第5話
大変お待たせしました。少し難産でした。
さて、バロン伯爵家でファナがそんな結論に達していたころ、宰相ことオルレアン公爵の屋敷では宰相が戻ってきて執務室におりました。
戻って来た父の宰相を待ちわびていたオルレアン公爵の後継ぎ・クロードが執務室にやって来てました。
「父上、今よろしいでしょうか?」
「クロードか。入るがよい。」
宰相が書類から目を上げて、ソファーに息子のクロードを招きました。
「父上、いかがでしたか?」
クロードはソファーに座るなり、いきせききって尋ねます。
「まあ、落ち着け、クロード。紅茶を飲んでから話そうではないか。」
父の宰相は侍女にお茶を出すように目配せをすると、公爵らしく鷹揚に息子クロードに話しかけます。
「あ、はい…。」
クロードがしぶしぶ出された紅茶を一口飲みました。
「あの、それでファナ嬢は何と…?」
「ああ、そのことなのだがな…。」
宰相はちらりと侍女に下がるように言いつけた後、言いづらそうににクロードに話します。
「すまぬが、この縁談は難しいやも知れぬ…。」
それを聞いたクロードは驚いて、ガチャンと乱暴にカップをテーブルに置くと、
「え!なぜですか?鬼の宰相と言われる父上が頼みに行かれたのに…。」
「……」
「……」
二人の間に沈黙が走りました。
「クロード…。おまえ、わしを何だと思っているんだ。」
宰相が不機嫌そうにクロードに言い放ちます。
「すみません、父上…。父上がそのように繊細であられたとは思いませんで。」
クロードが気まずそうに答えます。
それを聞いた宰相は、くっくっと笑い出して、
「まったく、クロードにまでそう思われているとはな。まあ、否定はしないがな。」
そう言うと紅茶を一気に飲み干しました。
「あの、父上…?」
怪訝そうにクロードが宰相に話しかけます。
「ああ、縁談のことだったな。あのバロン伯爵は噂通り出世より家族を大事にする方のようだ。宰相であるこの私が行ったというのに、下へもおかないもてなしどころか…。」
やれやれといった表情で宰相は話し始めました。
「それでは…、断られたと言うのですか?」
クロードはどんよりとした表情で尋ねます。
「いや、そうではないが…。ひとまずまた連絡するとのことであるが、恐らく断ってくるだろう。」
やれやれと言った様子で宰相が答えます。
クロードは悲しそうな顔でがっくりと肩を落としました。
「父上…。やはり、私があちらに参って話をさせていただきたく思います。」
それを聞いた宰相は思わずぎょっとして、
「待ちなさい、クロード。貴族同士の縁談と言うものは、親同士が決めるものだ。分かっているはずだ!」
「分かっております!だから父上にお任せしました。…しかし、この話をまとめていただけぬのでしょう?それなら、私が話しをさせていただくしかないではありませんか?」
少し感情的にクロードは宰相に言い放ちます。
「まあ、待ちなさい。クロードが行ったとしても、この話しがまとまるとは限らぬぞ。」
「それはどういう…?」
クロードは思わず身を乗り出して宰相に問いただします。
「落ち着きなさい、クロード。私も伯爵家で話しをして分かったことなのだが…。出世のためになると言って他の貴族ならば飛びついて喜ぶ縁談を、家族の幸せのためには断りかねないのがバロン伯爵だ。だからクロードが行ったとて、上手く行くとは思えない。」
「そ、それは、私では無理だと申されるのですか…?」
クロードは寂しそうに尋ねます。
「そうは申してはおらぬ。交渉ごとには、順序が必要だと申しているのだ。まあ、私もな、あちらでファナ嬢と話して、わが家に迎えられるものならばぜひ迎えたいと思っておる。なかなかの令嬢だ。さすがは亡きケント公の…、とっ。クロード、睨むでない。」
「父上、では諦めてはおられないのですね?」
クロードは宰相を窺うように尋ねます。
「当たり前ではないか。かわいい息子のためだ。出来ることはするつもりだ。…しかし、万一の時は分かっているな?ファナ嬢をあまり追い詰めるようなことはしてはならぬぞ?修道院にでも入られてしまっては、わが家の名に傷がついてしまうだけでなくファナ嬢に恨まれてしまうやも知れぬ。」
宰相はクロードを諭すように言います。
クロードは父の言葉を聞いて、あっと思い、
「はい…。」
と答えました。
クロードはまだ若いせいか、ファナの立場に思いをはせることができないのでした。
それを父である宰相に指摘されて、思わず唇を噛み締めるのでした。
そして、ファナの亡き夫のことを思い出し、ため息をつくのでした。
そんな時でした。
執事が部屋のドアを叩きました。
「何用だ?」
宰相が威厳に満ちた声で返事をします。
「旦那さま、お話し中恐れ入ります。実はバロン伯爵家より使いが参りまして、明日、バロン伯爵さまが訪問なさりたいとのこと。いかがなされますか?」
次はバロン伯爵の登場です。