戦闘フラグが立ちました。
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急停止した馬車の中でナイトゴブリンについての知識を整理する。
俺は魔術の理論と一緒に、魔物の種類や特性なども教わっていた。
当然、今回遭遇した魔物についても。
ナイトゴブリン。実際はゴブリンと同じ種なのだが、通常のゴブリンは自分達が石や木などで作った粗末な武器を装備しているのに対し、ナイトゴブリンは過去に襲った人間から剥ぎ取った武器や防具を装備している。
ただそれだけの事で、騎士なんて大層な名前が付いているが所詮ゴブリンだ。
亜種でも何でもない、上流貴族の護衛の手に掛かれば一瞬でカタがつく雑魚。……だがそれは、1対1での話。
ゴブリン種に限らず、下級に分類される魔物はそのほとんどが群れを作って活動している。
群れの規模はピンからキリまでだが、最悪の前例では下級の魔物が国軍の一個小隊を壊滅させた事もある。
今回の遭遇したナイトゴブリンの群れは、流石にその前例まではいかないが、それなりの規模らしい。
御者台から前方を確認した父さんが、顔を険しくして「ロベルトはここに居なさい、決して馬車の外に出てはいけないよ」と言って出て行ってしまったので、詳しいことは分からないが。
知識は持っているものの、実際に魔物を見た事が無い俺は馬車の外に顔を覗かせたい好奇心でいっぱいだが、そんな事をして死亡フラグや重傷フラグが立ったら目も当てられないので我慢する。
まぁ、気になることに変わりは無いので、せめてどんな状況なのかを知る為に、魔術の基礎として習った索敵魔法を自身から半径150Mほどに掛ける。
いま俺が掛けられるサーチの最大範囲は半径約300Mなので、割と余裕を持って掛けられる。
しかし、150M以内に魔物の気配は無く、それどころか護衛の人達や父さんなどの人間の気配すらも何ひとつ感じられなかったので200M、250M、そして限界の300Mとサーチの範囲を広げるが、それでも何の気配も感じなかった。
マジか、皆1分も経たない内に離れすぎだろ。というか、こんなに離れてた魔物の群れ見付けられた御者さん視力凄いな。
サーチでの状況判断が無理と判断した俺は、そんな下らない事を考えながら布で遮られた御者台の方に目を向ける。
父さんが降りる前に、危なくなったら俺を連れて逃げる様に、などと言ったのか、ずっと戦闘を見ているらしい御者さんの「うわっ!」だの「危ない!」だのという独り言が聞こえてくる。
「……ん?」
俺はその事に何か違和感を感じて、もう一度サーチを掛けた。
さっき掛けた時と同じように、魔物の気配も人間も気配も何ひとつ感じられない。
オイオイオイオイ、じゃあ御者台から聞こえるこの声は何だよ?空耳にしてはハッキリ聞こえるし……霊?まさかの霊?んなバカな。
まぁ霊ではないとして、何でサーチに引っ掛からないんだ?
うず、と俺の中の好奇心が危険なフラグに対する恐怖心を上回りそうになる。
魔物も300M以内には居ないみたいだし、少し御者台を覗く位ではフラグは立たないと思う。
だから少しは大丈夫、だと思う。多分。うん、大丈夫だ。
そんな結論を出した俺は、御者台と馬車内を遮る布を少し捲り、そこから顔を覗かせた。
そこで俺が見た光景は、ちゃんと足もあるし透けてもいない見慣れた御者さんと、……すぐ50Mほど先に迫ったナイトゴブリンの群れとそれに応戦する父さん達だった。
『ピコーン♪戦闘フラグが立ちました』
……何で馬車ごと逃げてないんだよ御者さああぁぁぁん!!