魔力暴走フラグが立ちました。
お久しぶりです。
プロット無しに書いていたら勘違い物になる模様。
という訳で次話から勘違い要素が徐々に強くなっていきます、多分。
敵を前にして冷静さを欠くのは自殺行為。戦場では常に冷静でいなければならない。
などと、理解していても実践出来るかどうかは別問題なわけで。
冷静に考えているように思えて、実のところ俺の思考の大部分は焦りと恐怖と混乱で満たされている。
焦っている主な要因は三つ。
一つは戦闘フラグが立ってしまったこと。もう一つは、父さんたちがナイトゴブリンのあまりの数の多さに苦戦していて、今現在も少しずつ俺の居る馬車に近付いてきていること。
そして最後の一つは、俺自身の戦闘能力がまだ“天才児”程度しか無いこと。
そう、所詮は子供だ。
剣術はこの一年間磨いてきたが、まだ実践レベルで使えるほどの筋力は無い。
魔術に至っては、まだ危険だという理由で攻撃魔術など一つも習っていないし、習った防御魔術でさえどれ程の攻撃にまで耐えられるのか分からない。
つまり、このまま戦闘に巻き込まれた場合、俺が無傷で助かる確率は限りなく低い。否、零と言っても良い。
ならば、俺が今取るべき選択は何か?
そんなもの――撤退に決まっている。
「御者さん、馬を出して下さい!」
「ぼ、坊ちゃん!?しかし……」
しかし……って何だよ!
ここは直ぐに手綱を操って後退するべきだろうが!
いや、落ち着け俺。焦れば負けだ。
何故、この御者は退くのを躊躇っているのか。
恐らく、魔物の数が多い為に雇い主である父さん達を心配しているのだろう。
だが、それは全くの杞憂だ。国内屈指の実力を誇る父さんと、侯爵家の専属護衛を勤め上げる騎士や魔術師たち。いくら数で圧倒されているとはいえ、ナイトゴブリン如きに遅れを取るはずが無い。
そういう思いを込めて、御者の目を見て出来るだけ冷静に声を掛ける。
「大丈夫、何も心配することは無い」
その思いが伝わったのか、御者は覚悟を決めたように頷いて手綱を引いた。
刹那。
フワリ、と。
気付けば俺の目の前……いや、眼下には、十数体のナイトゴブリンと交戦する父さん達の姿があった。
「っ坊ちゃん!」
先程まで話していた御者の声が聞こえ、その方向に視線を向ける。
興奮した様子の馬と馬車の奇妙に捻れた車輪の跡、そして死にそうな顔でコッチを凝視している御者を見て、現状を理解した。
何の事は無い。御者台に身を乗り出していた俺は、動き出すと同時に勢い良く方向転換した馬車の遠心力に耐えられず、身を投げ出されたのだ。
それだけで50メートルも飛ばされている事実は理解に苦しむが、ここは異世界。何があっても不思議じゃない。
今ここで重要なのは、どうやって助かるか、だ。
残念ながら俺は現在絶賛落下中である。誰が絶賛してるんだとかそんなツッコミも受け付けない程のピンチに陥っている訳だ。
放物線を描いて落下しているらしい俺は、父さん達を通り越してナイトゴブリンの群れの真上にいた。
ナイトゴブリンとの距離、約1メートル。
俺の装備品は、上等だがいつもよりは質素な服。そして杖。
ただし、覚えている魔法は、どこまで耐えられるか分からない防御魔法だけ。
もし防御魔法で落下の衝撃を吸収出来たとしても、父さん達が回収してくれるまでナイトゴブリンの攻撃に耐えられる保証は無い。
だから、仕方ない。
俺は杖を構え、身体中の魔力を可能な限りかき集める。
そしてナイトゴブリンと接触する直前、集めた魔力を一気に外へ解き放つ。
その瞬間、激しい衝撃に襲われ、俺は耳鳴りと共に意識を失った。
『ピコーン♪魔力暴走フラグが立ちました』
※覚醒フラグではありません。あくまで努力の天才。