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依頼

夜も更け、街からは売りに出された女たちがあーだこーだと黄色い声を上げながら道行く人を店の中へと誘っている。ここは遊郭やら銭湯やらが建ち並ぶ歓楽街。


その歓楽街を抜け、人気のない小道に入ったところに大きな屋敷が一軒建っていた。中にいるのは主に屈強な男たち。中には若い青年や少年にも見られるような齢の者もいた。その中に1人、屈強な男たちに負けず劣らずの凜とした空気をまとった女の姿があったのだった。



屋敷の1番奥にある大きな部屋。今、その部屋には屋敷の主人である女が初老の男を客人として迎え入れなにやら話をしていた。

「わざわざこんなところに足をお運びになるなんて、珍しい事もあるもですねぇ。ねぇ、樟。」

ニヤリとした笑みを浮かべ女は横にいる男に話しかける。

「全くですな。姫。」

『姫』と呼ばれたこの女、名は藤という。身寄りのない者や出稼に来た者を屋敷に住まわせ用心棒としての仕事を与える商売をしている女主人である。

その横にいる樟という男は藤の用心棒として使えている者だった。


「で?今回はどのようなご用件でしょうか。白鵺様。」

『白鵺』と呼ばれた初老の男は街では知らないものはいないくらい有名な事業家の旦那であった。

白鵺は藤を見て、次に樟を見た。その後に小さくため息をついてこう言った。

「わしの孫、洋一郎の用心棒をして欲しい。」

「へぇー。お孫さんに用心棒をお付けになりたいと。」

「そうだ。」

「よっぽどお孫さんが可愛いんですねぇ〜。」

藤がそう言うと白鵺は藤を見た。その目は怒りや憤りなどでは無く、悲しみにあふれていた。藤はその目を見ると姿勢を正し、咳ばらいを1つした。

「お話をお伺いしてもよろしいですか?」

そう聞くとポツリポツリと白鵺は話を始めた。


白鵺には道春という息子がいる。道春は穏やかな性格で店の者にもたいそう可愛がられていた。道春も成長し嫁を取り、子どもにも恵まれた。


その子どもこそが白鵺が用心棒を付けたいと頼んだ洋一郎である。


洋一郎は生まれつき身体が丈夫では無かった為、外で遊ぶ事は少なかったものの頭が良く、好奇心旺盛だった。体調が良ければ店の中をウロウロ動き、店の者に「あれは何か。」「これは何をしているのか。」と聞いて回っていた。その姿を見た道春は自分よりも息子である洋一郎をこの店の跡取りにしたほうが良いと考え始めたのだ。

道春は父親であり店の主人である白鵺に相談した。

白鵺は最初その話を聞いて「こいつは何を言っているのか。」と驚いた。

しかし自分よりも洋一郎の方がこの店を良くしてくれる。と力説する道春を見て白鵺も洋一郎を跡取りにする事にした。


だが、中には洋一郎を跡取りにする事を良く思わない者もいた。

道春の妻、ツツジである。


ツツジは何としても道春を跡取りにしたいと思っていた。最初は息子の洋一郎が跡取りになれば店の金を融通しやすいと思っていたらしい。

だが、洋一郎は考えてみればツツジの思った通りに動いた試しがない。

おまけに最近になって店の者にも「金銭の管理はしっかりするように」と言うようになった。もしかして自分の考えに気づいているのではと疑問に思ったツツジは道春に「まだ洋一郎を跡取りにするのは早いのではないか」と持ちかけた。だが、道春は「自分よりも洋一郎の方が店の為になる」と言って譲らない。


そこでツツジが考えたのが洋一郎を殺して必然的に道春を跡取りにしてしまおうという作戦だった。

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