閑話:夢落ちフラグを回収しました。
ずっと親バカのターン!
アルノルト視点
ミケからの報告を受け終わり、ロベルトの様子を見るために二人で部屋へ入ると、ロベルトはまだスヤスヤと寝息を立てていた。
寝台の傍まで行き息子の可愛い寝顔を近くで見ると、自分の頬が緩むのを感じる。
「坊っちゃんはとても聡明でいらっしゃいますが、こうして眠っているお姿を拝見すると、やはりまだ幼児なのですね」
ミケは僕の隣に立ち、安心するような声で言った。
ロベルトの寝顔を他人に見られるのは気に食わないけれど、今回ばかりだと我慢をする。
その後しばらくロベルトの寝顔に癒されていたけれど、ロベルトが眠ったまま口を開いた事で、部屋の空気が固くなった。
「おれ……だ……意思……滅び……傷付く……俺だけ……無駄……」
初めこそ呂律が回っていなかったけれど、すぐにハッキリとした言葉になってロベルトの口から紡がれるソレは、確かに予言のように聞こえる。
そう、聞こえる。でも、それだけ。
だってロベルトは賢くて様々な才能を持っているとはいえ、可愛い可愛い普通の子なんだから。
だから、ロベルトに危害が及ぶ事を予期しているような言葉も、ただの寝言なんだ。
少しだけ乱れてしまった呼吸を整えるために、一度深呼吸をする。
そうして落ち着いたところでロベルトの頭を撫でようと手を伸ばした時、ロベルトが微かに眉を寄せた。
「ロベルト?」
起きたのかと思って声を掛けても、返事はない。
少しの間そのまま見守っていると、ロベルトの呼吸は段々と荒くなり、ロベルトは苦しそうに小さく呻き始めた。
「ロベルト」
「旦那様、坊っちゃんの体内の魔力の流れが乱れております」
「っ、どうすれば良い!」
ミケが動揺した声で言い、初歩的な魔術以外は門外漢な僕はどうして良いのか分からず焦った。
「落ち着いてください。魔力は意識せずとも体内を廻りますが、恐らく坊っちゃんの場合は何らかのショックで無意識すら魂に潜りかけているのでしょう。私が坊っちゃんの無意識を引きずり出しますので、旦那様は坊っちゃんが目を覚まされるよう呼びかけ続けてください」
「ああ……分かった」
ミケが両手でロベルトの心臓付近を覆い集中しているのを横目に、僕はロベルトの名前を呼び続けた。
「ロベルト……ロベルト、ロベルト」
半刻ほど名前を呼び続け、喉がカラカラに渇く頃になっても、ロベルトはまだ目を覚まさない。
僕の横ではミケが額に汗を流し、何かを呟きながら集中し続けている。
僕にはロベルトを覆うように魔力が漂っていることしか分からない。
だからこそ、不安になる。
無意識が完全に魂の底に沈めば、二度と目覚めることはない。
もしかしたらロベルトは、このまま目を覚まさないのでは――
いや。そんなわけ、ない。
父親として守ると決めたばかりの、可愛い息子。
そんなこと、僕が絶対に許さない。
「っ……ロベルト!」
喉が痛むのも気にせず、精一杯声を張り、名前を呼んだ。
すると、ロベルトがパチリ、と目を開け、舌足らずな声で不思議そうに言った。
「ぎょしゃさんに……とうさん?」
その声の数瞬後、ロベルトが目を覚ましたのだと認識し、ミケと揃って安堵の息を吐いた。
でも……どうして、僕より先にミケを呼ぶんだい、ロベルト。
父さん、どんだけ心配したと思ってるのさ。
何度心臓が止まるかと思ったか。
ロベルトが目を覚ましたのは凄く嬉しいのに、思わず微妙な顔をしてしまう。
そんな僕を見たロベルトは、一瞬首を傾げ、不安げにこう言った。
「ぼく、寝てる間に何か言いました?」
その言葉に、ヒヤリとした。
ロベルトは知っているのだろうか。
……いや。知っているも何も、ただの寝言じゃないか。
「いいや、何も言ってないよ」
お前が気にするようなことは、何もない。
「お前起きてるだろ!」というくらいハッキリした寝言を言う人って居ますよね。




