力の差
ダイノ小隊は槍を持った十二人が前衛をしており、隊列を組んだ彼等の後ろにダイノと分隊長の二人は長剣を手に指揮をしようとしていた。
ガラドは帝国軍の基礎通りの面白みの無い配置を見て嘲笑う。
「おいおい、後ろに引き篭もったままか?腰抜けなのは変わってねェみたいだナァ!」
挑発されて顔を赤くしながらもダイノは小隊員に指示を出してゆく。
槍を持った分隊員が指揮に従って三列に並び、槍をガラド達に向かって構える。
分隊員達の表情はガラドの凶相を見て恐怖に引き攣っているが、徐々に前進する。
「所詮相手はスケルトンだ!この数を超えられる訳が無い!槍の間合いに入れば頭を突いて粉々にしてしまえ!!」
その場に堂々と立ってダイノ小隊の動きを見ていたガラドの頭蓋から漏れる赤紫の炎が大きく揺らめく。
相手がガラドである為か、隊列は実際に戦場で行われていた物であり、スケルトン種や彷徨う武器達を相手するには過剰と言ってもいい。
だが彼等は戦場でガラドが大暴れしていたのを見ているのだ。その程度の隊列は食い破って戦果を挙げて帰って来るのを何度も何度も。
「ポルテとヤジャンは好きに動け。オーロン、来い。」
ガラドは自分の分隊員達に静かに指示を出す。緑と赤の組紐が巻かれた二本の長剣が隊列から外れ、紫の組紐を巻かれた大槍が飛んできてガラドの手に収まる。
手の中の大槍を大きく振るいガラドがダイノ達に向かって叫ぶ。
「その隊列でどうにか出来ると本気で思ってんのか!?舐めんのも大概にしとけよ!!」
言うが早いか駆け出して自ら槍を持った隊員達の間合いに踏み込み大槍を横薙ぎに振るい、突き出された槍の穂先を何本も纏めてへし折る。
大槍は全て鋼で作られているのに対して、帝国軍の槍は穂先と石突以外は木製である。弱体化しても力強いガラドの膂力と大槍の重量に標準装備の槍では耐える事が出来無かったのだ。
槍を折られた分隊員達の表情が更に恐怖に染まるが、ガラドは大きく後ろに後退して距離を取る。
彼の動きを見て動きが固まっていたダイノ小隊の分隊員達の間を二本の長剣が飛び回り、残った槍の穂先を切り取ってゆく。
一当てで武器を破壊された分隊員の中には耐えきれなくなったのか腰を抜かして地面に座り込んでしまった者もいる。
「何やってんだよぉ!!そのままぶっ倒せばいいじゃねぇか!!」
「お前等!偉そうにしてたんだからもっと粘れよ!!」
賭けの対象となっている彼等の戦闘を観戦している砦の兵士達が額に青筋を浮かび上がらせて野次を飛ばす。
砦内に響く観客達の怒声を聞き流しながらガラドは更にダイノ達を挑発する。
「次は本気で行くぞ、さっさと構えろよ。」
「何をしている貴様等!!早く剣を抜け!!」
ガラドの言葉に焦った様にダイノが分隊員達に指示を出すが、ガラドは既に走り出している。
槍を使用する為に密集して隊列を組んでいた分隊員達は互いの距離が近過ぎて剣を抜くのに手間取り、防御をする間も無くガラドが振り払った大槍が部隊の横っ腹に直撃する。
大槍に直撃した分隊員は咄嗟に防ごうとした腕から骨の砕ける音を立てて振るわれる槍ごと隊列を巻き込んで吹き飛ぶ。
大きく崩れた隊列の中に踏み込んだガラドは最小の動きで手の中の大槍を操り穂先で分隊員達の腿を突き刺して行く。
「おおぉぉぉ!!」
瞬く間に前衛部隊の半数が行動不能にされ焦った分隊長の一人が隊列の外からガラドに迫り剣を頭蓋へ向けて剣を振るう。
ガラドは半身になって避けながら分隊長の頭を右手で掴んで腕に魔力を込める。大人を片手で持ち上げたかと思う練魔を切って落ちる勢いに任せて地面に頭を叩きつける。
頭から地面に叩きつけられた分隊長は意識を失い、その様子を見た残りの分隊員達が我先に逃げ出す。
「嫌だぁぁ!死にたくねぇぇ!!」
「あんな化け物に勝てる訳ねぇんだ!!!」
「此処から出してくれぇぇぇ!!」
闘技場に変わった砦の広場の赤く染まった柵を越えようとするが、決闘魔術は使用者が設定した条件を達成しない限り発生した決闘場から出る事が出来ない。柵から赤い魔力が漏れ出し逃げようとする分隊員達を阻む。
「逃げるな貴様等ぁ!!早く戻って来い!!」
ダイノは逃げ出した隊員達に怒声を発するが、逃げた分隊員達は聞く耳を持たずに柵を叩いて外の兵士達に助けを求める。
最早分隊員達の戦意が折れたと感じたガラドは大槍から手を離し彷徨う武器達に命じる。
「殺さねェ程度に痛めつけろ。」
ガラドが分隊員達を指さすと宙を漂っている彷徨う武器達は喜び勇んで柵に縋りつく彼等の手足を切付ける。
彷徨う武器に宿る彼等はガラド以外のダイノ小隊の人間に役立たずと罵られ、ガラドが命を落としてからは駒使いの様に扱われていたので怨みも一塩なのだろう。
逃げていないのはもう一人の分隊長とダイノのみとなり、分隊長に至っては歯を鳴らし震えている。
しかしダイノの顔は先程までと違い何かに気付いたのかニヤニヤと笑い、余裕を持ってガラドと相対する。
「何笑ってやがる?」
「生きていた頃に比べると随分精細を欠く動きではないか。貴様、練気を使えないのだろう。」
ガラドの問いにダイノは弛んだ腹を揺らしながら笑って答える。ダイノとて正規の軍人であり練気を使用する事が出来る。
ガラドの動きは武器の扱いは熟達した者のそれではあるが練気や練魔を併用していた生前には比べるべくもない。
戦闘ではガラドが常に肉体の強化を施していたのをダイノは知っている。だが戦闘が始まってからガラドが練磨を使用したのは一度だけ。
ダイノは気を練り上げて全身を強化して笑い声を上げながら気炎を吐く。
「ぐはは!強化すらままならんスケルトンなど恐るるに足らん!私自ら再び冥府に返してくれる!!」
弛んでこそいるが強化の施された肉体は練り上げられた気によって矢の様な速度を得ており、走りながら上段に構えた剣でガラドに斬りかかる。
ガラドは迫るダイノに一切の焦りを見せず、鞘から両刃剣を引き抜くと片腕だけ練魔を使用して正面から斬り結ぶ。
剣がぶつかり合う音が響き、ガラドとダイノの距離が一気に近くなる。
鍔迫り合いながらガラドは余裕綽々としていたダイノの顔が引き攣っていくのを嗤って揶揄う。
「どうしたぁ?恐るるに足らねェんじゃなかったのかぁ?」
「な、何故!?何故貧弱なスケルトン如きに私の剣が止められるっ…!?」
全身を震わせながら力を込めるダイノをカタカタと嗤いながらガラドが蹴りを入れる。
剣にだけ気を向けていたダイノは脇腹からの衝撃に蹌踉めき体勢を崩し、ガラドは上から圧をかけて剣を押し込み顔を近づけて更に煽る。
「ほら?どうした?」
「ふ、ふぬぅあぁぁ!」
近づいたガラドの頭蓋を見てダイノは恐怖に顔を引き攣らせるが、裂帛の気合いを込めて剣を弾いて彼我の距離を離す。
たった一合の打ち合いだけで観客はガラドとダイノの力量差を感じ取る。
冷や汗で額に髪を貼り付けるダイノを見やってガラドは狂った様にガタガタと全身を震わせて嗤う。
「アッハッ、アッハッハッハッハッハッハァッ!!」
砦中にガラドの嗤い声が響く。
彼から滲み出る圧力が嗤い声が大きくなる度に強くなってゆき、直接威圧を受けているダイノだけでなく観客達ですら顔色を青くする。
両刃剣の腹を肩に置き、ダイノを指差して大嗤いをするガラドは何故此処まで差が有るのかを語る。
「アッハッハッ、確かに俺は弱くなったナァ?でもお前が何の成長もしてねェだろが。鳥が低く飛んでるからって手が届くか?届かねェよ!」
眼孔と額の穴から吹き出す赤紫の炎が今までよりも大きく揺らぎ頭蓋の陰影が濃くなり、骨だけの顔はより凶悪なものとなる。
「しかもお前、前より太ってんじゃねェか。テメェの体の管理すら出来てねェ奴に負ける訳ねェだろ。アッハッハッハッハッ!!」
確かにガラドは生前と比べると大きく弱体化している。鍛え上げた筋肉は土へと還り、練り上げる気力すら失った。
特殊個体故に他のスケルトン種よりも元々持っていた力が強く、元々の彼が持っていた強い精神力や戦闘技術は失われていない。
失った力も二度の深化を経て六割程は取り戻した。
比べてダイノはガラドが死んでから一年もの間自らを鍛えるでもなく、砦に配属されてからの半年間に至ってはアンデットとの戦闘も部下に任せて過ごしていた為に軍人として最低限の鍛錬すら怠っていた。
「教えてくれよ?スケルトンに圧倒される気分はどうだ?アッハッハッハッハッハッハッ!」
両者の格付けは既に終わっている。
故にガラドは心の底から馬鹿にする為にダイノを嗤い、屈辱と恐怖に塗れた表情のダイノとの距離をゆっくりと詰める。
ガラドが一歩近づく度にダイノは同じく一歩後退する。じっくりと時間をかけて距離を詰めていくと後退っていたダイノの足が柵に当たる。
もう逃げることは出来ない。
その事実がダイノの全身を震わせ、握った剣も覚束無くなり練気の制御が甘くなる。
剣の握りが甘くなったのをガラドは見逃さず、一気に走り出して両刃剣を振り切りダイノの剣を弾き飛ばす。
剣が手から離れた事によりダイノは全身の気を練り上げて腕で頭を守る。
「全力で気を練ってろよナァ!」
詰めた距離をそのまま活かして防御された頭ではなく突き出た腹に膝を突き入れる。
ダイノは弛んだ腹から内臓に衝撃が伝播し胃がひっくり返ったような感覚に襲われ吐き気が込み上げる。
しかし、ここで防御を緩めればガラドの思う壺であり一瞬で地面に組み伏せられる。
柵を背に必死で防御を固めるダイノを見て両刃剣を鞘に納めて、強化されていることなど関係ないとばかりに腕の上から顔を殴り腹を蹴る。
練魔による強化すら施さず、衝撃だけを響かせる為に防御の固められた頭を殴って揺らし、内臓に負荷をかける為に腹に膝や拳を突き入れる。
遊んでいるだけなのだ、嬲っているだけなのだ。
まだ終わらせてなるものか、まだ殺してやるものかと。
疲れない骨の体を全力で動かして亀の様に縮こまっている目の前の怨敵を暴力の嵐の中に閉じ込める。
打撃の雨霰にダイノは気力をどんどんと削られていき、防御を固めた上から頭を揺らされて膝が震える。
手足を切りつけられて身動きの取れなくなった小隊の分隊員や、一人取り残されて三体の彷徨う武器を相手に痛めつけられた分隊長も恐怖に啜り泣く。
彼等の視線を受けてもガラドは止まらない。
まだ晴れない、それどころか押さえていた怒りが込み上げて振るわれる打撃は苛烈さを増す。
「もっとだ、もっと怖がれ。絶望させてやる。」
体調崩してました!一番いい所で更新止まってて申し訳ありません!
今日から更新再開します!




