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2.5話クーガ視点 出会い

クーガ視点でエリナが気絶中の状況を補填します。

明日、短いですが4話投稿予定です。

 ラージュの森の奥で、俺達は一人の瀕死の女の子を拾った。その子は俺達にとって、無視することは出来ない因縁の腕輪をしていた。

 俺の名はクーガ=ドレイク=アンリューク=バリュッシュ。長ったらしい名前が続くので、仲間でもまともに俺の名前を憶えている奴がいない。クーガが通り名のじじいだ。


 ラージュの森はそのまま魔赤樹森林に続く入口に当たる険しい森だ。獰猛な獣だけでなく、低ランクとはいえ魔獣も多く、滅多に人も入らないような危険な森だ。

 人里が近いとはいえこの森にやってくるのは、俺たちのように増えた魔獣が森から出てこないよう間引くための討伐依頼を受けるような変わり者か、魔獣を利用しようとする不心得者か、まあ、とにかく真っ当な人間が立ち入るよう場所ではないな。

 俺は数年ぶりに仲間たちと会うために同窓会気分で、屋敷のあるカルディナック王都を出発した。息子一家が旅行中のこんな機会でもなければ、中々王都を離れることもできない。王族連中や門閥貴族との政治に関わる相談事など、息子が傍にいると無視させてくれないので、今回の依頼は久々のいい骨休みになると考えていた。

 カルディナック王都から剣馬で東に2日程にあるラク村で仲間たちと合流し、村長に討伐依頼の詳しい説明を受け、さらに1日かけてラージュの森の傍にある狩猟小屋までやってきた。 


「早速、魔獣の反応があるわね。ここから2km範囲に50頭ほどよ。モモラス、シャークギル、ウッディアね」

「よし、昼飯後の腹ごなしに一丁やりますか」

 

 魔導士のサヨコが検知魔術で魔獣の数と位置を探査すると、盗賊のリュークが短剣を取り出しながら森へと向かっていった。


「おいおい。お前たちもいい年なんだから、あまり無茶をするな。のんびり行こうぜ。」


 ドワーフである銀刃のゴルーセが巨大な斧を肩にかつぎ、その後を追う。


「お前ら、はしゃぎ過ぎるなよ。まったく、頭の中はガキの頃のままか」

「「「お前に言われたくない!」」」


 俺が昔を思い出しながらの呟くと、一斉に反論してきた。

 結局、この討伐兼同窓会でみんな昔のようにチームとして行動できるのが楽しいのだ。それぞれがそれなりの地位や役職につき、忙しく働いていて、なかなか自由が利かない身となった。全員ではないが、主要メンバー6人中4人が集まったのだから、自然と昔のように気心も知れるというものだ。


「ライトとノーレムの奴は今どうしてるんだ?」


 投剣で落とした巨大猿の魔獣モモラスに、腰が曲がっているとは思えないスピードで接近しとどめを刺してからリュークがサヨコに尋ねた。


「ライトはいつも通りよ。『俺は勇者じゃね~!!』て1年前に連絡してきてから、音沙汰なし。」


 サヨコは今度曾孫ができるのが信じられない軽やかなステップでモモラスの攻撃を避けながら詠唱を終わらせ、空圧弾を放つ。


「あいつ、まだそんなこと言っているのか?あれだけのことを2回もやっておきながら、頑固だな。」

「クーガの悪だくみにまだ気づいてないのか?」

「ああ?とっくに気づいてるじゃろ?」

「気づいてないふりして、サヨコから逃げる言い訳にしているんだろ?」

「サヨコがしつこくするからじゃないか?」

「だって、あいつにはしつこいくらいでないと、ダメでしょ?」

「「「・・・・・・。だから逃げられるんだ」」」


 男三人がサヨコに聞かれないように頷き合った。


「それでノーレムは?」

「あの子は、今、帝国北部らしいわ。なんでもそのあたり一帯で病が流行っているらしいの。あの子も相変わらずよ。依頼は絶対に受けないくせに、お節介はやくのよね。」

「おいおい、最近の帝国の状況分かっているのか?何考えてるんだあいつは?」

「分かっていても、関係ないでしょ。ノーレムには」


 俺たちは近況を話しながら、滞りなく魔獣を狩ってゆく。

 もうすぐ日が暮れる。暗くなる前に狩猟小屋に戻ろうかと相談していたところ「待って、おかしな反応があるわ。なにこれ?」とサヨコが俺たちの歩みを止めた。


 俺も検知魔法をしてみるが、おかしな反応はない。


「ここから50kmほど奥で一瞬強い魔力反応があったわ。神獣クラスよ。すぐ消えたけど、それから・・・これは魔力反応なの?ちょっと見たことない変な反応がゆっくり移動している」


 優秀な魔導士であるサヨコでなければ50km先など検知できるわけない。


「どうする?今は反応が弱いけど、神獣クラスが魔赤樹森林から出てきたのなら、やっかいよ」

「そうだな~、俺たちでないと無理だろな~。でも、こちら側まで来るか?神獣クラスにしてみりゃ、ここの魔素は薄いだろ」


 リュークの言う通り、神獣クラスの魔獣にとって、魔素の薄いこちら側では、人が1000m級の高山でマラソンをするようなものだ。


「そうね、反応は一瞬だったし、弱っているのかも」

「かといって、ほっておくわけにもいくまい。弱っているとしてもそのクラスが万が一にも森を出て人里までやってくれば、太刀打ちできないじゃろう。」


 このクラスと言えば、一般には災害級の魔獣だ。一匹で大都市1つが一夜で壊滅する。ゴルーセの心配はもっともだ。


「ちぇ、今日は徹夜か?夜の森の移動なんぞ、常識人のやることじゃないぜ」

「俺たちが常識人かよ」

「はあ、違いねーが、老体の身には堪えるぜ」


 わざと腰を曲げてリュークが軽やかに森の奥へと先導する。

 途中、魔獣を始末しつつ、簡易食を頬張る。片手で剣を振り、もう片手で干芋を頬張った。昔取った杵柄、みんなも慣れたもので、食事の合間に移動しつつ魔獣を狩っている。

 夜が明けるころ、やっと反応があった場所へと到着する。辺りは霧が出て、まだ薄暗い。そこは、幅の狭い小川が流れる森の途切れた場所だった。かなり大きな巨木がたっている。


「神獣クラスなら、もっと荒らされてるだろ?」

「そうよね。まって、反応を探るから。変な反応は川下の方に移動したみたい。うん?普通の魔獣の反応もすぐそばにあるわね」


 その時、遠くから、人の叫び声が聞こえた。俺たちの聴覚は、耳の良いラヴィリル並に鋭い。他の仲間も聞こえたようだ。

 これは子供の声だ。

 俺は瞬間、自分に俊足魔術をかけた。


「先に行く!!」


 戦士である俺自身の神速能力に魔術を組み合わせることで、剣馬並の速度を出せる。もっとも持久力はないが、それでも数キロぐらいは余裕で走破できる。

 先ほどより川幅が増した川下の霧の先、途中木々が乱立した川辺には血だまりができていた。その血だまりの上にまだ年端もいかない子供がシャークギルに抑え込まれていた。


「ちっ!」


 俺は走る速度を緩めず、抜刀一閃の旋風でシャークギルの首を刎ね、そのままの勢いで、子供の上に残った首のない身体を蹴り飛ばた。


「生きているか!?」


 明らかに重傷だ。シャークギルに咬まれたのだろう、主に右上半身が血で真っ赤に染まっている。破けた服から出ている腕は裂け、骨が飛び出ている。呼吸が浅く、自らの血糊で汚れた顔色は真っ白だ。


 くっそ!!


 俺は、懐から治療魔法薬を取り出し、子供の衣類を剥ぎ取り傷を確認しながら、振りかけた。


「ちくしょう、なんで、安物しか持ってこなかった!」


 自分の危機感のなさに悪態をつく。俺達は自分の実力に自信を持っている。高ランクの魔獣相手でも、まず重傷を負うことはない。そのため、今回治療系の魔法薬をまともに揃えていなかった。楽な短期の仕事だと侮った。

 フルメンバーなら賢者で治療師でもあるノーレムもいるので、なおさら魔法薬の必要性を失念していたのだ。

 安物の治療魔法薬により、出血の量は減少したが、これではまるでもたない。


「クーガ!!」


 遅れて駆け付けた仲間達は、俺と子供の様子を見て、息をのんでいる。


「なんでこんな所に女の子がいるんだ!?」


 ああ、この幼子は女の子か。今更気付かされた。俺はかなり余裕をなくしていたらしい。少し冷静にならなければ。


「分からん。とにかくこの子を助けなければ、お前たち、治療薬は・・・もっていないよな?」


 俺は着ていた上着を破き、女の子の創口に巻いていく。傷は肺まで達しているようだ。傷口の血が、浅く繰り返す呼吸のたびに泡立っている。


「出発前の確認では、軽治療薬と消毒薬、解熱剤しかなかった」

「そうだな」


 俺は焦る気持ちを抑えるため、深呼吸をして、女の子の状態を確認していく。

 その子は、体中傷だらけで顔にも痣や擦り傷があるが、驚くほど整った顔立ちをしている。元気があれば、さぞ愛らしいだろう。

 右上半身以外には深い傷はなかった。


「ちょっと、その子の左手首にはまっているのって・・・」


 横からサヨコが少女の左腕を持ち上げると、そこには俺たちにとって因縁浅からぬ物によく似た腕輪があった。


「おい、おい。まさか・・」

「いやいや、そんな訳なかろう。もし本物ならこんな事態になっているはずない」


 仲間の動揺はよく分かる。しかし、今はそんな場合ではない。


「とにかく、急いで治療できる場所まで戻るぞ」

「待てよ。この傷はどう考えても間に合わんぞ」


 ゴルーセの言いたいことはよく分かるが、俺は諦めるつもりはない。

 

「間に合うかではない、間に合わせるんだ!!こんな幼子をみすみす死なせてたまるか!」

「はあ、クーガは相変わらずね。子供のことになると、目の色が変わるわ」


 何を言う、それでは俺が変質者のようではないか!


「分かったわ。とにかくやれるだけのことをしましょう」


 サヨコは、彼女ができる低級治療魔術を女の子にかけて、さらに俺たちに、俊足魔術を施してくれた。


「これから一亥一秒をあらそう。遅れる奴は置いていくからな!狩猟小屋に行けば包帯がある。そこで再度治療して、それからラク村まで一気にいくぞ!」

「「「おう!」」」


 俺は少女を抱きかかえて、森の木々の間を疾走する。


「い・・よ。いた・よ。いたいよ」


 時折、少女がうわ言の様に、痛みを訴えたが、その声を聴くたびに、まだ生きていると俺達は安堵した。

 行きに半日掛けた工程を1/3の時間で駆け抜け、狩猟小屋まで辿り着いた。

 治療魔術が効いたのか、最初すっかり冷たくなっていた少女の身体には熱がでていた。

 傷口の汚れを落とし、綺麗な包帯に巻きなおす。治療魔法薬を今度は口から飲ませようと、ゆっくり注ぐと、3口ほど飲んでからむせてしまった。

 それから、少女は少しだけ目蓋を開いた。


「・・・た・しゅけ・て」


 弱弱しい声で助けを求めてくる。

 なんて強い子だ。この子はまだ生きようとしている。必ず助けてやる!


「ゆっくり、これを飲むんだ」


 治療薬と解熱剤を今度はさらに慎重に飲ませると、今度は何とかうまく飲んでくれた。


「治療師の所まで移動しなければこれ以上の治療は出来ない。それまで、応急手当しかできないから、眠っていなさい。その薬でだんだん眠くなるから」

 「・・・・・・・。」


 少女は再び目を閉じて、浅い呼吸を繰り返している。


「よし、すぐに村まで移動するぞ」

「ちょっと、待って、クーガ。ラク村に治療師はいるのかしら?」

「・・・・。い、いないか?」

「低級治療魔術ならともかく、これほどの重症患者を治せる治療師となると、王都でないといないのではない?」

「そ、そうだな。なら、直接王都に向かった方が、早いか」

「いや、じゃが村人のケガの治療のために、治療師はともかく、それなりの治療薬は常備しているのではないか?」

「「「「・・・・・・」」」」


 分からん。情報が少なすぎる。情けない、事前の調査は冒険者なら基本なのに。


「二手に分かれよう。リュークとゴルーセはラク村に行って、高位治療師か高級治療魔法薬があるか確認を、あれば通信魔術で連絡してくれ。サヨコは治療のために俺と一緒に直接この子を連れて王都に向かう。」

「「「分かった」」」


 剣馬なら途中も回復魔術を使えば2~3日ぐらい昼夜休まず走らせても問題ない。

 俺たちは、その場で別れ移動を開始する。

 途中、何度か女の子がうっすらと目蓋を開くことがあった。そんな時、水や食べ物を与えたが、ほとんど口にはしなかった。


 まずい、体力の消耗が激しい。くそ、このまま間に合わないのか!


 翌日の昼頃リュークから連絡があった。残念ながらラク村での治療は無理のようだ。ラク村で大怪我を治療する場合、王都とは逆方向にある馬で1日ほどのテルスク村の中位治療師を頼るらしい。

 ここからでは、王都の方が近い。最初からラク村に向かっていたとしても、王都から逆方向のテルスク村の中位治療師では、これほどの重症患者に十分な治療はできない。中位の治療魔術では、王都に戻るまでにこの子がもたないだろう。テルスク村に高級治療魔法薬があるかも分からない。

 俺たちはそのまま王都に向かった。リュークからの連絡をもらった頃から、女の子の意識が戻らなくなった。俺は自分自身に諦めるなと言い聞かせながら剣馬を走らせ続けた。


 王都の領域に着いた頃には、女の子は再び体温が下がり、呼吸も止まる寸前のような状態だった。

 王都は高い石造りの塀で覆われている。塀のすぐ内側には平民街があるが、塀が邪魔しているのでもちろん見えない。王都は広大な丘の上に作られているため、塀の上を見れば遠くに立派な屋敷が立ち並んでいるのが見える。ここから見えるのは丘の中心に近い貴族街だ。更にその奥には城があるのだが、さすがに遠すぎて見えない。東の第一城門前はいつものように出入りの商人や近隣の村人でごったがえしている。貴族特権で手続きをすれば、並ばずに通れるが、そんな時間も惜しい。


「サヨコ、お前の特権で俺達の通行許可を取ってきてくれ。俺はこのまま、突っ切って治療師の所に行く!このままでは本当に間に合わん!!」

「分かっているから、行きなさい。」


 サヨコが城門の門番の方に進行方向をずらしていく。俺は城門の駐在兵が駆け寄ってくるのを無視して、門を通過した。後ろで騒ぎが起こっているがサヨコが何とかしてくれるだろう。

 俺は剣馬のまま、街中を疾走し、更には貴族街も通り抜け、城までやってきた。街中はえらい騒ぎになっているだろうが、幼子の命には代えられん。

 城の城内医療室に駆け込み、高位治療師のバーサンを呼び出しすぐに治療魔術をかけてもらう。



 結局、この子はこの危機的状況を乗り越えた。高位治療師の魔術により、一命を取り留めたのだ。まだ、治療は不十分だが、とりあえず命の危険は退けた。あとは賢者ノーレムを呼び戻し、完全に治癒できれば、今後の生活も問題なくなるだろう。まだ、傷も痛々しく、体力が回復しないためか歩行もできないが、時間の問題だろう。

 その後、俺は町を騒がした責任でえらいことになったが、後悔はしていない。反省もしていないことは内緒だがな。

 俺が医学に疎いためにこの幼子が後々再び命の危機に直面することになることになるのだが、そちらの方が俺は大いに後悔と反省をすることになったのだが。


リーセ「フェリオー?解説しないの?」

フェリオー「・・・・。もう!するわよ!なんでもかんでも暴露してやる!」

リーセ「ええ!?それはまずいんじゃない?」

フェリオー「いいわよ。どうせ見切り発車でたいした設定なんてないんだから」

リーセ「うぐ。それは言っちゃだめ」

フェリオー「この物語は、実は番外編だとか!」

リーセ「あっそれも駄目だよ」

フェリオー「本編は別にあるのに、番外編を先にしちゃったとか」

リーセ「きょ、今日の解説はここまででーす!!」

フェリオー「ちょっと、裏話なら沢山あるのよ。じゃましないで!」

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