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誓の盾



比較的安全な場所ににピースト達を置いてきたとはいえここはアンデットの巣窟になっている場所だ、遺体集積場までの道のりをガラドは走って移動していた。


遺体集積場に向かう途中に上位種が居ればと思って探していたが通常のスケルトンしか見当たらずそれらを無視して通り過ぎる。


「やっぱあそこにしか居ねェみたいだな。」


若干の面倒臭さを感じんて愚痴を溢すがそんなことをしているうちに遺体集積場の外周部に辿り着く。


今度は派手なことはせず外側からスケルトン達を観察して目当ての上位種を探す。運良く近くで錆びた剣を振り合っているスケルトンの集団の中にスケルトン・ソルジャーを発見して強襲。


手早く周りにいたスケルトン三匹の頭蓋を砕き、怪しい青紫の光が流れ込んでくるよりも先にスケルトン・ソルジャーの手足の骨を半ばから砕く。


身動きの取れなくなったスケルトン・ソルジャーの手足を拾い集めながら疑問に思ったことを口にする。


「コイツら頭潰されてなきゃ手足も動くのか。」


ガラドに掴まれた手足の骨がガチャガチャと音を立てて暴れ、地面に倒れた頭蓋も顎の骨をガタガタと鳴らして警戒音を発している。


動かれるとまともに持つことも出来ないなと思い、左手に巻きつけていた革紐を何本か解いて手足を縛り付けて左腕と肋骨の間に挟む。

本体は空いてる左手で背骨を掴んで鞄のように持ち運ぶ。


「こうまで暴れるなら麻紐借りて来るんだったな。」


マーロウの鞄の中にあった道具を思い出して失敗したなと思ったが、彼女に要求していればまだ契約を迫られると思い考えをやめる。


そんなことを考えて運搬しながらガラドが走っていると急に彼は足を止める。手の中のスケルトン・ソルジャーもガタガタと震え出す。


「アンデット相手に尾行すんなら息の根止めねェと無理だぞ。」


その言葉に何も無い空間から息を呑む音がする。

何も見えないがガラドはその場所に確かに生きている人間の気配を感じ取っていた。


「返事がねェなら敵対行動と見なして攻撃すんぞ。」


手に持っていたスケルトン・ソルジャーを地面に放り投げ両刃剣を両手に握り腰を僅かにおとす。

構えをとると目の前の空間が歪んでいき人の姿が現れる。


出てきたのはガラドも見知った人物だった。


「ハートルか!?」


「そう言う君はガラドで合ってるかいスケルトン君?」


ガラドは驚いて構えを解くがハートルと呼ばれた斥候服を着た暗い赤髪の男は短剣を逆手に構えたまま相対する。

その鳶色の目はガラドの一挙一投足をしっかり見据えていた。


警戒の視線が消えないのを見てガラドは笑いながら自身を証明する肩書きを言う。


「デエヒの迷宮(メイズ)十三階層を単独(ソロ)最速で攻略したのがこの頭抜けのガラド以外にいるならナァ。」


「自信満々な様子や声はガラドのそのものだね。でも生憎彼は一年前に死んでるんだよ。」


一年。ハートルの口にしたその期間に自身の魂が焼かれていた時間を考えてガラドは一瞬怒りで視界が赤く染まる。


ハートルの側から見ていたガラドの眼孔の光が青紫からスケルトン種や彷徨う鎧(リビング・アーマー)が生者を襲うときの赤紫に変わる。

そしてガラドから溢れ出る威圧感にハートルは背中から冷や汗が吹き出る。

喋っているのはこの際どうでもいい、そんな事より特殊個体とはいえこの威圧は異常だと考えた。


構えをとるが、いざという時は手持ちの煙玉に紛れて再び魔術で姿を隠して団員(パーティ・メンバー)と合流しようと考えていたハートルの目の前で威圧感が消え、ガラドの眼孔の光も青紫に戻る。


「悪ぃ、冥府で魂燃やされてた時のこと思い出しちまった。」


先程までとは打って変わってバツの悪そうな声でガラドが謝罪する。

そして両刃剣から左手を離して完全に構えを解いく。

そして地面に放り投げたスケルトン・ソルジャーを再び抱え直してハートルに話しかける。


「お前が来たってことはピースト達の師匠ってのは誓の盾だろ?このスケルトン・ソルジャーはピースト達にした依頼の報酬だ。」


「あの子達は無事だろうね?」


「ラントンが左腕の骨折ってるが手当はしてある。」


続きは帰りながらだと背中を向けて天幕に歩く隙だらけのガラドを見てハートルも武器は構えたまま歩き出す。


「依頼の報酬?」


「依頼は師匠への伝言だ。報酬の意味は着いたら分かる、多分驚くぞ。どうせアイツらがガキ共のとこに居んだろ。」


質問に返しながらチラリとハートルに視線を向けてガラドは笑う。


「俺を殺るならアイツらと合流しなきゃ手が足りねェぞ?」


ハートルの先程の慄いた様をみてカラカラと笑いながら軽口を叩く。

ガラドの言い分が正しかったな短剣を仕舞いながら悔しそうに歯噛みする。


「まさかスケルトンに舐められるとはね…。」


「今の俺でもハートル一人簡単に倒せるからナァ。」


余裕そうなガラドにハートルは口を尖らせながら不機嫌そうにしながら進む。

だがガラドの言葉に違和感を感じて質問を挟みながらピースト達と団員の待つ天幕に進む。


「今の俺でもって?」


「見りゃわかんだろ。骨だけで筋肉も無けりゃ生きてすらいねェからか練気も使えなくなっちまった。」


自分の骨を剣の腹でカンカンと叩き自分の弱体化を話す。練気が使えなくなったのも話し、自身の手の内を晒すガラドにハートルは更に訝しむ。


「本当にガラド?自分の弱点晒すとか。」


「弟子共助けてやったし、手の内晒してんのも一応敵意が無いって証のつもりだよ。お前さっきブルったろ。」


「うっわ!腹立つぅ〜!」


歩きながら喋っていると天幕が目に入ってくる。ガラドはそこで人間の気配が増えているのを確認し一旦立ち止る。ガラドを見てハートルも止まる。


「行かないのかい?」


「ガキ共人質にしても良いなら行ってやるが?ここで待ってるからロイとシーラ連れてこいよ。」


その言葉を聞いてハートル一人で天幕へと歩いていく。暇を持て余したガラドはスケルトン・ソルジャーの背骨から手を離し剣の腹で叩き出す。


カンカンと骨に剣が当たる音が響かせていると天幕に居たであろう三人の気配がこちらに向かって歩いてくる。


歩いてくるのは険しい顔をした短い金の短髪に身の丈ほどの大盾を持った男、その後ろにはハートルと長い金髪を三つ編みにして肩から垂らす捻れた木の杖を抱えた女が居た。


先頭の金髪の男はスケルトン・ソルジャーで遊んでいるガラドを見ると険しかった顔に呆れを滲ませる。


「見たことある光景だな。」


「アッハッハ、よぉロイ。お前らに模擬戦で勝った時はいっつもやってたからな。」


カラカラと笑う彼にに頭痛を堪えるように眉間を揉んだロイを見て三つ編みの女性がガラドに声を掛ける。


「ガラドさんで合ってるの?」


「おうシーラ、弟子に酔っ払ってなんて事教えてやがる。顎外れるかと思ったぞ。」


ガラドの言う言葉の意味が分からなかったのかシーラは首を傾げるが、続く言葉に焦る。


「マーロウが俺に迫るのに初めてはガラドさんがいいとか宣いやがったぞ。絶対酔っ払ったお前が教えてんだろ。」


「それはぁ〜…その…ごめんなさい。」


ガラドから聞いた末の弟子の言葉にシーラが苦笑いをし、ロイとハートルは頭を抱え出す。

弟子の教育は彼等の仕事だと思いガラド会話の続きを促す。


「んで?俺が本物か見極めに来たのか、それとも討伐しに来たのかどっちだ?」


ニヤリと嗤いガラドがそう言うと彼の体から威圧が放たれる。威圧感に当てられて三人がそれぞれの武器を構える。

大盾を構えたロイが額に汗をかきながらガラドの問いに答える。


「見極めに来たが正しい…。仮にガラドなら二度も友人を喪いたくはない。」


「へぇ?どうやって?」


「こうやってだ!」


大盾を構えたままロイが駆け出す、練気を使っているのか踏み込んだ地面が抉れている。

対するガラドも練魔を使い踏み込んで大盾に剣を叩きつける。

金属同士が大きな音をた立ててぶつかり火花を散らす。


大楯に肩を当てて押し込むロイの勢いに弾かれてガラドガラド飛び退く。


「どうした!?ガラドならこんなぶつかり合い余裕だろう!!」


尚も勢いを緩めずロイがガラドに迫る。

ガラドは体勢を整えると両手を練魔で強化すると剣を握り思いっきり迫るロイの大盾に振り抜く。

二度目の接触が再び火花と轟音を響かせる。


今度はロイが地面を削りながら後ろに下がる。


「糞が!死んでこちとら練気使なくなってんだよ!ちったぁ手加減しやがれっての!!」


「それでもお前なら!」


まるで話を聞かず止まらない様子のロイを見てガラドは動きを変える。

大盾に叩きつけた剣から力を抜いて流し、勢いが流されて体勢を崩され真横を通り過ぎようとしていたロイに向けて剣から手を離していた右拳を振り抜く。


「魔力切れだ、黙って喰らっとけ石頭ぁぁ!!」


「おおぉぉぉ!!」


崩された大勢から無理矢理頭をガラド方に向けたロイの額に拳が当たり、先ほどまでの金属音より鈍い骨同士がぶつかる音が響く。



「「いっっってぇぇぇぇ!!!」」



頭と拳を押さえた男二人の絶叫がアマステア平原を震わせた。

騒ぎを聞きつけたピースト達の目に映ったのは痛みに頭と拳を押さえる師と恩人の姿だった。



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