閑話:天才児フラグを回収しました。
前話の父親視点。親バカ。
アルノルト視点
僕は幸せ者だと思う。そう、それは世界一といっても差し支えない程に。
僕が住んでいるミケーナ王国は、百年以上戦争も無く、国を治める王は代々賢王と呼ばれているとても平和な国だ。
たまに魔族が街道に出没する事もあるけれど、すぐに討伐されるから行商人が多く集まる商業国としてこの国は成り立っている。
そんな国に【クラウゼヴィッツ侯爵家】の長男として生まれた僕は、それなりの苦労はあったけれど順調に侯爵家を継ぎ、美しい妻と可愛い息子にも恵まれた。
今日は、その可愛い可愛い息子の話をしようと思う。
息子の名前はロベルト。
ミケーナ王国を建国する際、当時の強国だった【アルバトフ帝国】と起きた戦争で、初代陛下と共闘し戦争の勝利に貢献したと伝えられている伝説の魔剣士【ロベルト・バッカー】にあやかって付けた名前だ。
自惚れではなく、僕の剣の腕は国でも3本の指に入る程だと自負しているし、妻である【ユーリア】は国の魔術学校をトップの成績で卒業したほどの実力の持ち主。ロベルトの努力次第では、バッカーと同等、否、それ以上の魔剣士になれるかも知れない。
最も、それはロベルトが選択する事だし、僕は跡継ぎだからといって可愛い息子に余計なプレッシャーは掛けたくないから、ロベルトがもう少し大きくなったら王国騎士団の魔術や剣術の訓練見学に連れて行こうと思っていた。訓練を見たロベルトが、自分から興味を持ってくれるかも、と思って。
でも、僕がそんな事をする必要は無かったらしい。
今思えば、ロベルトは生まれた時から瞳に知性の光が灯っていた。
親の欲目でも何でもなく、ロベルトはとても聡い子で、今まで癇癪を起こした事も一度も無い。
初めは大人しすぎて心配していたけれど、その心配もロベルトが3歳になった頃に吹き飛んだ。
早くロベルトに訓練見学をさせてあげたい、でも今はまだ早い。あと数年は待たないと。
そんな気持ちで過ごしていたある日、ロベルトが僕に質問してきたんだ。
「ぱぱー」
「どうしたロベルト、パパはここだぞー」
舌足らずに僕を呼ぶのが可愛い、僕がしゃがんでも微妙に上目遣いなのが可愛い、というか存在自体が可愛い。可愛い可愛い可愛い。
「まじゅちゅってなに?」
「おぉっ、ロベルトはもう魔術に興味が有るのか!流石パパとママの子だな!」
口調がおかしい?自分の子供に対して男らしく接したいって思うのは普通だと思う。
そんな事より、まだ何もしてないのに魔術に興味を持つなんて、やっぱりロベルトは凄い。可愛い。
「あー、でも困ったな。パパは魔術が使えないから上手く説明出来ないな……」
残念な事に、僕は魔力がほとんど無いから、魔術の理論なんて全く勉強してこなかった。
その代わり、剣の腕はメチャクチャ磨いたんだけど。
「ぱぱ、つかえないんだ……」
「!!」
っそんなショボンとした顔しないで!パパ泣いちゃう!!
「ろ、ロベルト!確かにパパは魔術は使えないけど、剣の腕は凄いんだよ!それに、魔術ならママが使えるから!」
魔術が使えないから、って頼りない父親認定は絶対にされたくないから、ちゃんと僕の出来る事もアピールしておく。
「え、ほんと?」
キラキラと目を輝かせたロベルトにコクコクと頷き、俯いて何かを考えているらしい様子を固唾を飲んで見守る。少しして顔を上げたロベルトは、ニッコリと笑ってこう言った。
「ぱぱ!ぼく、まじゅちゅもけんもならいたい!」
「っそうか!よし、パパに任せなさい!」
可愛い可愛い息子の可愛い可愛い可愛い初めてのお願い、叶えない親が何処に居るのか。
まだ身体が出来てないから今すぐに、っていうのは難しいけれど、ちゃんと剣術も魔術も先生を探しておくからね!
ロベルトが紛れも無い天才だと知るのは、この時から数年後だった。