消えてしまったのか。それとも、まだ探し出せていないのか。深層意識だけでは自分の記憶なのに全容が明らかに出来ないのが情けないな。“


 お爺様の剣馬に乗って別荘を出発して半日が過ぎたよ。サヨコさんも含めて3人旅は、そろそろ今晩の寝床を確保しようという段階になって、思いもよらない事態になったの。


「俺はあれを期待していたんだぞ。なんで出発する前に言わない!」

「前の村を出る前に、壊れたって言ったでしょ!」

「風圧で内装が傷んだんじゃないのか!?」

「爆発で家が全部吹っ飛んだのよ!! 跡形もなく!!」


 サヨコさんが魔術で作った簡易住宅は、どうやら壊れてしまっていたらしいよ。なんで壊れちゃったのかな。お家が跡形もなく吹っ飛ぶって凄いよね。


「どうするの? 野宿? 大した用意して無いわよ」

「別荘地の端とはいえ、観光のファーミュだ。一件や二件くらい宿もあるだろう。探そう」

「自分の領地の宿ぐらい把握しときなさいよ」

「無理言うな! ほれ、あそこに家が建っている。聞いて来よう」


 私たちは隣の別荘地ファーミュに入ったばかりだ。お爺様は領主であることを隠して旅をしているので、御付きも護衛もいないよ。

 整備された道だけど、まだ別荘地の端っこなので、集落もない。たまたまあった一軒家に泊まれるところがないか聞いてみた。お家の人は親切に教えてくれたよ。宿はないけど、もう少し行った先に、旅人用の小さな宿泊小屋があるらしいの。


「はあ、今日はうまい飯は諦めるしかないか。携帯食になるな」

「野宿するよりマシでしょ。もう! 不甲斐無い爺よね。孫娘に柔らかい布団と美味しい食事も用意できないなんてね~、エリナちゃん」

「はう!? エリナ、おじいさまとサヨコさんといっしょならどこでもいいよ」

「まあ、可愛い事言ってくれるわね。このこの」

「やめんか」


 サヨコさんが馬を寄せてきて、私の頭をぐりぐりとちょっと乱暴になでた。頭が揺れてフラフラするよ。お爺様はちょっと迷惑そうに馬を離したけど、目は柔らかく私を見ていた。

 たどり着いた宿泊小屋は、結構立派で、きちんと手入れもされているみたいだよ。馬小屋もついていて、私たちはそこに剣馬を繋いで、持ってきていた餌と水を与えてから、宿泊小屋に移動した。馬小屋には他にも普通の馬が繋いであったから、誰か先客がいるかもしれないよ。


「こんばんは・・・って、あれ? もしかして、バリュッシュ家の?」

「あー、エリナちゃんだ~」


 小屋の中には案の定先客がいたよ。しかも見知った人だね。


「おう、お前さんたちは、あの時の・・・なんでこんな所にいるんだ?」


 そこにいたのは、領都に向かっている途中の宿泊小屋で一緒になった魔法薬売りの親子だった。


「バリュッシュ様は領都に滞在されているのかと思いましたよ。他の皆さんはご一緒じゃないのですか?」


 薬売りのおじさんも、この偶然の再会に驚いている。


 “えーと、確かオジサンはサイさん、娘さんはクイリちゃんだったかな。”


 取り敢えず、立ち話のままだと落ち着かないから、1間の広い小屋の隅に荷物を降ろして寝床を確保していると、クイリちゃんが傍にやってきたよ。

 私の左肩が急に軽くなった気がした。咄嗟に、右手で中空を掴む。「ぐえ!」って声が右手からしたので、ジッと見詰めると、精霊リスのキャルが私に思い切り掴まれて潰れかけてた。

 油断も隙もないね。最近、私はキャルが不穏な動きをするとなんとなく分かるようになったよ。大抵はスカートを覗くために私の肩から飛び降りようとしているので、今回の様に握って捕まえるの。キャルの懲りないよね。私はフラフラしているキャルを服についているフードに戻した。最近のキャルの定位置だ。キャルがポシェットを嫌がったので、フード付きの服を作ってもらったんだ.


「エリナちゃん、久しぶり! 今日はカイセルくん達は一緒じゃないの?」

「うん。カイセルくんもネイリちゃんもおるすばんなの。わたしのごようじだから」

「そうなんだ。残念だなー。それでカイセル君はどっちに告白したの? エリナちゃん? ネイリちゃん? それとも別の人?」

「ふえ? エリナ、わかんない」

「そうなの? まだ、エリナちゃんには早いかな」


“クイリちゃんはまだ幼稚園児と言ってよい年齢なのに、相変わらずこの手の話が好きみたいだ。”


「はあ、聖都に向かわれているのですか。実は私どもも聖都に行く途中なんですよ。フェリス侯爵様が急なご病気とかで、会わせていただけなかったんです。私の魔法薬をお奨めしたのですが、取りつく暇もなくて、追い出されてしまったんですよ。仕方なく、次の目的地の聖都に行くことにしたんです」

「そ、そうなのか。大変だったな。そうだ、俺も少し魔法薬を常備しておきたんだが、なにがあるかね」


 “フェリス侯爵は捕まっちゃったから侯爵領にはいないはずだね。サイさんは確かフェリス侯爵にお薬を売るために行商していたはずだから、一足遅かったんだ。商売が出来なかったサイさんを申し訳なく思ったのかお爺様は魔法薬をいくつか買っていた。魔法薬は高価だから、なかなか売れない。だから、お爺様の申し出にサイさんはとっても喜んでいた。”


 サイさんとクイリちゃんと一緒に携帯食を使ってお料理して、みんなでおしゃべりしながら食べた。お湯で煮ると具が膨らむスープとか、温めると柔らかくなるジャーキーとか、結構美味しかったよ。サイさんとクイリちゃんも、また美味しい食事をご馳走になってありがとうございますって嬉しそうだった。

 ちなみにサイさんが持っていた携帯食をちょっともらって食べてみたけど、塩辛い硬い干し肉を乾燥野菜で煮たスープと硬く押し固めて乾燥させたお煎餅みたいなパンだった。これはこれで美味しかったけど、ずっとこればっかりだと飽きちゃいそうだな。顎も疲れちゃったよ。


 “その後、子供は毛布にくるまれて寝ながらお喋りをした。その内、大人たちも皆横になって寝てしまった。

 ・・・・眠れない。『私』は「私」が眠りについても、遅くまで思考作業をしていて、寝りに付くのは遅いんだけど、今日は「私」もまだ寝れていない。一日剣馬に跨っていたから、疲れているはずなんだけど、久々の友達の再開に興奮したためか寝付けないみたい。“


 ちょっと、こっそり外に出てみた。今日はいい天気だったから、星が綺麗だね。色の変わるお月様も見えるのに、その明りで星が見づらくなることもないみたいだよ。

 最近、私は調子がいいよ。頭が冴えている気がする。覚えたことも忘れづらくなって、すぐ思い出せるし、前みたいに霞がかかったような感じが一切ない。 

 それどころか、私の思考の奥底でも色々考えられる。と言うか、考えているのが分かる気がする。私が大きくなったら、もっと色々出来るようになるかな。お爺様やサヨコさんみたいに強くなれるかな。大人になったら、なんにでもなれるんじゃないかな。ワクワクするね。何になれるか分からないけど、やっぱりお爺様みたいになりたいな。みんなから尊敬されて、頼りにされる大人になりたいな。


「え、エリナちゃん、そこにいるの?」


 ボーと星を眺めていたら、クイリちゃんが起きてきて、小屋の扉から顔を出した。


「クイリちゃん」

「エリナちゃん、おしっこ? だったら、私も一緒に行ってあげるよ」


 クイリちゃんがもじもじしながら、そばに寄ってきた。おトイレは小屋の外の馬小屋の隣りに在るの。


「おほしさま、みてたの。おしっこじゃないよ」

「そうなんだ。で、でも、寝る前に行っといたほうがいいよ。おねしょしちゃったら恥ずかしいでしょ?」


 なんかちょっと焦っているみたいだよ。クイリちゃんがおトイレ行きたいのかな? 「さ、行こ」っと、私の手を取ると少し抱き付くように、ちょっと強引に私を馬小屋の方に押した。少し震えてるみたい。

 おトイレに行くと、クイリちゃんが先に入ってしまった。「そこで待っててね。勝手にどっか行っちゃったら駄目だよ」といいつつ、慌てて扉を閉めていた。


「まってるよ」


 トイレがすむとまた私に抱き付くように腕を取って小屋に戻ってきた。私はまだ眠くなかったから、扉の前で立ち止まる。


「エリナちゃんは暗い中、一人で怖くないの?」


 クイリちゃんは小屋に入ると扉から顔だけ出して聞いてきた。

 お化けは怖いし真っ暗闇も、お化けを想像すると怖いけど、今日は月と星の灯りがあって、そんなに暗くないし、よく見るとチラホラと遠くに家の灯りも見える。だから、怖くないな。

 そう言ったら、クイリちゃんは欠伸を一つして「じゃあ、おやすみね」と言って扉の向こうに戻っていった。

 また、しばらく星を見ていると、今度はお爺様がいつの間にか私の隣りに立っていた。まったく、気が付かなかったよ。


「エリナ、眠れないのか?」

「うん、ねむくない」

「そうか、ただ、夜はさすがに冷えるからな、これを掛けておきなさい」


 お爺様は、無理に寝かせようとはせず、私の肩に毛布を掛けてくれたよ。温かい。お爺様が使っていた毛布かな。


「エリナ、ハク様のところに行けは、色々なことが判明するだろう。もしかしたら、お前の本当の両親の事も分かるかもしれない。でも、元の家族のところに帰れるとは限らない」


 お爺様は、慎重に言葉を選んでいるみたいだ。


「だが、お前は俺の家族になった。だから、何も心配する必要はない。もし、帰ることが出来て、お前も帰りたいなら送ってやるし、帰れなかったり、帰りたくないなら、ずっと俺の孫でいればいい」

「・・・・・・」


 それから、お爺様は返事をしない私にそれ以上何も言わずに、優しく頭を撫でてくれた。私にはもともと家族なんていなかったから、お爺様の言葉はとても暖かくて、嬉しいよ。


「うん」


 随分時間がたってから返事をした私をお爺様は抱き上げた。


「さ、そろそろ寝よう。明日も剣馬で移動だから、しっかり体を休めておかないとな」

「うん」


 なんとなく、眠くなってきた気がする。私が欠伸をすると、お爺様はそのまま布団のと事まで運んでくれた。


「お休み、エリナ」

「おやすみなさい、おじいさま」

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