第三話
「片山ぁ!チェック終わってんのかよ!」
相変わらず鳴り止まない電話が響く中、デスクが叫ぶ。
「終わったってさっき渡しましたけど!」
一瞬だけ顔を向けて怒鳴り返す。膨大な資料に埋もれながら、必死にまとめていたところなので、デスクの勝手な勘違いで思考をストップさせたくなかった。私は今まさに戦っている最中なのだ。
でもやらなきゃいけないことはこれだけではない。同時進行で取材や後輩の面倒も見なくてはならないし。トイレにも行きたい。
「先輩、この前言ってた十円まんじゅう買ってきましたよ☆食べません?」
こんな状況を見ながら尚美が話しかけてきた。私は頭に浮かぶ十円まんじゅうを振り払いながらひたすら目の前の紙だけを見て、
「いらねーよ!」
と顔をしかめた。それなのに
「なんでですかぁ?先輩食べたいって言ってたじゃないですか〜!せっかく並んで買ったのに…」
とすっとぼけた声で返された。
並んで?並んで?その言葉に我慢ができず、右手のペンをパン!と机にたたき付ける。
「尚美!あんたねぇこのくそ忙しい時に!まんじゅう買う暇あったらコピーでも取りなさい!」
振り向きざまに怒鳴りちらすと、はた、と視線が止まった。時計の針が一瞬見えなくなるほど目眩がしそうになる。
「ヤバイ!もうこんな時間?!」
急いで立ち上がる。
「そうですよ〜。もうお昼とっくに終わってるから、おまんじゅうでもと思ったのに〜。」
「今日取材があるんだよ!半年粘ってやっとこぎつけたアポなのに〜!」
手帳を探しつつ足元のバッグにテープレコーダなどを雑に詰め込む。これが私の悪いとこ。一つの作業に夢中になると時間を忘れてしまうのだ。やっと波に乗った原稿もほったらかして、ボサボサの髪のままタクシーに飛び乗った。