ぼっちフラグが立ちました。
父さんだけでなく何故か御者さんにまで生暖かい目で見られ、居心地悪く感じていると、軽いノックの音が部屋に響いた。
「クラウゼヴィッツ侯爵、少々よろしいでしょうか」
扉越しに聞こえてくる少しくぐもった声に聞き覚えは無かったが、父さんは知っている相手なのか俺の頭を一撫でして立ち上がり、御者さんに目で合図して扉を開けさせる。
「突然の訪問、申し訳ありません。実は、お耳に入れたい事がございまして……」
扉を開けた先に居たのは、紳士然りといった風体の壮年男性だった。
上質であろう小洒落た礼服に身を包み、白髪まじりの頭は短めに整えられている。
その物腰は優雅で、礼の所作一つ取っても気品を感じさせる。
こういう人のこと、なんて言うんだっけ?
その紳士が父さんに耳打ちしている姿を見ながら、前世で聞いた記憶のある、この紳士に似合う言葉を思い出そうとする。
色が入ってたんだよな……たしか、髪の色。
灰色、グレー。そうだグレーだ。
紳士を軽く観察しながら、言葉を導いていく。
なんとかグレー……歌にあった気がする。
ロマンチック的な……ロマント?違うな。
ろ、ろー……ロマン、ス?
ロマンスグレー……これだ!
ずっと視線の先に居た紳士にピッタリの言葉を思い出して俺は機嫌が良くなった。
その時、偶然紳士と目が合い、少し驚いた様な顔をされた。
まあ、見ず知らずの子供にニヤつきながら見られていたら、俺も驚くだろうから不思議ではない。
しかし流石は紳士、すぐに驚いた顔を引っ込めて微笑んだ。
カッコイイ……!
「坊っちゃん、どうぞ」
俺もこの人みたいな大人になりたい、と思っていると、御者さんが水の入ったコップを差し出してきた。
「ん、ありがとう」
そういえば、寝起きだし喉も渇いてたな。
御者さんからコップを受け取り、水を飲む。
『ピコーン♪ぼっちフラグが立ちました』
「んぐっ……ゲホッゴホゴホッ」
「坊っちゃん!?」
突然鳴り響いたフラグメッセージに驚き、水が気管に入って盛大に噎せた。
「だ、大丈夫……ゴホッ……はぁ」
御者さんに背をさすられながら、先ほど立ったフラグについて考える。
ぼっちフラグって何だ。
俺は前世で、成績も外見も普通ながら友だち百人は余裕で達成するほど、社交性のある男だったんだぞ。
転生してからだって……
あれ、俺、この世界で同年代の知り合いっていなくね……?
よく考えればそれも当然。だって俺、屋敷から出たの初めてだし、屋敷に子供が訪ねてくることなんて無かったし。
しかしヤバい。このままではフラグを回収してしまう。
同年代の友人を作るのに手っ取り早いのは……学校か。
話で聞いただけだが、この世界にも学校はある。
しかも年齢制限はないので、俺もすぐに通えるはず。
思い立ったが吉日。
もう一度水で喉を潤し、気合いを入れて声を張る。
「父さん、ぼく、学校に行きたいです」
三対の視線が俺に集まり、また居心地が悪くなった。
どちらへ進みますか?
→学園ルート
冒険ルート