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トリップ・ストーリー  作者: リッキ
第二部 冒険者ギルド編
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第八章 新たな冒険者

「はぁ……」


 紙袋を両手で抱えながら、巧は盛大に溜息を吐いた。

 隣を歩くララが、武器店を出たときから続く『評価』という刃で切り刻んでくる。


「――大体、お前ほどの筋力を持っていながら、あの程度の演武で汗をかいてる段階で動きに無駄が多すぎる。なまじ力がある分剣速は早く、止めることも出来ていたがな――」


 彼女の言葉の一言一言が胸に突き刺さる。

 巧の演武モドキの後、ララから評価を聞きながら、近くの防具店にて買い物をした。今巧の持つ紙袋には皮の胸当てと脛当て、ベルトと小型のベルトポーチ2つが入っている。

防具はやはり少し高くついてしまった。

 巧はララの言葉に反論するように、弱々しく言う。


「まあ、初めてだったからね……」

「そうだとも! 一番の疑問はそこだ!」


 ララが語調を強くして振り向いた。


「お前、本当は何の武術をやっていたのだ?」

「えーと……何も」

「そんなわけないだろう!」


 ララに詰め寄られ、巧は若干仰け反ってしまう。


「以前ははぐらかされたが、その筋力はどうつけたのだ!?」

「筋力の鍛錬で……」

「それだけでそうはならん! ただ力が強いのと、動かせるのとは大違いだ!」

「ちょっララ! 周りが……」


 と、ここでララが周囲を始めて見回した。通りを歩いていた人々、露天商、店頭の掃除を行なっている者達がそれぞれの動作を止め、2人を見ている。

 途端に赤くなる2人。ララが咳払い1つ、元のように歩き始めると周囲の人々も釣られて元の日常へと戻っていった。


「まあ、話したくないならいいが……結局獲物はどうするのだ?」

「そこなんだよなぁ……」


 言って、巧は自分の腰を見た。

 右腰に1本、大きめのナイフが差してある。先ほどの武器店で購入したものだ。


「この形状のナイフだと、大型相手には厳しいのかな?」

「だろうな。刺し貫こうにも柄が邪魔をする。しばらくはそれと魔法でもいいが……」

「魔法、かぁ……」


 その単語を聞き、巧は天を仰いだ。

 上級魔術師に匹敵する魔力を持ち、『通常の性質ではない魔力』を持ち、その魔力の扱いにも長ける巧だったが、


 まさか落とし穴が存在するとは……。



    ●



「魔力効率が悪い?」


 数日前立ち寄った街の宿屋で、イリアにこんなことを言われた。

 小さな街の宿屋の2階。イリアとララの2人部屋で巧はその言葉を聞いていた。彼は窓際の椅子に座り、イリアはベッドに腰掛けている。ララは席を外していた。

 時間は夜。ほぼ街が寝静まった状態で、2人の『反省会』は行なわれていた。


「数日間、タクミさんの魔法の使用を見てきました。魔力展開、発動時間に関しては問題無いどころか私以上です。そして――」


 言葉に続けて、イリアは右の人差し指を立てた。


「1つ。タクミさんの魔力についてわかったことがあります。本来、魔力は自身のものしか感じることは出来ません。ほぼ全員の人が、『揺らぎ』として魔力を目で認識することが出来ます」


 しかし、とイリアは続ける。


「タクミさん、今日中級レベルの魔法の使用をしましたね?」

「うん。『大氷柱』だよね?」


 魔法の発動のプロセスは単純である。

 攻撃魔法の場合、魔力を体外へと『展開』し、そこに『命令』という形で魔法の形を具現化させていく。『火』と命じれば魔力を媒体に炎が発現し、『水』と念じれば水が現れる。指向性も同じで、『前に飛べ』と命じれば発現したものが前へと移動する。

 幸いと言うべきか、それは巧が最初に捕らわれていた砦で行使した魔法の発動と同じだった。イリア曰く、「そんな簡単に出来ない」とのことだが。

 そしてその発動手順を使い、巧は今日初めて中級魔法を使用したのだが、


「あの時、私もララも、確かにタクミさんの『魔力』を見ました」

「え? それって……」

「本来ありえないことです。大気中に存在する魔力濃度が『濃い』場所で観測されることはあるのですが、人間1人の魔力量では絶対に無理です」


 巧の魔力量は非常に多いのだが、あくまでこの世界の人間の範疇である。


「そしてまあ、これが問題なのですが……」


 一息置き、


「『大氷柱』の発動の時に流れ込む魔力量があまりにも多いです。魔力は『命令』を受けると消費され、魔法が発現するわけですが、タクミさんの場合その『消費』がかなり多いです。ええっと……ちょっと言いづらいんですけど……」


 ややあって、


「……落ちこぼれというレベルで」


 言葉に巧が仰け反った。「あー」という吐息とも溜息とも取れる声を漏らして、


「まさか……そんな欠点があったなんて……」

「あ! いやでも! あくまで流れ込んだ魔力量は目測ですから! しっかりと検証データを取れば何か抜け道がもしかしたら万に1つ!」

「ふぉ、フォローになってないー!」


 あれぇ、とイリアが魔術師の目のまま首を傾げた。

 そういえば、と巧は思う。砦のときは大丈夫だったが、その後の魔物との戦闘で魔法を5発6発と多く使用していると、体が非常にだるくなってくるのだ。


 ……あれが魔力を多く消費している状況のことかな。


 正面、イリアが少し目の輝きを押さえて、


「とにかく、タクミさんは魔力量で何とか誤魔化せていますけど、魔力効率の面がかなり足を引っ張っています。実質の魔力量は常人と変わらないぐらいかと」


 イリアの言葉を聞き巧は再び溜息をつく。

 それに彼女が慌てて、


「あ! でもいいことも2つほどわかりましたよ!?」

「いいこと?」

「まず1つですが、それこそ魔力を見ることが出来るってことです。流れ出る魔力量が多ければ観測出来るようです」

「でもそれって、相手からしたら『こいつ魔法使うぞ!』って目印になるんじゃない?」

「えーと……それは確かにそうなんですが……」


 突如弱々しくなったイリアの言葉に巧は3度目の溜息。

 イリアは顔の横で手を振りながら、焦るように言葉を続ける。


「でも! でもやっぱりいいことです!」

「どうして?」

「はい!」


 ララが一度言葉を切り、何故か目を魔術師のそれに戻した。


「魔法研究するのに、凄くいいのです!」

「えっ……」

「魔力自体を観測することが出来れば、魔法使用の魔力の流れを複数の人が見ることが出来ます! 魔力量を測ることが出来れば、消費魔力の目安にもなります! どんな『命令』でどの程度の魔力が消費されるのか……タクミさんの魔力効率が悪くても、それを元に魔術師の実力に応じた魔力効率を数値化出来れば魔法技術が10年分、いや20年分は進展するでしょう!」


 熱く言葉を喋り終えたイリアは肩で息をしている。巧は若干引いていた。

 直後、


「というわけでタクミさん」


 イリアが好奇心と研究心の権化となった。


「被験者、やってみませんか?」

「嫌だあー!! ララぁー! 助けてー!!」



    ●



「姉さん、『美人には色々あるのよ』って言葉は間違いじゃなかったんだね……」

「どうしたタクミ。――何故涙を流している」

「な、何でも無いですよー僕は大丈夫ですよー」


 棒読みで追求を逃れようとすることに巧は既視感を覚えた。

 美人な脳筋エルフと美人でマッドサイエンティストなエルフと旅をしていることを故郷に涙ながらに訴えていた、なんて口が裂けても言えない。ミンチか開きにされる。

 惨劇を思い浮かべ身震いすると共に、数日前のことを再び思い出す。


 『いいこと』……か。


 興奮状態のイリアを何とか落ち着かせ、その後彼女から2つ目の良い報告を受けた。

 それは、


 『強化魔法』か……。


 イリアの話では、攻撃魔法のような体の外で魔法を発現させる『体外魔法』での魔力操作と、強化魔法、体内で魔法を発動させる『体内魔法』での魔力操作は大きく違うものだと言う。

 そして、魔力操作が違えば発動条件も違い、『消費』のされ方も違うと言うのだ。故に人間それぞれに魔法の得意不得意が存在する。


 ララは……。


 心の中で呟きながら、巧は正面を歩く少女を見た。あまり格好のつかない渾名を与えられてしまう原因でもあるが、ララの強化魔法は凄まじいレベルのものだと言う。しかし、


 攻撃魔法は苦手と言っていたな……。


 言葉で聞いただけで、実際に魔法を使っている場面を見たことはない。しかし、使わないならそれなりの理由か、あるいは『使用する意味がない』のどちらかだ。


 俺は……。


 どうなんだろうな、と巧は思う。体外魔法がてんて駄目だったのだから、体内魔法は逆であってほしい。そんな期待にすがりたかった。

 この街に来るまでの旅では、基本的な魔法として体外魔法しか追求しなかったが、こうなったらいよいよララに色々と教わらなければならない、と巧は思う。

 その時、


「ララ!」


 2人の正面、そこに立つ人物から声がかかった。

 イリアだ。左手で紙袋を抱え、右手には賊の砦から持ってきた金貨の入った壷を抱えている。彼女は笑顔をこちらに向けており、


「イリア様!」


 ララが歩調を速めてイリアへと近づいていった。巧もそれについて行く。


「そっちは終わった?」

「はい。巧にナイフと皮の防具を。――あ、持ちましょう」

「ありがとう。私のほうも食料に薬に水……後、これの『鑑定』を済ませてきたわ」


 イリアはララに紙袋を渡し、壷を両手に抱えた。金属音が細かく連続する。


「どうだったのですか?」

「本物だったわ。鑑定士も驚いてた。『賊がこんなに溜め込んでるのも珍しい』って。多少色をつけて払っといたから、変な噂が流れなければいいけど……」

「まあ大丈夫でしょう。私達だって堂々としていれば問題ありませんよ」


 ララの言葉にそうね、とイリアが頷きを返した。


「宿屋にいきましょう。日が落ちる前に部屋を取っておきたいわ」

「そうですね。タクミ」

「うん。行こうか」


 会話を終わらせ、3人は歩き出した。



    ●



 夕刻、人通りの多い首都の道を歩く1人の少女がいた。

 背まで伸ばした赤みがかった髪を揺らし、同じ色の目で正面を見て歩いている。綺麗に磨かれた金属の腕当てや胸当てが太陽の光を乱反射していた。布の鞄を背負い、両腰に1本ずつ、計2本の長剣を携えて少女は道を行く。


「冒険者か……」


 呟く彼女の手には、新品の輝きを放つギルドカードが1枚握られている。

 彼女はそれを眺めながら、


「見返してやるんだから……」


 自分に『期待』しなかった人物の顔を頭に浮かべながら、少女は強く決意する。荒くれ者の多い冒険者という職だが、強い者がのし上がれる世界だ。

 そう思いながら少女は、足を止めた。右手側には1軒の宿がある。

 停止は一瞬。彼女はその宿へと入った。

 中央奥のカウンターの右には奥へと続く通路、左には階段があり、手前のスペースにはテーブルと椅子が置かれている。

 彼女はそんなエントランスを一度見回し、カウンターへと身を進めた。

 受付には黒髪を短く切り揃えた中年の男がいる。

 彼は下に向けていた視線を少女に動かし、


「いらっしゃいませ」

「部屋は空いてる?」

「高級部屋は埋まっております。安い1人部屋が空いています」

「それでいいわ」


 少女は答え、腰のポーチから巾着を取り出した。


「1泊10ゴールド。朝食込みで15ゴールドになります」

「20日分、朝食込みでお願い」


 言って、少女はカウンターに巾着から取り出した金貨3枚を置く。

 男はそれを受け取り、横に置かれた冊子とペンを少女の前に出す。


「帳簿に名前をお願いします」


 少女は帳簿を開き、前の客の名前の下に自分の名前を書き込んでいく。

 『フィーネ・ラトリア』。

 書き込み終え、男に帳簿とペンを渡す。男は名前の横に宿泊日数を追加で書き込み、


「ご利用ありがとうございます。お部屋へのご案内は?」

「結構よ。場所だけ教えて頂戴」

「左手の階段を上って右の奥のほうになります。部屋番号は6。扉に数字が彫られているのでご確認下さい。朝食は日出したら右手側の通路奥の食堂までお越し下さい。湯が必要なときは仰って下されば用意いたします。昼に1度、従業員が部屋を掃除いたしますので貴重品の管理は厳重にお願いします。鍵のかけられる金庫が部屋にありますので」


 最後に男はカウンターに金属の小さな丸プレートがついた鍵を置いた。

 少女、フィーネがそれを受け取り、


「ありがとう」

「どうぞごゆっくり。何か用があればなんなりと」


 男に会釈し、フィーネは歩き出す。

 階段を登り、窓からの太陽光で照らされる2階通路へと出て右側へと歩みを続ける。通路の右側にある部屋への扉を1つ1つ確認していき、


「あった」


 6。

 その前で立ち止まり、受け取った鍵を見る。紐でくくりつけられた丸プレートにも同じく6が刻まれている。

 それを確認し、扉の取っ手上にある鍵穴に鍵を差し込み捻る。ガチャリと音が鳴り、鍵を引き抜き、取っ手を回す。

 部屋へと入った彼女は、


「結構綺麗じゃない」


 1人部屋なので少々狭いが、床や壁は綺麗に拭かれている。右手側には部屋の半分近くを占めるベッドが置かれ、奥には窓、そしてその下に四角テーブルと机がある。机の上に乗っているのが金庫だろうか、黒い箱に鍵が差し込まれている。

 扉を閉め、内側から鍵をかけた。

 テーブルに近づきながらフィーネは腕当ての留め紐を解き、バックルを緩めて外す。テーブルに両腕につけていた腕当てを置き、同じ要領で胸当ても外してテーブルに置く。

 木と金属のぶつかる軽い音が響いた。

 腰のベルトを外し、2本の剣も同じように置く。

 身軽になった彼女はそのままテーブル前の椅子に座った。

 装備を外した彼女は腹部が露出している白い開襟のシャツに黒と赤が着色された丈の短いスカートに腿までのソックスを履き、膝下は皮のロングブーツで覆われている。

 彼女は椅子の背もたれに身を預け、天井を見つつ吐息。


「明日から……」


 自分の冒険者としての日々が始まる。

 冒険者という職業に憧れを抱いているわけではない。血生臭く、暴力も振るわれる世界だとはわかっている。

 それでも、新たなる生活というのに、彼女は期待をしていた。


 ……頑張ろう。


 思考をその言葉で締め、夕食のために彼女は部屋を出る準備を始めた。

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