僕と君の雑談物語《七夕》
「さーさーのーはーさーらさらー」
「もう七夕か」
「あなたの家では何するの?」
「別に何もしないな」
「えっ」
「至って普通の1日が過ぎていくと思われ」
「そうなの?」
「だって直前まで期末試験だし」
「出来れば思い出したくなかった」
「現実逃避ダメゼッタイ。で、君の家は何かするのか? 七夕」
「うちは妹もいるから、ちゃんと笹飾って短冊に願いを書いたりするわよ。最近の子供が書いた短冊見てるとすごいわね。七夕とクリスマスが混在してる」
「まあそんなものだろ」
「そういえば、小学校の頃は給食で七夕ゼリーが出たこともあったっけ。懐かしいなあ」
「君なら七夕ゼリーだろうがクリスマスのミニケーキだろうが冷凍みかんだろうが喜びそうだけど」
「さすが私のことをよく分かってるわね。冷凍みかん美味しい」
「……お褒めに預かり光栄です」
「でも今年は短冊に何てお願い書こうかな。やっぱり恋愛のお願いが主流なの?」
「本来は織姫に、学問や裁縫なんかの上達を願う行事だからなあ。恋愛のお願いはお門違いかもな」
「えっ知らなかった」
「大体、1年に1回恋人と会えるのに、何が嬉しくて他人の恋愛の願い事なんて叶えなきゃいけないんだよ。俺なら拒否る」
「あなた結構冷めてるわね」
「生まれつきだから仕方ない」
「でも、1年に1回とはいえ、雨が降ったら会えないじゃない」
「雨が降ったら、カササギが飛んできて橋を作ってくれるらしい。つまり会えるには会えるらしいぞ」
「……かささぎの渡せる橋におく霜の?」
「ああ、あの和歌もそういう意味が含まれてるらしいな。もっともあれは冬の歌だけど」
「へえー。にしても、織姫や彦星ってヘタレだと思うの」
「何をいきなり」
「だってそうじゃない? 私なら1年に1回と言わず、天の川なんか飛び越えて会いに行っちゃうけど」
「…………」
「どうしたの?」
「君なら本当にやりかねないなと思って。相手が気の毒だ」
「そう? まあ、私についてこられるのはあなただけだと思うけど」
「……そりゃどうも」
「織姫になりたいとは思わないけどね」
「それは俺もだ」
「……さて、今年は会えるのかしら。織姫と彦星は」
「多分な」