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第5話 生き延びるために

「兄さん、はい、お茶」

「ん、ありがとう。カルア」


 薄暗いリビング。懐中電灯の光を天井に当てて間接照明とし、二人はソファーで寄り添って座っていた。外気温が低いのか、少し室内は寒くなっている。

 蒼馬はカルアからお茶を受け取り、唇を湿らせてからカルアを見る。

 彼女もお茶を呑みながら真っ直ぐに蒼馬を見ていた。


「カルア、今後だけど――このまま、救助を待つことになると思う」

「はい、そうですよね」


 蒼馬の言葉にカルアはこくんと頷き、ちら、と視線を外に向ける。


「私たち以外にも、ダンジョンに呑み込まれた人たちはいます。恐らく、家の中で息を潜めている――その人たちを救助する部隊が組まれるはずです」

「ああ、ただ彼らがすぐに来られるとは限らない」


(……というか、救助作戦は難航するんだよな)

 シナリオによれば、今回の大災害に対し、国は対ダンジョン部隊を投入するが、巻き込まれた民間人が多く、さらに想定よりも魔獣が強いことで行動は難航する。

 また、対ダンジョン部隊の一部が途中で壊滅したことを受け、一部の作戦がストップしてしまう。本来ならばそれに業を煮やした主人公たちが義妹たちを助けるために、許可を取り付けてダンジョンに潜るようになるのだが――。


(その主人公が今、ダンジョンに呑まれている要救助者、ってね……)

 いずれにせよ、シナリオを鑑みれば救助を期待するのは難しい。


「長期戦は避けられないだろうな」


 思わず呟いてしまい、蒼馬は慌てて口を噤んだ。

 だが、カルアは不安がる様子もなく、真摯な顔つきで一つ頷いてみせた。


「でしょうね。幸い、保存食や水、予備バッテリー、ガスなんかは潤沢にありますけど、できるだけ節約するようにしましょうか」

「あ、ああ……その、カルア」

「はい、何でしょうか」

「不安とか、心配じゃないのか?」

「ああ――まぁ、確かに少しは不安ですけど」


 カルアは小さく苦笑しながら頭を蒼馬の肩に預け、上目遣いで見てくる。


「――でも、その……兄さんがいてくれますから」


 そういう彼女の頬は薄暗い中でも分かるくらい朱に染まっていて。だけど、その瞳は逸らすことなく、蒼馬を見つめている。彼女は蒼馬の腕に抱きつきながら言う。


「一人じゃない――兄さんがいてくれる。それだけでこの窮地でも冷静でいられます」

「そ、そうか……嬉しいけど、少しこそばゆいな」

「ふふ、大胆な兄さんでも、照れてくれるんですね」

「そりゃあな」


 二人で笑い合い、目を合わせるだけで愛おしさが胸から込み上げてくる。そのまま、彼女を抱きしめたい衝動をぐっと堪え、蒼馬は咳払いをして仕切り直す。


「とにかく長期戦を想定して物資を節約するのも大事だが――万が一の対策として、もう一つやっておくことがある」

「もう一つ――なんでしょう?」


 首を傾げる彼女に、蒼馬は少しだけ視線を外しながら言う。


「俺たちの強化だ。万が一の事態――それは、この家を捨てざるを得ないときだから。考えたくはないけど、そのときは魔獣と戦いながら逃げないといけない」

「……確かに、それも考えるべきかもしれませんね。た、ただ、それはつまり――」


 カルアは途中で口ごもり、視線を彷徨わせる。


(さすがに気づくよな。どういうことを意図しているか――)

 蒼馬やカルアを強化するには手段は二つ。一つは魔獣と戦って経験値を得ることだが、これは現実的ではない。外を徘徊している魔獣はかなり強いからだ。

 そうなれば必然的にもう一つになる。それは二人のスキルを活かしたもの。

 共に過ごし、愛を深めること――絆値を高めることで、力とするやり方だ。

 端的に言えば、ひたすらイチャイチャすることが重要なのだ。

 だが、それを切り出すのは互いに恥ずかしい――だから。


「――カルア、少し寒くないか?」


 蒼馬は何気ない口調で訊ねると、カルアは目をぱちくりさせ――だが、すぐにその意図に悟って頬を染めた。それから小さな声で告げる。


「かも、しれません――ダンジョン内って、意外と寒いんですね」

「ああ、地形に寄るが、ここは寒いな」

「はい、でも兄さんの傍は温かい――」


 そっとカルアは身を寄せながら上目遣いで、甘えるように言葉を続ける。


「――兄さん、もっと温めてくれませんか?」

「ああ、もちろん……」


 彼女の身体に腕を回し、少しでも多くの面積が触れ合うように密着する。忍び寄る冷気が感じられるものの、カルアと触れ合っている場所は温かい。

 その熱がじわじわと体の中に浸み込み、心を熱く高鳴らせる。徐々に高まる高揚感に蒼馬はカルアに視線を向ければ、彼女も瞳をとろんとさせてねだるように吐息をこぼす。

 互いに考えていることは同じ――もっと強く熱く触れ合いたい。

 そうなれば、もう深く繋がろうとするのは時間の問題だ。蒼馬はその衝動のままにカルアに唇を寄せれば、カルアも目を閉じて唇を合わせる。

 寝室に戻る時間さえ、もどかしかった。


『〈有坂蒼馬〉と〈カルア〉の絆値が上昇しました』

『〈有坂蒼馬〉と〈カルア〉の絆値が上昇しました』

『〈有坂蒼馬〉と〈カルア〉の絆値が上昇しました』

『〈有坂蒼馬〉と〈カルア〉の絆値が上昇しました』

『〈有坂蒼馬〉と〈カルア〉の絆値が上昇しました』

『〈有坂蒼馬〉と〈カルア〉の絆値が上昇しました』


『スキル〈魔力経路〉を獲得しました』

『スキル〈身体活性〉を獲得しました』

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