第68話 犯人を見つけよう
私達が別荘地に来てから数日が経過した。今日も私達はお昼ご飯を食べてからみんなで集まって畑を見張っていた。
「犯人来ないね」
ネイリちゃんが暇そうに呟いた。今回は私とネイリちゃんとカイセル君が組んで小屋の裏で見張っているよ。地元の子たちは乾草の陰で見張っているの。
“相変わらず私達が見張っていない間に、畑の被害は続いている。ペキくんの両親が夜に見回りもしているらしいけど、犯人は特定できていない。大人たちは多分とか、おそらくとか憶測で犯人を想定して、その証拠を探しているけど見つからないみたい。”
私達は半分遊びながら見張っているんだよね。犯人もそんな子達に捕まえられたら、相当なドジだと思うな。でも、大人にも捕まえられないとすると、かなり隠れるのが上手いのだろうな。
「なあ、エリナの魔術で探せないか? この前の赤ん坊の泣き声を探し出したみたいにさ」
「あ! それいい案ね。カイセル冴えてる~」
そっか、聴風魔術なら隠れていたり見えない犯人も探し出せるかもしれないね。
「うん、やってみるね。ちょうふう、けいぞく」
カイセル君のナイスアイデアを採用して、早速私は聴風魔術で周囲の音を聞き分けてみた。風の音、草の囁き。虫の這う音。ペキ君達のヒソヒソ話。
「エリナちゃんもネイリちゃんも可愛いな。田舎の子とはなんか違う」
「マキとも違う?」
「マキも可愛いけど、なんだろう、ネイリちゃんは落ち着いているっていうのかな?」
「エリナちゃんはもっとすごい」
「そうだな、王都ってすごいな。いつか行ってみたいぜ」
「僕も行ってみたい」
「大人になったらみんなで行こう!」
なんか盗み聞きみたいになっちゃった。畑の方に集中しなきゃ。
私は音の聞こえる範囲を畑に調整して、再び耳を澄ませた。
畑の中には色々な音が混ざって聞こえた。
「・・・・・・・・」
「どうだ? エリナ」
色々な音が混ざって聞こえる。
「・・・・・・・・」
「エリナちゃん?」
色々な音が混ざって聞こえる。
「カイセルくん、どんなおとをさがせばいいの?」
私はいったんカイセル君に向き直って質問した。犯人の音ってなんだろうね。
「へ? どういう意味だ?」
「まえのときは、ちかくできこえるなきごえをさがしたの。そうしないといろいろなおとがたくさんきこえるだけだから」
「目的の音がなんなのか分からないと、ダメってこと?」
「うん、そう」
「犯人が何なのか分からないから、何の音を探せばいいかなんて分からないな」
「それじゃあ、エリナちゃん。畑の中の音と畑じゃない所の音の違いを聞き分けられる?」
「違い? うん、やってみる」
ネイリちゃんも冴えてる~。ネイリちゃんに言われた通りにしてみることにしたよ。まず家の横の雑草が生えている当たりの音を聞いてから、今度は畑の中の音を聞いてみた。
「うーんと?」
「風の音だとか植物が揺れる音だとかは無視していいわ」
もう一度、集中する。そうすると、畑の中の方でざわざわと他では聴こえなかった音がする気がする。その音をもう少し意識して聞いてみた。
「畑の地面の下から何かが動く音がする」
「お! それが犯人か?」
「畑の下ってことは土の中なの? 虫かしら?」
「うーんとね。虫よりもっと大きそう」
「じゃあ、魔獣? 土掻きかしら」
「ツチカキってなーに?」
「土の中をほって移動する魔獣よ。握り拳ぐらいの大きさで両手が鎌みたいに硬くて鋭いの。植物の根っこを食べちゃうのよ」
「ふーん。でも、土を掘っている音じゃなさそう」
「犯人は根っこじゃなくて芽の部分を食い荒らしてるから、土掻きじゃないな」
畑の土の中の音がなんなのか良く分らないので、今度は試しに林のほうの音と比べてみた。
すると、林の中からも音が聞こえる。でも、これって・・・
「はやしのじめんから、なにかがしゃべってるこえがきこえるよ」
「へ? 林の中じゃなくて地面の下から声が聞こえるのか?」
「うん、そう。すごくちいさいこえだから、ここからじゃききわけられないの。もっとそばにいったら、わかるかもしれない」
「分かった。なら、まずそっと気づかれない様にラック達の所に行くぞ」
私達はコソコソとラック君達が隠れている草が山積みになっている場所までやって来て、事情を説明した。
「魔術か! 貴族様はすごいな!」
「しー! 静かに!」
ラック君が興奮して大きな声を出したから、ネイリちゃんがあわてて口を塞いだ。
「す、すまん」
「どう? エリナちゃん、ここからなら聴こえる?」
「んーと・・・。」
耳を澄まして、土の下から聞こえる声に焦点をあわすと、何とか聞き取れるようになったよ。でも、聴風魔術は風属性なので土の中までは効果が出づらいのかな。聞き取りづらい。
「なんか、わたしたちのことを、けいかいしているみたいだよ」
「何て言っているんだ?」
「わたしがかぜぞくせいのまじゅつをつかったから、ばれたかもしれないっていってる」
「バレたってことは、犯人か?」
「つちのそとにでている、なかまをよんでるよ」
「え!? 仲間もいるのか! 逃げるつもりかな?」
「逆に仲間を呼んで攻撃してくるかも」
「ん~と、にげるみたい。あっ!! これがなかまかな? はやしのなかから、ひそひそこえがきこえるよ。いどうしているみたい」
「よし! 逃げられる前に捕まえようぜ!」
ラック君が、草陰から飛び出した。すると、声が聞こえなくなって、気配がさっさっさと消えてしまう。逃げちゃったかな。
「エリナ! どっちだ?」
「ラックくんにおどろいて、にげちゃった。もうちかくにいないよ」
「え!?」
「ラック!もっと慎重にしないと」
「もう! せっかく犯人かもしれなかったのに」
「ラックくん!」
「あ、う。す、すまん」
みんなからの非難でラック君が落ち込んじゃった。あらら。
その後も、犯人が戻ってくるか待っていたけど、何もおこらなかったので夕方屋敷に帰ったの。
夕食の時にその事を話すと、明日はお爺様も一緒に犯人捜しをしてくれるって。お爺様なら、犯人さえ分かれば逃げられることはないよね。
でも、翌日に午後から夕方まで見張ったけど、土の中の声は聴こえなかった。お爺様は肩をすくませて、私たちの方を見た。
「相手も警戒しているだろう。俺も見回る時は土の中の気配を探ってみるから、しばらくは放置しておきなさい」
「ん~。キャロ、キャロには犯人分かる?」
精霊のキャロなら何か分かるかもしれない。いつも私のそばにいるので、昨日の事も見ているもの。キャロを呼ぶと、私の肩の上で姿を消していたキャロが見えるようになった。
ラック君達が驚いているよ。
「なんとなく分かるよ。でも、教えない」
「え~。何で教えてくれないの?」
「別に意地悪している訳じゃないよ。ただ、理由も含めて教えられないよ。君たちが犯人捜しすることを止めたりしないけど、この件に関して僕はノータッチだよ」
あうん、残念。キャロはすぐまた見えなくなっちゃった。
仕方ないので、翌日からは別のことして遊ぶことになったの。お爺様も一緒に、ラック君達に案内してもらって別荘地を見て回る。
「シャルムは隣りの別荘地ファーミュと違って、静かで避暑地として有名なんだ」
「だから、何もないんだよね」
「何もない」
「は、ははは」
“ラック君の説明にマキちゃんが捕捉してペキ君が同意した。お爺様がほっぺたを掻きながら笑っている。マキちゃん、ここに苦笑している領主様がいるよ。気づいて!”
「牧場が沢山あって、美味しいお肉や乳製品が有名なんだ」
「牧場ばっかりでお店がほとんどないの」
「ないね」
「は、はははぁ~」
“・・・・・・。マキちゃん。”
「近くに広い騎士団の訓練施設があって、騎士の人達が巡回してくれるから魔獣も出ないし安全なんだ」
「カッコいいの!」
「かっこいい」
「うむ、うむ」
“良かった。マキちゃんにもシャルムのいい所があって、本当に良かったね。お爺様もちょっと得意げだよ。”
「でも、うちの畑の犯人を捕まえてくれないの!」
「やくたたず」
“はうん。”
ラック君達に案内されて、シャルムがとてものどかで安全な町だって分かったよ。私はのんびりできそうで嬉しかったけど、カイセル君とネイリちゃんは何もなくてつまらなそうにしてたな。
だから、明日からはまた畑の犯人を捕まえるために見張ることになったよ。お爺様は程々にしとけよ~って言ってたけど止められることはなかった。見張ることを口実にして、みんなで集まって遊ぶことが目的だからいいんだよね。
それから数日間、畑には犯人の気配はなくて、被害もなかったよ。
犯人はもう逃げちゃったのかなって思い始めたある日のお昼前。私たちはいつも通り午前中の勉強時間だよ。侍女長のタナンに礼儀作法のお勉強を教わっていたの。今日はお母様も一緒だよ。
「エリナ様、昼飯が終わったら、外に遊びに行きましょう」
「エリナ様、今日は何して遊びましょうか」
「ん~と、ラック君が学校から帰ったらまた畑かな?」
ラック君は6歳なので別荘地にある学校に午前中のみ通っているの。
「カイセルさん、昼飯ではなく昼食もしくはお食事です。ネイリさんはよろしいですね。エリナお嬢様はん~とは止めましょうね。出来れば平民相手には呼び捨てでいいのですが、お友達ですし、まあ良いでしょう」
「「「はぁ~」」」
「お返事は?」
「「「はい!」」」
カイセル君とネイリちゃんも一緒に貴族らしい会話の仕方を勉強中だよ。タナンが見ていない所では家族全員がいつも通りに話すので、あまり身に付かないよ。だって、かたくるしんだもん。
一区切りついたから、そろそろ終わりかなっと思って、外で何して遊ぼうか考えていたら悲鳴が聞こえた。
「ああ!! またヤラレテる!!」
窓を開けていたから良く聞こえたよ。ペキちゃんの声だね。
タナンが集中しない私たちを睨んだけど、お母様が間に入ってくれたのでお勉強は終わりになった。
タナン以外の皆で畑に行ってみると、案の定、植えてある植物が被害に合ったみたい。いつもの3人が小屋の前に身を潜めて、シーと言いながらおいでおいでしてる。お爺様とお母様も一緒なので小屋に隠れきれていないけど、そっと顔だけ出して畑を見てみても犯人はみつからなかった。
「ふむ、なるほど確かに土の下から何やら妙な気配がするな」
お爺様が畑を見ながら呟いたので、私も聴風魔術を発動させて聞いてみた。
「やっぱり、ここからだとよくきこえないけど、ブツブツいってるよ」
どうするかみんなで相談した。いきなり畑に突っ込んでも、前みたいにすぐ逃げられちゃうよね。
「エリナがびしんまじゅつでおどろかせてみようか」
私は自分の魔術を思い出して、その中から地面に効果がありそうな物を選択した。この魔術なら土の中にいる犯人を驚かせることが出来るかもしれない。
「なるほど、微震魔術かやってみるといい。俺が抱えて畑の真ん中まで運んでやろう」
「「「「「微震魔術?」」」」」」
“微震魔術はMP10で3呼吸の間、自分のまわり半径2メートル程地面を細かく振動させることが出来る。元は地ならしのための基礎魔術だよ。範囲が狭いから畑まではお爺様が運んでくれるみたい。”




