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トリップ・ストーリー  作者: リッキ
第二部 冒険者ギルド編
7/9

第六章 冒険者ギルド

 人が溢れていた。

 イストの首都ウィッテン。観光客と住民と冒険者が路上を行き交い、人々の話す声が喧騒となって都市を包んでいる。

 都市の西側、正門の内側に巧達は居た。

 馬車から降りた姿そのままで、巧は目を輝かせている。


「イリアさん、あの木の建物の前に居る人みたいなのが『ドラゴニアン』?」

「そうですよ。前に言ったように、彼らに『トカゲ』は禁句となります。気をつけてくださいね? 後、敬語に戻っちゃってますよ?」

「あ、ああ……ごめん。なんか緊張しちゃってさ……イリアさんは敬語のままだよね?」

「私はどちらかというとこっちのほうが自然体ですから。ララだけ特別なんです」

「今、自然な流れで劣等感を感じたんだけど」


 巧の言葉に苦笑するイリア。

 彼の言った『ドラゴニアン』。竜の血を引く人種と言われており、体色は様々だが皆が鱗の皮膚を持ち、顔立ちは爬虫類を思わせるものだ。

 西門近くの木製の建物。その前に緑の鱗を持つドラゴニアン数人が話し込んでいた。

 と、彼らの背後から声がかかる。


「彼らは見かけによらず温厚で人情に厚い。話しかければすぐに打ち解けられるだろう。まあ、『禁句』を言えばその限りではないがな」


 ララだ。

 大きな鞄を背負っているが、重量を思わせない足取りで2人に向かって歩いてくる。

 イリアが彼女に振り返り、


「ララ、ありがとうね」

「これくらいは私の務めですよ。乗車賃支払いの後、衛兵から少し街の話を伺っていました。今日は休息の日だからいつもよりも人が多いそうです」

「休息日に、『冒険者ギルド』は運営しているの?」


 問いの言葉は巧のものだ。

 質問に答えるのはララで、


「休息日にもギルドは開いている。夕刻までの短縮営業だがな。イリア様、宿の宿泊手続きとギルドでの手続き、どちらを先に済ませましょうか?」

「そうね……先にギルドに行きましょうか。活動国の更新をして、その後に街を見て回りながら宿を探しましょう。それに……」


 言葉を止め、イリアが巧を見た。


「巧さんの冒険者登録を早く済ませてしまいたいですしね」


 イリアの言葉に、巧は頷いた。

 このウィッテンでの目的の1つ。イリアとララ2人の活動国の更新手続きもあるが、巧が考えていたこと。冒険者ギルドへの所属だ。

 巧がそのことを2人に告げたのは前の街での滞在中で、帰ってきた答えは、


 しばらくは一緒に仕事をこなそう、か……。


 もっとも、それがいずれは巧とは別れるという意味では無いということが補足された。これも巧が頼んだ訓練の一部であり、その全てが終わったら、


 改めて意思を聞くと、そういうことなんだろうな……。


 そう、自分の中で話をまとめた巧は、じゃあと前置きして、


「行こっか。冒険者ギルドに」



    ●



 正門の近くにある大きな広場。

 中心には街の創始者の銅像が立っており、正門から来る来訪人を歓迎している。

 広場の周囲を取り囲むように建つのは木や石で出来た建物。ジョッキを描いた看板を出した店や昼食時で繁盛している定食屋がある。

 その一角に冒険者ギルドはあった。


「大きいなぁ……」


 周囲の建物に比べて大きな木造建築を見て、巧は声を漏らした。その後ろにはイリアとララの2人が立っており、


「『サウス』のギルドはもっと大きかったな」

「え? 場所によって違うんだ」

「ああ。サウスではギルド内に酒場のスペースもあったからな」

「ここは周囲に施設がある分、純粋な冒険者管理のみの施設みたいですね」


 巧とララが受け答えする中、補足をしたのはイリアである。


「それじゃあ入ろうか」


 巧の言葉でその場の話が収まり、3人は大きく開かれた扉を潜っていった。


「へぇー……」


 エントランスホールの様子を見て呟く巧。

 木を保護する透明の塗料が塗られた木の壁があり、天井の様も同じで、昼間でありながら壁に多く取り付けられたランタンの光で室内は明るい。ホールの奥には受付用のカウンターが設けられ、その向こう側ではギルドの職員が何やら作業をしている。

 カウンターより手前の右側、休憩スペースとなっている丸テーブルや椅子が置かれた空間には腕っ節のよさそうな男達が談笑していた。


「受付は正面のカウンターだ。行こうか」


 ララの言葉を背に受け、止まっていた足を再び動かす。

 右方、談笑していた男達がこちらを一瞥するのが見えるが、気にせず巧達はカウンターへと歩みを進める。

 ふと、職員の1人がそれに気がつき、カウンターへと小走りに近づいてきた。

 赤みがかった黒髪を肩まで伸ばした職員が柔和な笑みを持って、


「いらっしゃいませ! 本日はどのようなご用件で?」

「私達2人の活動国の変更手続きと、この男の新規加入手続きを頼む」

「かしこまりました。当ギルドをご利用頂きありがとうございます。少々お待ち下さい」


 笑みのまま、職員がお辞儀をしてその場を離れる。

 綺麗な対応だなぁと巧が感心していると、


「なあ、あんたら」


 ふと、横から声がかかった。巧がそちらを向くと、


 う、腕が太い……!


 重厚な筋肉の鎧を纏った人間の大男と、彼ほどではないが筋肉質な中年の男がいた。2人はいかにも冒険者といった感じの軽装を身に着けている。

 巧の後ろ、ララが怪訝な顔で、


「なんだ? 冷やかしならお断りだぞ」

「あー違う違う。あんたらもしかして『サウス』から来たのか?」

「ん? その通りだが……」


 ララの返答に、大男が目を大きくして、口元を釣り上げた。


「おお! じゃあやっぱりあんたら『ソリダスの金竜』か!」


 大男の言葉に、談笑を止めていた男達がざわめき出す。

 彼らは小さな声で、


「金髪2人組のエルフ……やっぱり『ソリダスの金竜』か」

「2年くらい前から一気に名を上げてきたんだよな?」

「たった2人だが中堅クラン相当らしい……」


 巧は男達の小さな声を聞き取りながら、


「イリア。『ソリダスの金竜』って?」

「あはは……何だか噂に尾ひれが色々くっついてるみたいですね……」

「おうおう武勇伝は聞いてるぜ、『風刃』のイリアさんに……」


 大男の隣、筋肉質な中年が満面の笑みで、


「『剛腕』のララ!」

「誰が剛腕かっ!」


 剛腕が中年を上から殴った。

 周囲、男達がまたひそひそと、


「樹齢数千年の大木を持ち上げたとか……」

「拳を喰らった奴がまだ目を醒まさないって……」

「大丈夫かよ今殴られた男……」

「強化魔法無しに強化金属をひん曲げるって話が……」

「貴様ら私を何だと思っているのだ!?」


 何個か事実なのかなぁと巧は声には出さない。と、


「お待たせいたしました。何か賑やかですね」


 左、カウンターから声がかけられた。先ほどの受付の女性と、彼女と同じデザインの制服を着た若い男が居た。


「えー、新規加入希望者の方は」

「あ、俺です」

「加入手続きの準備が整いました。活動国変更の方はこちらの者が担当いたします」


 若い男が女性の声に会釈をした。


「では新規の方、どうぞこちらへ」


 若い男と軽く目線を交わして、女性が歩き始めた。

 巧もそれについていこうとすると、


「タクミさん。ここで待っていますね」

「うん。じゃあちょっと行ってくる」


 イリアに軽く手を振り、巧は女性の後について行った。



    ●



「新規加入手続きを担当させていただきますヒルダと申します。よろしくお願いします」


 彼女、ヒルダに巧が案内されたのは個室だった。

 エントランスホールと同じ木の作りで、部屋の中央にはテーブルとソファがある。2人は向かい合うように座り、間のテーブルの上には長文の書かれた紙が数枚置かれている。


「こちらこそよろしくお願いします」


 そう言って巧は深く頭を下げた。

 対するヒルダは笑顔を崩さず、


「では、ギルドの内容と契約の説明をさせて頂きます」


 そう言って、彼女は話し始めた。

 その内容はこの10日ほどの旅で巧がイリアとララから聞かされたものとほぼ同じだ。


 『冒険者ギルド』は、ギルドに所属する人材への仕事紹介や市場との提携による様々な素材の買い取り、そして冒険者達の互助組合などの役割を持っている。ギルドに所属する『冒険者』となることで、ギルドで受注される様々な仕事を請けることが出来る。

 ギルドと契約した人材にはランクが割り振られていて、


「ランクは下からF、E、D、C、B、A、と続いてSランクが規定上の最高ランクとなっています。ただし、ギルドや国に対する多大な貢献が認められると、特別ランクとして『SS』ランクが認定されることがあります」


 そして、


「最低ランクのFですが、これは契約をしたばかりの仮契約者に割り振られています。仮契約から本契約への書類手続きは必要ありませんが、最低ランク向けの依頼を3件成功させる必要があります」


 冒険者に紹介される依頼にもランク指定があり、冒険者は自分より1つ高いランクの依頼までしか受けることが出来ない。低いランクの依頼に制限は無いが、依頼に対し複数の冒険者が申請を行なった場合、1つのグループとして依頼を受けるか、そうでない時はより依頼ランクに近いギルドランクの冒険者が優先される。


「例としては、Eランクの依頼にDランクとAランクの冒険者が受注を申請した場合、その方々が一緒に依頼を受けなければDランクの冒険者の申請が受理されます」


 高ランク冒険者による依頼の独占を防ぐのが目的かなぁ、と巧は思う。

 ヒルダの説明は更に続く。


「ギルドランクの昇格と降格について説明します。昇格は自分のギルドランクと同等か1つ上のランクの依頼を一定数成功させるとギルドによる『査定』が行なわれ、それが認められると昇格となります」


 ただし、とヒルダは一息置き、


「BランクからAランクへの昇格、およびAからSへの昇格には一定数の依頼の成功の他に『昇格試験』に合格しなければなりません」

「えっと、一度に2つ以上ランクの上げることは可能なんですか?」

「認められていません。実力が高くても『冒険者』として優秀かどうかは別だからです」


 なるほど、と巧は呟いた。


「逆に降格の基準ですが、自分のギルドランクと同じランクの依頼を一定数失敗するとギルドから警告が出されます。警告後も依頼の失敗が続くと降格となります。また、ギルドに不利益を働くなどの行動によっては降格、資格停止、資格剥奪などの処分があります」


 ギルドランクに関する説明は以上です、とヒルダは話を区切った。

 その後、ギルド加入の注意事項やウィッテンのギルドの設備などが説明され、


「――以上で契約前のご説明は終わりです。質問はございますか?」

「いえ、大丈夫です」

「では、契約内容に同意していただけるならばこちらにお名前と指印をお願いします」


 そう言ってヒルダはテーブルに置かれた紙を1枚とペン、黒い印肉を差し出してくる。

 巧がペンを手に取ると、


「文字の書きは大丈夫ですか?」

「あ、はい。多分大丈夫です」


 そう言って紙に書かれた契約内容に目を通し、右下の署名欄にペンを持っていく。書こうとする文字を日本語で思い浮かべると、何やら記号が脳裏に浮かんできた。

 

 ……これかな?


 巧は浮かんできた記号を著名欄に書き、右親指を印肉につけ、名前の隣に押し当てた。


「はい。……タクミ・フジノ様ですね。ご契約ありがとうございます」


 言語能力は大丈夫だったか、と巧はほっと胸を撫で下ろす。

 ヒルダは契約書を手元に引き寄せて、


「改めまして、ようこそ冒険者ギルドへ――。ギルドを代表して、歓迎いたします」

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