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第9話 A級の戦い

【新キャラ視点】

 ティファニア・フリューゲルは苦戦を強いられていた。

 元々、探索者として名を馳せた彼女は日本政府に雇われ、対ダンジョン部隊の一員として活動していた。数多のダンジョンに潜り、人命救助のために戦ってきた。

 今回の人命救助の任務を受諾し、仲間たちと共にダンジョンに進んでいた。

 途中、民間人の救助に手を取られたものの、順調に攻略を進められている。

 そう、思っていたのだが――。


(こんな手強い魔物が出てくるなんて……っ)


 甲高い叫びと共に、紫電が迸る。降り注ぐ稲妻を槍で弾きながら、ティファニアは歯噛みする。視線を上げると、目の前に立ちはだかるのは翼をはためかせた魔人の姿がある。

 肌は不気味な紫のまだら模様。体躯は四メートルほどあろうか。見開いた目を血走らせ、歪な笑みを浮かべる姿は悪魔そのもの。

 最上級魔族の、アークデーモン――最悪の魔物が立ちはだかっていた。


(想像以上にこのダンジョンは魔物のレベルが高い――)


 槍を構えながらティファニアは冷汗を滲ませ、間合いを測る。

 アークデーモンは攻略難易度A級の敵だ。深層でも滅多に出くわすことはなく、ティファニアも戦ったことは数えるほどしかない。

 その戦いはいずれも苦戦を強いられた。

 脅威なのは放ってくる雷撃。威力が高いことはもちろん、連発してくるのも脅威だ。また飛行していることも脅威の一つ。間合いを詰めるのが難しい。

 本来ならば、万全な体制で挑むべき敵だ。


(けど――)


「オオオオオオオオ!」


 唸り声と共にアークデーモンが掌を突き出す。直後、その掌から魔力が迸り、無数の稲妻が迸る。それに反応し、後ろに控えていた仲間が魔力を練り上げる。


「〈魔障壁(マジックバリア)〉――!」


 それに呼応して中空に現れた魔力の障壁。それが稲妻を受け止め――だが、一瞬でそれらは砕け散る。その光の残滓が舞い散る中、貫通した稲妻が迸る。

 咄嗟にティファニアは前に踏み込むと、槍を真っ直ぐに突き出した。

 稲妻と槍の穂先が激突――弾いた稲妻が壁や地面にぶち当たり、ひび割れを走らせる。ティファニアは槍を構え直しながら背後を見やる。

 陣形を組んで荒く息をつく部隊の仲間たち――その数は少なく、その背後で守られているのは怯えた顔を見せる民間人や負傷者たちだ。


(奇襲で数を減らされている上に、民間人を守りながらだと分が悪すぎる――!)


 ティファニアは歯噛みしながら槍を握り直す。稲妻をまともに受けた槍は焦げ、衝撃で手が痺れている。白銀の鎧ももはやぼろぼろだ。

 この状況での勝算は皆無。それどころか、全滅すらあり得る――。

 その状況にティファニアは決断を下した。


「――総員、退却! 現時刻を以てダンジョンから離脱せよ!」


 そう言い放ちながら、彼女自身は槍の石突きを地面に突き、仁王立ちをする。

 ここを一歩も通すまい――その気迫を放ちながら。


「殿軍は私が引き受ける。民間人を避難させよ!」

「……っ、了解っ」


 その覚悟を感じ取ってくれたのだろう。仲間たちは陣形を組み直し、迅速に来た道を引き返し始める。それに反応し、アークデーモンは咆吼を轟かせた。

 両手を頭上に振りかざすと同時に、膨大な魔力の波動が空を震わせる。

 まずい、とティファニアは目を見開き、魔力を体内で練り上げる。


(〈肉体覚醒〉――!)


 スキルを発動する。直後、心臓が強く脈打ち、全身の筋肉が白熱する。ティファニアは地面を踏みしめると、強く地を蹴り飛ばした。

 瞬間、アークデーモンが魔力を解き放つ。中空から無数の魔法陣が出現。そこから稲妻が次々と放たれる。その狙いは紛れもなく、ティファニアの背後の民間人――。


(さ、せ、る、か――ッ!)


 そこにティファニアは一足で割り込んだ。槍を振るって次々と稲妻を受け止め、逸らし、弾き飛ばしていく。稲妻の動きを完全に見切っている。

 次々と撃ち落され、閃光と共に弾かれる稲妻。

 轟音と共に稲妻は壁や床に激突し、ひび割れを走らせる。その凄まじい衝撃は槍を通じてティファニアの身体にも響き、息が詰まりそうになる。

 無茶な動きに覚醒した身体も悲鳴を上げ、全身に筋肉が引きつっている。


(それでも――!)


 彼女は魔力を燃やすと全身に巡らせ、限界を超えた力を引き出し続ける。ふいごのように荒い息をこぼし、汗を散らしながら彼女は槍で稲妻を防ぎ続ける。

 彼女が限界を迎えるのが先か、魔物の攻撃が止まるのか先か――。

 その瞬間は、すぐに訪れた。

 魔法陣が途切れ、アークデーモンの攻撃が止まる。その切れ目を逃さず、ティファニアは瞬時に地を蹴りながら槍を構え直した。


(魔力を練り直すまでが、勝負――ここしか、ないッ!)


 ティファニアは鋭い動きでアークデーモンの懐に飛び込んだ。刺突の構えのままに魔力を燃やし、スキルを発動させる。


(――〈二回攻撃(デュアル・アタック)〉――ッ!)


 瞬間、ティファニアの身体が加速し、腕が一閃される。直後、アークデーモンの胴体に槍の穂先が吸い込まれ、二つの血飛沫が上がった。

 一閃二撃。はっきりとした手応えを感じながらも、ティファニアは歯噛みする。

 目の前のアークデーモンの目は鋭く彼女を見据え、魔力を練り直している。


(――仕留め損なったか……っ!)


 あと一歩、踏み込みが足りなかった。それに悔いるティファニアの目の前で、怒りの咆吼を震わせるアークデーモンは魔力を練り上げる。

 頭上で展開される魔法陣。ティファニアは膝をつきながらそれを見上げ――。

 その視界に入ったそれに、思わず目を見開いた。


(――人……?)


 アークデーモンの背後を取り、飛び掛かる人影。その手にした鋭い刃が真っ直ぐにアークデーモンの首筋に叩き込まれる。

 その一撃は体力を削り切られた魔物にとってはあまりに痛恨だった。


「――ォオオ……ッ!」


 咆吼は呻き声になり、魔力が霧散して魔法陣は掻き消える。

 そして、地響きを立てて倒れるアークデーモン。その姿が塵と化して風に散るのを見ながら、ティファニアは槍を地面について立ち上がる。

 その塵が消え去った後に姿を現したのは、一人の青年だった。

 まだ少年と言っても差支えがないほど年若い男。だが、その瞳が落ちついており、真っ直ぐにティファニアを見つめている。


「……キミは、一体……?」


 ティファニアが思わず呟くと、彼は目を細めて穏やかな口調で告げた。


「有坂蒼馬――ただの民間人ですよ」

ここで第一章完となり、続いては第二章となります。

区切りにて、一旦ご評価給われれば幸いです。

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