第4話
大変お待たせしました。
「も、申し訳ございませんっ、母上!まさか結婚するとは思わなかったので、よく話しを聞いていなくて…。」
ファナが申し訳なさそうに母のイザベルに答えます。
「まったく、あなたという娘は!あれほど話しをしたというのに…。」
呆れたようにイザベルが言うと、クスクスと笑い出しました。
「は、母上…?」
怪訝そうにファナがイザベルに尋ねます。
「ごめんなさい、ファナ。つい笑ってしまったわ…。」
「あ、あの…?」
ファナが不安そうにイザベルに聞きます。
ふぅ~と、ため息をついたイザベルは苦笑いしながら、
「まぁ、いいわ。これからのこともあるし、話しましょう。けれどね、宰相さまのお家はケント公爵家と違って、王族ではないけれど国王陛下とも縁続きの家柄ですからね。しっかりなさい。いいですね。」
「は、はい。母上。」
ファナは些か緊張気味にイザベルの話しを聞きました。
「お相手は宰相さまでありオルレアン公爵の跡継ぎで、クロードさま。確か、ファナの5歳年下の18歳であられるとか。」
「ま、18歳でございますか…?私が結婚した時、リチャードさまも18歳でした。」
ポツリとファナがつぶやきます。
それを聞いたイザベルはじろりととファナを睨んで、
「ファナ!」
「あ、あの…、母上…。」
ファナはビクッと肩を震わせました。
「ファナ、もうリチャードさまのことは口にしてはなりませんよ。あなたはもう再婚すると決めたのですから…。」
少し厳しい口調でイザベルはファナに言います。
「は、はい…。母上、申し訳ございません。」
ファナは唇を噛み締めて申し訳なさそうに答えます。
「まだ覚悟がないのではなくて、ファナ?」
イザベルは困ったようにファナに尋ねます。
「い、いえ…、母上。私の失言でございます。以後気をつけますので。」
ファナは大好きな父バロン伯爵に迷惑をかけたくなくて、取り繕うように答えます。
「ファナ…。以後、気をつけなさいね。我が家ではかまわないけれど、あちらさまではファナの立場が悪くなりますよ。」
イザベルは心配そうにファナを諭します。
イザベルも娘のファナの様子を見て、少し心配になりましたが宰相さまからの話しを断ってはどうなるか…。
少し考え込んでしまいました。
「…上、母上…。」
ファナが少しおびえたようにイザベルに話しかけます。
「あ、ああ…。何かしら?」
「あ、あの、母上…。怒っておられるのですか…?」
ファナが捨てられた子犬のようにおびえた様子で尋ねます。
「あ、いえ、ファナ。怒っているのでは…。ただ、ファナにとって良いことなのかと思いましてね。」
イザベルは少し複雑そうな表情で答えます。
「母上…。」
ファナも複雑そうな表情で答えます。
「ファナ、大丈夫なのですか…?」
イザベルは家のためにはファナには結婚して欲しかったのですが、娘の幸せも考えない母親でもありませんでした。
ですが…、夫のバロン伯爵は貴族にしては家のために子供たちを政略結婚ではなく、子供たちの幸せを考える人でしたのでバロン伯爵家は他の伯爵家に比べて力がありませんでした。
イザベルはそんな夫のバロン伯爵を愛していましたが、出来るだけ伯爵家を盛りたてたいと思っていたのでこの結婚はして欲しいのです。
宰相さまと縁続きになれば安泰なのですから。
「母上、でも、もう断るのは難しいのでしょう…?」
ファナは不安そうな表情で尋ねます。
「え、ええ…。出来れば断らずにすすめて行ければ、わが家も安泰なのだけれど、ファナはそれでいいの?」
イザベルも少し困ったように尋ねます。
「はい…。私も伯爵家に生まれた者、今まで好きにさせていただいたのですからそれは理解しております。」
ファナは静かに答えます。
「それは貴族に生まれた以上当然のことだけど、嫌々嫁ぐということなの…?」
「いえ、あの…。」
ファナは返す言葉が見つからず、言葉を濁しました。
「ファナ、あなたの気持ちはわからないこともないけれど、宰相さまのご子息と結婚出来るというのは大変な幸運なのよ。それこそ、候補の令嬢方はたくさんおられると聞いているわ。」
ファナを諭すようにイザベルが語りかけます。
それを聞いたファナは怪訝そうな表情で、
「あの、母上。お聞きしてもよろしいですか…?」
「何かしら?」
「不思議なのですけれど、宰相さまのご子息ならいくらでもお相手がおられると思うのですが、なぜ私なのでございますか?」
当然の疑問でした。
それを聞いたイザベルも押し黙り、しばらく二人の間に沈黙が続きました。
「確かに、ね…。私もそれは知りたいところだわ。出戻り娘には有り得ない縁談だと私も信じられない話なのよね。」
何か、考え込むようにイザベルが答えます。
ファナは少しイザベルを睨んで、
「母上、出戻り娘で悪かったですね…。」
イザベルは少し気まずそうに、
「ごめんなさい、ファナ。そんなつもりじゃないのよ。ただ、お相手はいくらでもいるのになぜファナなのかしらって、思ったものだから。」
「まあ、そうですね…。」
不満そうにファナが答えます。
「う~ん、たぶんね。宰相さまはなかなかの方だから、ご子息の結婚もファナがケント公爵未亡人だからだからお決めになられたのだと思うのだけれどね。」
「そう、なのでしょうか。」
ファナは些か納得出来ないようでした。
それにしても、そんな結婚をしなくても若くてもっと条件のいい令嬢もいらっしゃるでしょうに…。
「まあ、それしか理由はないと思うのよ。ファナ、これを幸運と思って幸せにおなりなさい。」
イザベルはファナを引き立てるように言います。
「はい、母上。」
「それにね、ファナ。クロードさまの母上は早くに亡くなられたそうだから、宰相さまはきっと年上のお相手をお探しだったのかも知れないわ。あちらさまもかわいい令嬢よりしっかりとした次期公爵夫人を務められる方をお望みなのよ、きっと。」
「それなら分かるような気がします。頑張りますわ。」
ファナはなんだかそういう理由ならと、理解できました。
いずれは若い令嬢に心を寄せられるでしょうけど、家を守るだけなら出来るかも知れないわ。
そんな結論に達してしまうのは、現時点では仕方ないことでしたが果たしてそれで良かったのか…。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
お読みいただいている方が思いがけずたくさんいらして、嬉しくもあり、ビクビクしている小心者でございます。今後ともよろしくお願いします。