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第33話 寄り道

明日も投稿予定です

 あまいの! あまいの! ふえええええん。楽しみだったの。ワクワクだったの。あまいの!!


 ”お菓子! 甘いお菓子! 食べそこなったよ。なんで? あの偉そうなお嬢様のせいだよ! うわ~~ん。甘いの食べたかったよ~。”


 あまいの! あまいの! あまいの!


 ”あああああ。おかしィ。いえ、おかしいわ。精神フィルターが変なの? こんなに甘いお菓子に執着するなんて。とにかく気を取り直して、落ち着こう。すう~は~、すう~は~。”


 ワンドお兄さんに甘いお菓子を食べにおいでと招待されて、ルールブ侯爵家へと私とお兄様は行ったんだけど、そこにはレイラお姉さんのお友達で幼馴染というライラという公爵令嬢がいたんだ。何故かその公爵令嬢は私とお茶をしたくないと言って、ワンドお兄さんのお父さんであるルールブ侯爵様に私を追い出すように命令したの。

 それで、私たちは甘いお菓子を食べずに侯爵家を後にすることになったの。あまいの食べたかったよ~。

 その帰り道の途中、お兄様は馬車をお家とは別の方向へ向けさせた。


 お兄様とやってきたのは、とてもきれいに舗装された大きな通りだった。道の両側には大きくて綺麗なお店が立ち並んでいる。

 ここは前にお母さまとお洋服を買いに来た商店街だ。下町のお店とは比べ物にならないレンガ造りの綺麗なお店が沢山ある。その中のお店の一つにお兄様が私を連れてきてくれた。


「お菓子を食べそこなったからね。お茶にしようか」

「あまいの?」

「う~ん、甘くはないな~。でもしょっぱくって香ばしいよ」

「しょっぱい?」


 ”この世界には甘いお菓子はほとんどないらしい。いえ、全くといってないらしい。この前、ワンドお兄さんがくれた、飴玉が唯一の甘いお菓子だという。しかも、とっても高くて滅多に手に入らない超高級品。なんてことなの? 甘いお菓子がないなんて! これから私は何を楽しみに生きていけばいいの?”

 ”お兄様が連れて行ってくれたお店で提供されたのは、コイン大の薄いエビ煎のようなしょっぱく香ばしい食べ物だった。貴族のお茶会では定番のラウクというお茶請けらしい。”


「おいしいかい? 甘くはないけどお茶に合うだろう?」

「・・・・・うん、おいしいよ」


 パリパリ、ラウクを食べる。しょっぱくて美味しいよ。喉が渇くからお茶も美味しく感じる。甘いのじゃないけど、しょうがないよね。

 甘いの食べたかったけどね。甘いの、あまいの、ううううう。


「それにしても、ワンドは随分と慌てたみたいだな」

「うん?」

「ほら、エリナ、ワンドがくれたこの本はね、魔術学者が辞書替わりに使うような本なんだ。とっても貴重なんだよ」


 お兄様がパラパラ開いて見せてくれたページには、色々な魔方陣が描かれていた。難しくて読めなかったけど、細かい文字で沢山解説も書いてあるみたいだよ。魔方陣の原理なんかも載っているんだって。魔方陣を描くための参考書みたい。


「しかも、ほら見本だけじゃなく、実際に使用できる魔紙に書かれた魔方陣もある。高レベルの魔術がほとんどだから、今の僕らが吸収しても使えないし無駄になるけど、中には初級でも珍しい魔方陣や中級レベルの魔方陣もあるよ。エリナが大きくなって魔力が成長したら吸収するといいよ」

 

 私が魔方陣を吸収した時と同じ紙にとっても細かい模様の書いた魔方陣が描かれていた。見てると目が回ってチカチカしそうな緻密で複雑な魔方陣だよ。


「さすがルールブ侯爵家だな。ワンドの奴、こんなに魔術学を先行して勉強しているんだな」


 ルールブ侯爵家は魔術学の権威なんだって。だからワンドお兄さんも頑張って勉強してるんだね。


「まあ、さすがにこのレベルの学術書はアイツもお手上げだったんだろうな。きっといい厄介払いができたと、今頃笑っているんだろうな」

「ん~? こうちゃくさまもいいって、くれたんだよね?」

「はは、アイツがわざわざ本当にルールブ侯爵様にお願いして、お詫びにこの本をくれたりしないさ。ほんとのお侘びなら、もっとちゃんとした別の物を用意するよ」


 ”つまり、この本で勉強したくなかったワンドお兄さんが、ルールブ侯爵様に適当なことをでっち上げて、自分にとって邪魔になる厄介なこの本を私にくれたらしい。そもそも、学校にも通っていない子供にこの本は専門的過ぎて役に立つわけがない。魔力量も少ない年齢に高レベルの魔方陣を吸収しても使えないし、理解できる年齢になるころには、もっと最新の学術書を手に入れた方が勉強にもなる。

 後で分かったことだけど、なんでルールブ侯爵様がこの本を譲ることを了承したのかというと、今までのワンドお兄さんの勉強態度から高度すぎるこの本は無駄になると考えたようだよ。ワンドお兄さんがこの学術書を理解できるレベルに追いついてから、最新の本を与えることにしたんだって。どうせ無駄になる本なら誰に渡してもよかったらしい。魔術学の権威だからこそ、いくらでもこのような貴重な本が手に入るんだ。さすが侯爵家だね。お金持ちだよ。

 魔法陣は高価だから、子供のお詫びにはちょうどいいと考えたんだね。ルールブ侯爵様は公爵令嬢の命令とはいえ、招いた子供を追い返すことになって、本当は申し訳ないと思っていたんだって。だから、一応本当にお詫びの気持ちはあったみたいだよ。”

 

 お茶が終わると、少し散歩をすることになった。私はお兄様と手を繋いで歩く。私たちの後ろからアンとトロアもついて来るよ。


「いつか僕が甘いお菓子を作って見せるからね」

「あまいの! つくれる?」

「すぐには無理だけど、お爺様にも協力してもらって頑張るよ。だからエリナはそれまで我慢してね」

「あまいの、がまん・・スル・・ョ?」

 

 我慢できるかな? お菓子と聞いただけで口の中にヨダレが溜まってくるんだけど。はうん。

 お兄様はそんな私の様子を見て苦笑していた。「エリナは本当に甘いものが好きなんだな」だって。私だけじゃなくて子供はみんな好きだと思うよ。甘いものがないからその魅力を知らないだけだよ。

 お店が立ち並ぶ通りを一緒に歩いて、途中で少しお店の中を覗いてお喋りをしていると、甘いものの事は忘れたよ。じゅるり。

 そうしてウインドウショッピングを楽しんでから、暗くなってきた頃そろそろ帰ることになった。アンに馬車を呼びに行ってもらっている間もお兄様とお店の中を外から見て回るよ。魔道具を売っているお店では不思議な動きをする玩具が展示されていて見ていて飽きないな。古本屋さんなんかもあって、ちょっと気になる。

 

「エリナ、馬車が来たみたいだから行こうか」


 お兄様に手を引かれて、道の端に丁度引かれてきた馬車の方に向かう。

 その時、お店とお店の間の狭い隙間から突然手がにゅっと伸びてきて、お兄様と繋いでいた方の腕を掴まれてグイっと引っ張られた。


「ふえ!?」

「え!? エリナ!!」


 手を繋いでたから、お兄様はそのまま引ぱられて倒れてしまった。そのせいでお兄様の手が私から離れてしまう。私は誰かに抱え込まれて、何かで口を塞がれた。なに? なに?


「ふぐ、ぐふん・・・ん~ん~ん~」


 驚いて息を飲むと、喉がひりひりして、咳き込んだ。でも、口が塞がれているから、うまく息継ぎできないよ。慌てて、息をするとまた、喉が焼け付くようにむせるし、鼻の中も痛くなってきた。苦しいよ。

 そんな風に無理に呼吸を繰り返していると、なんかだんだん頭がボーとしてきたよ。

 私は抱えられたまま運ばれているみたいだよ。でも、目が回って、フラフラしてどうなっているのか分からなくなっちゃった。

 あれ~?なんか気持ちいいかも。ふわふわで、ふにゃ~ってなっちゃうよ。


 ”えっと!? これは一体どういう事態? 急に誰かに捕まれて、口を塞がれて、意識が朦朧として・・・。えっと、もしかして誘拐? 誰かが私を連れ去ろうとしているの? なんで? こんな人通りの多い場所でそんなこと出来るの? すぐ捕まっちゃうんじゃない? 逃げられるわけないよね。

 後ろの方でお兄様達がなにか叫んでいる。追いかけて来てくれているのかな? 分かんない。「私」の意識が途切れかけている。なにか薬を嗅がされたみたいだよ。

 私をさらっても、あんまり役には立たないんじゃないかな。私、養女だよ。最悪切り捨てても大丈夫な存在でしかないはずだよ。身代金なんか取れないよ。誰かと間違ったのかな? 仮に私自身が目的だとして、相手はどんな意図があるんだろう。”


「よ、よし、うまくいったぞ。あ、あとはここで暗くなるまで隠れていればいいんだよな。はあはあ」


 ”あれ、移動が止まった? 特にどこかに入った様子もないし、抱きかかえられたままだけど、誘拐犯はここで追手(お兄様達のことよね)を撒くつもりらしいな。よーく耳を澄ませると、遠くで誰かの怒鳴る声や連絡を取り合う声が聞こえる。”


「はあ、はあ。そ、そうだ。これを使うんだった」


 ”誘拐犯が何か聞き取れない言葉をブツブツ呟くと、急に周りの雑音が聞こえなくなった。さっきのって呪文? もしかして魔術か魔道具を使ったのかな。魔術が使えるのなら、この人貴族なのかな。ああ、でも平民でも消費量の少ない魔術なら使えるのか。じゃあ、分からないな。”


「はあ~。これでよし」


 ”誘拐犯はその場に座り込んだんだろう。私も何かの壁を背にして座らされたみたいだ。体の感覚が曖昧になっていて自分の体勢がよく分からないな。今どんな格好しているんだろう。

 それにしても「私」は意識がないのに『私』の意識がまだ続いているのはどうしてだろう。体は動かせないけど、まったく感覚がないわけでもないし、音も聞こえる。目は閉じているので見えないな。これは睡眠薬ではなくて、筋弛緩剤のような薬でも使われたのかな? ああ、この世界には魔法薬というのもあるんだっけ。

 この世界の知識が記憶からほとんど引き出せないのが痛いところね。もしかしたら、すでに記憶から消えてしまっているのかもしれない。出来るだけいらない記憶から消すようにしているけど、それとは関係なく容量不足で勝手にどんどん忘れていってしまっているからな。”


「・・・・・。この子で間違いないよな。それにしても、なんて可愛い子なんだ。貴族の子供はみんなこんなに可愛いのか? 違うよな。養女っていってたから、可愛いから売られたのかもしれないな」


 ”私が養女だって知っていて攫ったんだ。間違いで誘拐されたわけではなさそうだよ。なんで私を誘拐したんだろう。私の事を知っているのって、まだごく一部の人だけだよね。1年近く屋敷の中で療養していたし、外に出れるようになったのはほんの数か月前からだし、行動範囲もとても狭いよ。

 お爺様達にとって、今の私は人質としての価値はあるのかな。もし、価値があったとして、お爺様達の足枷になったら嫌だな。ましてや命に係わる事態になったらどうしよう。そんなことになるなら、私を見捨ててもいいんだけどな。”


「クーガって貴族が孤児院で人身売買しているってのは本当なんだな。なんてひどい奴だ。この子も俺が助けてやらなきゃ、そいつの息子の玩具にされちまうんだな」


 ”うん? なんか変だよ。すごく誤解がある気がするよ。この世界には奴隷がいるの? お爺様はそんなことしないよ。してないよね? あれ?”

 ”その後も誘拐犯はブツブツ独り言を言っていたけど、声が小さくなって聞こえなくなっちゃった。なんか分からない事や知らないことが多すぎて自分の立場が把握できないよ。4歳の子供の立場ってなに?”

 ”それからどれくらい経っただろう。色々考えてみたけど、情報不足で結論は出なかった。考えるのをやめて、誘拐犯の気配を探っていると、急に周りの雑音が聞こえるようになった。”


「よし、よくやった。そいつをこちらに寄越せ」

「は、はい!」


 ”誘拐犯とは違う声が聞こえて、私は持ち上げられた。あうん! 変なとこ触らないで! レディの扱いが雑だわ。私は別の誰かに手渡されたようだ。”


「お前はほとぼりがさめるまで、王都を出ろ。ほら、金だ!」

「は、はい。ありがとうございます。あ、あのこの子はどうなるんですか?」

「・・・。お前が知る必要はない」

「き、貴族の奴隷から助けるんですよね?」

「・・・そうだ。このままでは貴族に弄ばれてこの子の一生は終わってしまうんだ。お前がそれを助けたんだ」

「そ、そうですか。よ、良かった」

「いいから、さっさと行け。誰にもこの事を喋るんじゃないぞ。いいな!」

「は、はい。そ、それじゃあこれで」


 ”騙されてるよ。誘拐犯さん、絶対騙されてるよ。もう! このままじゃ、お兄様達が私を探すのが大変になっちゃうじゃない。お兄様今頃どうしているだろう? 私を探してくれているよね? それとももう諦めちゃったのかな? 誘拐ってこんなに簡単に成功できるものなの? 魔術があるから、簡単に隠し通せるのかな。だとしたら、この世界は誘拐天国だよ。”

 ”別の男の人(声から男の人だと思う)に抱かれたまま、少し移動すると、今度は馬車に乗せられて移動のようだ。私は馬車の中に寝かされている。”


「お前達、あの男を始末してこい」

「へい。承知しやした」


 ”・・・・・・・・。他人の命令で誘拐なんてするもんじゃないよ。すぐに裏切られちゃうんだから。”

 ”私を誘拐するように指示したのは一体誰なんだろう。随分手が込んでる気がする。これだと足取りを追うのがすごく大変じゃない? 私助かるのかな? 体が動くようになったら、自分で逃げた方がいいかもしれないな。うう、どんどん不安になってきちゃったよ。「私」!早く目を覚ましてよ!” 

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