閑話:予言者フラグを回収しました。(前)
予想以上に長くなってしまったので二つに分割。
勘違いパートは次からです。
03/13
誤字脱字修正
「様子がおかしい?」
ミケの言葉に、僕はまた無意識に片眉を上げていた。
それに呼応するように肩を揺らすミケに、思わず失笑する。
固くなっていた身体から力を抜き、見苦しくならない程度にソファの背に凭れ掛かる。
目で先を促すと、一拍置いてミケが話し出した。
「……魔力切れで気を失われた坊っちゃんが初めに目を覚まされたのは、この宿に到着し坊っちゃんを寝台にお運びしてから半刻ほど経った頃でした」
初めに、という言葉に疑問を浮かべるも口を挟まず、思い出すように軽く目を閉じたミケの話に耳を傾ける。
「私は医師の診察結果を聞いた後、坊っちゃんのことを護衛に任せて水を貰いに一階に下りました。ロビーで受け取った水差しを手に、坊っちゃんのいらっしゃる御部屋に戻り扉を開けると、坊っちゃんは寝台に横になられたままでしたが目を覚まされていました」
お恥ずかしい限りですが、とミケは続ける。
「身体に異常が見られないとはいえ、侍従も護衛も、もちろん私もですが、坊ちゃんの事を大変心配しておりましたので、坊ちゃんの意識が戻った事を大声で叫びながらロビーで支配人と話していた侍従長の下へ報せに向かいました……当然の如く説教されましたが」
ミケは頬を赤らめ、一つ咳払いをした。
「侍従長と共に坊ちゃんの部屋へ戻った時には既に、坊ちゃんは眠りに就かれていました。しかし」
ここからが本題、とばかりにミケが襟を正したので、僕も少し身を起こす。
「さらに一刻ほど後、私が市場で果物を買い戻ってくると、二階へ上がった時、坊っちゃんの御部屋から短い悲鳴のような音が聞こえてきたのです」
「悲鳴?」
「はい、扉越しだったので小さな音でしたが、確かに坊っちゃんの声でした」
ロベルトの悲鳴。
その言葉は、僕を凍り付かせるのに十分な威力を持っていた。
「そう……それで?」
自分の口から出たのは思った以上に低い声でミケはまた身体を揺らしたけれど、僕が怒りを抱いたのはこの僕自身だ。
ロベルトが悲鳴を上げるような状況にいる時、すぐ傍にいる事が出来なかった。僕は父親失格だ。
急に落ち込み始めた僕に、ミケは触れるべきではないと判断したのか話を再開した。
「すぐに坊っちゃんの御部屋の扉をノックしたのですが、御返事がなかったので一声お掛けして扉を開けました」
そこで何故かミケが言い淀み、妙な間が空く。
一度深呼吸したミケが、再び口を開いた。