夏の始まりの事でした。1
「はあ…」
終礼の鐘が鳴り響き、クラスメイトが続々と教室を後にする中、一番後ろの窓際の席でサツキは三回目のため息をつく。
「おいサツキ、さっきからどうしたよ。恋煩いか?そういう楽しい話ならいつでも聞いてやるぞ」
隣席からの声。
「そんなんじゃねぇよ。そうだったらどれほど良かったか。おそらく一生この悩みは解決されないからな」
「あーいつものお前の持論か。もう諦めて、いい加減男を謳歌したらどうだ?そればかりは幼なじみの俺でも解決してやれねぇよ」
ナギサはいつも俺のこの持論を華麗にいなす。
これが幼なじみのなせる技か、慣れたもんだ。
慣れさせたのは俺だが。
「あーそうだな。でもこれは生まれ持ってしまったものだからな。俺は女の子が好きなんだ!好きだからこそ、女の子になりたいんだ!」
「うん、清々しいほどの変態っぷりだな、相変わらず。俺以外にはカミングアウトしない方がいいぞ」
ナギサは全く引く素振りを見せずにいる。慣れとは怖いものだ。
「それより明日から夏休みだぞ。今年も海行くからな。予定空けとけよ!じゃあ、俺部活行くから!」
そう言ってナギサは教室を出ていった。
「帰るか…」
サツキは机の中の教科書を鞄にしまい、誰もいなくなった教室をあとにした。