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震えを断ち切って



ガラド達は散発的に現れるスケルトンの集団と戦闘を繰り広げながら前線へ歩みを進める。

ガラドが駆け回り、ラムゼイが半年も彷徨って数えきれないほど倒しているのに未だにアマステア平原にはスケルトンの姿が消える事は無い。


「どんだけの兵士が死んだんだよ。」


「私が死んだ時点で既に民兵の死者だけで五万の被害が出ていた…。」


「終戦直前に発生したアンデットが暴れたせいで騎士や軍人の被害も拡大したってさ。帝国全軍で七万八千、半数以上が撤退出来なかったらしいよ。」


魔力場の異常によって起こったアンデットの大量発生により聖国と帝国の明暗は別れた。

対アンデット専門の戦闘集団である聖堂教会を抱える聖国は彼等を主体とした遅滞戦術を行って聖水が前線に届いたのを機にして撤退。

帝国は聖国と戦争状態になった為に流通が滞っていた聖水を集めるのに時間がかかり被害を拡大させた。


「そりゃ倒してもキリがねェ訳だナァ。」


帝国軍は十五万、聖国軍は八万五千の戦力がぶつかっていたが兵士の質と防衛能力及び卓越した治療技術の差で帝国は押し切ることが出来なかった。

より人員を擦り減らした帝国側に大量のアンデットが発生した結果、戦争の継続が出来なくなり終戦。

戦場となったアマステア平原に多くの兵士の亡骸が打ち捨てられた。


「ああ、余りにも虚しい話だ。此処に集った兵士達は帝国の勝利を疑ってもいなかった。それを裏切って騎士も軍人も逃げ惑ったのだからな。」


ラムゼイは蘇った直後に見た光景を思い出す。

アンデットに襲われる民兵を囮に我先にと逃げる騎士と軍人の姿。自分が思い描いた志と真逆の光景に彼は絶望したのだ。


今向かっている前線は多くの命が失われてアンデットが発生した中心地点。

弱体化しているとはいえガラドが撤退の判断を下すだけの強力な亡者が溢れている。


「全てを倒すとなれば途方もない時間がかかるだろうね。今は帝国が邪魔をして聖国もアマステア平原の浄化に踏み出せないでいるみたいだからね。」


戦争状態によって悪化した両国の溝は埋まる事なく、禁じられた地となってしまっている。


「そのおかげで文句言われる事なく俺達は存分に暴れられるんだ。」


アンデットが蔓延る不浄の大地はガラド達が成長するには適していた。二度の深化を経たガラドはその事実を確かに感じていたが、彼は後ろに振り返って付き従う彷徨う武器(リビング・ウェポン)となった分隊員達に振り返る。


「だからテメェ等もいつまでもブルってんじゃねェ。」


自分達が命を散らした場所に近づくにつれ、どうしようもない死の恐怖を思い出して彼等の鋼の体は震えていた。

ガラドも彼等の恐怖を感じ取っていた。前線に一歩進む度に徐々に自分と分隊員達の距離が離れる事が多くなったからだ。


ダイノを追い詰めるその時まで、彼等は隊列を崩す事なくガラドの指示に的確に従っていた。


「死を恐れるなとは言わねェよ。」


アンデットとなり手に入れた二度目の命、望外のそれをまた失うかもしれない恐怖。

ダイノ小隊という仇敵を打ち破った事で彼等の思考には恐れが呼び起こされて雑念となっている。


「だけどナァ、俺達が選べることは少ねェんだよ。」


立ち止まって彼等に向き直るガラドの言葉にこの場にいる全員が注目する。

ホルエ以外の者が全てアンデットである彼等に取れる選択肢は確かに少ない。


「生きてる奴等にとっちゃ俺達は討伐対象だ。理性が有るかなんざ、本来は理解の範疇にねェ。」


生者を憎み羨む亡者と成った。それは同時に生者との敵対が避けられないという事。

付与魔術(エンチャント)により理性を保っているラムゼイやオーロン達も一度はその刃をホルエ(生者)へと向けている。


「最優先は力を付けること。俺達は二度目の命を守る為により強大なアンデットに成らなけりゃいけねェ。」


ガラドの頭蓋から漏れる青紫の光が強く輝く。

怨みに赤紫に染めるのではなく、その輝きを宿した視線は冷静に先を見据える。



「誰も手出し出来ねェくらいにナァ。」



ガラドとて目的があって戦争に参加していた。

死して遂げられなかったそれは未だ骨の身の中で強く熱を持って主張している。


前に進む原動力。人はそれを野望や夢と言うのだ。


「俺は絶対に迷宮(メイズ)の探索を諦めねェ。デエヒの迷宮を攻略するのは俺だ。」


何よりもガラドが人生で情熱を燃やしたもの。

死して尚、燃え尽きる事のない迷宮探索者(メイズ・シーカー)としての矜持。


本物の迷宮狂い(メイズ・ジャンキー)は死んでも治らなかった。


「テメェ等の前に立ってんのは俺だ。どんだけ俺の背中から戦場を見てきた。骨だけじゃ頼りねェか?」


ガラドの後ろから見た戦場の景色をオーロン達は思い出す。


聖堂騎士すら蹴散らす誰よりも強く鮮烈に記憶に焼き付く大きな背中。虚な頭蓋に宿る力強い視線は何も変わっていない。


辛く苦しいはずの戦場で誰よりも自由だった漢の言葉に心が揺さぶられる。


彼等が憧れ、付き従っていた漢の本質は何も変わっていない。


「それか、ブルってまた逃げるか?」


ガラドは前線の方角に向き直ると悪戯っぽくカラカラと笑って彼等を揶揄う。

だがその言葉は何よりもオーロン達を焚き付けた。


鋼の体に青紫の光が炎のように灯る。


自分達が死んだのは見捨ててしまった憧れの漢に報いる為だったではないかと。


命を散らした場所に対する恐怖。

だが自分達は命よりも誇りを優先して反抗した。一度は覚悟を決めて行った場所だ。なら何を恐れる必要があると言うのか。

前を向いたガラドの後ろに再び隊列を組んで付き従う。


自らの意志を行動で示す彼等の刃はより強い輝きを放っている。


ガラドとオーロン達のやり取りを見ていたラムゼイとホルエが笑い声を声を上げて話しかける。


「アハハッ。ガラドは人たらしだ。」


「ウハハッ!然り!ガラド殿には将の才能が有るのではないか?」


「そうそう!昔っから兄貴肌だもんねぇ?」


「うるっせェぞ!師匠!ラムゼイ!茶化すなっての!」


真面目な雰囲気から一転して穏やかに笑う二人はガラドを揶揄う。ガラドも二人に乗っかるがそれはオーロン達の為でもあった。気を張ってばかりでは精神的に疲労し注意力も散漫になる。


それは意志を持つアンデットである彼等にはより顕著に現れる。精神と疲れを知らぬ体の乖離は致命的になるとガラドとラムゼイは悟っているのだ。


ラムゼイが足を動かして進み出す。

後に続くガラドの後ろには堂々とオーロン達が付き従っている。

彼等の上空に浮かぶホルエは曇天の中でも晴れやかな気分でそれを見守っていた。



―――――――――――



「止まって。」


前線に程近い場所でホルエの鋭い静止の声が響く。先頭に立つラムゼイも前方からアンデットの気配を感じ取り長剣を抜く。


彼等の視線の先に唸り声を上げ、犬歯で裂けた唇の隙間から涎を撒き散らしながらグールが彼等に向かって手足を地面につけて獣の様に駆けてくる。


「私一人で十分だろう。」


「グールの弱点は頭だ。胴体と切り離せばもう動かなくなる。」


「分かった。」


静かにガラドと情報をやり取りしたラムゼイは右腕に練魔を使用して飛びかかってきたグールの首を一振りで斬り飛ばす。

乾いた体は血を噴き出す事なく崩れ落ち、ラムゼイに向かって青紫の怪しい光が流れ込む。


「なんでグールが発生してやがんだ?」


「ガラド殿の死後の話になるが、聖国は森を通って補給路に奇襲を仕掛けてくる事が多くなったのだ。故に前線への配給が間に合わなくなった。」


アマステア平原の南北に広がる未開の森は鬱蒼とした木々が生え揃っており視界が遮られる。

ガラドが死んだ原因となった哨戒任務も森からの奇襲を警戒して行われていたものだった。


「あの糞魔術師が出張って来たのはそう言う訳か。」


「森を切り開く際の護衛だったのだろう。恐らく中部駐屯地を一人で襲ったのも単独行動と擬装する為だった筈だ。」


彼等の予想した通り聖国は長引く戦争を終結させる方法として森を切り拓いて道を作り、帝国の補給路を奇襲して戦線の維持を困難にする事を画策したのだ。


だが結果として帝国はそれでも止まらず、最終的に前線では飢えにより大量の死者を出した。

そして最初にアンデット化したのも餓死によって命を落とした民兵達だったのだ。


「痩せ細っていく民兵達を前線へ送る様はっ!余りにも…余りにも酷かった…!」


ラムゼイが握る長剣の柄が軋んだ音を立てる。

彼は震える手で長剣を鞘に収めると地面に転がったグールの頭を拾い上げて離れ離れとなった胴体の元へと運ぶ。


「そんな彼等に私は命令を下す事しかできなかった!すまない…!すまない……!」


「どけ、ラムゼイ。」


遺体となったグールに膝を突いて謝り続けるラムゼイを押し除け、ガラドは右手に魔力を込める。


「『燃やし尽くせ。嗚呼、怒りは素晴らしき薪となる。』」


ガラドの中から一瞬にして右手に込めた以上の魔力が引き出され、赤紫に輝く炎が遺体を焼く。


「チッ…。持っていき過ぎだクソが。」


「…ガラド殿。」


「辛気臭ェぞ、ラムゼイ。こっからグールが現れる度にそうやって謝り続けんじゃねェだろナァ?」


苛立ちを隠そうともしないガラドにラムゼイは言葉に詰まる。

制御の問題かそれとも元となった魔法が強大なのか、ガラドの魔術は多大な魔力を彼から引き出す。

戦闘でもない行為にガラドが態々魔術を使ったのは、未だ過去の後悔に囚われているラムゼイの目を覚させる為だろう。


「戦場に立ってる自覚持て。俺に付いて来んだろが。」


ガラドは目標だけを見据えている。それに比べて自分はどうなのかと。先程恐怖に震えていたオーロン達とまるで変わらないではない。

道は既に見据えていた筈であったのに、目の前に過去の後悔が現れた事で曇ってしまったのだ。


「ああ、そうだったな。愚かな事だ…今更過去は変えられぬと言うのに。」


「はん!分りゃいいんだよ。」


未だ手に纏わりつく炎をガラドは握り潰し、視線だけでラムゼイを急かす。

立ち上がったラムゼイが前を向いて先頭に立とうとするとホルエが上空から叫ぶ。


無頭騎士(デュラハン)が来るよ!」


土煙を上げて首の無い馬に乗って駆けてくる鎧を纏った騎士。首の無い馬の毛色と頭の無い騎士にラムゼイは強い既視感に苛まれる。



「ああ…そんな…。」



過去が、蹄鉄の音を響かせて迫る。




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