15話賢者の治療
部屋の中にはベットと簡易の椅子と机しかないみたい。私は賢者様にベットに横に降ろされた。そして賢者様はベットの枕もとに腰を下ろして、私を見降ろした。
「さて、エリナと言ったか?年はいくつだ」
「・・・みっちゅ」
「ふん。お前はどこから来た?」
「・・・おしろ・・のおとなりぃの・・・お・うち」
「その前は?」
「・・・わかん・・ない」
「分からない?なにも覚えていないのか?まったく?」
賢者様は何が知りたいのかな?私は一生懸命お家に来る前の事を思い出そうとした。正直頭がボンヤリしてうまく思い出せないの。
「・・・・も・りの・・にゃかにい・たの。じゅっと・しゅ・・わってた」
「そこで、魔獣に襲われたんだな?その前は?」
「・・ずっと、しゅわった・・ままだ・よ。・しょの・・まえ・は・なんにもおぼ・えて・にゃい」
その前の事は断片的にしか思い出せないの。だからうまく説明できないよ。
「・・・その左腕の腕輪は誰に貰った?」
「・・・わ・・かんな・い」
「お前はその腕輪が何か知っているか?」
なんだっけ?この腕輪はとても嫌なの。外したいのに、どんなに引っ張っても外れない。これがあるからうまくいかない気がするよ。
「・・・・・・こりぇの・・しぇいで、わ・かんにゃく・・なっちゃったの。・・・・・・きっと」
「そうか・・・最後に聞く。お前は何者だ?」
「・・・?エ・リナは・・エリナだ・・よ?」
もうエリナはただのエリナのはずだよ。前がどんなだったかもう思い出せないけど。
「そうか。・・・まあいい。じゃあ診察するから服を脱げ。・・・いや、私が脱がそう。」
質問は終わりかな?結局よく分からなかったな。賢者様は何が知りたかったのかな?元気になってもっといろいろ思い出せたら喜んでくれるかな。そしたらさっきの質問にもちゃんと答えれるかもしれないよ。
それから賢者様は、器用に私の服を脱がしてから、傷を見たり、何かつぶやいて手をかざしたりしていた。
「・・・。シャークギルに襲われたそうだな?本当か?」
「・わか・んにゃい」
「・・・・・・診察は終わりだ。他の者を呼んでくるから待っていろ」
私に服を着せてから、賢者様は部屋から出て行った。
賢者様はぶっきらぼうだから、私は少し怖かったけど、きっとすごく優しい人なんだなと思うよ。だって、服を脱がせる時も着せるときも、すごく優しく丁寧にしてくれたもの。診察中も痛くならないように注意深く見ていた。それに、最初に感じた賢者様の身体の周りにある見えない何かは触れるととても暖かくてホッとする感じがしたんだよ。
みんなが部屋に集まると賢者様が診察の結果を説明し始めたの。
「お前たちも気づいているだろうが、エリナのケガは非常に重傷だ。よくこんな状態で平気な顔をしていられるものだ。この子の苦痛はお前たちが想像している以上のものだぞ?」
「そ、そうなのか。すまん、俺の見通しが甘かったようだ。エリナ辛かったろう」
お爺様が申し訳なさそうに、眉毛を下げて私の頭を撫でた。
辛かったけど、みんなが励ましてくれたから、エリナ頑張ったんだよ。
「それに、この子のケガは今だ体を蝕み続けている。このままではあと10日も持たずに死に至るだろうさ」
「「「「「!!!」」」」」
やっぱりそうなんだ。いくら頑張っても、もうダメなんだって気持ちはなくならなかったんだ。私は怖い夢の事を急に思い出した。
「け、賢者様、それは本当ですか?」
「そんな、なんてことなの。賢者様何とかならないのですか?」
お父様とお母様が賢者様に詰め寄る。
賢者様はそれを手で制しながら話を聞くように諭した。
「いいから、最後まで話を聞け。私が治療をすれば、助かるだろうさ。しかし、治療には代償が伴う」
「どんな代償ですか?僕に出来ることなら何でもするよ?」
「私だって、エリナちゃんのためならがんばるわ!」
お兄様とお姉様も賢者様に近づき、迷いなく宣言してくれる。
「駄目だ。代償は本人が支払わなければならない」
「いったいどんな代償が必要なんだ?ノーレム、俺たちはエリナのためなら出来る限りのことをするつもりだ。この子はすでに俺たちの家族だからな」
お爺様は真剣なお顔で賢者様を睨んだ。賢者様はお爺様のお顔を見ても、特に気にすることなく逆に呆れたようなお目目をした。
「ほう。お前がこの子を拾ってまだ半年ほどなんだろう?なぜそんな短期間にそこまでこの子に執着するようになったんだ?見ず知らずの死にかけの子供を養子にまでして。貴族様の道楽にしてはいきすぎていると思うがね」
「見ず知らずだろうが、道楽と言われようが、俺は幼気な子供が困っていたり、助けをもとめていれば助けるぞ。もちろん、世の中のすべての子供に同じことは出来んが、俺の手の届く範囲、出来る範囲であれば助けてやる。俺はいつもそうしてきた。それが偽善と言われようがな。お前は知っているだろう?」
「ふん。お前はそうだろうさ。昔から変わらない。だが、他の家族はどうだ?お前に付き合わされる身になってみろ」
「いいえ。賢者様。この子を引き取ることにしたのは、私たち家族全員の一致した考えです。私たちは、父上を尊敬しています。ずっと父上の背を見て育ってきた私は、私の子供たちにも同じように教育してきたつもりです」
「お願い致します、賢者様。エリナちゃんを、私の娘を助けてください。私たちに出来るどんなことでもしますから」
お父様とお母様が賢者様に頭を下げながら、そう言ってくれた。
私は黙ってみんなの話を聞いていた。
・・・私は、どうすればいいんだろう。賢者様が言う通り、まだ出会ってから半年しかたっていないのに、お母様やお父様までこんなに私のことを想ってくれる。私はそんな想いにどう答えればいいだろう。今の私には何もできない。とても大事な話をしているのは分かるのに、具体的には何も理解していない。分からないことだけが分かる。・・・こんなはずじゃないのにな。本当は私がみんなを支えて助けなきゃいけないはずなのに、何をしたらいいのか分からない。私にはそれができる力があるはずなのに。答えは分かっているはずなのに、もどかしい。今の私は無力だ。
私がそんな風に考えている間も。賢者様は話を続けた。
「さっきも言った通り、代償は本人が払わなければならない。それは2つある。1つは治療の際の苦痛だ。現在進行形で病状は悪化しているが、すでに歪んだ形で治癒している部分もある。私の魔法で、その歪みを正し、さらに病巣を破壊し、再生させる。その際の苦痛は、創傷を受けた際の苦痛を上回る。神経の破壊と再生も行うため、苦痛を和らげる術はない。また、それらの治癒を一気に行う。下手をすれば、この子自身がその苦痛に耐えきれず、命を失うことになるかもしれん。いやたとえ耐えたとしても、この子の精神が正気を保っていないかもしれない。それでもやるかい?このまま死んでしまった方がまだましだと思うような苦痛を与えることになるぞ?」
「そんな・・・」
お父様もお母様もお兄様もお姉様も、絶句して顔を青くしてしまった。
でも、お爺様だけは違ったみたい。
お爺様はベットのそばまで来て、膝をついて、私に目線を合わせた。
「エリナや、今の話は分かったか?すこしお前には難しかったかもしれないが・・・」
それから、お爺様は、私にも分かるようにゆっくり丁寧に教えてくれた。そして、私の頭を撫ぜながら、
「お前は治りたいか?とても痛くて辛い思いをすることになるが、それを乗り切れれば、お前は健康になれる。俺はエリナに頑張ってほしいと考えている。だが、結局自分のことは自分で決めんとな?」
と言った。
正直痛いのはやだな。今の私はもしかしたらそんな激痛には耐えきれないかもしれない。でも、なにもしないで死んでしまうのはもっとやだな。
昔の私は逃げてばかりだった気がする。逃げるためにこんな子供の姿になっていたんだ。それはたぶん今も続いているけど、・・・あの森の中で、いや違う、私の苗字が変わったあの瞬間から私は昔の私とは別の私になった。だから、私は頑張りたいな。この家族と一緒にいるために、成長するために、人間として頑張らないと。
「・・・えり・・な、がんば・・りゅよ?・・・おじ・いしゃま」
だから、私はお爺様にそう答えた。
お爺様は、やさしく微笑んで、また頭を撫でてくれた。
「ノーレム、エリナを頼む」
それからは、賢者様は準備があると部屋から出ていき、私以外の家族もみんな一度廊下の方に出て行った。廊下では、お父様の大きな声やお母様の嗚咽が聞こえてきたけど、私はこれからの治療について、ドキドキしていたので、あまり気にしていられなかった。やっぱり痛いのは怖いもの。
しばらくして、賢者様とお爺様だけが部屋に戻ってきた。お母様達はどうしたのだろう?私が疑問に思っていると、それを察したのか賢者様が、
「他の者は邪魔になるからな、治療の途中で手を出されると、最悪失敗するからな、廊下で待っていてもらう」
そう言って、部屋の扉の鍵を閉めていた。
「クーガ、その子をしっかりと抱いておけ、苦痛で暴れられると困る。絶対離すなよ」
私が不安そうにしているからか、お爺様は私を両腕でしっかり体に押し付けるようにしっかり抱きしめてから、耳元で「大丈夫、大丈夫」と繰り返し呪文のように囁いてくれた。
賢者様は私の口に布を入れてからさらに外れないように口の周りから頭の後ろへ布でしばった。
「それでは始める」
賢者様が、何か呪文のような言葉を言いながら私に向って手のひらを向けた瞬間、今までに感じたことのない激痛が襲った。もうその瞬間、私は治療を受けたことを後悔した。だって、それは想像すら出来ない苦痛だったんだもの。
「ふぐー!!!!!!!!」
何も見えない、何も聞こえない、ただ激しい痛みだけが全身に駆け巡っている。自分の身体が今どうなっているのか分からない。目の奥、頭の中で雷がビカビカ瞬いている。
痛い!、痛い!、痛い!、痛い!、痛い!、痛い!、痛い!、痛い!、痛い!、痛い!、痛い!、痛い!。
シャークギルに咬まれた時の何倍もの大きさの激痛が連続で走る。あの時は、すぐ痛みが熱さに変わって、それからダルさになったけど、今回は、痛みしかない。
何度も何度も何度も何度も痛みは繰り返し、繰り返し、さらに重なり合い、途切れることなく私を襲った。痛みの種類も様々で、痛み苦しみ吐き気、呼吸が苦しい、抉られる様で苦しい、内臓の奥の痛み、皮膚表面の痛み、筋肉が引きちぎれる痛み、骨の歪む痛み。ありとあらゆる激痛苦痛が繰り返される。どれぐらい苦痛が続くのか分からない。すでにどれだけ時間がたったのか分からない。私にとってはもう永遠に苦痛が続いているように感じる。
嫌だ、嫌だ!、イヤだ、イヤだ!、助けて!、助けて!!、助けて!!!。
私は苦痛から何とか逃れようと必死になった。体が動いているのか分からないし、声が出ているのかも分からないけど、とにかく必死に逃げ出そうとした。でも、痛みは和らぐどころか、ますます激しくなってくる。
もう嫌だ、誰か助けて、もう嫌だ、これなら死んだ方がマシだよ。なんで私がこんな目に合うの、イヤだよ。怖いよ、苦しいよお爺様、助けて、お父様、助けて、助けて、助けて・・・・・。誰でもいいから助けて。誰か誰か誰か誰か・・・・・・・助けてよ!------フェリオー!!!
私はもう何も考えられず、わけが分からなくなっていた。頭の中では、相変わらず稲光が瞬き続けている。さらにその奥に、何かある。ああ分かる。あれは『私』だ。ちょっと手を伸ばせばすぐそばにあった。知っていたはずなのに、思い出せない。でも、けしてもう届かない。いや頑張れば届くはず。違う。『私』は・・・「私」はもう決めた。私はもう違う!!!
"深層意識内に平行並列思考領域構築完了。これで『私』はようやく自由に思考できるようになった。
「私」が決意した結果、やっと腕輪の機能が届かない精神の奥底で『私』は「私」の上位意識として思考を再開した。といっても、今の『私』は記憶と思考のみといってもいい存在だ。
『私』の記憶や思考に基づく行動は、すべてフィルターを通され、3才児程度に実に狭く小さくなって精神の表層である「私」に表れる。
以前はこれを自分の意志で行い、フィルターの網目の広さを変更することで、『私』の意思が「私」に必要なだけ反映された。しかし、今は制御できない。
「私」は基本3歳児のままだ。まあ、かなり優秀な3歳児ではあるけど、3歳児に出来る範疇を超えることは出来ない。
まあ、とにかく、出来ることから少しづつ何とかするしかないよね。"
フェリオー「あ!今私呼ばれた。ちょっと行って来よう」
リーセ「行けるわけないでしょ!本来のあなたは今人形なんだから」
フェリオー「ふふん。でもいいわ。本編に名前だけでも登場できたし」
リーセ「い、いいんだ、それで」
フェリオー「いいのよ!それより世界についての説明は?」
リーセ「はいはい。まず、狭い範囲での世界について。自分がいる星が自分の世界で、遥か遠くにある別の星が異世界」
フェリオー「その異世界では魔法があるかもしれないし、科学が発達しているかもしれないのね」
リーセ「そうよ。でもある意味、無限に広がる宇宙という同じ空間の中の別の場所でしかないわね」
フェリオー「つまり、この物語の中では異世界扱いにはならないのね」
リーセ「そうよ。遠くの惑星の一つでしかないわ」
フェリオー「それに今エリナがいる世界では星そのものが・・・」
リーセ「おおっと!!今回はここまで!」




