雪のはじまり
冬の朝、村はまだ眠っていた。
屋根の上にうっすらと積もった雪は、朝日を受けてきらきらと輝き、まるで小さな宝石が並んでいるようだった。
家たちの煙突から立ちのぼる白い煙は、ひんやりとした空気に溶けて、静かな朝の村にほんのり温かさを添えていた。
布団の中でリリは目を覚ました。
外の光がカーテンの隙間から差し込み、雪の白さを微かに感じさせる。
指先で布団の端を握りしめ、リリは静かに息を吸い込んだ。
「雪……?」
リリは小声でつぶやき、布団を飛び出した。
窓に近づくと、外の世界はまばゆいほどの白で覆われていた。
屋根の上や木の枝に積もった雪は、太陽の光を受けてきらきらと瞬いている。
「冬と雪のきらきら……楽しいね」
リリは思わず笑みをこぼし、窓を開けた。
冷たい風が頬に触れ、雪の香りとともに心をピリッと目覚めさせる。
指に落ちた雪がすぐに溶けて冷たさが伝わる感覚に、リリは思わず小さく笑った。
家の外に出ると、雪はふわふわと舞い、足元でぎゅっ、ぎゅっと音を立てた。
踏みしめるたびに雪の結晶が微かに光るのをリリは目で追った。
「わぁ……まるで宝石みたい」
リリは小さな手を広げ、雪をすくい上げた。冷たくて、でも少し温かい光が手のひらに伝わる。
雪って、こんなにきらきらしているんだ……
リリの心は胸いっぱいに喜びを感じていた。
そのとき、耳の横からふわりと小さな声が聞こえた。
「リリ、こんにちは」
リリはびっくりして振り向くと、目の前に小な光がふわふわと揺れていた。
雪の粒と見まがうほど小く、でも柔らかく温かそうに輝く光だった。
「き……きみは……?」
リリは思わず声を震わせる。
「私はキラ。雪の妖精だよ」
光はくるくると回り、リリの肩にちょこんと止まった。
声は風のささやきのように柔らかく、リリの胸にじんわりと温かい光を灯した。
「雪の妖精ってことは雪のことならなんでもわかるの?」
「うん。もちろんだよ」
「雪が、こんなにきらきらしているのは……どうして?」
リリの瞳は好奇心で輝き、心が高鳴った。
「それはね、雪の結晶ひとつひとつが光を抱きしめているから。光が雪の中で踊っているんだよ」
キラはくるくると舞い、雪の上に虹色の光をちらちら落とす。
リリの目はますます輝き、手を伸ばして光に触れる。
「本当だ……光が踊ってる」
リリは夢中で雪をすくい上げ、キラと一緒に雪の上を駆け回った。
雪が足元で軋む音、手に伝わる冷たさ、空気に混ざる光の煌めき……すべてが新鮮で、リリの心を満たしていく。
リリとキラが近くの森に足を踏み入れると、木たちの枝に積もった雪が陽光に反射して、まるで小さな星が舞い降りているようだった。
リリは息をのむ。
冷たい風が頬を撫で、雪が舞い上がるたびに細かい光がちらちら揺れる。
「リリ、見て……あっちの木にも雪の花が咲いてる」
「わぁ……すごい」
キラは嬉しそうに光を放ちながら舞う。
リリはそっと手を伸ばし、雪の花を触った。
冷たく、柔らかく、光を含んで輝く感触に、胸が高鳴った。
日暮れが近づくと、雪の色は淡いオレンジに染まり、空の雲も茜色に輝いた。
リリは雪を見つめながら、今日の魔法のような一日を思い返した。
「また明日も、雪ときらきらを探そうね」
「うん、ずっと一緒だよ」
リリとキラは手をつなぎ、雪の森を後にした。
その小な手の温かさは、冬の寒さを忘れさせるほど心に染み込んだ。




