夏の始まりの事でした。4
そう思ったのも束の間だった。
サツキは手渡されたアンケートに目をやる。
①どんな女の子になりたい?
A.かわいい B.かわいくない
「ふむふむ、かわいいにまるっと」
以上でアンケートは終わりです。
ご協力ありがとうございました。
「ふむふむ、おわり!?」
「おー終わったー?」
天使はサツキの手からプリントを奪い眺める。
「なるほどーAね!よし、それじゃあいくよー!」
天使は勢いよく羽根を広げ、両膝を離し、両手を交差させ、手のひらを空に向ける。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
ただでさえおどろおどろしい空が、大気の乱れに拍車をかける。
明らかに天使が操っている様子だ。
「ちょちょちょ、ちょっと待って」
天使はサツキの言葉に反応し、すぐさま手をチョキにして応じる。
大気の乱れはぴたっと止まった。
「それで止まるんだ…」
「んもー集中してるのに止めないでよー」
「いやあんなアンケートで、本当に大丈夫なのかなって」
サツキには一抹どころか百抹の不安がよぎっていた。
「大丈夫だってー。女の子なんてそれが全てでしょー」
「クレームが来る前に各方面に謝っとけ」
「まあまあ、とりあえずあとは私に任せてー」
サツキは瞬時に熟考する。
正直不安ではある。
だが天使に全て任せる以外俺には考えられない。
目の前にいる天使、今まさに非現実的な出来事が現に起きている。
非現実な出来事というのは、現実の上に重なるのが難しいだけだ。
非現実の上に非現実を重ねるのは容易。
一つハードルを超えてしまえば、もう何が起きても不思議ではないからな。
つまり天使の存在を信じた俺にとって、天使の言うことを信じることくらい容易いということだ。
とまあ、理屈をこねまわしたが本当はそんな難しいことじゃない。
ただ女の子になれる可能性が微塵でもあるのならば、そこに全てをBETするだけだ。
「よしわかった!お前に全てを任せる!だから俺を女の子にしてくれ!」
サツキの許可がおり、天使はチョキをパーに変える。
再度乱れ始める大気。
強風に煽られながらも必死に立ち尽くすサツキ。
天使はすーっと息を大きく吸い言い放つ。
「行くよー!」
「来い!」
天使は手のひらをパーからグーに素早く変え、叫ぶ。
「かわいい女の子になぁれー!」
サツキの体中に天使の叫びが響き渡る。