後悔先に立たず
最初はよかったんだ。仕事内容はMMOのデバッグで一日8時間ゲームさえすれば、何やってもいいって言われたし、8畳ぐらいの個室が貰えて、飯は部屋の外の大会場でバイキングだった。
部屋から出れば他の人に会えたし、1ヶ月で一旦契約終了って聞いたけどそれだけで年収2年分以上だったし、更新もあるって聞いたから、他の皆も家に帰らず頑張ってたと思う。
ゲームの内容的には変わり映えのない普通のMMOで、いい所を挙げるとすれば、今までやったMMOとは段違いに細部まで作りこまれ綺麗に表現されていることだった。でもそれだけ。
自キャラの外見は固定だったけど、デバッガーなのでどうでもいいし、一通り動いてみたらヌルヌルのスルスルでクラックはないし、景色は絶景写真のようだった。
そうそう。もう一つ、NPCの会話バリエーションが豊富で、AIなんだか中身入りなんだか判らない出来だった。
戦闘してたやつらはなんか魔法が創れたりして凄いらいくてめちゃくちゃ感動してたけど、そっちはやってないのでスルー。
地味に生産や自由栽培なんかが充実してて鯖の容量が大丈夫か心配になった程。
本当によくあるMMOだったけど、ディテールの再現がハンパなくてちょっと感動した。
正式版が出たら必ずプレイしようと思う程度には興奮した。
で、最後の日にゲーム内の神殿みたいなところにいってデカイ光る球と順番に会話したんだ。
すぐ終わる人もいたし、長い人もいた。俺は普通?
とにかく、重要なのは球が『契約更新できる』と言ったことだった。
マジで嬉しかった。しかも半年だって。まじか!年収12年分!!と狂喜乱舞したのは良い思い出です。
あれ、なんかおかしくね?と気づいたのは、選抜組と呼称されるものになって、仕事場が移動になってからだった。
それまでいた中層ビルからまた中層ビルに移ったんだが、普通のビル街のビルの一つだと思いきや、職場そのものは明らかに大深度地下に作られていた。
ビルの入り口にガードマンと、あと頻繁に扉があったなぁと今更ながら思う。しかも銀行の金庫みたいな扉とか重厚感ぱねぇかった。
個室は推定8畳から推定5LDKになったけど、だけどですよ、奥さん?
だだっ広いだけの部屋から一切出られないとか、生身の人間と画面以外で会えませんとか、指令が天井あたりから降ってくる声だけですねとか、挙げだすとキリがないんだが、とりまホームシックが酷い。
寝ても覚めても一人で誰とも会話できなくて、一人なのに監視されてるし、ネットは見れないし。
一人ぼっちまじで寂しい、侘しい、心細い。ボスケテ。
人間って集団を作って生活しないと駄目なんだなと身をもって思い知りますた。異論は認めん。