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友として騎士として



頭の無い首と蹄に赤紫の揺らめく光を軌跡にしながら黒い馬体がガラド達目掛けて土煙を上げて駆けてくる。

無頭騎士(デュラハン)も首から頭部を模した赤紫の炎の様な光を輝かせ、馬体の上で槍を構えて突撃をしようとしているのを見て呆然としていたラムゼイが咆哮を上げて走り出す。


「オオオオォォォォォォ!!!」


「おい!ラムゼイッ!」


駆ける騎兵と盾を構えた黒い鎧が正面から轟音を立ててぶつかり合う。深化を果たし魔鋼に化して重くなった鎧が引き摺られるが、全身に装飾された蔦模様が輝くと地面に線を残して馬体を食い止める。


全身から青紫の光を迸らせるラムゼイは剣を引き抜いて大声を張り上げた。


「手出し無用!私に!私に相手をさせてくれ!!」


切迫した声で静止するラムゼイに加勢に入ろうとしていたガラド達が止まる。

ガラドは直前までのラムゼイの様子に大凡の事情を察して背後に控えるオーロン達に手で待機を指示する。


「ラムゼイ!無頭騎士と無頭馬(ガン・ケン・ホース)の弱点は心臓だ!()れんだろうナァ!?」


「任せてくれ!!」


ラムゼイは魔力をさらに練り上げて制御の効かない練魔を全力で全身に巡らせ蔦模様がさらに強く輝き、張り上げた長剣で馬体の左前肢を斬り付ける。

黒い血が噴き出すが無頭騎士が手綱を操ってラムゼイから距離を離そうとする。


機を逃すまいとラムゼイが迫るが無頭騎士が操る無頭馬は正に人馬一体となって彼の間合いから距離を取る事に成功する。


手綱をから手を離した無頭騎士は無頭馬を撫でて荒ぶるのを宥める。その仕草はラムゼイがよく知っているものだった。


「やはり君達かっ…!」


無頭騎士と無頭馬をラムゼイは苦い声を吐き出しながら追う。槍の構えも仕草も見覚えしかない。


「オーストォォ!!」


振りかぶった長剣は槍で受け止められて馬体に押されてラムゼイの足が下がる。無頭騎士の名前を叫ぶが答えは得られない。

その姿にラムゼイは悔しげに呟く。


「私達のように意思が有る訳ではないか…!」


最後の確認を終えたのか、ラムゼイは下がった足を前に動かし盾で馬体を押し返す。馬の巨体が一点に込められたラムゼイの力で後ろに下がる。

隙を逃さずに長剣を突き出して両前肢の間から心臓に突き刺さる。


何処から聞こえるのか、嗎を残して前肢を大きく上げた無頭馬が倒れて無頭騎士が投げ出される。地面を転がった無頭騎士が立ち上がった頃、無頭馬の頭の蹄に宿っていた光が消える。

だが無頭騎士は先程のように気にした様子も無く、動かなくなった馬体を飛び越えながら槍でラムゼイに突きを放つ。


それを見たラムゼイは兜の隙間から漏れる光と全身の紋様を一瞬で赤紫に変える。



「オオオオォォォォォォ!!!」



怒りのままに槍を盾で弾いき、飛び上がり空中で身動きの取れない無頭騎士を左肩から斬り付ける。

ラムゼイは鎧ごと無頭騎士の体を斬り裂き、刃は心臓に到達する。

振るったラムゼイの力で負荷が掛かった長剣は半ばから刀身が砕ける。


体に折れた刀身を残したまま斬り付けられた勢いで無頭騎士は吹き飛び、立ち上がる事は無かった。

ラムゼイは全身の紋様を青紫に戻し魔力を抑えて騎士の遺体に語り掛ける。



「彼なら…オーストならばっ!カムルの亡骸を飛び越えるなど絶対にしなかった…!」



戦闘が終わり側まで来たガラドは無頭騎士と無頭馬に視線を向けながら低い声でラムゼイに話しかける。


「知り合いか?」


重々しく頷いたラムゼイは薄暗い空に顔を向けて友との思い出を語り出す。


「騎士団の養成所では同期であり…親友だった…。馬が好きでな。騎兵と成れた時は飛び上がって喜んでいた。」


握りしめた長剣の柄がラムゼイの力に耐えられず割れ、手から長剣が零れ落ちる。

金属の散らばる音が辺りに物悲しく響くが気にせずに彼は続ける。


「堅物な私を引っ張ってくれたのはいつもオーストだった。カムルの世話にも何度も付き合わされたものだ。」


歩き出したラムゼイはオーストの亡骸を抱え上げるとカムルの側に横たえる。

ガラドに振り返ったラムゼイの兜から漏れる光は今までよりも強い輝きを放っていた。


「ガラド殿。私は自分を許せん。これがアンデットとしての私の怒りなのだろう。」


民兵を、守るべき民を前線に送って無意に死なせる後悔。それは彼の中で自分に対する怒りとなって燃え上がっていた。

それこそがラムゼイがアンデットに成ってしまった本質。


しかし、ラムゼイも生前から持つ強い意思を宿している。


「だが私は騎士だった。この(誇り)が打ち捨てられたとて、私の想いは変わらん。民を護りたいと想う気持ちには一点の曇りすら無い!」


火花の様に弾ける赤紫の光を押さえ付け、胸に手を当ててガラドに語った目的を再確認する。

静かに彼の言葉を聞くガラド達の中でホルエが降りてきて詠唱を始める。


「『火よ、暗闇を照らす灯りよ。』」


ホルエの手の上に火が灯る。

彼の手を離れた火は、意思なき体で人馬一体を成した主従のもとへと飛んでゆくと彼等の遺体に燃え移る。

遺体を見守るラムゼイは彼等に向けても誓いを立てる。


「オースト、カムル。死した私が取れる選択肢はこれだけだろう。私が必ず帝国の前に脅威として立ち塞がる…!」


かつて志を同じくした親友とその愛馬の亡骸が燃えてゆくのを見守りながら決別する。


騎士として死んだであろう友と、これから騎士としてアンデットとして茨の道を歩むことになるラムゼイの道は分たれた。


後悔は消える事はない。だがそれすらも力に変えんとラムゼイの心は奮い立つ。


「ホルエ殿、彼等を送ってくれて感謝する。」


「ここに彼等は居なくてもかい?」


「私の為だけではなかろう?」


内心を見抜かれたホルエは帽子から取り出した長剣をラムゼイに押し付けると、顔色を悟られないように宙に飛び上がる。師弟揃って誰かに向ける優しさを知られるのは嫌なようだ。


照り返す火の光の中でくぐもった笑い声を上げながらラムゼイはガラドに視線を向ける。

気付きながらもガラドは視線を遺体から外さない。


「遅ェんだよ。」


「ああ、待たせた。」


二人の言葉はそこで止まる。

誓を立てて尚、足踏みしているラムゼイにガラドは気付いていた。それでも彼なら必ず追いついてくると信じていたのだ。


「もう立ち止まらん。目的を成し遂げるまで足掻こう。」


「そうしろ。次は待たねェからナァ。」


朝日の無いアマステア平原を死者を送る炎が暫くの間照らしていた。



―――――――――――



ホルエが魔術で掘った穴にラムゼイは主従の遺骨を共に埋葬し、墓石の代わりに彼が持っていた槍を突き立てる。


ラムゼイは長剣を抜いて胸の前に構える。


「私は行くよオースト、カムル。ゆっくりと休んでくれ。」


長剣を鞘へと納めたラムゼイは振り返って仲間達の元へと戻る。ラムゼイが再び先頭に立つとガラドが彼の尻を蹴り上げる。


「馬鹿が。」


「すまない。そして感謝する。」


「さっさと行け!」


ラムゼイの返しが気に入らなかったのかもう一度ガラドが尻を蹴ると一行は前線の中を進み出す。


襲ってくるのはグールが圧倒的に多い。

だが彼等は立ち止まる事なくアンデットを倒して前に進む。

ラムゼイの固い守りを突破できずにいるグールの首をガラドが両手にポルテとヤジャンを握って斬り飛ばし、付き従うオーロンは串刺しにして足止めをする。


安定して敵を倒していた彼等だったが実体を持たない幽霊(ゴースト)死霊(レイス)が飛び回ってホルエに集中した事で一度撤退の判断を下す。


「弱いんだけど視界を塞がれるから邪魔臭い!」


彼が身を守る為に張っていた障壁魔術にへばり付き、死へと誘おうと声を掛けてくる大量の霊体アンデットを思い出したホルエが眉を顰める。

魔術で消し飛ばしてはいたが地上のスケルトンやグールに混じって攻撃してくる彷徨う鎧(リビング・アーマー)の突撃を一度ホルエは見逃してしまったのだ。


「ガラド、力試しはもういいんじゃない?霊体に有効な魔術を使えるのも僕だけだから流石に面倒なんだけど。」


「確かにな、俺の魔術は大喰らい過ぎるからナァ。」


最前線まで進む事は無かったが目的だった現状の戦力の把握は出来た。

これ以上はホルエが戦闘に介入することになり、自分達の戦力は必要無くなってしまう。

平原を逆走しながらガラドは内に残る魔力を確かめる。


「無理やり抑えて三回か、使い辛ェ。」


ガラドの魔術は制御しなければ全ての魔力を使い尽くす勢いで魔力を消費する。意地になって押さえ込んでも生前から増えた魔力ですら回数に制限が付く。


「天幕まで戻って次に向かう準備するぞ。」


「ガラド殿、次とは何処のことなのだ?」


ガラドが言ったアマステア平原を牛耳ると言う言葉を思い出し、ラムゼイが疑問を口にする。このまま平原のアンデットを倒し続けて深化を重なるものだと思っていたのだ。


「デエヒに向かう。」


ガラドはカタカタと嗤って目的地を告げる。

彼がホルエと旅をしていた中で見つけた人生の目標があった街。


「デエヒにある迷宮(メイズ)の深層には死の王(ノーライフ・キング)が居る。」


迷宮に戻るのが嬉しくて仕方ないガラドの嗤い声は徐々に大きくなり、彼の眼孔と額の穴から青紫の火花が散る。



「王位簒奪といこうじゃねェか。」



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