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第67話 勇者の腕輪

 翌朝、朝食後のお勉強の時間。カイセル君とネイリちゃんは侍女長のタナンに平民に必要な礼儀作法と教養を別室で教わっているよ。カイセル君はかなりしぶしぶだったけど、それが終わったらお爺様が剣術を教えてくれると言うので納得したの。ネイリちゃんはお母様がお裁縫を教えてあげると言ったら喜んでいたよ。

 そして今私はお爺様とサヨコさんと一緒にいる。お母さんや侍女達は別室で御裁縫してるの。


「エリナ、お前が今覚えている魔術を全部教えてくれ」


 魔術。今日はお爺様だから全属性の事を内緒にしないでもいいんだよね。昨日みたいに隠し事をしなくても済むのは楽だな。


 “ちょ!!っと待って!”


「えっとね。こうてん、しゅんせんこう、ていこうしょう、ちゅうこうしょう、こうこうしょう、しゅうこうせん、こうじんせん、あんこくうん、すいてきゆうごう、びふうりゅう、つじふうりゅう、おんふうりゅう、れいふうりゅう、しゅふうりゅう、てんかばな、きゅうか、りゅうさ、きゅうど、びしん、きかれい、しっきゃく、ていちゆ、げどく、げじゅ、たんすい、せんきゅう、かかき、ちょうふう、さいせいちゆだよ」


 “「私」がスラスラと魔術を上げていく内に、お爺様とサヨコさんの顔がしかめっ面になっていった。そりゃそうだよね。「私」はそのことに気づかずに、自分にはまだ使えなくて吸収しただけの魔術なんかも含めて全部話してしまった。”


「エリナ、黙って魔法陣の吸収をしたな?」


 お爺様が眉毛を上げて少し釣り目になっているよ。怖い。


「は? ・・・・あ!! あ、あうん。ごめんなさい」


 何で怖そうなお顔になったのか首を捻って考えて気が付いた。そういえば、お爺様達に黙ってこっそり吸収した魔法陣もあったんだ。それだけじゃなくて自分で改ざんした魔術も言っちゃった。どうしよう。怒られるかな。怒られるよね。

 怖くて俯いて、目線だけでそっと、お爺様を見た。お爺様は呆れたように溜息をついた。


「しかし、この年でこれだけ吸収してしまうなんて、勇者並みだな」

「そうね」

「エリナ、まだ吸収できそうか?」

「うん、エリナだいじょうぶ」

「そうか。なら、この際だから、覚えられるだけ覚えてみるか?」

「え!?」

「クーガ、大丈夫なの?」

「エリナの限界を見極めてみる方がいいかもしれん。この子の才能をのばしてやろう」

「そう、分かったわ。私が持っている魔法陣も試してみましょう」


 ちょっとお爺様達の話についていけないよ。これはお勉強? お勉強だよね。ならいいのかな?

 こうして、なぜか一気に沢山の魔法陣を吸収しても良いことになったの。

 まず魔法陣吸収の前に、魔力量の想定をした。今の私の魔力量はMP300だった。優秀な貴族の6~10歳並みだとサヨコさんが驚いていたよ。


 「魔術書にある残りの魔法陣は、中治癒、高治癒、病治癒、火炎嵐、濁流嵐、小収納、中収納、大収納の8つね。あと私が持っているけど使えないから余っている魔法陣が聖治癒、病治癒、蘇生治癒よ。この前のお詫びにこれも上げるわ。発動魔力がどれもべらぼうに多いから、今は使えないでしょうけど、全属性のエリナちゃんならいつか使えるようになるかもしれないわ」 


 “聖治癒は何と賢者様が私に使ってくれた魔術で発動魔力だけでMP10000もする。病治癒も賢者様の魔術だよ。蘇生治癒は聖女が使う魔術でMP100000だって。この3つの魔術もそうだけど、残りの他の魔術も複数の属性を持っていないと使えない魔術がほとんどだ。使えるようになるのか想像もできない。

というより、まず使えるようにはならないでしょう。あくまで魔法陣の吸収限界を見極めるためだね。普通なら、威力が異なる重複する魔術は効率が良い方だけを選択して吸収するものだからね。“


 結局、すべての魔法陣を吸収してしまったよ。ほとんどの魔術が発動魔力3桁や4桁だから今は使えないの。でも、小収納だけは最低発動魔力がMP50だった。特属性で、異空間に無生物を収納できるの。込める魔力によって収納できる大きさが変わるし、取り出す時は魔力が必要ないんだって。便利。特属性の人はめったにいないのですごく珍しい魔術らしいよ。今回吸収した魔術のほとんどが、専門書だからこそ載っていた実用より研究用の魔法陣だったみたい。 


「エリナ、お前はたいしたものだな」

「吸収上限がないのかしら? そ、そんなわけないわよね」


 お爺様もサヨコさんも、今更ながら驚いているよ。今回の実験では私の限界を見極めることは出来なかった。残念。また、魔法陣が手に入ったらくれるって言うから、逆に良かったのかな。


「さて、エリナ。今度はお前の秘密を教えてくれ」


 ”お爺様が急にあらたまって真面目なお顔で尋ねてきた。ちょっとドキドキするよ。”


「俺達に隠していることがまだあるだろう? 前は思い出せなかったかも知れないが、今なら思い出せることがあるんじゃないか? エリナ、お前はどこから来たんだ? エリナが何を秘密にしていたって、俺がお前の“お爺様”であることに変わりはないんだぞ。お前は大切な俺の孫だ。話してくれないか?」


 “さらにドキッとした。心臓がおかしいよ。『私』じゃなくて「私」が緊張している。覚醒状態じゃないから、まだ十分に思い出すことは出来ないけど、それでも確かに以前に比べれば「私」も色々と思い出せるはずだよ。”


「エリナのこときらいにならない?」

「ああ、大事なエリナを嫌いになるものか」


 私の心配はお爺様達に嫌われることだ。嫌われて怖がられて捨てられるかもしれない事がとっても怖いんだよ。でも、そうじゃないなら、話してもいいよね。

私は自分がどこから来たのか、お爺様に出会う前に何をしていたのか思い出そうとした。


「うんとね。エリナは・・・・・・? あれ? なんだっけ?」

「エリナ?」

「う~んとね。えっと、えっと? 」


 “なんだろう? 今までになく真剣に「私」が記憶を思い出そうとすると、精神フィルターが揺らぐ。「私」はさらに集中して思い出そうと記憶を辿る。その時、不意に左腕が熱くなった。”


「なんだ!!」

「勇者の腕輪が光っているわ」


 “サヨコさんが言うとおり、私の左腕の黄金の腕輪が熱を持って光り輝いた。その光と熱は私の“力”を抑え込むように精神フィルターを超えて『私』に迫ってくる。

 そうか、今までは精神フィルターがある意味防波堤になってくれていたわけね。この腕輪の所為でフィルターの制御を失ったけど、守りにはなっていたんだ。

 でも、この前のサヨコさんの魔術の所為で、今度はフィルターの防御が緩くなったんだ。「私」と『私』の同調がしやすくなったけど、逆に外からの影響も受けやすくなったんだ。

 それにしてもこの腕輪は私に何をしたいの? サヨコさんがこの黄金の腕輪を勇者の腕輪って言ってた。勇者? 勇者ってお爺様だよね。“


「おじいさま、あつい」

「どうした!? エリナ!」

「うでわがあついの」


 私は左腕をお爺様に差し出した。腕輪の熱はどんどん上がっているみたい。だんだん我慢できなくなってくる。ちょっと涙目だよ。


「なんだこれは。温度がどんどん上がっているぞ」

「どうして? こんな現象はじめてよ!?」

「どうにかならんのか」

「吸熱!」


 サヨコさんが呪文を唱えると、一瞬温度の上昇が収まった。けど、またすぐに熱くなってくる。あつい! 痛い!


「まだ上がるの? 火傷してしまうわ! ちょっと危険だけど、吸熱、継続!」


 魔術を継続で発動してくれると、それ以上熱が上がることはなくなった。でも、すでにかなり熱い。


 “『私』は精神フィルターを通して腕輪の解析を進めた。腕輪がフィルターを超えて『私』に影響を与えることが出来るなら、逆も出来るはず。人間になってしまったとはいえ、元女神の知識はまだ少しは残っている。とくに自分が生きていくのに必要と思われる記憶は、勝手に消えてしまうもの以外は出来るだけ残すように努めてきたから。もちろん、黄金の腕輪は私にとっては最も重要案件だから、その対策準備も抜かりない。”


「エリナ、エリナ、おもいだせない。エリナは、エリナは・・・」

「エリナちゃん!? クーガ! エリナちゃんに魔術をかけるわよ?」

「ち、止むを得ん。頼む!」

「催眠誘導!」


 “サヨコさんが呪文を唱えると「私」は眠ってしまった。倒れる身体をお爺様が支えてくれる。

 深層意識である『私』にはこの呪文の効力は届かないみたい。黄金の腕輪の『私』への干渉も引いてきた。でも、向こうが引いたからといって私の手を緩めるいわれはないわ。どんどん解析を進めるよ。今まで、散々調べようと試みたけど、全て失敗していた。今度こそと思って腕輪に集中する。けど、あまり芳しくない。なんで!? 今の『私』でも解析もできないぐらい、この腕輪は高性能なの? 女神の記憶と力が通じない?”


「黄金の腕輪の熱が引いてきた。まるでエリナが必要以上に記憶を辿るのを拒むように発熱し、それが止まるとまた黄金の腕輪も止まったように思える」

「そうね」

「・・・まさか」

「なに? どうしたの?」

「勇者の腕輪がエリナの記憶を封じているのか?」

「え!? 何のために?」

「うーむ。それは分からん。情報が足りな過ぎる。だが、俺達は今までエリナが幼いから親の事や自分の事が分かっていないと考えていた。3歳児があんな大怪我を追ったのだし、そう考えて当然だ。

 しかし、今思えば、エリナ程の聡明な子供が自分の事をまるで分からないなんてことがあるか? 現に今までも、自分の事を少しだけ臭わせる言動もあったし、お前がしゃっきりエリナちゃんと呼ぶ頭がはっきりしている状態のエリナはとても年齢に似つかわしくない物言いだった」

「そうね。あの状態が本来のエリナちゃんで、今のエリナちゃんは勇者の腕輪に何かしらを封印された状態ということね」

「そうだ。お前の魔術でエリナの記憶を引き出そうとした時も、勇者の腕輪が妨害したのではないか?」

「なら、勇者の腕輪を何とかして取り去らないとダメってことね?」

「うーん。そこが分からんのだ。なぜ勇者の腕輪がそのような効果を発揮しているのか。本当に封印を解いてしまっても大丈夫なのか」

「・・・・・。そ、そうねー。仮にも勇者の腕輪ですものね。勇者が封じると言えば・・・。」

「「魔王」」


 ”お爺様とサヨコさんの声が重なった。”


「まさか、エリナちゃんが魔王なわけないわ!」

「エリナに魔王が封印されていることもあり得る」

「そうね。じゃあ、万全の準備をしてから封印を解いた方がいいわけね」

「まあ、そうなんだが。あくまで魔王の件は推測でしかないからな。そもそも勇者の腕輪は使命を全うしないと外れない」

「勇者の使命が魔王の討伐や封印なのに、腕輪がその魔王を封印しているなら外しようがないわよ」

「だから、魔王の件は推測の域を出ん」

「と、とにかくハク様に見てもらうのが一番よね」

「ああ、そうだな。そうしたいのはやまやまなんだが、さすがに少し休養期間を設けないと、エリナが参ってしまう」

「そうね。まっ! どちらにせよ、向こうにこちらの予定を知らせてからの返事待ちでしょ」

「そうだな」


 “お爺様達、かなりいいところまで私の正体を推測していたんだ。でも、魔王はないよ。魔王は。元女神だよ。

 ただ、お爺様の話を聞いていて1つ思いついた。人間には力を与えるけど、女神だった私を封印する腕輪なら、私に思い当たる物がある。まさかと思うけど、この腕輪をお爺様が勇者の腕輪を呼ぶ以上、当たらずとも遠からずじゃないかと思うある装置(システム)のことを私は思い出した。“


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