第二話
《ごめんやっと終わった。今から向かいます。》
手早くメールを送信すると、戦場のような職場を後にする。そう、私にとってここは戦場であり私は戦う侍なのだ。だから戦の後に広海に会えると、ほっとして凄く嬉しい。
いつものダイニングバーで広海は待っていた。21時をとうに過ぎているけど、苛立つ様子はなかった。
「お疲れっ。今日も戦ってきたね。」
広海の中でも、私は戦う女らしい。
「急に原稿届いちゃってさ、チェックに追われて…」
申し訳なさ気に言い訳を始めると、すぐに遮られた。
「いいよ。俺も急に誘っちゃったし。じゃあいつもの頼む?」
いつもの、とは私の大好きなパスタセット。自分も何も食べないで待っててくれたのが非常に申し訳ない。でも、
「やっぱり一緒に食べた方がおいしいよね。」
と彼ははにかむ。いつもそうだ。いつもはにかんでいる。その顔がたまらなく可愛いと思う。
「凄い久しぶりだよね。会いたかった。」
私が言うとまたはにかんで、俺も、と言う。
四年も付き合っているのにまだ新鮮な空気が残っているのは、お互い忙しくてなかなか会えないせいなのか。
広海はCADという仕事をしていて、小さい会社だけどなんでもかんでも引き受けちゃうものだから結局全部押し付けられて休日出勤当たり前の日々を送っている。
私は私で変則的な仕事だから、会えるのは多くて月に一度程度。それもどちらかの仕事終わりにご飯を食べる程度で、家に泊まったとしても疲れが先に来てすぐに寝るだけ。恋人がいるのに欲求不満カップルなのだ。だけど浮気をしようなんて思わないしそれ以前に気力体力ともに無し。広海は若いからわからないけど、してないと思う。
今日もダイニングバーを出たあと私の家に泊まったけど、やっぱり寝るだけ。疲れてるから嬉しいけど、好きだから寂しい。いつも複雑な気持ちで寝るのだ。