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天高く突き抜ける迷宮塔140層の街で、俺はダンジョンに挑む

作者: 赤ポスト

やはり、ファンタジーは天空の街。

◆◇ エデンの塔 140層 外縁部 サザンピーク市 アルテマ公園 ◆◇


俺は今ここにいる。

目の前は青い空。

足の下には雲の海。


ふと、石を下に落とす。

ふぅーと重力にひかれて落ちていく。

音もなく雲の中に消えていく。


昔、数々の冒険者が地上から塔の最上層を目指した。

何層が最上層とは分からない。

いつ、誰が何の目的で塔を作ったか分からない。

だが、冒険者はひたすら塔の上を目指した。

冒険は終わることなく続いた。

上にいけばいくほど、高価なアイテムや装備、新技術が手に入った。

だが、上に行けるのは、一握りの人間。

当然落伍者がでてくる。


ここ、エデンの塔140層外縁部、サザンピーク市は落伍者が作った街。

天を突きぬけるようにそびえ立つ、エデンの塔の外部に拡張して作られた街。

最初はただの休憩所だったが、それが徐々に拡大され、今に至る。

ひとつのテントが二つになり。

二つのテントが四つになる。

そうしてテント村ができ、家ができる。

家ができると商人があつまり、街ができた。

街をつくるのには、エデンの塔で得られた新技術が多く使われたらしい。

一体、どうやったら空中に浮かぶ街を創れるのか、俺には分からない。


今では、かなりの規模の街になっている。

去年の発表では、人口が10万人に達したそうだ。

街の住人は、ほぼ全員がセカンドだ。

セカンドとは、この街生まれの人類。

地上から上ってきた人類をオリジナルと呼ぶ。

何故、ファーストと呼ばないか、俺は知らない。


エデンの塔には、大きな正面門があるが、ほとんどの人は近寄らない。

近づくのは、冒険者を送り出すパレートの日ぐらいだ。

近づくといっても、正面門から離れた外門の入り口までだが。

中にはモンスターがうじゃうじゃいるからだろう。

ものすごく強いモンスターが。


通常は、地上から1階層づつ敵を倒しながら、徐々にレベルアップしていくものだ。

だが、ここではそれができない。

そのため、レベル1の冒険者がいきなりレベル100のモンスターに挑むというような構図になっている。

塔にうろうろしている弱そうなモンスターでも、実際はむちゃくちゃ強い。


しかし、街の資源は必要だ。

人口10万人を養うには、何かしら資源が必要になる。

街では、冒険者学校や兵士養成施設がある。

そこで知識と技能を学んだ者がダンジョンに挑み、資源をとってくる。

特に大事なのが、ピーク石と呼ばれるもの。

昔の偉い魔法使いが作ったエネルギー機関、アルテマピーク炉。

この炉に手のひらサイズのピーク石を一つくべると、街の電力が1ッ月持つ。

又、食糧の生産にもこのピーク石と魔法使いの遺産が使われている。

そう、街の生存は勇敢な冒険者がダンジョンからピーク石をとってこれるかどうかにかかっている。

成し遂げれば一躍大スターだ。


冒険者たちは1週間に1度、列をなしてダンジョンに挑む。

それを市民は声援で見送る。

ピーク石をとってくると、楽団が市街地に準備し、盛大に祝う。

だが、最近楽団の姿を見ることは無い。

楽団のトランペットが鳴らない日々が1ッ月続いている。


それなら街がヤバイのではないかと思うが、それは心配ない。

昔、とある大冒険者が、ピーク石を毎日のようにとりかえってきていたので、備蓄には問題ない。

だが、それも時間の問題だろう。

永遠にとってこれなければ、いつかは街は滅びる。


俺は街の最外延部、アルテマ公園で、街の淵に腰掛けながら、足をぶらぶらさせる。

俺の足の下を雲が進んでいく。


「ちょっと、リーチ、そんな所にいると、雲に飲み込まれちゃうよ」


ふと、声の方向に振り返ると一人の少女の姿。

最近知り合った少女、ミリー。

活力あふれる褐色の肌。

肩まで伸ばした黒髪が風で揺れている。


「これぐらい大丈夫。ミリーはいつまでたってもビビリだな」

「危ないからやめなって」

「俺は偉大な冒険者になるんだ。これぐらいで怖がったりしない」

「そう・・・・えい」


俺を後ろから蹴るミリー。


「うぉおおおおお」


淵から落ちそうになる俺。

が、なんとかとどめる。


「クスクス」


笑うミリー。


「な、なにすんだよ。落ちるところだったじゃねーか」

「あれ~偉大な冒険者様はこれぐらいへっちゃらでしょ?」

「こ、怖くねーけど、危ないだろ」

「ふ~ん。そうなんだ」


「クスクス」


この基地外女に関わると危険だ。

この女とはあまりいい思い出がない。

見た目はかわいいが、中身がやばい。

その内、俺はこいつのせいでとんでもないことになる気がしてならない。


「で、なんのようだよ、ミリー」

「そうだった。これ」


ミリーは俺に一通の手紙を渡す。

手紙には、赤い蝋燭で封をしてある。

その赤色を見て、俺は表情を硬くする。

そのまま突き返そうかと思ったが、ミリーがこちらをニコニコと見つめている。

先程虚勢をはってしまった性分、見ないわけには行かない。

俺は中を見る。


「娘が病にふせっている。治療に必要なのはガンビーク草3つ。これを取ってきた物には褒美として1000ギルを進呈する」


いつもの依頼だ。

俺は時々、便利屋の様なことをやっている。

市街地内部で完結するものもあれば、エデンの塔のダンジョンが関係する物もある。

赤い蝋燭=エデンの塔関連の依頼。

大抵の便利屋は、赤色の依頼は受けない。

いくら報酬があろうと、常に命の危険が伴うからだ。

これらを受けるのは、アドレナリン中毒なジャンキーか、正義感にかられた馬鹿、金に困った者だ。

今回のターゲットはガンビーク草。

ダンジョン内に生えている薬草。

それ程レアリティは高くない。

だが、そこはもちろんダンジョン。

常に死と隣り合わせだ。

俺は思考し、


「受けるよ」


ミリーに返事をする。


「いいの?これ赤蝋だよ?」

「受けるっていったろ」

「そう。なら私もついて行こうかな」

「は~、だめだ。俺は一人で行く」

「ほんとにいいの~?私、草の場所しってるんだけどな~」


何?

場所を知っているだと。

それは俺が喉から手が出る程欲しい情報だ。

そうすれば危険をかなり回避できる。


「で、どこなんだ、その場所は?」

「一緒につれてってくれるの?」

「場所だけ教えてくれ、報酬は山分けだ」

「やだ。一緒じゃなきゃ教えない」


ミリーは胸の前で手を組んだまま、プイッっと顔をそむける。

こいつがこの顔をしたとき、考えを変えることは無い。

しかたがない、


「分かった。だけど、必ず俺の言う事をきけよ」

「うん」

「じゃあ今夜いくぞ。夜の8時、エデンの塔入り口にある、東の戦士像前で待ち合わせだ」

「分かった」


そうして去って行くミリー。

公園の木々の間に消える少女の姿。

ミリーと一緒か。

ふと、ため息が出る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



◆◇ 夜8時 戦士像前 ◆◇


「おまたせ~」


ミリーが俺に近づく。

身軽な格好。

肩がつきでたタンクトップに、太ももが良く見えるホットパンツ。

腰には右腰には短剣、左腰には杖を装備している。

軽業系の魔法剣士の装備。

まるで夜遊びにでもいきそうな格好。

まぁ、いいか、こいつの装備だ。


「じゃあいくか」

「ちょ、ちょっと。私の恰好に何かないの?」


俺はもう一度見る。

肌の露出が多い服装。


「お前、死ぬぞ」

「そうじゃなくて、ほら、もっとあるでしょ」


微妙に体をくねらせるミリー。

俺はただそれを見つめる。


「・・・・・」

「も、もういいわよ。それに魔法使いの場合は魔法でバリアをはっているから、布があるかないかなんて関係ないの。魔道具装備の衣装だったら違うけど・・・・」


知っているけど、普通はそんな露出しない。

まぁいいか。


「よし、いくか」

「そうだね」


俺はエデンの塔内部に向かう。

クイクイっと袖を引っ張られる。


「ん、なんだ?」

「そっちじゃないよ」

「え、だってこっちが入口だろ」

「そうだけど、正面からいくわけないじゃん。そんなことしたらモンスターに遭遇して死んじゃうよ。声援で見送られる冒険者達も、皆、わき道から入ってるんだから。こんなこと冒険者学校の初日に習う事だよ」

「え!」


そうなの?

まじで?

俺、いつも正面から入ってるんだけど・・・

だってここ入り口じゃん。

冒険者達も、市民に見送られてここまで来てるじゃん。


でも、思い返してみると、入り口では誰にもあったことないな。

だがそれを悟られるわけにはいかない。

絶対に変な目で見られる。


「そうだよな。ただの冗談だよ」

「本当?素で入口に向かって様に見えたけど」

「ダンジョンジョークだよ・・・ははは」

「まぁいいわ。ほら、こっち」


そうして俺はミリーについていく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



入り口から少し離れた場所。

街の市役所のトイレのような、こじんまりとした入口がある。

その前で、ミリーが立ち止まっている。

え?

まさか?

ここなの。

本当に?

このすんごいしょぼい場所が入口なの?

俺は、ただ茫然と入り口を見ていた。


「どうしたのよ、あんた、初めてってわけじゃないでしょ」

「いや・・・いつきても入口だなと」

「そりゃそうに決まってるでしょ。いつまでも馬鹿いってないで、早くいくわよ」

「そうだな・・」


ミリーが紙になにやら書いている。

ミリーの名前、そして俺の名前、今の時間。

紙には、「ダンジョン入場者名簿とある」。

注意書きとして、退出時は必ず「退出欄」にチェックを入れて下さいとある。

ミリーが書き終えると、紙が光りだす。

この紙、魔道具なのか・・・

って、こ、こんな仕組みがあったとは・・・

正面の入口にはなかったはず。

いや、よく見るとあるのかもしれない。


「じゃぁ、行きましょうか」

「そうだな」


俺はミリーに続く。

おかしい。

俺がミリーをひっぱるのではなく、ミリーに俺がついていく形になっている。

そりゃ、ミリーが草の場所知ってるんだからその隊形でいいんだけど、なんか違う。

こう、なんだろう雰囲気というか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



しょぼい入り口から入ると、ダンジョンの内部の様子も違った。

正面の門から入ると、やたら広い通路に、異様に高い天井、まるで絵本の神殿のような荘厳な作りのダンジョンになっているのだが、ここはひたすらしょぼい。

突貫工事で作ったような通路。

どうみても作業員通路にしかみえない。

俺の中で神聖なダンジョンのイメージが崩壊していく。

こんな俗っぽい所ではなかったのに。


ミリーはすり足で進んでいく。

まるでカニのように進んでいく。

なにやってんだこいつ。

異様に慎重に進んでいく。

俺はついつい衝動に駆られ、後ろからミリーの背中を押してみた。


「ひいいい!」


っと叫び、バタンと倒れるミリー。

すぐに起き上がり、涙目でこっちを見る彼女。

俺に近づき小声で。


「な、何すんのよ?ここがどこだか分かってるの?」ヒソヒソ

「え、どこって、ダンジョン内だろ・・・」

「ちょ、ちょっと、声が大きい、モンスターがよってきたらどうするのよ」ヒソヒソ

「来たら戦うんだろ」ヒソヒソ


ミリーは俺を唖然とした目で見てる。

ん?

何かまずいこと言ったか。

そうか、戦うか。

確かにあいつらと戦うのは面倒だからな、逃げるのが正解だな。


「いや、ダンジョンジョークだよ。逃げるだろ」

「リーチ。そのジョーク。全然面白くないからやめて」


ミリーは真顔で俺を見る。

それにたじろぐ俺。


「お、おう。気をつける」

「分かったら、慎重に進むわよ」


そうしてすり足で進むミリー。

見ているのは面白いが、じれったい。

だがしょうがない。

場所を知っているのはミリーだ。

俺はミリーの後を普通に歩いていついていく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



そして、何度か分かれ道を進み、少し開けた広間に出る。

そこは天井から滴り落ちる水滴が水たまりを作り、その周辺に草が生えている。

良く見ると、ガンビーク草だ。


「あったわ、やったー」


と小さく呟き、草に近づくミリー。

僅かに揺れる水たまり。

水は生物の生きる糧。

それはダンジョン内の一部のモンスターとて同じこと。


「ま、待て」


俺はミリーに叫ぶ。

だが、遅かった。


「GURRRRRRRRR]


待ってましたと言わんばかりに叫び声を上げ、岩陰から出てくるゴブリン。

水場によって来る獲物を待っていたのだろう。

良く見ると、この水場、至る所に傷跡が有り。

壁には血の様な物がこべりついている


「な、ななな・・・」


そう声にならない声を上げたまま、腰を抜かし、地面に座り込むミリー。

ごぶりんと見たまま体を振るわせ、口を動かす。


「き、キングゴブリン」


そうすると彼女は腰を突きながらも、杖を左手に持ち、何やら呪文を唱える。

彼女の杖から飛び出る炎の塊。

キングゴブリンにそれが当たる。

だが、全くのノーダメージ。

肌が焼けることも、燃えることもない。

ゴブリンに反応はない。


「な、なんで・・・・・」


それを見て唖然とし、パタンと気絶するミリー。

あいつ、全然ダメじゃねーか。


そんなミリーに近づくゴブリン。

いや、キングゴブリンか。

どっちでもいいが。


俺は剣をさやから抜き、地面を叩く。

鳴り響く音。

音に反応してこちらを見るゴブリン。

俺は一気に加速し、ゴブリンの右腕めがけて斬りかかる。

とっさに避けるゴブリンだが、その腕から緑の血を流す。

振り切った剣の勢いのまま回転し、ゴブリンの右足を切りつける。

深くはいった斬撃。

ゴブリンはガクンと膝をつく。

俺は奴を見る。

ゴブリンは俺に怖気づき、後退していく。

俺は追わない。

ゴブリンの血の匂いは中々とれない。

殺せば大量の返り血を浴びることになる。

そうしてゴブリンの姿が見えなくなったのを確認し、俺はガンビーク草を適当にむしりとる。

10草ぐらいあればいいだろう。

取りすぎてこれ以降採れなくなると困るからな。

それを腰のポケットにいれる。

そして気絶したミリーを背負い、入り口に戻る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



◆◇ サザンピーク市 外縁部 アルテマ公園 ◆◇


俺はミリーを背負ったままここに来た。

ミリーは隣ですやすやと眠っている。

俺は流れていく雲を見ている。

昨日も今日も変わらない雲の動き。


「んん」


ミリーが声を上げ、目を開ける。

そして起き上がり、周りをキョロキョロと見回す。


「あれ、なんで?私、ダンジョンでキングゴブリンに・・・」


っと、横にいる俺に気づく。


「俺がゴブリンの隙をついてお前をここまで運んだ」

「え、じゃあ、ガンビーク草はお預けか・・・」

「いいや、それならあるぞ。ほら」


俺は袋から草を取り出す。

それを見て驚くミリー。


「え、でもキングゴブリンがいたんでしょ」

「偶々、奴は怪我していて動きが遅かったからなんとかなった」

「そ、そうなんだ・・・」

「これ、依頼主によろしく。金は後でいいから」

「うん」


ミリーはガンビーク草を受けとり、腰のポーチにいれる。

俺は再び、流れている雲を見ている。

そんな俺を見るミリー。


「ねぇ、リーチ」

「んん、なんだ」


ミリーは俺の顔を見る。

顔を赤くし、恥ずかしそうに。


「ありがとう」


っと呟き、俺の頬をポンポンと摩る。

ミリーの柔らかい掌の感覚が頬に残る。


「あぁ、ネコババすんなよ」

「し、しないわよ」


そういって去って行くミリー。

俺はただ、足の下で流れていく雲を見つめていた。













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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い、生まれた地点の魔物が弱くないこととか。
[一言] 本人気付いてないけど本当は強いとかいいですよね! そのうち門から堂々と出入りしてみんなに驚かれる所とか読んでみたいです(笑)
[一言] 読みたい。面白い
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