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辺境伯ドーラー家の周辺の人々

訛り侍女、恋の仲立ちいたします!

作者: 椿野蒔琉
掲載日:2025/10/04

ルビは打たない派

つい先日、マイク・ゴードン伯爵様に嫁いてきたエリカ様。

そのエリカ様のご実家からついてきた侍女フローラが、私でございます。


私の一日は、エリカ様を起こすところから始まる。……と言えば聞こえはいいんですがね。はっきり言って、エリカ様は寝起きが悪い。いや、悪いというより反応がない。何しても寝てはる。


予定が詰まってるんだから、起きてくだっせ!(うっかり訛が)


どうにかこうにか起こし、洗顔やら髪結い、着付けまで持っていくんだけど……エリカ様はフラフラ、隙あらば寝ていらっしゃる。


「お嬢様――じゃない、奥様!頭を揺らさないでください!髪が上手く結えません!」

「んあ~い……」

「マイク様と朝食をご一緒できませんよ!」

「それは嫌ぁ」


この2人は貴族には珍しい恋愛結婚なんだよねぇ。

しかもキューピッドは私!




 ドーラー辺境伯家の寄り子の男爵家に生まれた私は、なかなか訛が抜けなかった。辺境伯家に仕える事となって、奥様付きなった。んだけど、王都の辺境伯のお屋敷でメアリお嬢様の御誕生会を行うってことで、本家から応援にいったんさ。本家ではみんな方言だったし、それが普通だったから何とも思わなかったんけど、お嬢様は違ったみたいやわ。


 会場中を見渡せる場所に待機して、なにかあったら駆けつける役目を仰せつかった私は、張り切って仕事に就いていたわけですよ。ところが!御誕生会の主役であろうお方が!手についたクリームソースをドレスに!なしくろうとしている!(こすりつけようとしている)

私は思わず声をメアリお嬢様に掛けてしもたの。


「お嬢様、手、なしくらんといてください。ドレスにシミ付きます」

(お嬢様、手、擦り付けないでください。ドレスにシミが付きます)


ご友人と歓談中だったけど、それを聞いたお嬢様は、


「あっ、いや、そのっ」


周りの人の目を急に気にしはじめて、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。その姿を見た私は思わず声が出たんさ。


「その靴じゃあ、こけますよ!お嬢様、昔からとっぱすけやと言われとりんさったんやから!」

(その靴じゃあ、コケますよ!お嬢様、昔から慌てん坊だと言われてらしたんですから!)


その後、お嬢様に別室へ呼び出し食らって、散々詰られた。…今思うと、恥ずかしい。あんな事、ご友人の前で言わなきゃよかった。そりゃ、お嬢様怒りますって。


申し訳ございません、すいません、ごめんなさい、いっぱい謝ったけど、お嬢様は


「首よ!首!どこにでもいきんせえ!」(首よ!首!どこかへ行っておしまい!)


と最後には解雇されてしまった。


その騒ぎを聞きつけたのがエリカ様だ。いきなりドアが開いたかと思うと、開口一番に


「その子、首にするの?じゃあ、私が貰ってもいいかしら?」


鈴を転がしたような、可愛らしい声だった。いやあ、こんな声実在するんやな(←現実逃避)


「エリカ様、お止めになった方がよろしいと思いますわ」


メアリお嬢様、私もそう思います。


「あら、どうして?」


エリカ様、どうしてって、どういうことですか?


「この者は、訛も抜けませんし、主人に恥もかかせましたし」


「まあ、恥をかかせた点では落第ね。でも、その方言、私はすきよ?」


エリカ様、好きって?なんとなく顔を赤くして、話を続けられた。


「だって、マイク様とお話できたんだもの」


「…はい?」


メアリお嬢様は面食らったように呟いた。


「メアリ様のご実家は西の辺境伯よね?そこの方言ってあんまり聞く機会なくって。マイク様は言語学を研究してらっしゃるのよ。北や南の方言は資料がたくさんあるのに西はないんだっておっしゃってたの」


なんかエリカ様夢見る乙女みたいに、ぽーっとして話をつづける。


「そしたら、メアリ様は西から来たって言うじゃない。ぜひ話を、と思ったのに方言でお話されないし。でも、時々出てくるから聞き逃がせないし」


今度はメアリお嬢様が赤くなった。


「でてますか…?」


「そりゃあ、もう。“さらえる”とか“ねぶる”とか」


え、さらえる、ねぶるって方言ですか?(食べ残さないとか舐めるっていうらしい)


「先ほどのそこの侍女が大声で捲し立てたのを聞いて、マイク様と話が盛り上がったの。これはいい機会だわ。とにかく、侍女教育はこちらでしっかりやるから心配しないで」


「よろしいので…?」


メアリお嬢様はおそるおそる聞いてらっしゃる。ホンマにエエんですか?返品ききませんよ?




かくして私は、エリカ様付きの侍女になったわけで。


けれど実際のところ、エリカ様が私を欲しがったのは――

マイク様とお近づきになりたいから、でした。


「フローラ。ちょっと来て」


「はい、お嬢様」


「これからマイク様にお手紙を書くの。方言の表現を、三つくらい書いてちょうだい」


「……お、お手紙にですか?」


「そうよ。学術的なご質問という名目で!」


あの頃のエリカ様は、もう必死でした。まぜかす(まぜる)、やら、しわい(かたい)、やら書きんさってましたが。

でもね、決して軽々しく二人きりでお会いになったりはなさらない。


「未婚のご令嬢が、軽々しく紳士と会うわけにはいかないもの」


とおっしゃって、常に友人や私を同席させる。

でも、その場で決して邪魔はしない。マイク様が研究の話をされれば、横で熱心に耳を傾け、時には「まあ」と頬を染めるくらい。


そうして幾度か顔を合わせるうちに――

私でも分かるほど、マイク様の表情が柔らかくなっていったのです。


「西の方言は興味深い。だが……エリカ様の方が、もっと興味深い」


研究の話の合間に、そんなことをぽつりとおっしゃったマイク様を見て、私は心の中でガッツポーズしました。


――してやったり!


それからのことは早かったわぁ。

慎重に、けれど確かに距離を縮めていかれるお二人。

エリカ様は「学問に理解のある婚約者」として公に認められ、やがて堂々と結ばれることになったんさ。


結婚の日、エリカ様は私の手を取ってこうおっしゃった。


「フローラ。あなたがいなければ、私はマイク様と結ばれなかったわ。だから一緒に来てほしいの」


……驚きましたよ。だって侍女の訛なんて、普通なら婚家の恥とされかねないんです。

でもマイク様はにっこり笑って、こう言ったんです。


「彼女の方言は、私の宝だ。しかし、仕事上矯正されてもしょうがない。だが時々ふと漏れる、その一言を聞くたびに、君の出身地や歴史までもが鮮やかに思い浮かぶのだよ」


……もう、なんて人たちでしょう。

そうして私は、伯爵家にまで連れて来られて、今もこうして奥様の寝起きを叩き起こしているのです。


「奥様!そろそろ起きてくだせぇ!」

「ん~……まだ」

「朝食を共にできませんよ!」

「それはやぁだぁ」


――まったく、恋愛結婚のお二人は、今日も仲睦まじゅうございます。


がっされぇ時間かかりましたわ

どこの訛りかはナイショ

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