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第二次予選

「いや……3万人はやばいでしょ」

優介は不安気な感じで言った。

電車の中で会って早々食いぎみで話かけてきたと思ったらこの話題だ。

「知らないよ……僕には関係ないもん」

「んん?―――まぁ、そうだな。関係ないか…」

顔を落とし、小さな声で言う。

「ただ……原因が不明ってのが気にかかるな。健康状態には問題なかったらしいし…。ガスがどうのとか言ってるけど、地域が疎らすぎる。もはやこれは事件と化しているな」

「あぁ…そうだな」

「おいおいどうした?なんだかボケ〜っとしてないか?」

「別に…」

あのあと、携帯の中にはエルベインという名前の人物は結局登録されていなかった。

発着信歴にも昨日と何ら変わりはない。

やはり、夢だったのだ。

と、信じたい……。

「たださ、変な噂があるのは知ってるか?」

優介は開いた携帯の画面を見せつけるようにしながら聞いてきた。

「噂?」

画面には事件被害者について話されているネット掲示板のサイトだった。

「これがどうかしたのか?」

「いいか?――この事件が起きた夜、不思議な夢を見た人がすんげぇ多かったらしい」

「……夢……」

「あぁ。なんか夢の中で知らない人間に会ったりしたんだって。で、その人が謎の怪物に殺されたりして、朝目覚めてみたらその夢の中で殺された人間がこの事件の被害者だったらしい。嘘っぽい話だが、となえている人数が多すぎる」

「怪物……殺される……か…」

「どうかしたか?」

「………なんでもない」

そう言いつつ席を立った。

「ど、どうかしたのか?」

慌てた様子の優介。

「次、降りる駅だぞ」




「なるほど、今話題の居眠り騒動の関係者だと……そう言いたいわけか」

「居眠り騒動って何ですか」

「今ちまたで噂の事故……事件か?」

「知りませんよ」

結さんは腕組をしながら僕に言った。

篠木しのぎ ゆいさんは僕のバイト先の社長だ。社長と言っても、従業員はバイトの僕を含め二人。

職種は探偵事務所……らしい。

中学時代にいろいろとあって結さんと知り合った。それあって今はバイトとして雇われているというわけだ。

昨夜夢の中であった事を今朝の事件の事をふまえ説明していた。

「ともかく…じゃあなんでお前は生きているんだ?殺された筈だろう?」

「まぁ……そうなんですけど…」

本当ならあの怪物に喉元を抉られて死んでいた筈だ…エルベインの話が本当なら……。

「そこで目が覚めたとか…?」

「どういう事です?」

「言葉通りの意味だよ。それはあくまでも夢だった。ってことは目が覚めれば夢からは脱け出せる。単に、殺されるギリギリで目が覚め、危ういところで助かったのかもしれない」

「……目が覚めるって言っても、現実同様五感が働く世界から衝撃もなしに目が覚めるというのも変な気がしますがね…」

「まぁな……なんせ私にもよくわからないさ」

結さんは机の上のコーヒーをすすり飲んだ。

結さんは顔をしかめた。

「まずいなこのコーヒー…」

「悪かったですね。もう一杯入れ直しますよ」

「いや……目が覚めるからこれでいい。―――それより、瑛里香の様子は…その…どうだ?」

「へぇ…結さんが瑛里香を気にするなんて珍しいですね。なんか良いことでもあったんですか?」

「別に。簡単な話さ、ただ気になっただけだよ」

「そうですか。―――そうですね…元気ですよ。相変わらず」

「そうか。ならよかった」

コーヒー片手に安堵の息をもらす結さん。

「あ、そうだ。さっきの書類の整理……もう終わりましたよ」

「おぉ、そうか。ならもう今日はいい。帰っていいぞ」

「まだ早いですよ」

時計の針は丁度六時をさしている。

「お前にはいつも迷惑をかけているからね。たまには早くても構わない」

「そうですか。……じゃあ、甘えさせてもらいます」

パイプ椅子の上に置いておいたバックを手に取り、入り口の扉に手をかけた。

「一哉…」

結さんが普段より少し低い声で言った。

「何ですか?」

「………思い違いならいいが………恐らく、また今夜も変な夢を見るはずだ」

無言の間に結さんがコーヒーを机に置く音だけが響いた。

「………何でそう思うんですか?」

少し考えたあと、「勘だよ勘」

「…………わかりました。気をつけます」

扉を開き、僕は事務所を出た。





「…ただいま」

家に着いたのはそれから大体20分程の事だった。

時計の分針は30分近くを指している。

「瑛里香?」

あれ?…いないのかな?

ま…いっか。

靴を脱ぎ、リビングに出た僕は誰もいないリビングの電気をつけた。

そして、自室へ向かう。

いつも通り制服を脱ぎ、壁にかける。

「あっ!」

じゃあ、寝なければいいんじゃないか。

寝なければ夢を見ることもない。

ってことは危険もないわけだ。

ベットに横になると危ないな。

「ただいまぁ」

瑛里香が帰ってきたようだ。

その声を聞いてから僕もリビングに出る。

「おかえり。今日は遅かったな」

「うん。ちょっぴり買い物してたんだ」

そう言って手に持っていた買い物袋をドサッと床に置いた。

「なんか最近まともな物食べてる気がしないから、せめて今日ぐらいはと思ってね」

ネギやらバターやらキムチやら……何を作るつもりだ…?

「だから、ちょっくら待っててね」

「あ、あぁ……楽しみにしてるよ…」

瑛里香の代わりに買い物袋をリビングまで運び、それから再び自室へ戻った。




「お兄ちゃん!できたよぉ!」

リビングから声が聞こえてきたのはそれからちょっとたった後だった。

「ついに…きてしまったか…」

部屋の窓を開けると何とも言えない匂いが鼻についた。

いいとも悪いとも言えない…。

テーブルに近づくにつれ匂いは強さを増す。

「ふぅ…腕によりをかけて作ったよ!」

「お前はモンスターをつくる技術だけはすごいよ」

「ん?何か言った?」

「いいや…」

とりあえず黙って席に着く。

キムチやら納豆やら……餃子まで混ざってる……。

「あはは……見た目はまぁ……でも味は保証するよ。うん」

黒い餡掛けキムチ納豆餃子と言ったところか……。

昨日の仕返しか……?

仕方ないので目の前にあったスプーンを手に取る。

つか、何でスプーンなんだよ…。

瑛里香のやつ……キラキラした目でこっちを見てやがる。

食う……しかないんだろうな…。

スプーンで一番安全そうな餃子を見つけてすくう。

「むぅ!」

瑛里香が頬をふくらまして睨んできた。

「な、なんだよ」

「餡掛けなんだから餡かけてよ!」

瑛里香は自分の横に置かれていたスプーンで餡をすくい、僕のスプーンの上にかけた。

「うっ……」

なんか紫色の湯気がでてる気がする。

我が妹といえば、満足したような表情でニコニコと微笑んでいる。

あとにも引けないのでゆっくりと口の中にスプーンを運ぶ。

「……………」

「……ど、どうかな?」

「…………うまい……」

「本当に!?よかったぁ!」

手を広げ喜びを体で表した。

「なんでこんなにうまいんだ…」

「どういう意味?」

「言った通りの意味だよ」

「仕方ないでしょ!――友達に言われた通りに作ったらこんな風になっちゃったんだから!私のせいじゃないもん!」

「じゃあ何でそんなあやしい物作ったんだよ!」

「なんか、おいしいとか元気が出るって言われたんだよ!」

「でも友達に――――」




「…………」

視界が一度暗くなった後、次に光を感じた時にはまたも知らない場所に立っていた。

「…………あれ?」

今の今まで瑛里香と一緒にリビングにいたんだが…。

いつの間に来たんだろう…。

というか……ここって……。

ポケットの中から音がした。

「うっ……」

なんか驚くのも馬鹿らしくなった。

ポケットから携帯を取り出し、開いて画面を見る。

僕は何かを心の中で理解し、通話ボタンを押した。

「……もしもし」

「もしもし。こちらエルベインでございます」

やはりか……というより、またか…か。

「これはどういう事だ?」

「と、申しますと?」

何もわかっていないようだ…。

「ここは夢の中なんだよな?」

「えぇ。その通りですが」

「夢ってのは寝たら見るものだよな?」

「えぇ。そう確認しております」

「僕……寝てないのに急にここに来たんだけど…」

「少々お待ちください」

そう言うと電話はまた一方的に切られた。

「何なんだよ……まったく」

場所は……前回の場所と同じのようだ。

ただ今回は前回最後にいた中心街からのスタートのようだ。

「あ!―――またいた!」

不意に背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

後ろには昨日と同じ格好をした香織の姿があった。

「そういえばあんた――あの後…大丈夫だった?」

そういえば襲われた時に一緒にいたんだっけ…。

「うん。……なんか気づいたら目が覚めてたよ」

「奇遇ね……私もあのあと気づいたら目が覚めてたの。だからあなたがどうなったのか気になってたの…………あんな事が起きてるし」

「あんな事………例の居眠り騒動ってやつ?」

「えぇ……エルベインの話が本当なら例の被害者達はここで死亡していた人たちよ」

「ちょっと待て。……エルベインって……君もエルベインを知ってるの?」

「えぇ……そうよ。もしかしてあなたの携帯にも?」

「うん」

頷いてみる。

するとその瞬間また携帯が鳴った。

「もしも―――」

〈こちらエルベインでございます。今回、第一次予選通過者に連絡を致します。皆様は昨晩の第一次予選を生き残り、今回もこちらにお越しいただいております。第一次では通達していなかった予選のルールについてご説明致します。今回、第二次予選も昨晩同様アルベル襲撃からの生存となります。制限時間は一時間。時間内に生存し続けた場合予選通過となり、本選へ進出となります。知恵や身体能力を生かして頑張ってください。では…〉

そこで電話はまた切れた。

「……聞いたでしょ?」

「うん……」

「生き残るのも大切だと思うけど……実際に人が死んでる。真剣に考えない?」

「うん……そうだね」

僕だって死にたいわけない。

「じゃあさ……とりあえず他の参加者を探さない?人数が多い方が有利なはずよ」

「でも……どうやって探すの?」

「これがあるじゃない」

香織は自分の携帯を掲げた。

「わかった。エルベインに聞いてみよう」

僕はエルベインに電話をかける。

「………あ、もしもし?」

「エルベインでございます。どんなご用件でしょうか?」

「あの…さ。僕達以外の参加者の場所ってわからないかな?」

「――――確認しました。ここから南東400メートル先の第4エリアに一人います」

「そうか……その人に連絡できないかな?」

「―――――相手方はただいまアルベルと抗戦中でございます」

「え?……わかった」

「GPS位置をお送りしましょうか?」

「うん。頼むよ」

「了解しました」

僕は電話を切った。

「どうしたの?」

香織が心配そうな表情で訊いてきた。

「この近くに一人いるらしい。ただ、その人はいま襲われてるそうなんだ」

「………私は行くわ」

「………わかった。僕も行くよ」

「どっち?」

エルベインから届いたGPS画像を見た。

「あっち!」

南東の方角を指差す。

「よし」

僕は走り出した香織の後を追いかけるように走り出した。




この後に出会う男がこの世界の運命をかえる男とも知らずに―――。


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