ヒッチハイクへの決心!
「こいつぜってーヤバい奴!こいつはぜってーヤベぇ奴!」
岡田は黒いベンツの中をちらっと覗いて1人叫んだ。3台のうちの一つの黒いベンツにはサングラスを掛けたツーブロックの浅黒い男が上半身裸でスマホを弄っていた。横持ちで。凄まじくタップをしていた。
「なんで横持ちなんだよ!アイドル系?アイドル系のやつなの!?」
岡田はスマホを横持ちにすると皆、アイドルの音ゲーをしていると決めつけていたのだ。
岡田は黒いベンツを後にして二つ隣の銀色のベンツに声をかけることにした。
岡田がそろそろと近づいて中を確認した瞬間、寒気が彼を襲った。
昨日、岡田のあそこを弄ったババァが乗っていたのだ。
「!? マジかよ!昨日のクソババァじゃねぇか…」
クソババァは魚肉ソーセージをお下劣に食べていた。舐め回すかのように口に含んでは取り出していたのだ。
「おぇっえっ」
岡田は久々にゲロを戻しそうになった。泣きそうになりながらゆっくりと気付かれないように山田のもとへと戻った。
「マジで!マジで勘弁してくれ!あのババァがおったし、俺もう帰りてぇ」
「あのババァって、さっき言っとったやつ?」
「うんうんうん」
「うは、マジかよぉ〜笑笑、ナンパしようぜ!」山田は卑しい顔をしている。
「1人でやれよ!俺はやらんからな」
「まぁまぁやらへんけども。まだBMが残っとるやん、アレも見て来いよ」
「もう、ホント嫌やぁ」
岡田はしぶしぶとBMWに向かって行った。ふと中を見ると20後半だろうか、ウェーブのきいた髪の長い女が座っていた。なかなかの美人だ。テンションが上がりだした岡田は腕まくりをしている。
「いいじゃないすかぁ。でもこれ俺、相手されんのかなぁ」岡田は少し心配しながらも意を決してBMWの窓をコンコンと叩いた。
女は一瞬ビクッとした後窓越しで岡田の方を見た。不思議そうな顔をしたあと車のウインドウを下げた。
「あ、あの、なんでしょうか?」
女は少し不安そうな目つきで小さめの声で言った。
「いや、あの、えーとすね。その何ていうか…よかったらコンビニまで乗せてって欲しいんですけども……」
「こ、コンビニですか?私が?乗せてくんですか?」
「あ、はい。実はそのヒッチハイク的なことをしてて良ければコンビニまで乗せてって欲しいなぁ〜というか…」
岡田は内心、これは俺けっこうヤバい奴として見られてるなぁと思った。意外に冷静である。
「す、すいません。一応その彼氏を待っているんで…流石にその知らない男性を乗せてコンビニに行くというのは…ちょっと…」
「で、ですよねぇ。どうも失礼しましたぁ!!」岡田は山田のいるところまで走って逃げた。
「でやったん?」
「いや、普通に断られたわ」
「あかんだか〜」
2人は駅からでてちょっとのところで座り込んだ。3台とも駄目だったため残りの5台の車に人が乗り込む瞬間を狙おうとしたのだ。しばらく座り込んでいると男が駅から出てきた。
「あれ、親父や」岡田は男を指さして言った。
「仕事ちゃうん?」
「分からん、帰ってきたんかなぁ」
この時間帯は一応、岡田も学校に行っているはずなので声をかけようとはしなかった。
岡田の親父はロータリーの方へと歩いて行った。
「でも、あん中に親父の車ないんだけども…」
「おい!もしかしてさっきの綺麗な女さ!お前の親父の愛人とかやったりするんちゃう!?」山田はすぐにエロいことを話したがる。この癖せいで山田は妹と母親からガチで嫌われており家に居場所がなかった。
「それはねーよ笑笑、てかあったら逆に尊敬しちゃうよ?親父のことむしろ尊敬するわ笑」岡田は笑っている。
親父はそのまま銀色のベンツへと向かって行き助手席に乗り込んだ。
岡田の顔は尋常ではないほど真っ青になった。
「お前、あれ、ババァの車じゃ…」
山田は低い声で言った。
「………」岡田は絶句している。
銀色のベンツは何回か揺れた後、発進して駅のロータリーから出て行った。
岡田はちょっと泣いていた。
「親父ぃ……」
山田は隣で腹を抱えて笑っている。
「おまっ、ちょ岡田家!岡田家!スゲェな!お前の親父マジすげぇわ!てかババァの好みやったんやな!お前といい親父といい笑笑笑笑」
山田は心から笑っていた。
岡田はゆっくりと顔を腕で拭い空を見上げた。
「遠くに行きたい…どこまでも…とりま旅に出たいす」達観した目で雲を眺めている。
「ヒッチハイクしようや」
山田は岡田の肩に手を置き優しく言った
かくして2人の本当のヒッチハイクが始まったのだった。