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生者から得る力、冥府の案内人



「アァァァアァァァァァガァァァ!!アァァァァァァァァ!!」


「最っ高の悲鳴だナァ!!アッハッハッハッハッハァッ!!」


自分の右手に顔を掴まれて燃え出したダイノが悲鳴をあげて悶え苦しむのを見ながら、ガラドはこれ以上の娯楽は無いとばかりに嗤う。

ダイノの正面に移動して膝を曲げて顎をガタガタと震わせ、頭を炎に巻かれた手で掴んで無理矢理目線を合わせさせる。


「どうだァ!?全身を焼かれる感覚は!?熱いよナァ!!痛ェよナァ!!自分がやった事がそのまま返ってきたんだぜェ!!存っ分に味わえよ!!アッハッハッ!!」


ガラドの眼孔と燃え上がるダイノだったものの視線が交わる。


肉体が腐り落ち本来は暗闇を宿すはずだった空虚な穴から暗い輝きを炎の様に吹き出す眼孔。

炎で焼かれている事で皮膚が固まり表情を変える事すら出来なくなっている見開かれた目。


互いに視線に憎悪を込めて相手を睨め付ける。


だが勝敗は既に決している。

復讐を果たしたガラドと今まさに全身が焼け落ちていくダイノ。



「ガァラァァドォォォォォォ!!!」



「アッハッハッハッハッハッハァ!!!」



一年前とは違う構図。

ダイノが燃えながら声を張り上げて自分を今の状況に追いやった者を呪い、ガラドは怨敵の頭を掴んで顎が外れんばかりに嗤う。


頭から手を離したガラドは腰に佩いた両刃剣を一瞬で引き抜き、焼けて炭になり始めた皮膚を切り裂いてダイノの心臓を突き刺す。



「忘れもんだ。借りと一緒に返すぜ。」



憎悪に塗れているダイノの目から命の輝きが失われていく。死出の旅に向かうダイノにガラドは嬉しそうに語りかける。


「冥府では魂が燃やされるぜ。あっちでも楽しめ。」


最早聞こえているかも定かでは無いダイノから視線を外して背後に控える彷徨う武器(リビング・ウェポン)達に指示を出す。


「もういいぞ、楽にしてやれ。」


ガラドの意を汲んだ彼等は体を翻して他の小隊員達の心臓目掛けて飛び出して一人残らず命を刈り取ってゆく。

宙に磔にされた彼等の肉体を燃料に赤紫の炎は暗い輝きをこの場に居る面々の記憶に刻み付ける。


それこそが己が役目なのだと喧伝するように。


「師匠、助かった。拘束解いても大丈夫だ。ありゃもうただの薪だ。」


「うんうん。しっかし本当に我の強い魔術だねぇ。ここまで欠片の個性が強いのも珍しい。今まで使い手に恵まれ無かったんだろうね。」


彷徨う武器達が全員にトドメを刺し終えたのを確認したガラドは師の助力に感謝の言葉を述べ、ホルヘは手を一振りして拘束している魔術を解いて弟子の新たな力を観察する。


通常の自然現象を発現させる魔術とは違い、広場に生えた雑草に燃え移る事無く地面に崩れ落ちた遺体だけを灰に変えてゆく。


「最初から対象指定されてるねぇ。」


魔術師の練度が上がってくると魔術を対象以外に干渉させない様に操る事が出来る。だがガラドが使った魔術は小隊員達のみを焼き尽くしている。


ダイノ小隊が焼き尽くされて骨だけになったと同時に、ガラドと彷徨う武器達にアンデットとは違う淡い色味の様々な光が流れ込む。


「なるほどナァ。これがアンデットが生者を襲う理由か。」


「何がわかったの?」


「ダイノ小隊の奴等から流れ込んでくる力の中に気が混じってる。」


ガラドは流れ込んで来ている力の中に良く知っているものを感じ取る。死んでから失っていた力、生命力を基にした気の力を。

アンデットには無いものであり、アンデットの渇きを癒すのはこの力なのだと本能的に感じる。


しかし生きていた時とは違い気が自身の内から湧き上がってくる感覚がない。あくまで吸収したものを頭蓋の内側に閉じ込めているだけなのだ。


「使えばその分無くなるナァ。だが有るに越したことはねェ。」


人の身に余る絶大な力を振るう練気と練魔の同時使用、それこそがホルエから教えられたガラドの戦闘法の骨子だ。


拳に練気と練魔を同時に留めたガラドは骨となったダイノ小隊の頭蓋骨を一つづつ握り潰してゆく。


「これでスケルトンには成れねェな。んで?そろそろ(ツラ)見せたらどうなんだ?」


「うむ、覗き見は趣味が悪いな。」


ホルエの目に映っているのはガラドとラムゼイに彷徨う武器達、地面に転がった焼き焦げた頭の無い人骨しか見えない。

だがアンデットの彼等は他の誰かが居ると確信して語り掛けている。

彼等の言葉に青白い光が集まり半透明の人影が現れてゆく。


姿を現したのはガラドや彼の分隊の面々、ラムゼイも見知った人物であった。


「かっかっかっ!同類になったおめぇさん等には隠せんなぁ!!」


刈り上げたられた白髪に口元から伸びた髪と同じ色の長い髭、草臥れた皮鎧を着て手斧で肩を叩く筋骨隆々の老人が腹を抱えて笑う。


「一年振りだのう!ガラド坊!」


「あんたみてェに元気な死霊(レイス)も居ねェだろうナァ、ラーガ爺さん。」


ガラド分隊の最後の一人。半透明では有るが生前と殆ど変わらない快活な姿で彼はガラドに笑いかける。

長い髭を撫で付けながらラーガはその場に居る彷徨う武器達やホルエ達にも簡単に挨拶を交わす。


「ポルテ、ヤジャン、オーロンも久しいのう。ラムゼイ殿は一緒に飲んだ事が有るな。ガラドのお師匠は初めましてじゃな。ガラド分隊所属に所属しとったラーガっちゅうもんじゃ。」


自己紹介をしているラーガの周りで彷徨う武器となたった分隊員達が再開を喜び飛び回る。

ラーガは皺の寄った目を細めて彼等を宥めてガラドに向き直おり疑問を口にする。


「どっから気付いておった?」


「そんなもん最初からに決まってんだろ。俺は元ダイノ小隊対ガラド分隊のアンデットって言っただろが。」


「かっかっかっ!言っとったのう!」


賭けの対象としてガラドは確かにダイノ小隊の十五人に対する復讐戦を行うのはガラド分隊だと宣言していた。

ガラドはアンデットの気配が自分達以外にも有ることに気付いていたが、だが確信した理由はそれだけでは無い。


「それにだ、ダイノやこの砦に居る兵士共もアンデットが現れて大人しく言う事聞くなんざあり得ねェ。」


脅しを掛けたのは確かだが、ここまで事が早く進むとはガラドも考えていなかった。

兵士達がダイノ達を簀巻きにして自分達に差し出してきた時点でガラドは何者かの介入を感じ取っており、自分達に有利に物事が進んでいる理由を考えた。


そしてとあるアンデットの存在を思い出していた。


死霊(レイス)

肉体を失った魂が基になったアンデットであり、生者に取り憑いて語り掛け、精神を蝕んで操る魔物だ。


自分達の有利に物事が進み、誰も疑問に思わずガラドの言葉に従う。


生前に相対した死霊に精神を狂わされている者と特徴が合致しており、尚且つ自分達の行動を邪魔する訳では無い。


そして砦全体に散った何者かが向けてくる視線に覚えがあったのだ。

オーロンと出会い、ポルテやヤジャンに召集を掛けた時には現れなかった最後の一人。

オーロンの尻を蹴飛ばし、ポルテとヤジャンの剣振りを怒鳴りつけていた時に、笑いながら自分達を見守っていた老兵の眼差しだ。


「一年掛けて仕込んでおいて良かったわい。」


「えげつねェことすんナァ。」


ラーガは動きこそ年老いた者のそれだったが、幾度も戦争に参加していた古兵であった。敵兵の動きから戦場の機微を感じ取ってガラドに助言し、分隊の動きを操っていたのは彼である。


ガラドが幾ら簡単に敵兵を薙ぎ倒そうが、それだけでは他の分隊達は生きて帰れなかった。時にラーガがポルテ達の補助に回り、ガラドの分隊が他を引き離す戦果を上げる手助けをしていた。


他人を動かす事に長けた冷徹な思考、ガラドをして何者なのかと疑う実力者。それがラーガと言う老兵だった。


だが先程まで快活に笑っていたラーガの表情が曇る。


「ちっ…面倒じゃのう此処は。」


「どうしたんだよ。」


「アンデットが生まれ易いのも良し悪しと言うことじゃよ。」


ラーガの視線の先では魔力が渦巻いて新たなアンデットが蘇ろうとしている。

核となる肉体が滅びた為か、魔力を糧として半透明の人形を形成し始めていた。



「仕方ないのう。」



ラーガはそう溢すと半透明の体を浮かび上がらせて、ダイノ小隊員が基となって生まれ落ちようとしている成り掛けの死霊を掴んで自身の内に取り込んでゆく。


「ガラド坊、このラーガの戦争はここまでじゃ。」


「やっぱり逝っちまうのか?」


「元々この戦争を最後にしようと思っておったからな。物のついでに此奴等も一緒に連れて行くわい。」


ラーガは取り込んだ死者達が彼の内で暴れているのか輪郭を歪ませて気配を薄くしてゆく。

ガラドは彼の前に進んで腰に剣がない事に気付いてヤジャンを手元に呼び寄せる。


剣先でラーガを指し示して戦士として先に逝く者へ戦友に最大限の礼を払いながらも、生死を共にした仲間へと気安い言葉を投げかける。


「ありがとな、ラーガ爺さん。最後まで助けられちまったナァ。あっちの炎は魂を焼く、さっさと焼き尽くされちまった方が楽だぜ。」


「かっかっ!此奴等の情けない姿を見れたんじゃ。笑って逝くには丁度いい土産じゃよ。」


希薄になってゆく自らの内を指差して笑うラーガは、最後に手斧をガラドに向けて返礼する。


「ワシも義理は果たしたぜ、分隊長殿。そいつ等も漢を魅せて戦場で散った。あんまり無茶をさせんことじゃな。」


「分かってるよ。」


ガラドの手の中でヤジャンの剣身(からだ)が揺れる。

見えてはいないが彼の後ろに付き従うポルテとオーロンもきっとその身を震わせているだろう。ラーガにとっては暗い後悔と共に戦場で散った最後の仲間達である。


「おめぇさん等も達者でな。我らが分隊長殿は時に無理、無茶を平気で通す漢だ。後は任せるぞ。」


震える彼等に笑いかけ、快活に笑ってその姿を夜の暗闇に隠す。

逝ってしまった戦友に物悲しさを覚えながらも砦の雰囲気が変わったことを感じ取る。


ラーガが逝ってしまった事により砦の兵士達が平静を取り戻し始めたのだ。


感傷に浸る事すら無く、ガラド達はこの場から急いで去る。幾ら彼等が連携を取ろうとも砦の兵士全員を相手取るのは面倒だ。


彼等が去った後、砦内は蜂の巣を突いたような騒ぎに包まれる。



その喧騒の中で一本の剣が消えた事には誰も気付かずに。




体調が未だ優れないのは何故なのか。

マイペースに更新しようとは思っていましたが、突き動かされて書いていたので知らずに疲れが溜まってしまっていたのでしょうか?

楽しみにしていた方には申し訳ないことをしました。


今後はTwitter(新X)の方で更新がない日はお知らせしようかと思います。

現在はほぼ更新お知らせbotとなっていますがお休みの日は@Mitama5656で呟いていると思いますので、ご確認頂けると幸いです。


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