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現実の夢

これが夢だとか現実だとかそういう事はどうでもよかった。

だが、こんな形で人生でもっとも酷い痛みを感じるとは文字通り夢にも思っていなかった。

どうして痛覚があるかとか、疲れるかとか…そうこともどうでもいい。

ただ単にこの夢が終わったら、「あ…夢か……よかった…」って言いたいだけだ。

現実のような夢は、夢のような現実と何が違うのだろう…。

というか、今僕が置かれている状況はどっちなのだろうか……。



刀を引きずりながら町の中心街と思われる密集地帯に入りさっきまでの住宅街とは明らかに違う雰囲気を感じていた。

中心街には街灯が何個も設置されていて、道やオブジェクトをこうこうと照らし続けている。

アスファルトの道からレンガ畳のような道になり、幅もさっきまでの三倍ほどある。

シーズンのせいか、イルミネーション等も目立つ。

そして、相変わらず人の気配はない。

“生きている”人の気配は…。

この広く長く続いている道にところ狭しと落ちている人間の死体を人とすれば話は違う……。

「わぁ……うぇ」

何か酸っぱい物が胃の中から込み上げてくるのを感じ、あまりの吐き気で道に嘔吐した。

「ゴホッ……うっ…なんだよこれ…」

そこにあった死体はどれも安楽死を遂げられたようには見えなかった。

四肢各部分が破損していたり…苦痛の表情で死んでいる者。

男女問わずいろいろな人の死体があった。

「これは……他の参加者…なのか?」

僕は迷わず携帯を開きある人に電話をかけた。

「はい。エルベインでございます」

「…これは……どういうことだ…?」

「これ……と申されましても…」

「今僕の目の前にたくさんの死体があるんだ……これは他の参加者なのか?」

「えぇ…記録ではそうなっております」

「はぁ?記録?」

「はい。参加者の生死管理はすべてこちらで行われております。なので、現在蒼井様の目の前にある屍は全て死亡していると記録に残っております」

「そ…そうか…」

正直な話、僕の見る夢がここまで現実性を帯びていることがなんだか驚きだった。

でもやっぱり信じられない僕は、死体に近づいて服をあさりはじめた。

「……………あった!」

手探りでコートやズボンの中を探し、掴んだ物を手に取った。

僕の手に握られていたのは革製の財布のような物だった。

高そうな服を着ていた男性のコートの内ポケットから出てきた。

血がべっとりと付着している。

折り畳みの財布を開き、適当に中を探る。

金銭が欲しいわけではない。

紙幣が入っている横のポケット。そこには免許証が入っていた。

「ビンゴ……やっぱりあるのか…」

免許証には目の前で死んでいる男性の写真があった。

名前は佐藤さとう 成治しげはる

住所は……東京か…。

やはり、この夢は現実性が高すぎる…。

もしかして……本当に……

「あ〜!火事場泥棒ってやつ!?」

不意に背後から知らない声がした。

「わ、わぁっ!?」

当然ながら驚いた。

即座に振り向いてみると、知らない女の子が立っていた。

「泥棒?こんなことしてまでお金が欲しいの?」

「い、いや……そういう事じゃなくて…」

「じゃあどういう事よ?」

女の子は腰に手をあてながら仁王立ちするように僕の目の前に立ちふさがった。

「この夢が……妙にリアルだから……どこまでリアルなのか調べようと思って…」

「君、名前は?」

「へ?僕?――僕は蒼井……蒼井一哉」

「蒼井?―――知らないな…」

女の子は首を傾げつつ 何かを思い出そうと考え込んでいた。

「君は?」

「ん?――私?私は仲森なかもり 香織かおりよ」

仲森?―――聞いたことのない名前だ……。

夢に出てきているんだから知ってる人じゃないのか?

「おかしい……私の夢なのに知らない人が出てくるなんて…」

「いや、これは僕の夢だよ…」

「はぁ?あんた何いってるの?私が寝た後に見てるんだから私の夢よ」

「僕だって寝たあとに見てるんだ……だから僕の夢だよ」

「う〜ん……これじゃあいたちごっこね……いいわ。どうせこの中だけの仲なんだから好きにすればいいわ…」

香織は身を翻しこちらに背を向けた。

「じゃあね。縁があればまた今度」

「ま、待った!」

思わず呼び止めていた。

「何か?」

香織は首だけを横に向けて対応した。

「君も……このゲームに参加してるの?」

香織は少し考えるようにしたあと黙ってうなずいた。

「夢なのかもしれないけど……五感がはたらいてるのらはどう考えてもおかしい。………それに……」

僕は香織に向き直り、右肩を押さえていた手をどけた。

「……それ……」

先ほどアルベルとかいう怪物に襲われた時にできた傷だ。

右肩を深く抉られている。

「ここには……変な怪物がいる……これもそれに襲われた時にできた傷だ…」

「じゃあ……その刀は?」

香織は鼻で手に持っている刀を指した。

「これは――」

その時、僕の携帯が振動と共に鳴った。

だが、音は一つではない…。

香織も自分のポケットから彼女の携帯を取り出した。

彼女の携帯はスライド式の最新型だった。

僕も携帯を開き耳に当てる。

「もしもし」

「エルベインでございます」

「何?どうかした?」

「只今蒼井様と仲森様の近辺にアルベルが近づいています。警戒してください」

「…き、…距離は?」

「前方約三十メートルでございます」

「だからもっと早く言えョ!」

声が裏返っちゃった…。

前を向き道の先を睨む。

「二匹…か」

アルベルは二匹いた。

格好こそ同じだが、背丈は明らかに違っていた。

長身と、短身……親子みたいだ…。

「武器さ……もっと出せないかな?」

電話に小声で呟く。

「申し訳ありません。ただ今の蒼井様のタイプでは現在手持ちの武器で限界です」

「はぁ?タイプ?」

「えぇ。ただ今の蒼井様のタイプはタ―――」

「危ない!」

「へ?」

香織の叫び声が聞こえたあと約一秒後、携帯から耳が離れ、それどころか携帯を手放していた。

痛みを感じたのは宙を回転し、視界が二回転した後だった。

「ぐはぁ!」

僕の真横にチビの方のアルベルが立っていた。

投げ飛ばされたのか!?

いや、それ以前に……速い!?

さっきのアルベルとは比べられないほど速い。

「痛ぇ……くそ」

幸い、手に刀は握りしめたままだったのですぐに攻撃に移れる。

僕は即座に立ち上がり、刀を構える。

相手も動こうとしない。

こちらの動きを待っているのだろうか…。

じゃあ先手必勝だ。

「くらえぇ!」

アルベルは見計らうようにその攻撃を避けた。

それを予測していた僕はさっきのような間違いはおこさず、刀を空中で止めた。

また振りかぶって地面にでも突き刺さったら大変だ。

「その手は喰らわない!」

その時だった。アルベルが僕の左手を握り、軽い力で何かをした。

すると、また視界が回転して背中に痛みがはしった。

「なっ!?―――痛っ!!」

何が起こったのかわからなかったが、状況を理解する前に立ち上がろうとした時、アルベルは僕の上に馬乗りになるように乗りかかってきた。

刀は転倒した時の衝撃で落としてしました。

そして、僕の手を押さえ、手を槍の先のようにして僕の喉元目掛けて突いてきた。

やばい……死ぬ……

長身のアルベルは最初の場所から一歩も動いていない。

香織は何かを叫んでいる。

あぁ…気が遠く………




「―――っはぁ!?」

気づいたとき、僕は自室のベットの上だった。

寝汗をかいている。

上半身を起こし頭を整理する。

「はぁ…はぁ…」

何があったか思い出し、右肩に触れた。

が、痛みはない。

急な安心感にあてられ、再び横になる。

「あははははは……夢だ……夢だぁ!」

天井に向かって叫んだ。

ここが現実だ。

僕は生きている。

怪我もしていない。

ベットからどびおきて制服を着る。

いつもよりすがすがしい気分でリビングへと向かう。

すると、瑛里香がまたもキッチンに立っていた。

僕がドアを開ける音に気付き、こちらを見る。

「あぁ!!やっと起きてきた!――今日朝の当番はお兄ちゃんでしょ!」

「悪い悪い……寝坊なんざよくある話じゃないか。そんなに咎めるなよ」

「もう!―――もうすぐ準備できるからお皿並べて」

「はいはい」

「はいは一回」

「はい」

言われた通りテーブルの上に三種類ほどの皿を並べていく。

瑛里香がその中に作った料理を入れていく。

全てが並べ終わり、一段落ついたところで瑛里香が席に着き、テレビの電源を付けた。

パッと画面が明るくなり、政治家の汚職事件についてのニュースが流れていた。

「いただきます」

「いたます―――いて!」

しゃもじを投げつけられた。

瑛里香がこちらを睨む。

「い、いただきます…」

しぶしぶ手を合わせる。

瑛里香は再び視線をテレビに戻す。

味噌汁に手を伸ばし少しすする。

「今日、味薄いな…」

「文句あるなら食べなくていいよ」

「文句じゃないよ……高血圧の人にはいいなって思ったんだよ」

「そう」

テレビは芸能人の電撃結婚の話になった。

「へぇ…この人結婚するんだ」

瑛里香は独り言をぶつぶつと呟いていた。

たしかちょっと前まではやってたアイドルだったか……。

まぁ…僕にはどうでもいいんだけどね。

「最近結婚と離婚のニュースがおおいよね」

「だな」

「結婚はともかく、なんでこんなに離婚が多いんだろう…」

「不景気だからじゃね」

「関係ないじゃん」

「なんとなく」

すると、画面が切り替わり真面目な面持ちをしたニュースキャスターに変わった。

〈只今ニュースが入りました。――今朝から東京各地で起床時の死亡者が急増しています。被害者は今朝だけで3万人を越えました。ガスや毒が原因と考えられていますが、はっきりとした理由は確認されておりません。政府も早くに議会を開くとの事です。現地の被害者の家族によりますと―――〉

はっきり言って関係が全くない気がしなかった。

こころのどこかであれが関係しているような気はした。

だけど、ただ単にあれが夢だからという理由で考えを欺いていた。

「どうしたの?顔色が悪いよ」

「あ、…あぁ…なんでもない」

僕は残りの朝食を掻き込むように腹に入れ、席を立った。

「行ってくる…」

エルベインが言ってた事。

〈こちらの世界で死ねばあちらの世界でも死ぬ〉…と。

もしかしたらニュースでやっているのはあちらの世界で死んだ人達のことなのだろうか…。

ふとテレビに目を向ける。

被害者の名前が次々と出されていた。

見たくなかった。

見つけたくなかった。

ある名前に目がいった。

知らない人の名前だった。

とても悲しかった。

その人が死んだ事じゃない。

自分の置かれている状況を感じ、悲しくなったのだ。

[佐藤 成治]

右肩に幻痛を感じた。

自分の中の何かがそれを現実だと訴えているように感じた。


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