表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

尋ね人

「頭痛い(‐ω‐`;)」


「大丈夫ですか?」


「うん。(^^;多分」


「無理するのはよくありませんよ…」


「でも、ちょっと痛いだけだから。心配しないで」


「そうですか?……ならいいですけど…」


「ありがとうね(^.^)それより、君。私に話しかけてくるなんてよっぽどの物好きか暇人なのかな?」


「いや〜……どっちでもないと思いますよ」

カタカタと打つ。


「じゃあ何で?もっと別の人と話しても良かったんじゃない?」


「ん〜それも良かったんだけど、今は必要ないかな」


「ん?(‐ω‐`)どういう意味かな?」


「僕は必要ない事をするのは趣味じゃないんだ(笑)」


「あはは!面白い(o≧∇≦)o………あれ?じゃあ何で私に?(゜_゜;)」


「……ちょっと訊きたいことがあって」


「うむ?(・ω・`)なんぞよ…?(゜_゜;)ドキドキ」


「この前、この掲示板に変なこと書いてたのあなたでしょ?」


「えっ!?(@д@)……別に変なことなんて書いてないよ…実際に体験したことだもん……まぁ…誰も信じてくれなかったけど…(泣)」

「じゃあさ、信じるから詳しく教えてくれないかな?その夢について」


「う〜む…でも君も信じることできないでしょ?」


「いや、信じられるよ」


「何で?ありえないよ」


「だって……僕も体験者だからね」




「燕崎………シグマ……」

聞き覚えのある名前だった。

香織は思わず復唱してしまった。

「?……心当たりでも?」

と、皆木。

「えぇ……ちょっとね」

あんな名前他にいないだろうし……

聞き間違えにしてもいかにも一致しすぎてるし…

でも…何でそんな人があのシグマを…?

探す必要が?

「その女性は他に何か言ってなかった?」

「他に…ですか?」

考え込む皆木。

「いえ……これと言ったことは……」

「そう……ありがとう。よくわかったわ。あとは自分で考える」

そう言って私は皆木に背を向けようとした。

「もしかして先輩もあのような夢を?」

突然だった。さっきまで答えることしかしなかった皆木がいきなり私に対して質問してきた。

「…………あなたも質問するのね」

「いえ、独り言ですが……何か?」

「……………」

素直じゃないやつ……。

「………そうね、そういう事になるわね。違う参加者を探していたの。情報を得るために……」

「何一人でぶつぶつ言ってるんですか?」

おおよそ冷たい目と呼べる眼で私を見てくる皆木。

「独り言よ」

言い返してやった。

「……なるほど。では、他に用がないなら僕はこれで―――」

と、席を立つ皆木。

「次は教室移動なので」




「なんつうかさ……生活にBGMが欲しいよな、もっと」

自分の横で共に講義を受けていた水面(みなも (あつしが突然そんなことを言ったのは講義も終盤に差し掛かったところだった。大半の生徒が疲れを催している頃。

「は?」

「だからBGMだよBGM。盛り上げるというか雰囲気づけるというか……まぁ、そんな感じの音楽が欲しいんだよ」

「…………何で?」

「よくぞ訊いてくれた。つまりは今の生活に飽き飽きしてるんだよ。アニメやドラマみたいに音楽だけでもいいから現状を盛り上げて欲しいんだよ。そういうもんなんだよ」

「なるほど……で?それが今の授業と関係あるのか?」

それを聞いて肩を少し落とす水面。

「あのなぁ……つまりはこの授業がつまんねぇって言ってんの。わかる?」

「……まぁ……な」

「何!?その曖昧な返事!?……まぁ、どうせこの授業もあともうすぐ終わるんだ。それまでの辛抱か………」

そう言うと水面は机に伏せる。

疲れているのだろうか、今朝から調子が覚束ないように見える。こいつもこいつでそれなりに苦労しているようだ。

普段の立ち振舞いからは知るよしもないが……。

「……なぁ……燕崎……」

少しの沈黙を置いたあと、水面は顔を伏せたまま俺のことを呼んだ。

「何だ?」

「お前さぁ……最近なんかおかしくない?」

「…………」

“それはこっちのセリフだ”と言い返そうとしたのを止めた。

水面の声にふざけた要素が含まれてなかったからだ。

「……どういう意味なんだ?」

「なんつうかさ……カリカリしてるというか、常に緊張してるような感じなんだよね。何かあったのか?……いや、というか何かあったんだろ。お前がそんな風になるなんておかしい」

「………………」

“何か”……何もないと言えば嘘になる。日々生活していくなかで何もない人間などいないからだ。だが…この前体験したあれは一般常識内の生活の中で体験することなのだろうか。いや…体験するわけがない。まして俺みたいな一般学生が生きていく上では。

「何もないさ。お前こそ最近おかしいだろ」

しかし、言えるわけがなかった。というか、もとより言う気はない。言ったところで“信じて”もらえないのが目に見えているからだ。

「質問してるのは俺なのに……。まぁ、いいや。……俺こそ何もないさ」

そう言ってこっちから顔を背ける水面。

昨日電話がかかってきた。

本選がどうのとか言ってた。

確か日時は明日の19:00から……。

それまでに何をしろというのだろうか……。

というか、またあんなことをしなければならないのか……。

無駄な戦いこの上ない。

だが……なぜだか違和感がある。“あんなゲーム”をどこかでやったような……そんな感覚。

デジャヴュとか言うやつだろうか?

分からない……当たり前か。

そこで授業終了を知らせる鐘が部屋の中に響いた。

今まで寝ていた生徒(水面を含む)が一斉にムクリと顔を上げた。

教師が部屋を退室したのを確認すると途端にあちらこちらの生徒が席を立ち、騒ぎながら退室していった。

一方水面は顔を上げた状態から微動だにしない。

「おい。行くぞ。………何か用でもあんのか?」

「……………」

水面は無表情かつ冷たい目線のままただ前を見つめ俺の言葉をシカトした。

「なぁ……燕崎……」

かと思いきや突然呼ばれた。

「?…何だ?」

「もし……なんだけどさ……」

「あぁ……」

「もし……何か隠してる事があるなら俺には言えよ……」

「…………お前もな」

「お、俺は……別に……」

再び顔を背ける水面。

見え見えなのだが……。

「そうか……何にもないならいいさ。俺もお前には嘘をつかない。いいな?」

嘘をついた。

「あぁ……わかった」

水面はその言葉を確認するやいなや席を立った。

「学食行こうぜ。腹減っちまった」

笑顔の水面。

「あぁ……」




先ほど授業を受けた教室から学食までは普通に歩いて大体五分。それまでの道中は普段の水面と何らかわりない様子に戻っていた。

学食に着いた俺達は人が混みあっているなかでようやく二人分の席を見つけ、そこに落ち着くことができた。

交代で買ってくることになり、俺が先に席を立つことに決まった。

席を確保したからと言って買うのが楽になるわけでもなく、交代で買いにいかなければ席も危ういのだ。

「じゃあ、買ってくるな」

「おう、待ってるから早くしろよ」

軽快にそう言う水面。

それを確認してから券売機まで向かった。




燕崎が券売機の方へ歩いていき、人混みに紛れて見えなくなった。

いつ見てもここは混雑している。最近弁当持ちの生徒が増えてきたのもここ最近の不景気と照らし合わせれば納得がいく。

そろそろ俺も自炊しようかな…。

「ちょっといいかな」

「え?」

一瞬俺に掛けられた声なのかわからなかったが次の瞬間に先ほどシグマが使っていた席に何の断りもなく座った女性がいた。

「は?だ…誰?」

「お前、水面篤だろ?」

女性は間髪入れずにそう言った。

「あ、あぁ……そうだけど……あんたは?」

「私のことなんてどうでもいいんだ。問題はここからだ」

女性は学食内にスーツできたらしく、周りの人間とはどこか違った雰囲気になっていた。

「燕崎シグマはどこだ?」

「は、はぁ?」

「いいから答えろ。燕崎シグマはどこだ?お前と一緒にいたのは知ってる」

「いや待て、だからあんたは―――!?」

その時、ダンッという音と共に俺は椅子から落とされ女性に拘束されていた。

首もとには周りに見えないように刃物が握られていた。

「いいからさっさと答えろ。これが最後だ、“燕崎シグマはどこだ?”」

「く、くぅ……」

突然のことなので周りにいた人達が一斉にこっちを見た。

「言う気にならないか……なら、もうお前に用はない」

そう言って女性が手に力を込めようとした瞬間―――

「おい!水面!」

誰かに呼ばれた。

気づくと人混みの中から燕崎………燕崎シグマがこっちにきた。




「渋谷ハチ公前に12時か…」

誰に言うわけでもなく呟く。

さっきから何度も腕時計を何となく確認している気がする。

何度確認しても時間に大差はでない。

今現在が集合時間ぴったりとなる時刻なのだ。

だが、待ち人“らしき”人間は未だに現れない。

「やっぱり……すっぽかされたのかな……」

ふと周りを見回しても人人人………

高いビルに大きい交差点。

どれもこれもが私の住んでいる環境と違っていた。

田舎もんは相変わらずか……。

「すいません……」

考えにふけっていると不意に声をかけられたのに気付いた。

「は、はい!」

声をかけてきた対象を見る。

身長は私より少し小さいくらいの男の子……。

「“マルチー”さんですか?」

そこからでた言葉。

「は、はい!………ってことは……君は……」

それを確認するなり少年は急ににこやかな表情に変わった。

「はい。“ファントム”こと蒼井一哉です」




“マルチー”と“ファントム”は僕達のペンネームだ。

彼女の本当の名前は三枝木(さえき) 尚美(なおみ)というらしい。

三枝木さんと僕はチャットで知り合った。

で、さっそくだがオフでも会うこととなった。

特に理由はない。ただ単にお互い訊きたいこと・話したいことがあっただけだ。

お互いがあのゲームの参加者。

ただそれだけの理由だ。

「で〜……どこからお話すればいいのでしょうか……」

三枝木さんは近くの喫茶店に入り、席につくなり話題を持ちかけてきた。

「そう……ですね……」

間をおきとりあえず深呼吸。

「まずはあなたが知っているこの事件の事を教えてください」

「知っている事……ですか…」

「はい。何でもいいんです」

「えぇと…ですね…まず、今までは予選で…次からは本選なんですよね…生き残った人達だけが本選に進めたんです……まぁ…この程度ですね…」

「わかりました。……えっと…ちなみに三枝木さんはどうやってここまで生き延びたんですか?」

「へ?私ですか?……私は…逃げ回っていたり、他の方に助けてもらっていたら生き残ることができました」

「他の方?……知り合いがいたんですか?」

「いえ…見ず知らずの方でした。とてもお強い方でして…そして、とても綺麗な方でした」

「綺麗な方?じ、女性だったんですか!?」

「え、えぇ……そうでしたよ。スーツを着た女性でした」

「ス、スーツ?」

女性がスーツ……ねぇ……。

「へ、へぇ……三枝木さん自体は戦闘は?」

「私ですか?私はなにぶん運動神経が悪いもので……とてもそんな暇はありませんでした」

「な……なるほど……」

「あっ!!」

急に三枝木さんが目を開き顔を上げた。

「な、何ですか……?」

「そういえば……その女性の名前を聞きました……えぇと…確か――――――




――――――志野木(しのぎ 芽衣子(めいこだ。自己紹介は必要ないからな燕崎シグマ」

「は、はぁ……」

先ほど騒ぎになった学食を移動し、キャンパス外にある喫茶店に入った。

少しパニクっていた水面は大学内に置いてきた。

「さっそくだが……お前には訊きたいことがある」

「なんすか?」

「まぁ、そう固くなるな。例のゲームの事だよ」

「……っ!」

こいつ……知っている!?

「なんであんたが………」

「まぁ……質問は無しだ。いいから聞け」

軽く宥めるように言う。

「お前……最近日常生活の中でおかしなことはなかったか?」

「おかしなこと?……どういう意味だ?」

「言った通りの意味だ。あのゲームを境に日々生活の中に変化はなかったかと聞いているんだ」

「変化?」

「あぁ…命を狙われたりとかな」

「いの………あんた何言ってんだ?」

「その様子ならまだのようだな……それなら結構」

「何が言いたいんだ」

「わからないのか?……それだけお前が“大事な”人物なんだよ」

「えっ……」

「だが………もし来るなら……そろそろだぞ」

するとその瞬間、喫茶店の外の道路側からバンッという音がした。

これは……銃声!?

それと共に聞こえてきた通行人の悲鳴。

「なっ!?」

「まさか……今か?」

そして次の瞬間。喫茶店の窓ガラスが轟音と共に吹き飛んだ。

「うわぁ!?」

志野木は飛んできたガラスから避けるように俺の体を無理矢理伏せさせた。

大きい騒音の後、店内は静寂に包まれた。

「な……んだ……」

頭を上げ辺りを見回す。

さっきまで普通だった景色が今はこれでもかと否定されている。

大きい窓ガラスは粉々に砕け散り、並べられていたテーブルや椅子は見るも無惨に大破していた。

そして、そこにいた人々は……。

「こういうことだ。……ちと急過ぎたがな」

「どういうことなんだ……」

「だから、言ったろ。お前が大事な人間ってことだよ」

「じゃ、じゃあ………これは全部俺のせいだっていうのか!?」

「あぁ…捉え方によってはそうなるな」

「……………」

「とりあえず、ゴタゴタ言っている暇はない。死にたくなければここを離れるぞ。というか、死なれたら困るんだがな」

そう言うと志野木は俺の手を引っ張ってほぼ無理矢理店内を出た。




燕崎シグマは一体何者なのか。

さっきからその問いが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。

それだけの有名人にも見えないことも無いが、何に対して有名なのかがさっぱりだ。

皆木以降、他の参加者も見つからず路頭に迷う……というより、手詰まりと言った感じだった。

「………で、ここまで来たというわけか」

事務所の机に座りつつ篠木は皮肉たっぷりの声色で言った。

香織はそれを伝えると脱力したようにその場にあったソファに寝転がった。

「そもそも、一人二人見つければそれで解決なんじゃないんですか?」

「さぁな、今回の事柄に対して解決ということがあるのかどうかがまずは気になるがな。正体が掴めていない以上まだ解決を語るのは早いと思うぞ」

篠木は机を立ち香織の寝転がるソファと対をなすように置かれているもう一つのソファに腰掛けた。

「でもさぁ……今回は私が依頼者なんだからわざわざ私が探さなくても結さんが探してくれてもいいんじゃない?」

「なら依頼料を払うか?他人ならまだしも知り合いなら値上するぞ」

「うぇ〜…普通逆じゃない?」

「他人に甘く知人に厳しい。それが私だ」

「昨日まで他人だったじゃん…」

「だがもう知り合いだ」

「………依頼料っていくらくらい?」

「お前は百万円くらいだな」

「値上げしすぎじゃない!?だってこの前は何万くらいって言ってたじゃない」

「他人だったからだ。残念だな」

「はぁ〜……わかりましたよ。自分でやりますよ。……でも、次に何すればいいのかわからない」

「どういう意味だ?」

「仲間を見つけたはいいけど……それからどうするの?」

「まぁ…人数が多ければそれだけそれぞれの生存率もあがるからな」

「そりゃ、まぁ、そうなんだけどさ。本選で何をやるのかもわかってないんだよ?」

「そんなこと知るか。私が考えることじゃない」

「えぇ〜…冷たいな…まぁ…いいや。私もそういうの得意じゃないし」

そう言うと、香織は目を閉じた。

「おやすみなさい」

篠木は苦笑いしながら煙草を吹かした。




「何なんだあいつらは!?」

「簡単に言えば殺し屋……刺客と言えばいいのか?」

「殺し屋?……誰を?」

「もちろんお前に決まってるだろ」

「……………」

喫茶店から離れ、住宅街の中をあてもなく歩き続けていた。

「これから……どうするんだ?」

「さぁな……とりあえず、安全な所まで行くぞ」

「安全って……そんな所あるのか?」

「無いことは無いだろう。探してみるだけだ」

「…………」

この女には黙らせられることが多いな……。

「一体あいつらはどうして俺を狙う?――――どうして俺がそんなに重要な人間なんだ?」

「それはまだお前には教えられないな。教えたら色々と食い違いが出てくる」

「……食い違い?」

「おっと……失言だな」

すると、目の前にとある建物があった。

「ここは……何だ?」

「廃学校だ。もちろん“廃”だから誰も使っていないがな」

目的地あったのかよ……

「まぁいい。中に入るぞ」

「……………」




――――覚えていないんです」

「ガハッ!?」

何だよ…と僕は肩を落とす。

「それより……一哉さんも体験者なのでしょう?一体どんなことを?」

三枝木はにっこりと微笑みながら訊いてくる。

「僕は………戦って…人と会っただけですよ…」

「まぁ!戦ったんですか?かっこいいですね」

拍手をするように手をパチパチとする。

「や、やめてください。そんなんじゃありませんから」

「でも戦ったのは立派なことです。誰もができることではありません」

「いやぁ……でも……あれ?」

「?……どうかしましたか?」

「音が……聞こえなくなった…」

「あら…耳が悪いんですか?」

「いえ…そういうことじゃなくって、……周りの雑音がといいますか……あっ!」

「ど、どうしたんですか!?」

「あれ……」

僕が指差す方向には動きを止めた喫茶店の店員…そして、同じく客。

「どういう……ことでしょうか……動きが止まってますね……」

「というよりは……時間が止まっているようにも見えるんですけど……」

その時だった。半パニック状態の僕たちの前の空間がパキパキと音を立てまるでブロックが崩れるかのように壊れ、青白い穴が出現したのは。

「なんだ……これ……」

「何かの入り口……でしょうか……」

「さぁ……」

また、その時だった。

僕達の電話が通信を着信したのは。

「この状況で………まさか……」

恐る恐る画面を確認した。

「やっぱり……」

「これは……」

二人とも電話に出た。

「こちらエルベインです」

「どうしたんだ?」

「申し訳ありません。緊急事態がおこりました」

「緊急事態?」

「はい。なので早速本選を開始する処置となった所存です。先ほど皆様の前に現れた入り口から本選会場へと向かうことができます」

入り口……この穴のことか……。

「突然の事で驚いているでしょうが、よろしくお願いします」

そこで電話は切れた。

「いきなりかよ……」

「緊急事態って何なんでしょうね」

「まぁ…とりあえず本選会場とやらに向かってみますか」

「はい」

そう言って僕たちは穴に向かった。




廃学校の中……警戒ラインが広かったらしく、逆に目についたらしい。

敵が待ち伏せしていたのだ。

そして、現在囲まれ追い詰められているというわけだ。

「どういうことなんだ!追い詰められてるじゃないか!」

「しかたなかろう。どうこういってもどうもならないぞ」

壁を背に銃弾を避け続ける。

「どうにかならないのか!?」

「どうにもならないことはないこともない」

「要はどうにかなるんだな。どうするんだ?」

「いや……これは……食い違いが出てくるからな……」

「まだそんなこと言ってるのか!!食い違いが何だ!死んだらなんの意味もないだろ!」

「…………」

篠木は目を丸くし黙ってしまった。

「な、何だ?」

「いや、お前はそういう奴だったな……わかった。確かに死んだら何の意味もないな」

そう言うと志野木はポケットから携帯を取り出し誰かに電話をかけ始めた。

「………私だ。ちと詰まってな。例の“アレ”を今から発動してくれ。―――――――――現隊長の命令だ!早くしろ!」

そこで電話を切った。

するとそのすぐ後、空間が崩れるかのように壊れ、穴が出現した。

「なんだ……これ……」

「説明は後だ……ほら、行くぞ!」

シグマは手を引っ張られ穴の中へと引きずり込まれた。




「何よこれ……」

香織は驚きを隠せない。

突然止まった時間、そして目の前に突如現れた謎の穴。

穴の中から漏れる青白い光は柔らかく輝き続けている。

「結さん……どこにいるんだろう……」

さっきの電話……を信じるならば、この穴に入れば本選会場へと向かうことができる。

「……………もう!」

やけになった。




「……………」

皆木の前にも当然の事ながら穴は現れていた。

しかし、皆木は対して驚く様子もなかった。

なんとなくそろそろ来る頃だと思っていたからだ。

これが何なのか、これから何が起ころうとしているのか……それも微妙ながらにわかっている。

「やってやるさ……今度は……」




穴に入ってから目的地までは3秒とかからなかった。

「ここは……」

どこにでもある木。

何もおかしくない普通の街。

ここは何変わらない日本そのものだった。

「一哉さん?」

「無事ですか?」

「えぇ……少し驚きましたけど」

三枝木さんは少しこちらに近づく。

すると―――――

「あら?」

三枝木さんは僕の後方に何かを見つけたらしく、声をあげた。

「あそこに人がいます」

いた。確かにいた。しかし……あれは……

目が合った。

「燕崎……シグマ……」




「あれは……あの時の……」

シグマは蒼井に近づこうとする。

「私は別行動させてもらう。じゃあな」

「お、おい!」

そう言って志野木はどこかへ消えていってしまった。

「燕崎さん……」

「シグマでいいよ。一哉君」

「呼び捨てでいいですよ」

「ところで……今回は何をすればいいんだ?」

とりあえず……移動しませんか。なにかあるかも。ここがどこなのかも気になりますし。

「そうだな」

「さ、三枝木さんも行こう」

「ちょっと待て」

シグマが突然言った。

「あれは……何だ?」

そう言って遠い空を指差す。

その先には見たことないくらい大きな日本風の城が建っていた。

全長600メートルぐらいはありそうな城の方向から数人の男たちがこちらに向かって歩いてきた。

格好は普段の僕達と何も変わらない服装。

ワイシャツやパーカー。着ている服はそれぞれだった。

何も変わった所はなかった。

腰に刀を据えている以外は…

「やぁ……君達、どうしたんだい?」

一番先頭に立っていた細身の男が話しかけてきた。

「刀も持たないで……危ないな」

それを合図にしたかのように細身の男後ろのと男たちは刀を抜いた。

「こうやって襲われるんだよ」

僕は酷く落ち着いていた。

こんな状況なのに携帯を取り出しコールした。相手は……

「はい。こちらエルベインです」

「なぁ……僕たちは何をすればいいんだ?」

「今からこの世界を救って頂きます」




次回 侍の国


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ