出発
「世の中物騒なことを考える母親がいたものですねぇ。」
フーっと藤は煙を吐き出した。
「それでうちの者にお宅の洋一郎坊ちゃんを守ってくれって話なんですね?」
「そうだ。誰が洋一郎の命を狙ってるのかわしにも全く見当がついてない。だが、お前のとこなら信用できると思ってな。」
「ンフフ。ありがたいお言葉だこと。まぁ白鵺様にはいろいろと世話になったご恩もありますからねぇー。」
そう言うと藤は姿勢を正し、
「その仕事、私どもの店できっちり勤めさせてさせていただきます。」
と、白鵺に頭を下げた。
「よろしく頼むよ。」と言い白鵺は屋敷を出て行った。
「さてと、一体誰にこの仕事を任せるかねぇー。」
怪しまれずに白鵺邸に入り込むことが第一に重要になってくる。できるだけ洋一郎の側に入れる者の方がこちらの都合も良い。そうすると洋一郎の世話係としていられる者になってくる。
「んー。」
と藤は誰にこの仕事を当てようか悩んでいた。なにせこの屋敷は男ばかりが目立っている。だが、この仕事に男を使うと怪しまれる可能性が十分にある。さてどうしたものか•••。
屋敷の廊下を歩いていると、パッチンパッチンとなにやら音が聞こえてきた。音のする方へと行ってみると、そこには庭先の木々の手入れをしている1人の女がいた。
「そうだ。あの子がいるじゃないか。」
藤はそう呟くと
「ちょいと。」
と手入れをしていた女を呼んだ。
「何でしょうか。姫。」
「あんたにぴったりの仕事が来たんだよ!」
「はぁ。」
不思議そうに返事をする女に向かって藤はニイッと口角を上げた。
女の名前は妖花と言った。小さな村に生まれ平凡に育てられてきた。だが他の人とは違い、女なのに力がバカ強く、近所の者とケンカしても負けたことは一度もなかった。
「女のくせに力が強い。」村で評判になった。
だが、そんなある日事件が起こったのだ。村の近くで殺しが起こったのだ。遺体は変な骨の折られ方をしており大男が殺したのではないかとウワサになった。だが、そのウワサを一瞬にしてかき消すような話がではじめたのだ。
「近くの村に住む、力のバカ強い女がやったのではないか。」と。
そのウワサは近くの村々にも広がり妖花のいた村にも流れてきた。そのウワサを聞いた村の者たちは一斉に妖花を恐れ、きみ悪がり、村から追い出した。
それを拾ったのが藤である。
「妖花。あんたこの仕事引き受けてくれるかい?」
藤は妖花に白鵺からの依頼を話した。
「私に拒否権などありません。姫の仰せのままに。」
「フフッ。ありがとう。この仕事は言ってみればツツジの思惑が消えるまで続く仕事だ。長期になるよ。」
「はい。」
「何かあったらいつでも頼りに来なさい。」
藤はそう言って妖花を白鵺邸へと送り出したのだった。